393 アルバイトの誘い
修正しました。
『残念だが……』→『残念だけど……』
エリーゼ様から脳内スマホに着信があった。
用件はこれから聞くが、碌でもない予感しかしない。
何処かの少佐のように俺のゴーストが囁いている。
直帰は無理だと。
『で、何なんですか。
ベリルママがまた留守になるとかじゃないですよね』
『それはないよ、大丈夫。
私がハルトくんに頼みたいことがあるのだよ』
『俺にですか?』
嫌な予感しかしない。
絶対に碌でもないことだよな。
『そうそう、ちょっとしたアルバイトだよ』
『アルバイトォ!?』
予想外の返事。
一体、俺に何をさせたいんだ?
『実はね大森林で行方不明になった人達の一部が発見されたのよ』
『なんですとぉ────────っ!?』
【多重思考】を使っておいて良かったよ。
体を制御している自分で電話を受けていたら食ってるもの吹き出すとこだったわ。
『生きてるんですか!?』
『ごく一部だよ。
主にフェアリーたちだね。
あと、彼等と交流のあった他の種族』
『その交流のあった他の種族にうちの子たちの家族は含まれますか』
そこが重要だ。
『残念だけど……』
しばしの沈黙。
色々と考えてしまいそうになったせいだ。
この事実を知らせるとリーシャたちは落ち込むだろうとか。
それとも生きている可能性は残っていると前向きに考えるのだろうかとか。
更に突っ込んで考えそうになった。
しかし、電話中であることを思い出して話の続きを聞くことにした。
『それで俺に頼みたいことって何ですか。
アルバイトとしか聞いてないですよ』
発見された人間を受け入れろとかじゃないよな。
それならアルバイトなんて言わないと思う。
『ああ、ゴメンゴメン』
アッハッハーとか笑ってますよ。
すんごい怪しいんですけど。
『一切の誤魔化しなくお願いしますね』
声のトーンを落とすと笑い声がピタリと止んだ。
『…………………………』
沈黙が場を支配する。
体をコントロールしている方の俺は焼き魚を食べ終わって潮汁に取り掛かっているんだけどね。
『んー、仕事自体は変な話じゃないんだ。
難易度はそこそこ程度じゃないかと思うんだけどね』
『じゃあ、何なんです?』
『付帯事項に些か問題を感じなくはないというか……』
埒が明かない。
『とりあえず仕事は何なんです?』
『発見された人達の保護だよ』
これをあっさり答えるということは付帯事項ってやつが相当の難物なんだろう。
『人数が多いとかですか?』
『んー、一度に発見される行方不明者としては多いかな。
点在するフェアリーの集落の住人がほぼ見つかったから』
『何人くらいなんです?』
『フェアリーたちだけで数千人規模だね。
エルフとラミーナがそれぞれ千人前後くらい』
『……………』
かなりな人数じゃないですか。
『保護というのは俺が発見された場所に迎えに行くってことですよね』
輸送機を何機も用意してピストン輸送するのか。
何往復するんだろうね。
割と面倒くさいな。
アルバイトの給料が安いと割に合わない気がする。
1回で運べれば、報酬が少なくてもトントンくらいにはなるか。
ん? 元奴隷組の時と同じ方法でやればいけるか。
眠らせて倉に入れて運べば1回で終了だ。
『そうなんだよ。
君以上の適任者がいなくてね』
どゆこと?
『神霊獣のカーバンクルが相棒でしょ』
『はあ……』
そのことがどう関係あるのかが分からなくて生返事になってしまった。
『しかも元はセールマールの住人で、今はルベルスの住人だし』
全俺の時間が止まった気がした。
体担当なんて頬が引きつりかけたからな。
【ポーカーフェイス】で誤魔化したみたいだけど。
『そちらの世界にいるんですか!?』
『そうなのよー。
さっき調査班からの報告を受けたんだけどー。
欠片がらみで流されて来ちゃったみたいなのよー。
だからビックリしちゃってー』
『……………』
井戸端会議のおばさんかってツッコミ入れたくなったわ。
『ちょっと、ハルトくん』
明るい調子から一転してドスの利いた感じの声が聞こえてきた。
『何か不埒なこと考えなかった?』
ギクッ!
自分が考えていることが念話とかにならないよう注意してるんだけどな。
勘のいい相手には通用しないのかもしれない。
思わず【ポーカーフェイス】を使ってしまった。
体担当じゃないんで意味なかったんですがね。
『井戸端会議のノリだなとは思いましたが?』
開き直って本当のことを答えておく。
ただし余計な一言は伏せた状態で。
『ん、もう!
失礼しちゃうわね』
ブリブリ怒っているが殺気は感じない。
誤魔化せたわけではないとは思うが、無罪は勝ち取れたようだ。
『それで話を戻しますけど、今度も欠片がらみですか』
思わず溜め息が漏れる。
体の方とは思考がリンクしていないので影響はない。
それにしても、どんだけ欠片があるんだよ。
まさか増殖してるとか言わないよな。
……不吉なことを考えるのは止めておこう。
フラグになったらシャレにならん。
『しょうがないじゃない。
向こうの行動パターンなんて読めないもの。
予測できるなら、とっくに一網打尽にしてるわよ』
確かに言われてみればそうだ。
専門の対策チームもあるようなのに撲滅には至っていない。
つまり俺が少しばかり考えたところで、どうしようもないということだ。
『それもそうですね。
欠片の問題はお任せしますよ』
俺は依頼されたことをこなすだけだ。
どうせ仕事は断れないだろうし。
あらためて発見された行方不明者のことを考えてみる。
まず、ルベルスの住人がセールマールに流されてきたのなら送還しないとならない。
ここでいくつかの疑問が湧いてくる。
『俺が保護するのが適任と仰いましたが変じゃないですか?』
『変じゃないよ。
これ以上の適任はいないんだよ』
『だって異世界間の移動になるんでしょ。
事故ならともかく俺が行き来してもいいんですか』
『そこは許可を出すから大丈夫。
移動に関しては送迎するから心配しないでいいよ』
それって移動に関しては仕事じゃないってことになるよな。
『移動はアルバイトの仕事には含まれないんですね』
『まあ、そうなるね』
些か歯切れの悪い返答だ。
間違いない。
これはトラブル案件だ。
考えられるのは──
『異世界人がたくさん現れて向こうの世界で騒ぎになったとかじゃないですよね』
耳の尖っているフェアリーとエルフは目立つからなぁ。
ラミーナは頭頂部に動物の耳があるし、尻尾もある。
それと向こうの世界じゃ考えられない髪の色が普通に存在していたりするし。
ピンクとか水色の髪なんて目立つのは明らかだ。
カツラか脱色してから染めていると思われるだろうけど。
とにかく様々な特徴により見た目が派手になりがちである。
しかも人数が多いとくれば騒ぎにならない方が嘘というものだ。
『そこは今のところ大丈夫。
彼等自身が結界で表に出ていないから』
その説明に俺は納得しかけたが、すぐに変であると気付いた。
『おかしいですよね。
そちらでは魔法が使えないはずですが』
理由は知らないが神様でもなければ魔法は使えないようになっているはずだ。
それとも集団で儀式魔法を使えば、どうにかできるのか?
『あー、気付いちゃうよね。
そこが今回のマズいところなのよ』
『具体的にはどういうことですか?』
『ある所に凄く負担がかかってるのよ』
そう言われて真っ先に思いつくのは──
『まさか神様のシステムじゃないですよね』
『それじゃないわね。
もっとデリケートなものよ』
皆目見当がつかない。
故に沈黙を守って先を促す。
『ある人物の夢の領域が無理やり拡張されて隠れ里のようになってしまっているの』
ここで言う隠れ里は仙界の一種だな。
俺の使っている倉に近い代物だろう。
発見が遅れたのもそのせいか。
けど、いくら結界が張られているとはいえ人間の中に何千人も入り込むって無茶苦茶だ。
『全員が1人の中に入っているってことですか?』
当然、そう思いたくないよな。
『そうよ』
あっさり肯定されてしまったけど。
『……かなり危険な状態だったりします?』
でなきゃデリケートなんて言わないと思う。
『発見されるまでは綱渡り状態だったわね』
数千人の命が危険にさらされていたってことか。
『今は安定するよう魔法をかけてあるから、その点に関しては問題ないわ』
『何か他に問題でも?』
『夢の中に入らないと中の子たちを連れ出せないのよ』
ようやく合点がいった。
『俺が保護するってそういうことだったんですね』
お迎え役なんだ。
『そうよ。
状態を維持させる必要があるから私じゃ夢の中に入れないの』
なんとなく別の形で想像してみた。
崩れかけた建物が結界を夢の中に内包した人物で。
エリーゼ様は崩れかけた建物を外部から支える役割だ。
俺は内部へ突入するレスキュー班ってとこか。
そう考えると怖いかもな。
エリーゼ様が言葉を濁していたのも分からんではない。
読んでくれてありがとう。




