372 身内の妹は家族です
修正しました。
前者も → 前者は
レオーネの妹が目を覚ました。
「リオン!」
レオーネが覆い被さろうとするかの勢いで妹の眼前に飛び込む。
いきなりやられたらビビるよ、それ。
幸いにしてと言うべきか、された方のリオンの反応は鈍い。
目覚めたばかりで意識がまだハッキリしていないらしい。
「お姉……ちゃん……?」
ボンヤリした視線を向けるリオン。
「そうだ、お姉ちゃんだぞ」
言いながらリオンの手を握っている。
『あー、こういうのは水入らずの方がいいんじゃない?』
レイナが念話で声を掛けてきた。
言われてみれば確かにそうだ。
『わかるけど、今更じゃない?』
それに対してマイカが疑問を呈する。
『急に周囲の人間がいなくなったら変な感じになると思うんだけど』
それもまた事実だ。
『ハル兄なら何とかできる』
期待のこもった目で見てくれるノエルさん。
なにげにドヤ顔だし。
ちなみに他人からは無表情にしか見えないのは相変わらずである。
『ノエルに期待されてしまうと何とかしないとなぁ』
とりあえずはリオンの意識が狭まるようにしないと話にならない。
完全に覚醒していないようなので睡眠の魔法を中途半端にかける。
寝落ちしそうになるギリギリのラインを狙うのがミソだ。
普通なら眠ってしまわないので失敗なんだがね。
まあ、こういう使い方もあるということで。
ギリギリを狙うのは制御の練習になるのでお勧めではある。
そこから幻影魔法を使って周囲に靄がかかったようにしてからの転送魔法だな。
格納庫の方へ跳んだ。
別に外でも良かったんだけどね。
あんまりバタバタしているのを新規国民組に見せるのもどうかと思ったので。
「なあ、ハルトはん」
跳んでくるなりアニスが話し掛けてきた。
割と真面目な雰囲気だ。
重苦しささえ感じさせるものがある。
「どうした、アニス」
「姉妹水入らずなんはええ。
せやけど問題はその後やで」
「そうね」
ルーリアがアニスの話に同意する。
「なぜ行き倒れていたかが気になるわ」
「エルフ以上に海エルフは見ないからな」
ハマーが話に入ってきた。
「確かに見ないけどさ。
ヒューマンとの比率で考えれば、そんなでもないぞ」
実はヒューマンの街では、どの種族も似たようなものだ。
ドワーフと交易をしている所では大きな差は出てくるがな。
そこを除外すれば、その種族も少数派であることに変わりはない。
故に思わずといった感じでツッコミを入れたんだが……
このままだと話が脱線してしまいかねない。
故にここで強引に軌道修正しておく。
「とにかく身内の妹だ」
ローズの方を見ると──
「くう!」
合格! と太鼓判を押された。
最近、判定したばかりなのに不思議と久しぶりに思えてしまうな。
なんにせよ夢属性の神霊獣らしい仕事をしてくれたわけだ。
これなしで無条件に手を差し伸べるつもりはない。
冷たいようだが、これも国民を守るためである。
「未だ国民ではないが、家族の妹なら身内も同然」
強引な論法である。
友達の友達はなんて何処かで聞いたようなフレーズを思い出す。
世界に広げたりはしないんだけど。
「身内がトラブルに巻き込まれているなら全力で解決する!」
拳を握りしめて決意を語った。
格好をつけてはいるが、ローズの判定が不合格ならこんなことは言ってない。
故にあまり格好良くはないという自覚がある。
「「「「「おお─────っ!」」」」」
ここで何故かパチパチパチと拍手されてしまった。
ホントかよ、おい。
俺は拍手なんてしてもらえると思ってなかったので内心ドキドキしてるんですが。
【ポーカーフェイス】で誤魔化したけど。
とにかく俺の考えに皆が賛同しているってことだよな。
反対なら少なくとも拍手なんてしないだろうし。
「もしかすると頭数が必要になるかもしれん。
何が起こるか分からんが、みんな俺に力を貸してくれ」
頭を下げた。
またガンフォールに注意されそうだけど。
プラム姉妹やマリアなんかは焦った感じで驚いているな。
王が頭を下げるなんて彼女らの常識にはなかっただろうし。
まあ、ここには身内しかいないので俺の流儀で通す。
ガンフォールも苦笑はしていたが、口を出す気はないようだ。
「ハルくん、変わったね」
そう言ったのはミズキである。
「うん、変わった」
マイカも頷いている。
「昔のハルとは正反対と言ってもいいんじゃないかな」
「おいおい、いくらなんでも言い過ぎだろ」
「「そんなことないよー」」
うわっ、ハモられた。
「私達以外の助けは無用って感じだったもん」
「そうそう、近づく奴は皆殺しオーラが出まくってたもんね」
酷い言われようである。
皆殺しオーラって何だよ。
そこまで拒絶感を出していた覚えはないんだが。
「あのな、皆殺しはないだろう。
人付き合いを制限していたのは認めるがな」
なんか周囲から「嘘だろ」って目で見られているんですが。
言うだけ言って責任取るつもりないよな、マイカの奴。
どうしてくれるんだ。
「ほらー、変な空気になったじゃないか」
「アッハッハ、ごめーん。
悪気はないんだよー」
どこがだよ、まったく。
詫びる気ナッシングの謝り方じゃないか。
ミズキが必死になって説明している。
昔の俺が騙され裏切られそうになったことで頑なになっていたと。
まあ、ぼっちはそれ以前からでしたがね。
フォローしようとするだけマイカよりはマシか。
効果の方は期待できないんだけど。
「大したことじゃないよ」
こうなったら俺が自分でフォローするしかないよな。
「生い立ちとか大人になってからの人付き合いの中で色々あっただけ」
「色々とは?」
珍しくエリスがこういう話に首を突っ込んできた。
俺がそこまで深く過去を説明していないからなんだろうけど。
そんなに知りたいとは思わなかった。
要反省?
「色々さ。
詳しく知りたいなら本国に帰ってからな」
今回の一件はまたしても国元に帰れなさそうな予感がするのだ。
合間を見て一時的に帰ることはできるかもだが。
たまには本国でゆっくりしたい。
ものづくりに専念したりとか皆に料理を作ったりとか。
あー、妖精組はいま何してるかなぁ。
「この2人がこんな風に言うのは俺が人付き合いを最小限にして生きてたからだな」
俺がそんな風に言うと隣にいる同士で互いに顔を見合わせる者が多かった。
中にはルーリアのように考え込むような姿勢を見せる者もいたがね。
「にわかには信じがたいかもしれんがね」
それなりの面子にうんうんと頷かれてしまう。
そこまで皆との認識に差があるとは思っていなかった。
自分で言っておいて何だけど……
「俺がこの世界に来て変えたのは前の世界の縛りを緩くしただけだ」
「あ、それがぼっちをやめるってこと?」
ミズキの問いに頷きで答えた。
「本当に色々あって自由に生きると決めたんだ」
色々あったのは元の世界の方だけど。
「けど、そのためには少しは人と関わらないといけない」
「なるほどね……
そういうことだったのかー」
マイカが1人で勝手に納得している。
「自動人形だけが住人の街なんて寂しいにも程があるだろ?」
俺の本質は何も変わってないはずなんだ。
「ちょっと生き方を変えただけだ。
他はどこも何も変わってないさ」
それを正反対なんて言ってくれるから、みんなが戸惑うことになるんだよ。
引っかき回してくれた2人は何か感心したような顔をしていた。
「ぼっちをやめただけで、こうも変わるんだね」
「でも、ハルくんはハルくんだよ」
「それは言えてるね」
まったく……
結論がそうなるんだったら、最初からかき回さないでくれ。
「前の世界での俺の話はまた今度な」
話に無理やり区切りを持たせたところで量産型のスマホが倉の中で鳴り始めた。
「お?」
電話の着信である。
このタイミングで電話をかけてくるなんて本国の妖精組かレオーネだけだろう。
前者はそうそう電話なんてかけてこないけどな。
よほどの急ぎじゃなきゃメールで連絡を入れてくるし。
表示画面を見ると発信者はレオーネだった。
妹がちゃんと目を覚ましたから呼び出しってことだろう。
用件が分かりきっているから通話のボタンは押さない。
「レオーネから連絡が来たから戻るぞ」
電話で話すより戻った方が早い。
そう判断した俺は転送魔法を使った。
予告はしたが皆の了承を得る前なので不意打ちに等しい。
まだ不慣れなミズキやマイカは焦っているな。
小さい男と笑われるだろうが、少しくらいはやり返しておきたいのだよ。
同じように焦っている他の面子には申し訳ないことをしたけど。
「戻ったぞ、レオーネ」
「ハルト様」
振り返ったレオーネが凄い勢いでガバッと頭を下げた。
土下座こそしなかったが最敬礼って奴だな。
「妹を助けていただき、本当にありがとうございました!」
堅苦しいねえ。
「大袈裟なんだよ。
それに俺はそういう堅苦しいのダメって言ってるでしょうが」
「えっと、あの、その……」
最敬礼状態から顔は上げたと思ったらしどろもどろだ。
手なんてワタワタと不規則に動かしてるし。
面白くて可愛いよな。
思わず笑みがこぼれてしまう。
「落ち着けよ、妹がビックリしてるぞ」
俺の指摘にリオンの方を振り返り──
「……はい」
こちらに向き直って、ようやくいつものレオーネらしくなった。
やれやれ。
読んでくれてありがとう。




