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382 漆黒の敵

 漆黒のクラーケンは結構デカかった。

 海上だと比較対象物がないから遠近感が狂うな。


 いや、本来こいつが持っている欠片の灰としての特性もあるのか。

 それだけではない。

 こいつの形が歪なことも大きな要因だ。


「本当に頭が見当たらないぞ、コイツ」


 【天眼・遠見】スキルで色々な角度から見てみた結果である。


「頭がないと、これほど距離を掴みづらくさせるのかよ」


 一言でその姿を言い表すなら触手状の脚の塊だ。

 とにかく大小さまざまな脚が無数に生えていた。

 この不揃いさが奴との距離感を狂わせる元だと思われる。


「ええい、面倒な」


 正確に距離を掴むのに手間取りそうだ。

 迂闊に懐に飛び込めない。

 それはつまり飛ぶスピードを調整する必要があるということだ。


「鬱陶しいぞ」


 とにかく空を飛んで接近する。

 残り数百メートルまで迫ったところで変化があった。


「む、止まった?」


 距離感の影響で、すぐには判別できなかった。

 こちらも停止して確認だ。

 確かに奴は海上で動きを止めたようだな。


「迎撃する気かよ」


 俺の声に反応したかのように触手が活発に動き始めた。


「そっちから先に来るか」


 本体は移動を止めたが触手が伸びてきた。

 元々の大きさは関係ない。

 先端に近い部分が細長く伸びてくる。


 なぜか先日の廃棄物を思い出した。

 こちらは艶のある黒色で吸盤もあるけどね。

 どれだけ伸びようとも吸盤の数が減らないのは謎だ。


「おっと、そんなことに感心している場合じゃないな」


 生憎とこちらはアレのように弱々しい伸び方をしない。

 うねりながらも突風のような勢いでもって迫ってきた。


「何処まで伸びるんだよ」


 反撃ではなくツッコミを入れてしまう。

 これがノーマルのクラーケンであったなら射程圏外もいいところだろう。


「廃棄物の3倍かよ?」


 速さもそうだが数もある。

 両方が合わさると3倍どころの話ではないな。

 鋭く尖った幾つもの先端が俺を目掛けて殺到する。


「よっと」


 1発目は挨拶代わりとばかりに単発で来た。

 難なく躱す。


「ほいさ」


 2発目は背後からの単発攻撃だった。

 回り込んで突いてくるかよ。

 だが、所詮は単発。

 これも労せず回避できる。


 そこから後は連続回避がしばらく続くこととなった。

 右から左から。

 前も後ろも関係ない。


 当然、上下方向だってお構いなしだ。

 あらゆる角度で飛んで来る切っ先を躱し続ける。

 空中に浮かぶ位置をずらし。

 半身になり。

 ステップを刻むように回避する。


 まるで大勢に囲まれて槍で攻撃されているようだ。

 そう思ったのは的外れな考えではないと思う。

 どれも直線的な突きだったからだ。

 しかも何本あるんだよと言いたくなるくらい多い。


 そのせいか、驚くような速さこそ感じながらも手数が多い。

 まあ、それも永遠に続く訳じゃない。

 約数分間のダンスとなった。

 それが終わると、何本かを牽制に残して脚の集合体は撤収を始める。


「ん?」


 どういうことかが分からない。

 そのうち牽制の方も本体の方へと戻っていく。

 まるで自動巻のメジャーみたいにな。

 伸びる時より速いってのが笑える。


「そうか」


 無理やり伸ばしていたんだな。

 向こうの射程もそんなに長い訳じゃなさそうだ。

 普通は、この距離で飛び道具でもないのに攻撃ができる方がおかしいのだが。

 しかも充分に殺傷力があるのは感じられたし。


「初っ端から殺す気満々かよ」


 まあ、向こうだってやる気は十分ってことだ。

 ちなみに「殺る気」と書いて「やる気」と読むのはお約束である。

 更に近づきゃどうなるかな。


 まだ、懐に入られてないってのにね。

 自分の周囲で飛び回られるのが鬱陶しいのか。

 生憎と向こうの心理状態は読めないけどな。

 そんな風に考えている間に攻撃された。


「おっと」


 海面を突き破って下方からの突きだ。

 予想外と言えばそうなんだけど。

 下からの突きは確かに回避するのが難しい。


「狙いとしちゃ悪くないが」


 数が少ない。

 舐めてるのか?

 先程の攻撃をすべて回避したのを見ただろうに。


 目があるかどうかは知らんが。

 何かしらの手段で俺の位置を正確に把握しているようだから、それは重要ではない。

 とにかく、その辺は移動の再開で躱した。


「甘いな」


 まともに突っ込む方へは行かせてもらえなかったが。

 触手攻撃でブロックしてくる。


「甘いのはお互い様かよ」


 思わず苦笑が漏れる。

 先程より密な攻撃だ。

 奴に向かう方向に対してだけだが。

 強引に行けば、かい潜って深い間合いには入れただろう。


 だが、触手の攻撃頻度がどれ程のものになるか読み切れていない。

 それを推定できる程度には引き出さないとな。

 接近と離脱を繰り返しながら距離を縮めていく。

 最初に触手攻撃を受けたときの半分ほどの距離に詰めてみた。


「この先が絶対防衛ラインのようだな」


 ある程度のマージンを残して時計回りで向こうの出方を待ってみても反応が薄い。

 少しでも近寄る素振りを見せると、先程の倍以上の数で触手が攻撃してくるが。


「よっ、とっ、はっ」


 回避のための掛け声は半分は挑発のようなものだ。

 即時的な効果はないようだが。

 向こうが苛ついて手の内を見せてくれれば願ったりである。

 今のところ、そういうことにはなっていない。


「まだまだ様子見ってことかよ」


 これもお互い様ってことだ。

 仕留めに行くのは見切ってからでないとね。

 向こうの防御力もまだ分からんし。

 最初の集中攻撃くらいじゃ回避用として限定して考えてもデータが少なすぎる。

 できれば死なない程度に攻撃を食らって攻撃力を算定したいところだ。


 まあ、様子見には様子見なりにやり方がある。

 向こうもまだ本気って感じがしないしな。

 攻撃の単調さというか触手をあれもこれもと使っているのに手数が少ないからな。


 俺からの攻撃も接近前の一撃だけだ。

 あれはダメージ0なのは間違いないけど。

 結界の作用なのか本体が硬いからなのかまでは不明だが。


 そろそろ一撃入れてみるか。

 ガンセイバーをブレードモードにした。

 すると、奴が先手を打ってきた。

 またしても触手攻撃ではあるが。


「おっとぉ」


 今までとは攻撃の速さが違う。

 単発ではあるが本気がうかがえる突きだった。

 思わずガンセイバーで触手の切っ先を受け止めたほどだ。


 ガギンと堅い音がした。

 それだけではない。

 火花が散り重い手応えがあった。


「硬いな、おい。

 よく見たら先端は返しのついた爪じゃねえかよ」


 何か堅そうな上に突き刺さったら抜けなさそうだ。

 何から何まで艶光りする黒さなので接近するまで気付かんかった。


「っと、観察している場合じゃないな」


 別の触手による2撃目が来た。

 今までの連続攻撃の中では最も遅い。

 どうやらジャブとストレートを使い分けているようだ。


 これも受け止めてみる。

 更に重い。

 確実に亜竜より上のパワーだ。

 これはレベル100程度では確実に持て余す。


「ふん、舐められたものだな」


 相手の力量を見極める術がないということにしておこうか。

 左右と正面から3、4、5撃目が来た。

 普通に考えれば回避だ。


 が、これも俺は受け止めに行く。

 意地が半分、海エルフたちへのアピールが半分だ。

 陸地の方では幻影魔法を使って拡大映像が流れているのでね。

 ギリギリの戦闘をしているっぽく見せる。

 ハラハラぐらいはしてもらわないとね。

 楽勝するようなことがあると海エルフたちが勘違いしかねない。

 大したことのない相手だったと、ね。


 俺もあまり余裕ぶっこいてると痛い目を見るだろうけど。

 二刀流で左右を受け止め。

 正面は蹴り上げて軌道を逸らす。

 もうひとつ重くなっていた。


「必死だな、おい」


 透けて見えるものがある。


「俺に接近してほしくないようだな」


 そんなに懐に入られるのが嫌かよ。

 あるいは、この場所に俺を釘付けにして完封したいのか。


「それはないな」


 向こうの射程から考えてそれはない。

 飛び道具でも持っているなら話は別だが。


 ただ、そういう気配は今のところ感じられない。

 この距離では当たらないと考えているのか。

 それとも俺の不意を突くべく隠し球として用意しているのか。

 色々と考えられそうだ。


 とにかく手の内を見せないというなら、こちらから打って出るしかないよな。

 左右から押し潰そうと力をかけてくる触手を腕力だけで弾き飛ばす。


「そろそろ様子見は終わりだ」


 向こうの都合など知ったことではない。


「行くぞ!」


 俺は一気に前に出た。

読んでくれてありがとう。

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