377 確認のためにしてみたことは
海エルフの行方不明者12人。
1ダースか。
明らかに普通じゃない。
レオーネも愕然としている。
多くてもその半分くらいまでの想定だったんだろう。
少なくとも俺はそう思っていた。
ここまでくると偶然では片付けられない。
何者かの意図を感じる。
「そんなに行方不明になっていたなんて」
レオーネが思わず呟いたように、いくらなんでも多すぎだ。
何処かの国における年間行方不明者の総数と言われれば印象もまた変わるのだろうが。
ひとつの集落から2桁の人数が行方不明という時点で異常事態と言える。
集落に住んでいる人間なら気が気じゃないだろう。
次は誰なのかとビクビクしながら生活していたと思われる。
そのタイミングで血縁者がいなくなったのか。
キツいな。
そう考えるとリオンの行動は些か無謀ではあったが、全く理解できないものでもない。
姉に会える確信など持てなくても飛び出さずにはいられなかったか。
まあ、会えたのだから良しとしよう。
「同感だな」
レオーネの呟きに乗る形で話を続ける。
「いくら何でも不自然だ」
「まるでミステリー小説の世界ね」
マイカがそんなことを言い出した。
「こういう不可解な事件はパイプをくわえた名探偵の出番じゃないかしら」
ミズキまでそういうことを言い出すとは。
些か不謹慎じゃないか、君たち。
あ、もしかして引っかき回すことで場の空気を変えようという魂胆か。
態とらしいとは言えるが許容範囲かな。
咎め立てるのはやめておくか。
「確かに世界一の名探偵の出番よね」
おいおい、架空の人物で話を引っ張るのかよ。
俺も子供の頃は医者を助手にしたイギリスの名探偵の小説をよく読んだけどな。
犬を擬人化したアニメ版も見てたさ。
今回の一件は、そういう名探偵が扱うような事件じゃ無い気がするんですが。
「名探偵の出番はないと思うぞ」
「なんでよ。
謎の連続失踪。
完璧に姿を消す手口。
謎が謎を呼ぶ展開じゃない」
「場の空気を重くしないために、そう言っているのは分かるがね」
リオンやレオーネが呆気にとられているから成功しているとは言えるんだが。
「とにかく、そういうことにはならないから」
「なんでよー」
不満そうなマイカはスルーした。
ここで説明するのは難しい。
大人の事情というやつだ。
有り体に言えば脳内電話の出番だったりする。
「ひとつ、いいかな?」
間違いなく悪意が込められた企みがあるはずだ。
いや、企みと言えるような意志があるのかは不明か。
「はい」
「隣の集落の話とかは聞いたりするのかな」
「はい、日頃から付き合いがありますので」
真剣な表情で頷くリオン。
何故そんなことを聞くのかという雰囲気はない。
「近隣の集落でもいなくなった人が大勢います」
俺が何を聞きたかったのか、ちゃんと察してくれたようだ。
「実質的な被害者はもっといる訳だ」
「冗談きついわ」
レイナが渋い表情で呟いていた。
「せやな、なんか他人事のような気がせえへん」
アニスが同意している。
だろうな。
出身集落の同族が謎の失踪を遂げているから。
「いや、しかし状況が違わないか」
一方でリーシャが反論する。
「でもぉー、最終的に同じようなことになるかもですよー?」
再反論するダニエラ。
「「ないとは言えないよねえ」」
メリーとリリーがそれに同意する。
「そうか、どうやって皆がいなくなったかは不明なままだしな」
リーシャも頷かざるを得なかったようだ。
その様子を見ていたレオーネとリオンの姉妹が驚いている。
「どういうことですか?」
レオーネがなんとか絞り出すように声を出して聞いていた。
「あー、レオーネにはうちらの事情を説明してなかったっけ」
レイナがアニスに確認している。
「せやで」
アニスが間違いないと頷く。
「大森林の事件はミズホ国とは直接的には関係ないさかい」
「この際ですからー、情報交換した方が良いかもですよー」
ダニエラの意見にハイラミーナの一同が頷く。
月影の面子であるノエルやルーリアは静かに見守っている。
そんなこんなでハイラミーナと海エルフによる情報交換会が開かれることとなった。
俺はその間は聞き役に徹しておく。
別に会話に加わってもいいが話をややこしくしてしまうからな。
【多重思考】で電話しておくか。
『Rガチャッ』
早っ!
1コールするかしないかのタイミングで着信ボタンですか。
元の世界の管理神に見習ってほしい速さだ。
『もしもーし、ハルトくーん』
テンション上げ上げですね。
息子からの電話がそんなに嬉しいのかな。
ちょっと、ついて行けないんですが。
『はい、ハルトです』
俺の方は至ってクールに応じる。
『用件は分かっているわ』
一気に通常モードである。
あれだけ上げたテンションどこ行った。
まあ、あのまま話を続けられても困るんだけど。
『海エルフちゃんたちの行方不明事件よね』
『はい』
ここからは真面目な話だからな。
『その件なんだけど、ハルトくんはどうしたいの?』
質問から始まるのか。
どうって言われてもな。
『自分としては解決したいですね。
レオーネの身内の話ですし』
『うーん、そうなんだー』
何か渋っている感じがうかがえるな。
俺が関わるのは好ましくないのだろうか。
だけど、それならストレートに言ってくる気がするんだけど。
『どうしたっていうんです?』
『じゃあ、聞くけど』
俺の質問はスルーですか。
『何をもって解決なのかしら』
これは俺の回答しだいで『○○禁止』みたいなことを言われるパターンかもしれない。
まあ、答えない訳にはいかないんだけど。
できればレオーネの期待に添える形に落ち着いてほしいとは思う。
『最低条件として、これ以上の被害が出ないことです』
『そうでしょうね』
このラインでは禁止ラインには引っ掛からないか。
いや、これでダメなら最初から行くなと言われるだろう。
最低条件に関しては強引な手を使えば今すぐにでも解決する手段はある。
あるけど望ましくはないかな。
個人の意志はガン無視になるからさ。
『原因の究明とその防止策が用意できるのが望ましいですが……』
おそらくは無理だ。
『原因はハルトくんが想像している通りよ。
だからこそ電話してきたのでしょう?』
『ええ、まあ』
完全に読まれていたな。
それを言うとドヤ顔されそうだ。
で、『ハルトくんのママなんだから当然でしょ』とか言われたりするんだよ。
これがエリーゼ様だったら軽くムカついただろうな。
『やはり神の欠片がらみですか』
『ええ』
肯定されるとガクッとくるな。
予想はしていたけど当たってほしくはなかったから。
『それでは大森林と同じく近づいてはいけないということですか?』
『今すぐという訳ではないけれど、そうなるわね』
防止策を考えても意味がなくなってしまう訳だ。
いや、それよりも考えないといけないことが出てくる。
『これって周辺国にまで拡がっていきませんか?』
そうなった場合、多くの国が影響を受ける。
もちろんゲールウエザー王国もヤバい。
せっかく親しくなったのに、それは勘弁してほしい。
『それはないわ、安心して』
根拠がないとベリルママの言葉であっても安心はできない。
他のことならともかく、神の欠片に関連している事件だからな。
『大森林は神の欠片対策班に所属する神によって完全に隔離済みなの』
それを聞いて特殊部隊の精鋭を連想してしまった。
多分そんなに的外れではないと思う。
だとするなら隔離済みというのも間違いはないのだろう。
そこまで考えて、変だと思った。
完全に隔離済みならどうして海エルフが同じような事件に巻き込まれるんだ?
影響がないはずだよな。
大森林の中に住んでいるというならともかく、彼らは漁業を主体にして生きている。
森には依存していない。
確かに彼等の集落のうち一部は大森林に接した所にあるが、大森林の外側だ。
隔離されているなら、どうして?
そういう疑問を抱いた雰囲気がベリルママに伝わってしまったのだろう。
『その様子だと矛盾していると思ってるでしょう』
ベリルママに指摘されてしまった。
『違うのですか』
『別口なのよ』
『え?』
『今回の事件は大森林とは何の関係もないの。
隣接した場所で発生したから関連づけて考えてしまうでしょうけどね』
状況によってミスリードされてしまったということか。
『その証拠に大森林ほどの影響はないのよ。
海エルフたちだけが事件に巻き込まれたから』
言われてみて初めて気付くことがあった。
『そういえば規模が違いすぎる……』
当たり前のことなのに、そこに目を向けていなかった。
被害者の人数ばかりに気が行っていたからだ。
『規模だけじゃないわよ』
『被害状況も違いますね』
大森林は気付かぬうちに誰もいなくなっていた。
海エルフの方はリオンが助けを求めて飛び出してくるほどだ。
もし、外部ともっと積極的に繋がりがあったなら、とっくに騒ぎになっていただろう。
『ハルトくん、どう思う?』
どうって言われてもな。
劣化しているとしか……
え、もしかしてそういうこと?
読んでくれてありがとう。




