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351 休憩の後に変な奴を察知した

修正しました。

風に踊る → 風と踊る


 風と踊るのリーダーであるフィズが休憩中に居眠りしていた。

 どれだけ疲れていたんだか。

 無茶をするヒョロッとさんである。

 籠城している時から極度の緊張で消耗していたのだろう。

 無理もない。

 扉の向こう側に無数とも言える魔物がいる状態でやり過ごすしかなかったのだ。

 その上、リーダーとして皆を鼓舞する必要もあった。

 パーティメンバーも同じ条件に見えて実はそうではなかったということである。

 休憩を始めた時は何割増し程度に思っていたんだが。

 どうやら数倍は負担がかかっていたようだ。

 そのあたりを考慮していなかった俺のミスか。

 漠然と見過ぎていたせいだな。

 もう少し早い段階で強硬に休憩を主張しておくべきだったか。

 あるいはポーションを途中で渡しても良かったはずだ。

 なんとなく性格的に受け取らない気はするけど。

 自分より他の者に使えとか言ってさ。

 頑固そうだから簡単には言うことを聞いてくれなかったと思う。

 いずれにせよ、このままにしておくのは危険だ。

 寝ぼけたような状態の今なら大丈夫か。

 急遽、液体の回復ポーションを用意した。

 といっても効果を低くするために希釈したものだ。

 単純な希釈ではなく効果が徐々に出るように調整した。

 そうしておかないと評判になったら厄介だ。

 うちのポーションは効果が劇的だからな。

 売りに出したら恐ろしいほどの価格になると思われる。


「これを飲んでおくといい」


 フィズは素直に受け取って飲んだ。

 やはり寝ぼけているようだ。

 が、ジニアが呆れた表情で見ている。


「何かな?」


 俺が問いかけると、やや困惑したように視線を泳がせた。


「いや、うちのリーダーは割と警戒心が高くてな……」


 声の調子にもそれが現れていた。

 理由に思い当たる節があるので不思議には思わなかった。


「男から受け取ったものは口にしないと」


 逆にこちらから切り込んでみる。


「あ、いや、それは……」


「気を遣わなくていい。

 そうなるのも頷けるような連中をギルドで見てきたばかりだからな」


「ギルドで?」


「俺たちは今日ギルドに顔を出してからダンジョンに来たからさ」


 ジニアの表情が強張る。

 俺らの実力を低く見積もっていたようだな。

 今までもベテランと同等以上ぐらいに見ていただろうけど。

 今の情報で化け物級に修正されたと思われる。

 そりゃそうか。

 地元の冒険者でもないのに1日で30層近く潜ってきたのだから。

 そこそこ広いここのダンジョンを半日でとなると地図なしでは普通は考えられない。

 もっと浅い階層の地図ならギルドで配布されている。

 だが、そこまで潜るには自前で何とかするしかないのだ。

 初心者が潜りすぎないようにするための措置なので売ることも禁止されているのでね。

 俺らの場合は地下レーダーの魔法やらスキルやら使っているから地図は関係ないんだけどさ。

 おまけに29層に至ったのは転送魔法を使ってのことだからなぁ。

 俺が転送魔法を使うのは他所の人間にとっては究極のズルだろうし。

 ……それはそれで余計に化け物扱いされそうだ。


「その時に出くわしたんだよ。

 獣欲と暴力しか頭にないような5人組にな」


 ギョッとした目で見られてしまった。

 獣欲や暴力という単語にも反応はしていたけれど。

 5人組という言葉で確信したようだ。


「それはまさか大柄で──」


「5人とも熊のようにゴツくてむさ苦しい連中だったな」


 みなまで言わせず相手の特徴を言ってみる。

 名前とか知らんからな。

 知りたいとも思わないがね。


「あいつらぁ……っ」


 静かに、だが苦々しげに唸るジニア。

 俺が締め上げた奴らで間違いないようだ。

 ギョッとした様子で見てきたのは、うちの面々に手を出したと思ったんだろう。

 他所から来た冒険者に嫌な思いをさせると碌なことがないからな。

 地元のマイナス情報が伝われば人が来なくなるし。

 冒険者だけならともかく商人もこの手の話には敏感だからなぁ。

 商人に逃げられるのは冒険者よりも厳しいかもね。

 街の機能を維持できなくなることだってありえるからな。


「言っとくけど、うちのは絡まれてない。

 既に他所の相手に絡んでる真っ最中だったからな」


 一瞬、安堵しかけたジニアだったが表情がみるみる険しくなっていく。

 向こうにしてみれば迷惑を被る相手が地元民でなければ結果は同じだからな。

 自分たちの目の届かない所で云々とか考えているんだろう。

 普通、そこまで考えて気に病むだろうか。

 条件次第ではあり得るか。

 後々に街全体で被る被害を考えれば……

 地元によほど愛着があるのだろう。

 だったら、とっととあの連中を潰せば良かったのに。

 まあ、無理か。

 ドブネズミみたいなギルド職員もグルだったからな。

 下手をすれば自分たちが悪者なんてことにされかねない。

 できることはせいぜい牽制か。

 ダンジョンに潜っている今は対処のしようがない。

 現にジニアは頭を抱えて唸っているし。

 これ、マズいよな。

 変に焦って先走った行動に出られたりしたら。

 ならば朗報ってやつを知らせておくか。


「あいつらアホだろ」


 どういうことかと目で問われた。


「貴族に手を出したと言えば分かるだろ」


 この一言でジニアの顔から血の気が引いていったのが分かった。

 嘘は言っていない。

 リンダは準男爵だし。

 彼女の部下も騎士爵位があるからな。


「別に街には累が及んだりしないと思うぞ」


「そ、それはどういう……」


 戸惑った様子でジニアが聞いてくるが、それを細かく説明するつもりはない。


「細かい話は帰ってから聞いてみな。

 アホどもはグルになっていたギルド職員ともども衛兵に取っ捕まって奴隷落ちだ」


 結果を知れば充分だろ?

 ジニアは何か言いたげではあったが、奴らの奴隷落ちの処分を聞いて黙ることにしたようだ。


「すまない」


 ジニアが頭を下げる。

 どゆこと?


「別に謝る必要はないんじゃないか。

 不愉快なものは見たが、あれくらいは他所でもあることだぞ」


「いや、そう思わせた時点で街の人間として恥ずかしい」


 本当に地元が好きなんだな。


「気にすることはない。

 それよりゴミを片付けた後が大事だぞ」


 元の木阿弥では意味がないからな。

 あんなバカな連中がそうそう出てくるとは思えないけどね。

 それにジニアが神妙な表情で深く頷いていたから期待できそうだ。


「そのためにも、まずはここから出ないとな」


「まったくだ」


 ニヤリと笑うジニアであった。


 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 フィズが復活しつつある。

 出発の時間も間近だ。

 そろそろ上の様子も確認しますかね。

 今までやってなかったというのが自分でも驚きである。

 ノエルたちが待機している9層は休憩前に軽くチェックしてあったんだけど。

 8層から上はノータッチに近かったからな。

 なんとなく感じ取った気配なんかは10層より下の方が重苦しい感じだったのでね。


「……………」


 先に調べておけば良かったかもな。

 明らかに冒険者の数が少ない。

 魔物の数も少ないが、それは冒険者の奮闘によるものだろう。

 半数以上が怪我をしている。

 この様子だと死んだ者もいるはず。

 その辺は可哀相だとは思うが、身内ではないので特に思うことはない。

 リンダたちが無事なようなので一安心だ。

 身内ではないものの顔見知りではあるからな。

 怪我とかされてると明日からの予定に響くからね。

 トロールに追われていた4人組はいないみたいだな。

 居残って魔物にやられたか。

 素直に帰って街にいるか。

 さて、どっちだろうね。

 けれども気にすべきは1層にいる得体の知れない変な奴だな。

 魔物だとは思うんだが。

 ここでヒョロッとさんことフィズが声を掛けてきた。


「すまない、迷惑をかけた」


 ん? 迷惑だって?

 見ると寝ぼけていた先程と違ってスッキリした表情である。


「特に迷惑とは思っていないが?」


「長々と休んでしまっただろう。

 見張りで負担をかけたしな」


「困った時にはお互い様だから気にしなくていい」


「………」


 まじまじといった感じで顔を覗き込まれた。

 さり気なく可愛らしい仕草をするじゃないかよ。


「俺の顔に何かついているのか?」


「いいや、そうじゃなくてさ……

 アンタ若いのに達観してるというか何というか」


 元オッサンだからな。

 肉体的にも精神的にも若返っちゃいるが、経験は残っているんでね。


「賢者ってのは伊達じゃないってことかね」


 ジニアが軽い調子で横から入ってくる。

 ただし表情は真剣そのものだ。


「そろそろ出た方がいい」


 声を潜め気味にしていいながら自身の肩越しにチラリと後方を振り返った。


「経験の浅い子たちが落ち着かなくなってきてる。

 いつ魔物が押し寄せてくるかとか言い始めててな」


「走っている間に魔物と遭遇しなかったことで逆に不安になったのね」


 フィズもマズいと思っているのだろう。

 渋い表情をしている。

 それにしても、ままならないものだ。

 休憩で体力が回復したら余計なことを考えるようになるんだからな。

 パニックを起こされると面倒だ。

 かといって得体の知れないのが1層にいる。

 透明なゼリーっぽい感じのがさ。

 ポリ袋に水を入れた感じというのとも違う。

 スライム?

 亜竜よりデカいスライムがいるならそうかもな。

 出口に繋がる唯一の通路をそいつが塞いでるんだよ。

 そいつが1体だけでね。

 地下レーダーの感触から何体も集まった感じじゃない。

 もしかすると分裂したりはあるかもだけど。

 スライムでないのは確定だと思う。

 魔物に特有のコアがないからな。

 得体が知れなくて嫌な感じだ。

 とにかくデカいし不定形だし奇妙すぎて表現しづらい奴だ。

 体積的には亜竜換算でおよそ十数体分はある。

 表面はもこっとしてて色がついていたなら発酵させたパン生地を連想したかもな。

 全体的には通路に沿った形だから白っぽくてもパンだとは思わなかっただろうけど。

 位置的に妨害するために設置されたと考えるべきだろう。

 だとするなら冒険者たちを近づけるのは得策ではあるまい。

 いや、それどころじゃない。

 シャレにならないくらい嫌な予感がするぞ、これ。


「レオーネ!」


 わざと大きな声で呼ぶ。

 嫌でもその場にいる全員の注目を浴びてしまう。

 が、そんなことを言っていられるような状況ではない気がするのだ。

 俺の直感に過ぎないけれど、勘に従って損をしたことはない。


「はい」


 呼ばれたレオーネが、すっと目の前までやってきた。


読んでくれてありがとう。

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