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373 介護ベッドと自己紹介

 量産型スマホで連絡が入ったのを切っ掛けに目覚めたリオンの元へと戻った俺たち。

 そこでレオーネから最敬礼で頭を下げられた。

 堅苦しいのは苦手だと言ってるのに生真面目なんだよ。

 それはそれで可愛いとは思うんだけど。


「あっ、あのっ」


 リオンがベッドから下りようとしている。

 もしかして礼を言いたいとかか。

 律儀な姉妹だ。


「あー、横になっておけ。

 行き倒れていたんだぞ。

 治癒魔法は使ったが、今日1日は安静にな」


 俺の言葉に戸惑いを見せリオンが動きを止めた。

 そこにレオーネが手を添えて寝かせようとする。


「でっ、でも!」


 まだ抵抗を試みるリオンであったが、姉が無言で頭を振ったことでベッドに戻った。

 横にはならずに座っているけどな。

 それくらいは仕方ないか。

 俺らも椅子に座る。

 少しは恐縮しきった空気も弛むかね。


「何か言いたいことがあるなら聞くぞ。

 そのために、俺たちはここにいるんだからな」


「あの、えっと、すみません。

 本当にありがとうございました」


 頭を下げるが、脚を伸ばしているせいで少し窮屈そうだ。


「気にしなくていい。

 お前さんを偶然発見しただけだからな」


 ベッドの端に手をかける。


「え?」


 不思議そうな顔をしたリオンが姉の方を見る。

 だけど、分かる訳ないんだよな。

 何をするか言ってないんだし。


「ハルト様、何を?」


 姉が把握していないことに不安を感じたのか、表情にそれが出るリオン。


「あー、心配はいらんよ。

 その状態で座り続けるのは辛いだろ」


 ベッドを作り替えて介護ベッドにする。

 変形するように魔道具化するだけなので時間はかからない。


「ほい、完了」


「え? ええっ?」


 何が完了したのか分からないリオンはレオーネの方を見て助けを求める感じなっていた。


「あ、動かすからそのままな」


 追加したリモコンを操作すると、ベッドが変形し始める。

 駆動音があると威圧感があるかなと思ったので無音だ。


「えぇ───っ!?」


 リオンは完全に混乱していた。

 音のあるなしは大した差ではなかったようだ。

 オロオロした様子で背後と足元を交互に見ている。


 背後から起き上がってくるマット。

 それだけではない。

 マットは伸ばした脚の膝の裏を押し上げてくるのだ。

 そう、波形に変形させている。


 背起こししただけだと膝が伸びたままで腰とか背筋に負担をかけるんだよね。

 形状なんかは介護ベッドの動画とかを参考にした。


「おおおお姉ちゃーん」


 噛みながら情けない声を出している。


「落ち着いて、リオン」


 レオーネも戸惑いながら妹を宥めようとしているが結果に結びついていない。

 ここまでパニックを起こしたら、そう簡単に落ち着けないよな。

 やらかした俺が言うのはどうかと思うけどさ。


「最初に説明が必要でしたね」


 エリスの至極当然なツッコミが入った。


「ごもっとも……」


 結局、ベッドが完全に変形し終わってしばらくはリオンの混乱が続いた。

 罪悪感がハンパないね。

 楽な姿勢になるようにと思ってやったことなんだけど。


「いや、すまぬ。

 ちゃんと説明しておくべきだったな」


 ようやく落ち着いた頃合いを見て詫びた。


「いえ……」


 やや疲れたように見えるのは気疲れからくるものだろう。

 体力的な問題は治癒魔法で解決しているからな。


「それで、どうかな?

 負担なく座れると思うんだが」


 違和感があったりするなら調整しようと思って聞いてみた。

 問われた当人は、その時になって何かに気付いたかのようだ。

 リオンは「あれっ?」という顔をしてキョロキョロと自分の周囲を見回す。


「えっと、あの……楽です」


 一通り見回した後、半ば戸惑いの表情は消しきれないながらも答えてくれた。


「それはなによりだ」


 そうは言ったが、リオンは姉の方をチラチラと見ている。

 知り合いがいない状態だからな。

 配慮が足りなさすぎたか。

 この状態でしばらく刺激はしない方が良さそうだ。

 話を聞くのは少し様子を見てからにしよう。

 だが、まあ名乗るくらいはしておいた方がいいよな。


「名乗るのを忘れていたな。

 俺の名はハルト・ヒガ。

 好きなように呼んでくれて構わない」


 賢者だとか国王だとかは刺激になりそうなので言わない。


「あっ、あの、私はリオン・ソレイユといいます」


「それではリオンと呼ばせてもらおう」


「はい」


 そこから全員の自己紹介となった。

 トップバッターは俺の相棒である。


「くうっくくっくっ、くぅーくうーくくぅくぅ!」


 ローズさんだよー、よーろーしーくーねぇー! と言いながら踊っている。

 言いながらというよりは歌いながらなんだけど。

 たぶんミュージカルを意識しているんだろう。

 訳が分からんけどな。

 現にリオンもポカーンと口を開きっぱなしである。

 たっぷり15秒は固まった後──


「な? えっ? ええっ!?」


 混乱しながら再起動した。


「ああ、悪い悪い。

 ローズは俺の相方で守護者だ。

 魔物じゃないから心配いらない」


 俺がこう言ったくらいじゃ、すぐには混乱も収まりを見せない。

 かわりにローズが地団駄を踏んでいた。


「くぅくー、くっくくぅくーくーくうくっくっくー」


 ひどいっ、こんな可愛い魔物なんていないのにぃ、だってさ。


「知らない人に説明するためなんだから我慢してくれよ」


『それとも神霊獣であることを説明するのか。

 いくら身内の家族とはいえ、うちの国民じゃないんだぞ』


「くぅっくくぅ」


 しょうがない、か。

 納得してくれたようでなによりである。


「あの、守護者ということは……」


「ん?」


「もしかして精霊獣と契約をしているのですか?」


 あらら、そういうことに詳しいのか。

 若いのに凄いもんだな。


 あ、でも部族的な繋がりというか伝承の類いで知っていたのかも。

 念のために【諸法の理】で確かめてみた。

 そしたら海エルフはそういう伝承の文化があるってさ。

 独自に知識を語り継いできたから知っていたということなんだろう。


 だが、神霊獣まで知っているとは限らない。

 そこは誤魔化すしかないな。


「最初に精霊獣と契約したな」


 契約時のローズは精霊獣だったから嘘ではないな。


「最初って……」


「俺には3人の守護者がいる」


「えっ!?」


「こっちにいるシヅカは人化した龍だしな」


「ええ─────っ!?」


 あっさり信じたのは先にローズを見ていたからだろう。

 元は天龍だったとか、現在は聖天龍なんてことは伏せておく。

 今の反応から見ても更に驚くのは目に見えているからな。

 リオンが立った状態だったなら腰を抜かしても不思議ではない。


「で、3人目はこっちのラミーナっぽく見える子供だ」


「え? ラミーナじゃないんですか」


「マリカ、狼モードに」


「はーい」


 元気よく返事をしたマリカが大きめの狼となる。

 ハッキリ言ってこっちの姿の時は迫力満点。

 リオンがビクついて顔を引きつらせたのも当然のことと言えた。


「まさかフェンリル……」


 おしいっ! ハイフェンリルなんだな。

 返事をする代わりにニヤリと笑ってみせた。


「マリカ、もういいぞ」


「うぉっ」


 ひと吠えしてからマリカはラミーナの幼女姿に戻った。

 些か見せすぎたかもな。

 外で喋ったところで信じる者はいないだろうけど。


「ビビらせて悪かったな。

 そういう面子は他にはいない」


 ツバキが本来の姿を見せてもビビるほどのことはない、と思いたい。

 他の面子も進化しちゃってるからビビりはしなくても失神するくらい驚いたりとかありそうだ。

 特に自分の姉が進化したと知ったら、どうなんだろうな。

 そうでなくても他の面子を見て驚いているし。


「ラミーナにドワーフ、エルフの子供……」


 なんてことを呟いている。


「精霊獣や龍ほどじゃないけど、どうなってるの?」


 更にボリュームを絞り込んでの発言。

 声を出している以上は俺に筒抜けなんだが。

 なんにせよ微妙に驚いているといったところか。


 無理もない。

 残りの面子が人種の坩堝みたいなことになってるから。

 外界との接触が極端に低い海エルフといえど、こういう常識はあるようだ。


 ああ、希に外に行く同族が帰ってきた時に情報は入るのか。

 後は大森林の方からラミーナが来ることがあるんだっけ。


「色んな種族がいるのが気になるかい」


「えっと、あの……」


「心配しなくても全員がお姉さんのお友達だ」


「えっ!?」


 思わずと言った感じで姉の方を見るリオン。

 それに対してレオーネは静かに頷いた。


「ど、どういうことですか?」


 姉の肯定だけでは混乱が収まらないらしい。


「どういうことって言われてもなぁ」


 なんて説明すりゃいいんだ?


「種族は違えど、みんな同じ国の国民だ」


 こう言うしかないよな。


「同じ……国……」


 あー、訳が分からないって顔をしているな。


「言っとくが、ゲールウエザー王国じゃないぞ」


「え?」


 やっぱり勘違いしていたか。


読んでくれてありがとう。

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