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381 バージョン2

「ハルー、頑張れー」


「ハルくーん、ファイトー」


 後方に下がって海エルフたちを守る位置でスタンバイしているマイカとミズキ。

 他の面子も固唾をのんで見守っている。

 とりあえず声援には右手を挙げて応えておいた。


「さて、それじゃあ敵さんが来る前に久々の変身と行きますか」


 久々に変身バックルを取り出した。

 龍の頭部をあしらったそれを下腹部にあてがう。

 幅広の銀鱗に覆われたベルトが首の部分から出てきて俺の腰を一周した。

 龍が赤い瞳を輝かせ顎を開く。

 合成音で「スタンバイ」とベルトの装着完了を告げてくる。


「変身!」


 掛け声と同時に無色の水晶玉を龍の口に押し込みセット。

 この状態で上から押さえ込むように顎を閉じれば変身用の術式が発動だ。

 俺の体は瞬時に眩い光に包まれる。

 この間に倉庫から変身用のスーツが転送されてくる訳だ。


 次の瞬間には白銀に輝く仮面の戦士へと姿を変えていた。

 背後のギャラリーからどよめきが聞こえてくる。

 主にうちの面子から。


 海エルフたちは完全に呆気にとられている。

 まさか、こんな形で戦士の衣を纏うとか思ってなかったんだろう。

 ゴメンとしか言い様がないな。

 一方でうちの面々の反応は色々だ。


「あー、ノーマルの仮面ワイザーですよー」


 真っ先に反応したのがダニエラだったのは意外だったけど。


「うちらと始めて会うたときのやんか」


「懐かしいわね」


 アニスとレイナも感慨深そうにしている。

 それは頷いて同意するルーリアを除く月影のみんなも同じようだ。

 ルーリアは見たことのないノーマルの仮面ワイザーにちょっと驚いていた。

 フレイムとかダークネスを見ているのに驚く要素があるのだろうか。


「あれがオリジナル……」


 思わずと言った感じで呟いていたのが印象的だ。

 俺的にはフレイムもダークネスも派生ってだけでオリジナルのつもりなんだがね。

 だって2段変身してないからさ。


 これのためにバージョン2に新調したんだよな。

 バージョン1と違って色々と仕様変更もした。

 思わぬピンチを招くことも考慮した結果だ。

 スーツの装甲素材は変更して防御力を上げた。

 物理攻撃だけでなく魔法攻撃や精神攻撃に対しても高い耐性がある。


 あと、手加減するために用意した負荷をかける機能は任意で調整できるようにした。

 10倍の負荷だと全然たりないからな。

 感覚的に言えば、ちょっと強い風が吹いているかなってぐらい。


 これを強くしたり逆に弱くしたり。

 強くする方は相手が弱いのに暴れたいとき用。

 弱い方は強い相手の時にピンチになったらシャレにならんからだ。

 まあ、保険だな。

 今回はこれを使って負荷なしの状態にしてある。


 それを嗅ぎつけたのがラソル様なんだろう。

 俺にコスプレして戦うように海エルフたちへのお告げで指定してきたからな。

 普段どこまで見ているんだろうかという疑問も湧いてくるほどだ。


 だってさ、変身セットの新調なんて時間かけてないよ。

 弟子1号であるツバキに手伝ってもらったしな。

 いつもなら手こずるデザイン面も調整と仕上げで大いに貢献してくれたんだけど。

 そんな訳で知っていたツバキの反応は平坦だ。


「バージョン2か」


 なんて呟いている。

 リーシャたちは違いに気が付かなかったんだけど。

 手伝っただけあって、すぐに気付いたようだ。

 ノーマルの質感を良くするために貢献してもらったから当然だとも言える。

 服飾関係ではツバキの方が経験豊富だからデザイン面でも色々と意見が聞けたよ。


 まあ、ヨウセイジャーも2段変身があるといいのにと言われたけど。

 しょうがないので妖精組の分もバージョン2に新調ですよ。

 使う機会はなかなかないんだけど。

 なんにせよツバキは淡々としているのみだ。

 これと正反対なのがマイカである。


「うはっ、趣味ってるー」


 興奮を隠しきれない様子で喜んでいた。


「アレ細部まで作り込んでない?

 ねえ、絶対に作り込んでるよね、ミズキ」


 生き生きした表情でミズキに話し掛けている。


「うんうん、確かにディテールが凄いよね!」


 生き生きさん2号だな。

 その後もマニアさんな会話をしてらっしゃるが割愛だ。

 2人とも、こういうのに詳しいからな。

 俺なんか平成のシリーズしか知らないから会話について行けないことがあったし。

 昭和のやつなんて多少しか分からんぞ。


 まあ、受けは良いようなので一安心だがな。

 色々とリファインした甲斐があったというものだ。

 残りの面子は3姉妹やプラム姉妹は驚いている。

 仮面の賢者は見たことないからな。


「あの、あれは何なのですか?」


 マリアがガンフォールに質問をぶつけていた。


「一瞬であの姿になりましたよ」


 珍しくクリスも興奮した面持ちでマリアに追随していた。

 エリスは何も言わないが、表情からすると驚きはしたようだ。

 何か考え込んでいるようである。


「召喚呪文じゃないですよね」


「ゴーレムって感じじゃないですよ」


 アンネもベリーも真面目に分析していた。

 だが、答えにまでは辿り着けないようだ。

 そんな彼女らを見てガンフォールが溜め息をついた。


「ワシも詳しいことは知らぬ。

 変装用に作った鎧のようなものだそうじゃ

 ハルトが言うには仮面ワイザーと言うそうじゃが」


「はあ」


 よく分からないという顔をして生返事をするマリア。


「ワシらが見たのは黒い姿のダークネスだけじゃがな」


 その言葉にエリスが反応した。


「もしかして赤い姿のもあるのですか?」


 うわー、赤イナゴの蝗害の時のことを考察していたのか。

 鋭いお嬢さんだ。

 うちの国民じゃなかったら頭を抱えているところだよ。


「さあな、ワシには分からぬ」


 そう言いながらハマーやボルトの方を見た。

 案内役として一緒に行動する時間の多かった2人に確認するつもりのようだ。


「お主らは何か知っておるか?」


 だが、両名とも首を横に振るばかりである。

 フレイムのバージョンは2人には見せていないからな。


「その辺は古株の連中に聞いた方が良さそうじゃな」


 是非そうしてくれるかな。

 俺としては説明するのが面倒だ。


「ん?」


 皆の方に気を取られている間に少し時間がたっていたらしい。

 ふと違和感を感じて前の方へ意識を戻す。

 何か変だ。

 何がどうと聞かれると返答に困るのだが……


 別に海が割れて敵が登場したとかじゃないんだよな。

 海岸では普通に小さな波が押し寄せては引いてを繰り返している。

 遠くの方から何かが近寄ってきている訳でもない。

 ないのだが何かあるという奇妙な確信があった。


「ローズ、何か感じるか」


 夢属性の神霊獣であるローズに期待して聞いてみた。


「くう、くっくぅくうくぅ?」


 んー、別に何もない感じ? だそうだ。

 ローズが何も感じていないということは──


「妾も何も感じぬな」


「ウォッ」


 シヅカもマリカも同様の反応である。

 だが、俺だけは違った。

 直感で何かおかしいと己の内側から訴えかけてくるのだ。

 違和感のようで違和感でない不思議な感覚。


「どうも覚えがあるような気がするんだよなぁ」


 ひとことで言い表すなら既視感だろう。

 だが、懐かしさがこみ上げるようなこともない。

 むしろ嫌悪感が湧き上がる。

 背中には嫌な汗が滲み出ているほどだ。

 頭から砂か泥でもぶっかけられたみたいな感じ。


「くくっくうくっ」


 直感は大事だよ、だってさ。

 確かにそうだと俺も思う。


 だから新型ガンセイバーを腰のホルスターから引っこ抜いた。

 今度のは近未来的な武器のイメージを前面に押し出したデザインだ。

 なおかつ些か小型化している。


 前のと比べるとガンスピンがやりやすくなったかもね。

 今から仕舞う時のことを考えても仕方ない。

 とにかく新しいガンセイバーでチャージ開始。


「……………」


 タメはそれ程でなくていい。

 2秒にも満たないチャージで薙ぎ払うようにぶっ放す。

 銃口から発せられた光が横なぎに水平線を切り裂く。


 途中までは確かにそうだった。

 が、正面方向の沖合で「ドオッ!」という大きな音がして薙ぎ払いが途中で止まった。


「来たな」


 さすがはステルス性の高い敵である。

 こういう攻撃の仕方でなければ発見できなかっただろうな。


「くくっくぅ!?」


 なぁんでぇ!? なんて驚かれてもな。

 自分で直感は大事って言ったじゃんか。


 そんなことを気にしている場合じゃない。

 ガラスが何枚も割れるような音がした。

 結界が破壊されたようだな。


 それを見て納得がいった。

 どうして俺が違和感に気付いたのか。


「あれが欠片の気配なのか」


 日本人だった頃の俺に取り憑いていた神の欠片と同じものだ。

 もちろん、当時はそんなものを感じることなどできなかったが。


 今ならはっきりと分かる。

 かつての俺の中にアレと同種の存在がいたことが。

 当時の自分にそんな鋭い感覚がある訳もないのだが。

 欠片もバレないように色々していたと聞いたんだけどねえ。


 それでもアレを目の前にして何故か確信した。

 俺の中にいたからこそ何か分かる要素があるのかも知れない。

 いずれにしろ完璧に掴んだ。


「絶対に逃がさねえ」


 姿を現し始めた漆黒のクラーケン。

 触手の塊と言い換えた方がいいかもな。

 それくらい脚が多くて頭部が見当たらない。


「いったい幾つ脚があるんだよ」


 ウネウネと蠢くそれを数える気にもなれない。

 キモいし面倒だ。


「とにかく、ぶっ倒す!」


 俺は理力魔法で奴に向かって飛び出していった。


読んでくれてありがとう。

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