392 馬鹿なことを聞いてしまった
修正しました。
サブタイトルの変更です。
ふと気付いて聞いてみた。
「この集落に外部の人間が来るのか?」
ガット爺さんは少し寂しそうな顔をした。
どういうことだ?
変な質問をした覚えはないんだが。
「森の住人とは交流があったのです」
ああ、大森林の住人と関わりがあったんだな。
確かにヒューマン種よりはラミーナとかエルフの方が信用できるよな。
エルフは親戚みたいなものだし。
最も信用できる相手だろうよ。
「ラミーナとかエルフだな」
「よく御存じで」
「うちの国民にもいるからな」
元ラミーナのハイラミーナだったり、先祖返りしたハイエルフだったりだけど。
「おお、そうでした。
あと交流があったのはフェアリーですな」
そういや大森林に生息しているフェアリーが惑星レーヌでは一番多いんだっけ?
[現在は大陸東部が最大の生息地域]
【諸法の理】さん、情報の更新がちゃんとしてるわ。
大森林は誰もいないもんな。
立ち入り禁止区域だし。
それにしても危険地帯に住んでいるのかよ。
チャレンジャーだわ。
レベル高そうだと思ったけど、必ずしもそうとは言い切れないようだ。
調べたら、フェアリーは[集団で形成した結界で住む場所を確保する]とあったからさ。
あと[幻影魔法を得意とする]なんて情報もある。
強そうな奴とは遭遇しないようにしているんだろう。
「さすがに会ったことはないな」
いそうな場所に行かなかったからだ。
街中じゃまず見かけない相手だし。
「臆病な者が多いですからな」
「……………」
向こうに避けられているなんてことはないと思いたい。
「思えば彼らが姿を見せなくなったのが予兆だったのでしょう」
しんみりした様子でガット爺さんが語り始める。
「あのような魔物が現れることを何らかの形で感じたのかもしれませんなぁ」
黒いクラーケンのことを言っているのか。
関連性はないんだが、これは言えないんだよ。
「怖くなって逃げたと?」
「ええ、おそらくですが」
「そりゃ違うだろ」
「えっ!?」
フェアリーと会ったこともない俺が反論したのが意外だったんだろうな。
ガット爺さんは目を丸くしている。
「フェアリーは義理堅い種族だそうじゃないか」
警戒心が強くて臆病なところがあるようだけど。
その割に好奇心も旺盛とか矛盾していると思うのだが。
「ええ、……よく御存じで」
「知識なら売るほど持ってる賢者だからな」
実質的にはスキルのお陰なんだが。
わざわざ種明かしする必要もあるまい。
爺さんは「おおっ」とか言いながら感心している。
「そうでした」
「義理堅い奴が一言もなしに去ったりはしねえよ」
ガット爺さん、無言。
青天の霹靂って感じで固まってしまっている。
そんなにショックなんだろうか。
爺さんの心境がもうひとつ分からない。
「うちの国民にもフェアリーたちと同じように大森林出身者がいるんだよ」
住んでいる地域は全然違ったようだが。
ゲールウエザー王国より広い面積を誇る森林地帯だからな。
「はあ……」
爺さんは返事をすれど、心ここにあらずの状態だ。
立ち直れていないようなので話を中断して様子を見ることにした。
場合によっては食事が終わるまで待たないといけないかも。
そんな風に思いながら、刺身や海藻サラダを食べる。
『うん、旨い』
新鮮な食材は塩だけでも、ちゃんと味がしっかりしてるよな。
もちろん料理したものも美味しいんだけど。
そのうち焼き魚が並び始めた。
『来た来た、来ましたよ』
少し小さめの切り身だ。
これ単品で考えると随分と物足りない。
だが、これも配慮である。
ここで食べ過ぎて後に出される料理を食べられなくならないようにというね。
どうやら潮汁をメインとして作っているようだし。
アレだと色々な魚介が入るぶん、ついつい食べ過ぎてしまうからなぁ。
自然とアレもコレもソレもってなるんだよ。
複数種類の魚介のエキスが旨味として凝縮されるからなんだろう。
嫌でも腹は膨れるというものだ。
他は潮汁が完成するまでのつなぎと言っても過言ではないかもね。
でも、この焼き魚が美味しくない訳じゃない。
『見るからに旨そうだよな』
これは処理がちゃんとしている証拠だ。
焼き加減は言うまでもない。
これを失敗したら、そこまでが綺麗にできていてもすべて台無しだ。
もちろん鱗など残っていない。
身への刃物の入り方も綺麗なものだ。
後者は刺身の時点で分かっていたことだけどね。
職人の手並みである。
『見事なものだな』
そんな風に感心したんだけど、よく考えたらできて当然なのか。
海エルフたちは魚を毎日食べているから綺麗にさばけて当たり前なんだよな。
たとえそうだとしても高いレベルの当たり前というのは見ていて気持ちがいい。
目で見ても美味しいと感じる。
加えて香ばしい匂いも堪能。
そして舌で味わう。
箸で身をほぐして、ひとつまみ。
口へと運んで噛みしめる。
『これこれ、香ばしいのにほんのりと甘みがあるこの感じ』
刺身とはまた違う旨さが舌の上に拡がっていく。
『塩加減も絶妙』
ここにも日々の努力が経験として生かされているね。
塩辛い訳じゃないのに次から次へと唾液が口の中に拡がっていく。
『これは潮汁が楽しみだ』
ふと、見るとガット爺さんがこちらの様子を覗っていた。
どうやら復帰できたようだ。
「話の続きだったよな」
「すみません」
何に対する「すみません」なのか。
とにかく話を進めたいのでスルーしておく。
「うちの国民にも大森林の出のがいるって話からだったな」
「はい」
爺さんもそれはちゃんと耳に入っていたようだ。
リーシャたちハイラミーナの方をちらりと見て俺の方へと視線を戻した。
「そう、アイツらな。
冒険者で長いこと大森林には戻っていなかったんだよ」
敵対的な氏族がいたせいで逃げるように大森林を出たとかの話は不要だろう。
情報が増えると話が分かりづらくなるしな。
冒険者として活動していたと言えば大森林から離れていたことも変には思われないはず。
海エルフでも希にそういう者は出てくるからな。
レオーネのように。
ましてラミーナである。
それなりに大森林から出ていくみたいだし。
彼等と交流のあった海エルフにもそういう情報は入っているようだ。
ガット爺さんも疑問を感じたりしている様子はない。
「里帰りしたら誰もいなかったんだとよ。
出身集落だけじゃなく近隣の集落も含めて、な」
「え!?」
「ラミーナだけじゃなくエルフも見当たらなかったそうだ」
順番としては逆だけどね。
ノエルをエルフの集落に送るのがリーシャたち月狼の友の目的だったからな。
「ちなみに原因は不明。
痕跡のひとつもなかったってさ」
爺さんは目を見開いてブルブルと震えていた。
ショックで倒れたりとかしないだろうな。
「大丈夫か?」
それに対する返事はなかった。
「そ、それでは彼等はもう……」
なんか極論的なことを考えているぞ。
俺はそんなこと言ってない。
「おいおい、決めつけは良くないな。
今のところは行方不明ってだけだ」
俺も望み薄だとは思うがね。
それでも生死は確認されていない。
「俺もそれ以上の事情は知らん」
この点は嘘だ。
が、神の欠片がらみだと説明するわけにもいかないからな。
「左様でしたか」
爺さんは沈鬱な表情を見せた。
こちらの身内や爺さんの知り合いを心配してのことだろう。
重苦しい雰囲気だ。
もてなしを受けているはずだったのにな。
どうしてこうなった、とは言えない。
俺の質問が切っ掛けになっているのは間違いないのでね。
我ながらバカな質問をしてしまった。
『責任、感じるよな。
どうしたらいいんだよ』
どうにかしてやりたいが大森林には手出し無用を言い渡されているし。
その時である。
『RRRRR』
脳内スマホが鳴り出した。
こんな時に誰だよと思ったらエリーゼ様である。
『マジか……』
果てしなく嫌な予感がした。
だが、出ない訳にもいかない気がしたのも事実。
俺は【多重思考】でもう1人の自分を呼び出して対応することにした。
『もしもし』
『あらあらぁ?
すぐに出てくれたのねぇ。
強制着信させようかと思ったんだけど』
やっぱり……
『そういう前置きはいいですから、用件を言ってください』
『あん、もう、いけずぅ』
『言わないんなら切りますよ。
強制着信させてもシカトしますから』
俺が決意を語ると、エリーゼ様が慌てだした。
『言う言う、言うからぁ。
ちょっと待ってぇ!』
そこまで必死にならんでもと思ったが……
『別に統轄神様に報告したりしませんって』
『……あー、良かった』
この人は相変わらずだ。
ホント疲れるよな。
この上、碌でもない用件を言われるんだぜ。
覚悟を決めておかないとな。
たぶん断れないから。
読んでくれてありがとう。




