1662 滅しても面倒は残る
「「「「「オオオオオォォォォォォォォ────────────────!」」」」」
叫び声は絶えることなく長く長く続いている。
マスゴーストにできたのは、それだけだった。
金色の炎が完全に動きを封じていたせいだ。
悲鳴にふさわしい暴れっぷりを見せることはおろか身じろぎすることも許されない。
「「「「「オオオォォォォォ─────────────────────!」」」」」
ただただ悲鳴を上げ続けるのみである。
「「「「「ォォォォ──────────…………………………………………」」」」」
そして、その長く続く悲鳴は断末魔の叫びとなった。
消え去ったマスゴーストのいた辺りをじっと無言で凝視し続けるカエデ。
その表情は驚愕に彩られていた。
「…………………………………………………………………」
マスゴーストを滅してしばし。
カエデがどうにか驚愕を薄めていく。
まだまだ驚きの色を消しきれないようではあるがね。
「一撃で……
一撃で終わらせた……」
自分が斬撃波を連発しても倒しきれなかった相手をあっさりと仕留めてみせた。
そう言いたいのだろう。
既に弱っていたのならまだしも到底そんなようには見えなかったとも。
現にダメージは半分ほどしか与えていないと聞いていた。
それをたった1回の攻撃であのゴーストの集合体を滅したのだ。
これほど威力があるとは思わなかったが故に信じ難い思いが己の中に渦巻いていた。
カエデの心中としては、そんなところだろうか。
俺がそんな風に妄想していると──
「惜しいっ」
と呟く声が聞こえてきた。
「もうちょっとで少佐殿の台詞になったものを」
などと言っているのは確認するまでもなくトモさんである。
そう思ったのは俺も同じだけどスルーしておく。
話が長くなりそうだもんな。
今はカエデの勉強タイムである。
「一撃じゃないぞ」
「えっ!?」
驚きをあらわにするカエデ。
ルーリアの太刀さばきを見切れていなかった証拠だな。
「縦横無尽にヒビが入っていただろう」
具体的に言うとマスゴーストの中心部分で交差する太刀筋が4本だった。
一瞬で4回の斬りつけを行い8等分にしてしまった訳だ。
これでも控えめな方なんだけどな。
そうしたのはミズホ組以外のギャラリーがいることへ配慮したが故だろう。
見ている者たちには速すぎて、その配慮は意味をなさなかったけれど。
ルーリア本人としては速さの方も抑えていたつもりのようだが。
この場にいるミズホ組以外の面子ではレベルが最も高いカエデで見切れなかった。
これは些か問題である。
超スローで動く訓練もしないといけないな。
ものすごくフラストレーションがたまりそうだけど。
「はい」
返事をしたカエデが次の瞬間には目を見開いていた。
気づいたようだな。
「まさか……」
呻くように声を漏らすカエデ。
「そのまさかだ。
あれはすべて斬撃が入った部分だよ」
「なっ……!?」
カエデがこれでもかとばかりに両目を見開いた。
先ほどから驚いてばかりだな。
武王大祭で戦っていた時の姿とはギャップがありすぎだ。
それだけ衝撃を受けたということなんだろうけど。
「あれがシンサー流伝承者の技……」
呆然とした面持ちで呟きを漏らすカエデ。
「とりあえず、あの程度は軽くできるようになってもらうのが当面の目標だ」
「とりあえず!?」
「あの程度っ!?」
カエデとオセアンがほぼ同時に驚きの声を上げていた。
「まさか、ルーリアが本気を出したと思ってるんじゃあるまいな」
「「────────っ!?」」
どうやら、そのまさかだったらしい。
2人は驚いているがミズホ組からすると苦笑するしかなかった。
あれくらいは見慣れてしまうと普通になってしまうからギャップを感じてしまうのだ。
「大丈夫だ。
そう遠くないうちにできるようにするさ」
「「……………」」
俺の言葉に2人からの返事はなかった。
まあ、言葉で言われたくらいでは信じられないか。
3桁レベルの領域はそこに至らなければ理解などできないだろうし。
だから今はとりあえず、これ以上のことは言わないことにする。
言っても、のれんに腕押し状態になるだけなのは目に見えているようなものだ。
無駄なことはするだけ損というもの。
実際にできるようにしてみせれば嫌でも納得するだろうし。
さすがに今回のマスゴースト退治で得られた経験値では、そこまでは至れない。
2人だけで倒していたとしても、ほど遠い有様だったからな。
マスゴーストにそこまでの強さがあるなら苦労はしないさ。
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とにもかくにもマスゴーストは無事に滅することができた。
元は真っ当だった者たちがほとんどなので成仏できた者は多そうだ。
小隊長と同類だったような輩はあっという間に消えてしまったけどな。
オセアンが天に向かって祈りを捧げていた。
成仏した者たちへ向けたものと思われる。
とりあえず、そちらは好きにさせておこう。
こういうのは時間がかかりそうだが、無理に止めるのも考え物だしな。
その間に後始末をしておくことにする。
「はい、皆お手伝いご苦労様。
後始末して終わりにしようか」
「「「「「はい」」」」」
「ハルさんや」
トモさんが声をかけてきた。
「ん、何だい?」
「乾燥小隊長はどうしたものかな?」
「乾燥小隊長って……」
まるでスーパーで売られている乾物のような呼び方だ。
乾燥野菜とかはカップ麺を食べる時に重宝していたので勘弁願いたい。
普通にミイラと言えばいいものを。
たぶん指摘しても頑なにミイラとは言うまい。
言い換えるとするなら、干し小隊長とかだろうか。
それも椎茸とか切り干し大根を連想しそうで嫌だな。
スルーしておくのが正解か。
「あのまま放置する訳にもいかんだろう」
俺は二重の意味で渋い表情になった。
こんな誰でも見られるような場所に放り出したままにしておくのは無能のすることだ。
衛兵の制服を着ているからな。
ちょっとどころか大騒ぎになるのが目に見えている。
それにちゃんと始末しないとアンデッド化しかねない。
ああ、そうか。
トモさんはアンデッドのミイラと区別するために妙な呼び方をしたんだな。
納得はしづらいままだが理解はした。
「分解してしまおうか?」
魔法で跡形もなく消してしまうつもりか。
証拠がなければ目撃者も出ない訳で。
そうなれば騒ぐ者も出ないって寸法だ。
何もかもが無くなって後腐れもない。
万事オッケーなように思えるだろうが……
「いや、ちょっと待った」
俺は魔法を使おうと準備を始めたトモさんを止めた。
「おや?」
首をかしげるトモさん。
「どういうことかな?」
矛盾していないかと問いたいのだろう。
放置できないと言ったのに消すのは止めた訳だからな。
「ハイラント、ちょっといいか?」
俺が呼ぶとすぐに反応した。
「どうした、ハルト殿?」
「小隊長の処分はどうするつもりだ」
「それか……」
ハイラントが渋面を作った。
トモさんが「ああ」と頷き納得の表情を浮かべていたのとは対照的である。
「沙汰を下そうにも、あの姿ではなぁ」
「さらし者にする必要があるのか?」
まるで時代劇で見るような刑罰だなと思った。
「あー、違う違う」
ハイラントが言いながらヒラヒラと手を振った。
「民に見せる必要などないが、捕縛して刑を言い渡すまでの流れがあるだろう」
形にしておかないといけないものらしい。
「そんなものかね」
「決して罪が軽いとは言えない犯罪者だからな。
しかも衛兵で、少ないとはいえ部下を従える立場だ」
「あー、より罪が大きくなるってことか」
「どう考えても初犯ではないだろう。
その洗い出しと被害者の救済も考えねばならん」
「だとすると捕まえた衛兵に報奨を出す必要もありそうだな」
「そういうことだ。
誰も捕縛した者がいないのはマズい」
やはり、いきなり消さなくて良かったようだ。
念のためと思って確認してみたのは正解だったな。
読んでくれてありがとう。




