357 増やせばいいというものではない
修正しました。
螺旋回転剣を → 螺旋回転剣と
アンノウンのランスチャージを左手だけで止めた。
しかしながらダメージを受けたのは俺ではなく奴の方だ。
人であれば即死していたほどの衝撃が一方的に襲いかかる。
が、コイツは人ではない。
現状はケンタウロスの姿を模してはいるけれど異世界の何者か。
便宜上は魔物扱いしている。
その名の通り正体不明。
生き物であるかすら怪しいところだ。
この程度で死んだりするほど柔じゃないのは色々と検証して証明済みである。
果たして此奴にいかほどのダメージが入ったか。
肘や肩に掛かった負担は奴では耐えきれないと俺は見ているんだがな。
縮んで縮んで硬化した代償と言えるだろう。
メリットよりデメリットの方が多くないか?
瞬間的に形を自在に変えられるなら話は別なんだろうけど。
そんなフレキシビリティな対応ができる奴なら、もっと戦いの幅も拡がったかもな。
ただ、その場合はアンノウンに接近を許したりはしなかったがね。
突進を始めた時点で理力魔法で壁を作っていたさ。
そんなことを掴んだ瞬間に考えていたのだが、奴の右肘から「ビシッ」と乾いた音がして亀裂が肩まで走った。
アンノウンが再び暴れ出すまでもなく一気にヒビが拡がる。
大小のヒビが表面だけではなく奥深くにまで。
「脆いな」
俺がそう言うと同時に腕が粉々に砕け散った。
砕けた破片が地面に落ちていく途中で液状化する。
そしてボトリと落ちた。
まるでつきたての餅のようである。
それがアンノウンの脚にまとわりついていく。
吸収するつもりのようだ。
砕けて終わりじゃなかったか。
ならば腕が砕けたことで本体から外れた槍はどうかというと変化がない。
まあ、そんなことを気にしている暇はないのだが。
奴には左手が残っているからな。
「今度はハンマーかよ」
拳の部分が掛け矢のように大きい。
掛け矢は樫の木でできているが、こっちは硬化したアンノウン製だ。
なかなか凶悪な攻撃をしてくるな。
水平でフルスイングか。
この立ち位置だと、上から振り下ろされるより避けづらい。
回避不能だとは言わないが。
コイツ相手に退くのはお断りだが。
「槍は返すぜ」
左手の槍を奴のハンマーとの間に挟むように持ってくる。
次の瞬間、ハンマーが槍の腹を打ち据えた。
衝撃はランスチャージほどのものではなかった。
それでも「ガキャン!」と派手な音がしてハンマーが弾かれた。
その動きはピンボールの鉄球のようだ。
はやい話が、ぶっ飛ばされたに等しい。
馬の脚で踏ん張る間もなかった。
ケンタウロス型アンノウンはハンマーに引っ張られるようにして斜め後方へ飛んで行った。
そして通路の壁に激突し「ドズゥン!」と重い音が聞こえてきた。
壁を削ったのか土煙まで巻き起こっている。
地響きがしたのは奴の重さと衝突の衝撃が故だろう。
まあ、リンダたちが避難している部屋まで伝わるほどのものではない。
俺がここに来た時の質量を維持していたなら地震クラスにはなっていただろうけどな。
「残念」
砕けるかと思ったんだがな。
槍にはヒビが入っていたが壊れていない。
こいつも[アンノウン]として表示されるため消し去る。
槍全体を結界で囲いヒビの間にラーヴァフロウを流し込む。
溶岩流としてはコンパクトすぎるが、効果は絶大だ。
槍は内部から炎に食い破られて見る間に消えていった。
呆気ない。
本体から離れると硬度を維持できなくなるのか。
「なら、好都合」
切り刻んで燃やせば労力も少なくて済むって訳だ。
土煙はまだまだ残っている。
向こうがそれを利用して突っ込んでくると思っていたのだが、その気配が一向にない。
あの程度で動けなくなる訳はないんだがな。
逃げるために細工をしているって感じでもない。
待っていられないので風魔法で突風を起こした。
土煙を吹き飛ばす。
アンノウンが姿を現したが様子が違っていた。
ケンタウロスの前足にまとわりついていた奴の一部がなくなっている。
「吸収完了まで待ってたのかよ」
ボクシングならとっくにテンカウントが終わっている。
だが、これは殺し合いである。
KOで決着がついたりはしない。
奴もそれが分かっているから少しでも完全に近い状態にしたかったのだろう。
最初の並外れた大きさから考えれば完全などほど遠いのだが。
「おまけに、また形を変えるか」
脚は馬のそれではなく人間のものになっていた。
足首は細いが太ももは肉付きの良いアスリートのような脚だ。
それでもムッキムキのマッチョな感じでなく女性的なラインにするあたり、こだわりを感じる。
これが本物の女性の脚であったなら脚線美に見とれていたかもな。
生憎と芸術にはさほど興味もないので見ても「ふーん」で終了である。
それよりも上半身だ。
馬の後ろ半身をここにつぎ込みやがった。
手の部分を武器に変えているのは今までと同じだが、凶悪なのばかりそろえてやがる。
まずは揺らめく炎を模した刀身のフランベルジュ。
こいつで斬られると思った以上に傷が酷いことになる。
俺も実際に見た訳じゃないが縫合困難な怪我になるそうだ。
2本目は極端に湾曲した刀身のショーテル。
湾曲を利用して盾の裏側に攻撃できる剣だ。
使いこなせば間合いやタイミングが凄く取りづらい攻撃をされる。
それだけに相応の技量も要求されるけどな。
3本目はグラディウスに酷似しているが、それよりも幅広の両刃剣。
斬るより叩き付けることを重視した攻撃が目的だろう。
他の3本で速さを出してタイミングを変える狙いもあるか。
あるいは盾として使うこともできるかもしれない。
そして4本目が突くことに特化したエストック。
攻撃パターンを多様化させるつもりだな。
貫通力がある武器だから攻撃力もバカにできない。
これらをすべて使える腕が奴にはあった。
「4本腕かよ」
手数で勝負に出るつもりのようだ。
力負けするなら、か。
俺が2本を抑え込んでいる間に他の2本で攻撃するつもりだな。
充分に処理できるのだろう。
触手の制御でそれは見ている。
5本以上にならなかったのは武器の威力につぎ込んだからか。
間違いなく本体より頑丈にできているはずだ。
根拠はないが俺の勘がそう告げている。
防御無視で攻撃に全振りかよ。
オマケにコイツは何処が本体かが不明だ。
場合によっては武器のどれかが本体である可能性もないとは言えない。
「いい加減に立ったらどうだ」
再変身に専念していたせいかアンノウンは未だに寝っ転がったままだった。
俺に促されたからではないだろうが、奴はむくりと体を起こした。
まるで操り人形を無理やり立たせたような奇妙な動き。
「そういうところもキモいんだよ」
俺の呟きはやつにとって挑発になったらしい。
立ち上がったアンノウンが両腕を広げて顔を突き出してくる。
「そういうのいいから……」
思わず溜め息が漏れ出てしまう。
その瞬間を狙っていたかのように奴はダッシュしてきた。
少しは考えるようになったか。
今までの脳筋振りが嘘のようだ。
と、ここでアンノウンが意外な行動に出た。
【縮地】を使ったのだ。
一気に間合いを詰めてくる。
ただし無手ではなく剣の間合い。
エストックで下腹を突いてくる。
同時にグラディウスもどきの腹を見せつけるように前に突き出してきた。
目隠しでもしてるつもりだろうか。
もし、そうなら前言は撤回せざるを得ない。
コイツはバカということになる。
グラディウスもどきが金属でできているなら目隠しになったことだろう。
だが、アンノウンの透明な体で形作られているそれも透明だ。
光の屈折の具合で多少は見えづらい部分はあるかもだが、ほぼ無意味だ。
裏に隠したフランベルジュでの突きが丸見えである。
それとも、そちらに意識を集中させるのが目的か?
下からすくい上げるように切り払おうとしているショーテルが本命のようだが。
エストックは横から掌で払ってフランベルジュの方へ当たるように仕向けた。
グラディウスもどきは無視。
ショーテルを半身で躱す。
シュバッと空を切り目前を通り過ぎていく。
「おっと」
エストックはフランベルジュとぶつかって「ギィン!」という金属音がした。
剣を極限まで堅くしたのは間違いないようだ。
だからといってボディがスカスカかというと、そうではない。
馬の下半身のほとんどが武器と腕の方へ回ったことを考えればな。
「どうした、その程度か」
そんな訳はない。
直ぐさま奴の猛攻が始まった。
最初の攻撃は挨拶代わりとばかりに攻撃のスピードが上がる。
エストックとフランベルジュは連続突きで交互に襲いかかってきた。
グラディウスもどきは重さを生かして振り下ろす攻撃が多い。
ショーテルはフェイント混じりで斬りつけだな。
それらすべてを払いとわずかな動きで躱していく。
ショーテルのフェイントも見切るのは難しいことではない。
独特の形状に惑わされがちだが手首の切り返しを見ていれば読みやすいのだ。
そして奴はそれ以上のミスをしていた。
ショーテルとグラディウスもどきの先端をつまむ。
残り2本の剣の突きは、つまんだ剣で弾く。
突きの回転が上がっていくが、弾く弾く弾く。
「増やせば手数が増えるとでも思ったか」
4本腕にするなら突きだけに限定しておくべきだった。
振りかぶった武器の攻撃に阻害されるのだから。
どうしてもタイミングがずれるのだ。
それらは攻撃の回転を遅らせる要因となり、軌道を読むことも容易くする。
「そんなものは幻想だ。
4本の剣を自在に操りたければこうするんだな」
倉庫から螺旋回転剣と竜鱗自在剣を引っ張り出す。
同時に奴の手首を蹴り折った。
「脆すぎるんだよ」
自前の剣と奪ったショーテルとグラディウスもどきを理力魔法で操る。
竜鱗自在剣を奴の背後に回り込ませて連続突きを繰り出す。
それで剣を奪った両肩を切り飛ばし結界で覆って燃やした。
思った以上に燃えやすい。
これなら切り刻まなくてもいけるか。
奪った2本の剣は残りの剣の牽制に使う。
向こうの突きは徹底して弾く。
そして螺旋回転剣は頭上から落とした。
もちろん高速で回転させながらだ。
切っ先が当たった瞬間に火花を散らして甲高い音がしたが、お構いなしで突き入れた。
アンノウンの頭部が摩擦熱で燃えていく。
ここで竜鱗自在剣を伸長しアンノウンに巻き付け、切っ先を地面に突き刺した。
自由を奪ったらトドメだ。
奴を結界で覆いラーヴァフロウを使う。
アンノウンは数分で消え去った。
読んでくれてありがとう。




