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352 ハルトの単独行動

 レオーネが音も立てずに俺の目の前まで来た。

 皆のようにシュバッと参上みたいなことはできないか。

 うちに来て日が浅いせいもあると思う。

 気恥ずかしさや周囲を驚かせることへの配慮とかもあるのだろう。

 だから忍者風味を薄くしたつもりのようだ。

 けれども、うちの色に染まるのは間違いないね。

 現時点で充分に忍者っぽい登場の仕方だし。


「「わっ!」」


 現にヒョロッとコンビは仰け反って驚いている。

 悪いがフォローはしない。

 これから先のことに集中したいのでね。

 この場にいるのがうちの面子だけなら非常事態であることを叫んでいただろう。

 部外者がいるからそれはできない。

 無用な混乱を生む元だからね。

 だから俺が大声でレオーネを呼んだ。

 これだけでも混乱を招きかねなかったけどね。

 でも、控えめな声で呼んでいてはうちの面子に伝わらなかったと思う。

 何がどうなのかは分からないまでも「ヤバい」ことだけは確実に受け止めてほしかった。

 この行動が正解だとは思わない。

 もっとスマートな方法があったように思える。

 それでも俺の伝えたいことは、うちの面子に届いたはず。

 部外者に聞かれたくない話なら念話を使うはずなのに、それをしなかったからというのもあるけれど。

 俺の本気を感じ取った皆の緊張感が高まっていた。

 ただし部外者には感じ取れないようにだ。


「……………」


 気付かれた様子はない。

 風と踊るの面子を除けばだが。

 向こうも気を遣っているのか声を掛けてくることがない。

 リーダーのフィズなどは何か言いたそうな感じではあるんだけど。

 それを見た風と踊るのメンバーは注意深くこちらを覗っている。

 レベルの割に感知能力が高いね。

 本物の修羅場を何度も潜ってきているな。

 だが、そんなことに感心している場合ではない。


「ノエルたちに先触れを頼む」


 一瞬、虚を突かれたように表情を変えそうになったレオーネだが、すぐに表情を引き締めた。


「はい」


「皆が合流するまで待機。

 合流後は全員で最短コースを歩いて進むよう伝えてくれ」


 言い終えてから頷く。

 それがゴーサインだ。

 レオーネは一礼して下がり上り階段へ走って行った。


「ガンフォール」


 今度は大声を出さない。

 その代わりに俺の方から近づいていく。

 それを見てガンフォールも歩み寄ってきた。


『何があったんじゃ?』


 近づく間に念話で話し掛けてくる。

 部外者に聞かせられない話なのは、うちの面子なら皆が理解している。

 故に念話は他の国民たちにも聞こえるようにしておいた。


『得体の知れないヤバそうなのが出口を塞いでいる』


『ほう、どんな奴か正体も分からぬか。

 ハルトがそう言うからには相当なものじゃろうが』


『誰に見せても、見たことないって答えるだろうぜ』


 俺が【天眼・遠見】で見た姿を念話のイメージで披露する。


『スライム……にしてはデカすぎじゃな。

 亜竜が可愛く見えそうじゃ。

 これは確かに見たことがないのう』


 ガンフォール以外の念話も色々と伝わってきたが聞き流しておいた。

 概ね『キモい』か『デカっ』か『何これ?』である。


『コアがないからスライムじゃないのは確定だ』


 そもそも鑑定した結果が[アンノウン]である。

 レベルが足りずに非表示になるとかじゃなくて[アンノウン]。

 ステータスなんかも[アンノウン]としか表示されない。

 未知未知うるせえっての。

 これじゃあ文字化けしてる方がまだマシだ。

 規則性を見つけて解読することもできそうだし。

 この結果は【諸法の理】によると仕様だって。

 データベースに存在しない未知なる存在だとこうなるんだと。

 要するにこの世界の代物じゃないってことじゃないかよ。

 ルベルス産でないのは確定。

 俺が元いた世界セールマールでもないってさ。

 HPからして不明じゃ戦うのにどれ程の火力が必要なのかの見積もりもできやしない。

 言うまでもなく防御力も耐性も不明である。

 モコッとしてて柔らかそうに見えるけど実際にはどうだろうか。

 簡単に切れるけど増殖するだけとかだったら嫌だなぁ。

 あるいは、どんな物理攻撃もクッションのように受け止めるとかもありそうだ。

 ゴムっぽい感じで攻撃を受け止めて倍の威力で返ってくるとか。

 そんな訳で外見だけから相手のスペックを推定することも困難である。

 やってできなくはないが誤差の幅が酷いことになってしまうから実用性がない。

 せめて戦闘中なら、そこから推測することもできるんだけど。

 贅沢を言えば切りがない。


『……確かに得体が知れんのう。

 これでは迂闊に近寄ることもできんか』


『その判断は賢明だな。

 冒険者を餌にした結果が、あの図体かもだし』


『そうじゃな……

 考えたくはないが、それ前提で動いた方が良さそうじゃ』


『そういうことだな』


『して、如何様にするつもりじゃ』


「俺が様子を見に行く」


 返事を声に出したのは、ガンフォールに呼びかけた理由を部外者に聞かせるためだ。

 面倒くさい。

 でも念話だけで終わらせると不審に思われるしな。


『他の者には任せられんか』


『俺が鑑定しても異世界産の未知なる存在としかわからんような奴だぞ』


『冗談にしては質が悪すぎるのう。

 帰って酒でも飲みたいところじゃ』


 内心で思わず苦笑が漏れた。

 表面上は【ポーカーフェイス】スキルが仕事をしてくれている。


『冗談が言えるなら任せて安心だな』


『うむ、こちらは任せておけ。

 そっちは大丈夫なんじゃろうな』


『任せろと言いたいが、行かなきゃ分からん』


『それほどか』


 おいおい、表情が強張ってるぞ。

 風と踊るのメンバーからは見られないよう俺の体で死角になるようにしたけどさ。


『状況次第では本気を出すかもな』


 何故かハマーが咽せた。

 訓練組もハマーほどではないが余裕がない感じだな。

 あー、バーグラーの城をオープン・ザ・トレジャリーでぶっ壊したのを思い出したか?

 ブリーズの街で蝗害に対応して派手にやった時のは見せてないからな。

 いずれにせよ、あれくらいじゃ欠片ほども本気じゃないんだが。


『穏やかではないのう』


 ガンフォールは落ち着いて答えてはいるが、内心ではどうなんだろうな。


「ノエルたちと合流するまで後を任せる。

 合流後はノエルを補佐してくれ」


「わかった、任せろ」


 これで避難誘導の方はとりあえず大丈夫だろう。

 俺はガンフォールに頷くと、振り返った。

 ミズキとマイカ、そしてシヅカとマリカがいる方だ。

 俺の目を見返してくるが、その瞳に不安の色はないのは助かるね。

 これなら「連れて行け」とか言われなくてすみそうだ。

 本気を出すなら、それは難しいんだよな。


「そういうことだから後を頼む」


「それくらいは任せてもらわねばのう」


 シヅカが少し膨れっ面である。

 理解はしたが納得はできないと言いたいんだろうな。

 守護者としては断腸の思いなんだと思う。


「がんばるのだー」


 同じ守護者でも幼女なマリカさんはマイペースだけどな。

 万歳のポーズで両手を左右に振っている。

 可愛らしい仕草に、ちょっと癒やされたじゃないか。

 思わず撫でたくなってしまうな。

 それをすると、どこからか「YLNT」と連呼する声が聞こえてきそうだけど。

 くれぐれも言っておくが俺はロリコンではないぞ。


「無茶すんなよ、ハル」


 サムズアップとウィンクで激励してくれるマイカ。


「ハルくん、気を付けて」


 両手を組んで祈りを捧げるようなミズキ。

 2人には騒がれるかなと思ったので、些か拍子抜けである。

 それだけ俺のことを信用してくれているのだと思うことにしよう。

 期待には応えないとな。


「おう」


 返事をした俺はニヤリと不敵に笑って頷いた。

 さて、それじゃあ行くとするか。


 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 皆に見送られて階段を駆け上がった後は転送魔法を使う。

 で、1階層へと跳んできた。

 現在地は下の階層へとつながる階段前の通路上である。

 アンノウンからはそれなりに離れた場所だ。

 俺はいきなりアンノウンに喧嘩をふっかけに行くほどバトルジャンキーではないのでね。

 もちろん理由があってここに跳んできたので予定通り。

 ちなみに目的地は少し離れた場所だ。

 誰かに目撃されないよう転送地点を選んだつもり。

 俺は通路を走り始めた。

 少し進んで最初の脇道を曲がる。

 その先に続く通路を少し走って減速した。

 通路は続いているが、途中に扉があったからだ。

 最初の目的地である。

 ここで用事を済ませてからアンノウンに挑むのが俺の予定である。

 ノックを軽く3回。

 返事がないので再びノックした。

 やはり返事はない。

 風と踊るのメンバーの時と同じような反応だ。

 もちろん中に人がいるのは分かっている。

 が、中に向かって呼びかけたり説得したりなんて間怠っこしいことはしない。

 そのまま扉を開き俺は部屋の中に入った。

 両側から剣の切っ先がシュッと伸びてくる。

 首元を狙っているが殺気はない。

 剣を突き付けて身動き取れないようにするつもりだろう。

 殺さぬように留意しているぶん遅いんだよね。

 出だしの判断も一呼吸あったし。

 剣速そのものも剣の持ち主たちの全力ではない。

 故に余裕で両側から迫る剣を指先で摘まんで止めた。


「うっ!?」


「くっ!」


 予想外だったのだろう。

 両サイドの2人は向きになって剣を押し込んでくる。

 そのくらいではビクともしないけどね。

 さて、この2人に見覚えがあるんだが。

 確かモリーとアデルだったか。

 リンダの部下で姉妹なんだよな。

 俺にとってはモブキャラだから覚える気はなかったんだが、何故か覚えていた。

 画像検索で過去ログから拾ってくるまでもなかったな。

 可愛い女の子だから覚えていたということにしておこう。


「待て、ハートランド!」


 リンダが剣を持つ手に力を込めてくる2人を止める。


「下がれ、賢者様だぞ」


 そこまで言われて慌て始める両名。


「えっ?」


「あっ」


 慌てて剣を下げ、鞘に収めた。

 言われるまで気付いてなかったのかよ。


「申し訳ありませんでした」


 前に進み出て深々と頭を下げてくるリンダ。

 両脇の2人もガバッと勢いよく頭を下げて「申し訳ありませんでした」なんてしてくれるから困る。


「気にしてないから頭上げてくんないか」


 周囲の視線が集まるのって勘弁してほしいんだがな。

 この場にはリンダとその部下たちだけでなく、この街の冒険者たちもいる。

 避難誘導対象者たちほどの人数はいないけどさ。


「知らない人間に何事かと思われるだろ」


「あっ」


 俺の指摘に顔を上げて左右をキョロキョロと見て、また頭を下げた。


「申し訳ございませんっ!」


「……………」


 だから勘弁してくれって。


読んでくれてありがとう。

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