表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1690/1785

1677 イレギュラー発生か

 サリュースが側近たちの適応能力はある方だと自信たっぷりに断言した。

 言い様は微妙だが、言いたくなる気持ちは分からなくもない。


 今日1日であれこれとあったはずだが、思ったよりも動揺していないからね。

 既にマスゴーストの一件を引きずっている者は誰もいないのがその証拠だ。


 バスにも慣れてしまったようだし。

 走り始めた時は落ち着きを失っていたんだがな。

 街道からそれた時は、そんなに騒がれなかったような気がするんだよね。

 普通なら道が違うと騒ぎ出すところだと思うんだが。


 指摘を受けた後の今になって思い出してみればという程度の差ではあるけれど。

 確かに適応性はある方だろうな。

 何でもかんでもミズホ国の基準で考えていてはいけないということだ。


「それなら翌朝には飛ぶための心構えもできているかな?」


「さてさて、どうだろうねえ」


 それは分からないとサリュースが俺の疑問に答えた。

 が、心配している様子は微塵も感じられない。


 口ではああ言っているものの大丈夫だと思っているのだろう。

 ならば俺もそのつもりでいた方が良さそうだ。

 念のためバスは引っ込めずにおくけどね。


 とりあえず翌朝に備えて用意するものはない。

 あるとすれば明日に備えて腹ごしらえするくらいか。


 まあ、それも白熱した議論に発展しているインサ組の熱がもう少し冷めてからだな。

 下準備をして待っておけば、ちょうど……


「ん?」


 スマホに緊急の連絡が入ってきた。


「どうしたのかな、ハルト殿?」


「悪い、先行させたキースたちから急報だ」


 そう言ってサリュースの返事を聞く前にその場を離れた。

 報告は電話で入ってきたからだ。

 それを直に聞かせるつもりはない。


 まずは確認してからどうするか判断するためである。

 想定外の事態が発生しているようだしな。


 場合によっては今から飛んで行くことになることも考えておかねばなるまい。

 報告の内容が法王の容態急変だったりすると確実にそうなるだろう。

 そういう事態であれば即応するつもりだ。


 問題は報告中に情報を得た面々に騒がれることである。

 詳細を満足に聞くことができない恐れがあるからな。


 サリュースは冷静に行動できるとは思うが側近がそうとは限らない訳だし。

 このあたりが微妙な評価をされる所以である。


 それはそれとして面倒事になってなきゃいいんだけど、無理そうだよなぁ……

 憂鬱な気分になりながら皆から離れた場所に来た。


 余裕を見てスペースを確保した甲斐があるというもの。

 その上で幻影魔法と風魔法で周囲の視線と音を遮断した。

 スマホの通話専用オプションユニットを引っ張り出して装着&着信だ。


「どうした、キース?」


『想定以上に危険な状態です』


 電話の向こうの第一声がそれだった。


 やはり面倒事になっていたか。

 単に法王の容態が悪化したというだけの話ではないはずだ。


 そういうのは想定内の話だからキースたちならば対応して当然である。

 緊急性が高かったなら先に処置して事後報告してきたことだろう。


 が、キースの口ぶりはそういうのとは異なる緊張感を漂わせていた。


「どういうことだ?」


 まずは状況を確認しないとな。


『王城内はアンデッドだらけです』


「……おいおい」


 またアンデッドかよ。

 勘弁してほしい。


「種類は?」

『ゾンビとグールですね』


「うげっ、ゾンビかぁ」


 思わず拒否感が声になって出てしまっていた。

 ゾンビは体が腐敗しているから臭いしグロいし見たくもないんだが。

 まあ、誰だって見たいとは思わないか。


 それとグールね。

 直に相対したことはまだないな。


 腐っていたりはしないが、この世界ではアンデッドであることに変わりはない。

 【諸法の理】スキルで確認しているので確定情報だ。

 よその世界ではアンデッドではなく怪物や魔物の類いであったりもするそうだがね。


 なんにせよ、ここではアンデッドだから浄化が効く。

 ある意味で楽な相手と言えるが注意は必要だ。


 ゾンビなどのように動きが緩慢ではないからな。

 獣のように俊敏と言った方がより的確だろう。


 その上、元が人間だったとは思えないほど身軽である。

 ベテラン冒険者でも苦戦は免れない相手だ。


 古参のミズホ組は問題ないが油断は禁物。

 サリュースやツバイクたちを同行させるのだから。


 オセアンも心配だな。

 アンデッドと聞いた瞬間は状況次第で浄化を任せるかと考えたが控えた方が良さそうだ。

 カエデの斬撃波のような飛ばせる浄化が使えるなら少しは考えるんだがね。


 今のオセアンの浄化ではグールとは相性が悪い。

 全周囲で放出するように浄化を使っても易々と突破されるだろう。

 せいぜいグールの動きを少し鈍くするくらいだ。


『無秩序に徘徊している訳ではないので城内だけに留まっていますが』


 ということは支配して操っている者がいる訳か。


「時間の問題なんだな」


『はい、生存者は法王だけです』


「ん、どういうことだ?

 法王以外はアンデッドになってしまったのだろう」


 守る者が1人もいない状況でアンデッドから襲われていないというのが謎だ。


『そうです、警備や世話をする者も軒並みアンデッドになってしまっています』


 病気だから見逃されている?

 いや、違うだろう。

 1人だけ目こぼしされるなどアンデッドがするはずもない。


 ゾンビはそんな知能がないし。

 グールにしたってゾンビよりマシという程度だ。

 それに死体を食うことに執着するアンデッドでもある。

 生きていても食い殺すくらいだからな。


 アンデッドを支配する者が止めていると考えるべきだ。

 だが、何のために?


「法王は無事なんだな?」


 思わず聞いてしまっていた。

 アンデッドになっていないのは聞いたばかりのはずなんだがね。


『はい、不思議なことに襲われる様子はありません』


 一応はセーフらしい。

 だが、意味不明な状況である。


 アンデッドだらけの中で襲われないとはどういうことだ?

 何がしたいのかと困惑するしかない。


 いや、ゾンビやグールにそういう思考はできないか。

 だからこそ現状が理解できない訳だからな。


『それどころか軟禁状態の部屋を守るようにグールが出入り口を固めています』


「なんだって!?」


 意味不明どころの話ではない。

 襲わせないだけでなく守るとか理解不能もいいところだ。

 どうしてそんなことをする。

 訳が分からないにも程があるだろう。


『法王もアンデッド化はしていませんが……』


 とはいえ完全に無事という訳でもないようだ。

 元から床に伏せっていたと聞いたしな。


「あまり長くは耐えられない状況なんだな?」


 だとすると病状が悪化して死ぬのを待っているのだろうか?


 誰が?

 それはアンデッドを支配する者がだろう。


 俺は少し前のことを思い出した。

 死人をアンデッドにして操る魔道具によって引き起こされた一件をね。


 それはカーターを暗殺するために使われた、死者の聖杯という魔道具だった。

 骸骨野郎みたいなケチな野郎のことも思い出してしまったが同類がいるのだろうか。


『一刻の猶予もありませんでしたので保護済みです』


 忍者大好きなだけあって相手に悟られぬよう救出済みということか。


「さすがだな」


『呪いを完全に遮断すると敵に気取られるので最低限の処置しかできませんでしたが』


「やはり呪いか」


『はい、我々が弱めた呪いを本人がどうにか弾き返しているような状態です』


 法王が衰弱し床に伏せっていた原因は病気ではなかった訳だ。

 そして敵がいるのは確定した。


 アンデッドが相手では法王だけ救助して終わりという訳にもいかない。

 ノーム法王国から周辺国へアンデッドが解き放たれ増殖されると面倒だ。

 お陰で、もう一仕事しなければならなくなってしまった。


 ある意味ゴミ掃除のようなものだが、それだけにゴミをまき散らした輩には腹が立つ。

 黒幕にはキッチリ落とし前を付けてもらうとしよう。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ