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378 その正体は

 脳内スマホの電話でベリルママに確認しようと思ったら嫌な予感が的中していた。

 またしても神の欠片がらみだったのである。

 もうやだ。

 しつこいにも程がある、なんて思っていたら少し様子が違う。

 確かに大森林の時とは違うのだ。

 様相が劣化しているというか。

 そこで俺が思ったのは──


『廃棄物が引き起こしているんですか?』


 ということだった。


『近いわね』


 それって正解じゃないってことだよな。

 この答えしか思いつかない俺がショボいのかなと思ったんだが……

 そういや、廃棄物より1段上で神の欠片の1段下ってのがあったな。

 初期に処理された際に出た灰や塵の類いだっけ。

 そんな状態になっても廃棄物より上とかシャレにならん。


『処理されて残った灰ですか』


『ええ、そうよ』


 一瞬だがベリルママの表情が渋いものになった。


『灰もね、最初は無害なものだと思われていたのよ。

 時間経過と共に自然消滅を始めていたから』


 自然消滅するなら放置されてもおかしくないか。

 回収くらいはしたかもしれないけどさ。

 もし、そうだとするなら嫌な予感がする。


『灰というくらいだからオリジナルより明確に劣りますよね?』


『あ、気付いたかしら』


 嫌な予感、増幅中。


『基本的な部分は確かに劣化してるの。

 けれど、灰になったぶん存在感がね』


『なくなったと』


『ええ』


 滅するために処分されたせいで影が薄くなった訳か。


『より発見しづらく潜伏されやすくなったと』


『それだけじゃないわ』


 うわー、影が薄いだけじゃないのか。


『灰の状態のときは隙間から逃げられやすいの』


「……………」


 灰だけに、すり抜けるのはお手の物ってことか。

 捕まえるのも難儀しそうだ。

 それと──


『灰の状態のときってどういうことですか?』


『やっぱり、そこは気になるわよね』


 思わせぶりなことを言われて気にならないはずがないんですが。

 嫌な予感ゲージはとっくにレッドゾーンである。


『灰はねオリジナルと違って明確な意志がないの』


 あったなら神様たちも油断はしなかっただろう。


『でもね、私達も気付いていなかったことが幾つかあったわ』


 なにかしら裏をかかれるような秘密があったんだな。

 それも幾つかって、なんかヤバそう。

 すり抜けもそのうちのひとつだよなぁ。

 他のも質が悪そうだ。


『ひとつは強い負の感情に引き寄せられやすいこと』


 それは灰になる前の状態に近しいものを求めているということだろうか。

 意志が明確でないからこそ本能的に?

 そのあたりはたぶん神様にも分からないだろうけど。


『もうひとつは負の感情を持つ相手と融合してしまうこと』


『取り憑きとかではなく?』


『別の存在になってしまうのよ。

 融合された相手は姿形を変える上に元の意識を残せないわね』


 思わず廃棄物を連想してしまった。

 アレの場合は何故か男だけ捕食する感じだったけど。

 なんでか、その姿と重なってしまったんだよな。


『うわぁ……』


 絶対に近寄ってほしくない。

 考えるだけでもキモいわ。


『安心して。

 負の感情が一定以上でないと融合対象に選ばれないわ』


『はい』


 返事はしたが心は晴れない。

 被害がない訳ではないのだ。

 その辺りの答えがまだない状態では素直に安心はできないだろう。


『最後にもうひとつ』


 これが最も厄介そうだ。

 そんな気がした。


『融合した相手の能力を極限以上に引き出してしまうの』


 限界突破ってことですか。

 例えば亜竜が竜くらい強くなるとか。

 それは言い過ぎか。

 どうなんだろう。

 オリジナルが元神様だからなぁ。

 ないとは言い切れん。


 余計なことをしてくれるものだ。

 面倒だから御遠慮願いたいんだが、うまくはいかないだろう。

 そんな気がする。


『たとえば海流をコントロールする能力だったり』


『え?』


 ここで具体例を出してくるとは思わなかった。

 あれ? でも、これって……


『まさか、海エルフの行方不明って』


『そのまさかよ。

 海流を操って自分の元に引き寄せるの』


 それって海エルフの魔法を上回る海流制御能力ってことだよな。

 あれ? 海エルフの海流操作はどの程度のものなんだろう。

 これはレオーネやリオンに確認しておいた方がいいか。

 返答しだいで相手の驚異度が変わるしなぁ。


 いずれにせよ人間を引き寄せて何もしないなんてことは考えられない。

 相手が肉食獣なら食われて終わりなんだが……

 問題は灰が知能の低いと思われる肉食獣と融合するなんてことがあるかということだ。

 灰は負の感情に引き寄せられると聞いたし。

 ん? 負の感情って……


『もしかして人間に敵対心を抱くような獣でも灰は引き寄せられますか?』


『あら、答えが分かったようね』


 確認のために聞いたつもりが、あっさり正解を当ててしまっていた。


『人間に何か手酷い目にあわされたことのある海の生き物ですか』


 昔、何かのテレビ番組で見たことがある。

 子供を殺されたインド象が人間を襲うようになり対応に苦慮する現地の人々を。

 だが、今回の件が陸から海へと変わっただけとは言わない。

 むしろ凶暴な奴が海エルフを襲って手酷い目にあったのを逆恨みしているパターンだと思う。

 共通項があるとすれば、人間を明確に敵と見なすイメージだろうか。


『ええ』


 質問に対する返答は肯定。

 その後に続く言葉も、俺の想像に合致するものだった。


『正体は海エルフに深手を負わされたことがあるクラーケンよ』


 ゲームとかでお馴染みの奴だ。

 昔の西洋では本当にいると信じられてたそうだけど。

 やたらデカくて船を沈める怪物だったそうだな。


『まだ遭遇したことのない魔物ですね』


 その姿は明確にこれというものがないようだ。

 実際の目撃証言がないんだからしょうがない。


 ダイオウイカがいるせいかイカだという意見はメジャーなようだが。

 後はタコも比較的よく絵やCGとかで目にするね。

 マイナーなものだとヒトデ型やエイ型もいるらしい。


 いずれにせよ船を沈めるサイズの怪物なんている訳はない。

 いくら昔の船とはいえ、遠洋航海に使われていた代物だ。

 少なくとも亜竜サイズは必要だろう。

 いずれにせよ、そこまで大きな怪物は地球上にはいないのだが。


『クラーケンはね、吸盤がたくさんついた触手のような脚を沢山持つ魔物ね』


『あ、ゲームとかで見たことあります』


『それを先に言ってね』


 注意されてしまった。


『すみません』


 不機嫌さは表に出ている訳じゃないから大丈夫だとは思うけど。


『あ、でも向こうの世界のクラーケンって色々あるんです。

 場合によっては吸盤のないような生き物だったりしますし』


『あら、そうなの?』


 ベリルママも自分の世界のことでないと詳しくないこともあるんだな。


『こっちのクラーケンは吸盤あるみたいですけどイカかタコということですか?』


『そうね、見た目はタコそのものよ。

 イカの姿をした大型の魔物もいるけど』


 クラーケンとは違う扱いをされているようだが。

 ベリルママはいちいち、どれがそれでとは教えてくれない。

 【諸法の理】で調べようかとも思ったけど面倒だ。


『そのクラーケンが手負いとなり人を恨むようになった訳ですか』


『そうね、それがなくてもクラーケンは危険な魔物なんだけど』


 人間なんて餌のひとつに過ぎないだろうし。


『で、欠片の灰を呼び寄せた挙げ句に融合したと』


 傍迷惑な話である。

 まあ、欠片の灰の存在なんて知りゃしないだろうけどな。

 知ってたとしても受け入れたとは思えないが。

 いずれにせよ海エルフにとっては不倶戴天の敵である。


『それって俺たちが退治しちゃダメですか』


 面子にレオーネを加えてやりたいとは思う。


『仇討ちかしら』


『そうなりますね』


 俺自身はなんの遺恨もないけれど。

 事情を知ればレオーネやリオンは恨みを晴らしたいってなるだろう。

 難しいとは思うけど。

 大型の魔物で欠片の灰と融合することでパワーアップしてるみたいだからさ。


『ハルトくん以外だと危険ね』


 予想通りの返答だ。


『あー、やっぱりそうですかー』


 そんな予感はしていたんだよな。

 大型のタコってサメとか食べるらしいし。

 あ、【諸法の理】で調べりゃ良かったのか。


「……………」


 亜竜以上で竜未満?

 えらくざっくりした評価だな。

 面倒くさいけど、もうちょっと読み込むか。


「……………」


 あー、なるほど。

 餌しだいで成体の大きさがピンキリと言えるほど違ってくるのか。

 それにしちゃあ海エルフと因縁があるみたいだけど。

 ベリルママは俺以外は危険だと言ってたような奴に手を出したのか?


 いや、手を出した時は融合前か。

 その時は海エルフにも対処できる程度の相手だったんだな。

 だが、仕留め損ねた。

 結果としてクラーケンは生き延びて図らずも強くなったと。

 ただし、元の意識は残っていない状態で。

 記憶と恨みだけは消えなかったようだが。

 派手に暴れないのは欠片の灰の性質を受け継いでいるからかもな。


『できればレオーネに一撃だけでも入れさせたかったんですけどね』


『それも止めた方がいいわね。

 アレは特殊個体になってしまったから』


 そっか、そうだよな。


『分かりました』


 やれやれ、俺が代理でやるしかないか。


読んでくれてありがとう。

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