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1626 聞いてなかったよね

 カエデとオッサンが正式にミズホ国民として迎え入れられることとなった。

 ルディア様も喜んでくれることだろう。

 それについては俺も喜ばしく思う。


 ただ、2人の返事を聞くまでは冷や冷やものでドキドキさせられたけどね。

 故に内心では盛大に安堵のため息を漏らしたりしていたさ。

 【千両役者】スキルで表情に出ないように取り繕ったほどである。


 とはいえ、それだけで万事解決とはいかない。

 大事なことを解決しなければならないのだ。

 ずっと失念していたとも言う。


 実際のところは単にタイミングを逃し続けていただけなんだけどな。


「ところで、ひとつ忘れていたんだが」


 そう言って話を切り出す。


「何でしょう?」


 カエデが先に反応してしまった。

 ちょっと失敗だ。

 この用件に関してはオッサンの方だけなんだよな。


 俺としてはオッサンに話しかけたつもりだったんだが……

 2人がすぐ隣で並んで正座していたのが災いしたようなものである。

 それと反応速度の差だな。


 オッサンも神殿関係者としては高めのレベルなんだが。

 カエデとは比べるべくもない。


 それは当然のごとくステータスの差として現れてしまう訳で。


「何か問題がありましたか?」


 オッサンが遅れて聞いてくる結果となった。


 その面持ちは不安そのものといった具合である。

 心理状態もレスポンスが遅れた原因のひとつと言えそうだ。

 反射神経の上でもメンタル面でもカエデの方が何枚も上手であるのは疑う余地がない。


 これを考慮しなかった俺のミスである。


「いや、カエデは大丈夫だ」


 とりあえずオッサンだけが該当する話であることを言っておく。

 説明しなくても話が進めばすぐに分かることだけどな。


 が、先に言っておけばガックリせずに済むだろうし。

 このあたりは配慮の問題である。


「そうですか」


 一応はカエデも納得してくれたようだ。

 何だろうと疑問を抱いたような表情を残してはいたけどね。


 ただ、俺の発言はやはり配慮が欠けていた。

 今度はオッサンに対してだけどな。

 自分にしか該当しない話だと言われたようなものだからね。


 そうでなくてもドキドキしっぱなしだったオッサンのハートはガタガタである。

 ハートだけじゃなく体の方もガタガタ震えていたけどな。


 誰が上手いことを言えと?


『……………』


 自分でボケて自分でツッコミを入れている場合ではない。

 オッサンのライフはもうゼロよと言っても過言ではない状態だったしな。

 泣きそうな顔をされると俺の罪悪感ゲージが一気に跳ね上がってしまうんですがね。


「落ち着けよ。

 俺が聞くのを忘れていたってだけのことなんだから」


「な、何でしょうか?」


 おどおどした様子でオッサンが聞いてくる。

 完全に悪者になった気分だ。


 が、それを顔に出す訳にはいかない。

 余計にオッサンが萎縮してしまうからな。

 再び【千両役者】スキルの出番である。


 決して怒っている訳ではないのだけれど。

 悪者気分を味わったことに些か不満を感じていたのでね。

 不服丸出しの顔をする訳にはいかない。


 そこまではいかなくても、ちょっとした表情の変化にビクビク反応される気がしたのだ。

 そういうのは俺の精神衛生上もよろしくない。


「名前だよ」


「は? はあ……」


 オッサンの反応は、すこしばかり予想外のものであった。

 俺の言葉を聞いた瞬間は意外だとばかりに目を丸くさせていたからな。


 そして困惑顔になってしまっている。

 どういうことだろうと考え込んでいるのは誰の目にも明らかな状態だった。

 完全に気づいていないというか失念してるよね。


 まあ、無理もないのか。

 オッサンが来てからずっと違和感なく話し続けていたからな。


 そのまま1日を終えてしまって失敗したなぁとは思ったさ。

 結果的に日を跨ぐ格好になったのは想定外である。


 困惑顔のまま考えているオッサンに対してカエデはすぐに気づいたようだ。

 あっと気づいた直後にオッサンに気遣わしげな視線を送っている。

 指摘はしないようだ。


 地雷と言うほどでもないがオッサンを落ち込ませそうだもんな。

 自分が引導を渡すような格好になる訳で。


 躊躇うのも無理はない。

 わずかながらでも罪悪感に襲われることになるだろうし。


 そういうのを気にしない性格なら、あっけらかんと言ってのけたりするんだろうけど。


「えー、気づいてないのぉ?」


 マイカのようにな。


「えっ、ええっ!? どういうことでしょうか?」


 オッサンがマイカの問いにアタフタとする。


「名乗ってないじゃん」


 しょうがないなぁと言わんばかりに喉を鳴らして苦笑いしながらマイカが答えた。

 次の瞬間──


「ああっ!」


 オッサンが叫んでいた。

 かなりのショックだったのだろう。

 某有名絵画の叫んでいる人を想起させるような状態で固まってしまった。


「……………」


 ちょっと待ってみる。

 時間はあるからね。

 自分で復帰してくれば多少はダメージも軽減するだろうと判断してのことだ。


 たぶん無理だと思うけど。

 それでも時間をおくことでパニクった状態も少しはマシになるはずである。


「………………………………………」


 オッサンは微動だにしない。


「まるで彫像みたいに固まっちゃったわね」


 苦笑交じりのため息をついてマイカが俺の方を見て来た。

 どうにかしないのかという催促が言外に感じられる。


 俺はジト目で見返したさ。

 オッサンに指摘したのはマイカだろってな。


 すぐにそっぽを向いて視線をそらされたけど。

 バックレやがったな。


「あの絵画を3D化すると、こんな感じになりそうだね」


 などと暖気なことを言ってくれる御仁がいた。

 トモさんである。


「不謹慎ですよ、あなた」


 フェルトがたしなめていたが。


「いや、それは俺も思った」


「陛下まで……」


 フェルトが頬を膨らませるが、本気で怒っている訳ではないだろう。

 まだ、踏み込む余地はありそうだ。

 そう思っていたら、トモさんがやってくれましたよ。


「こぉーんな感じ」


 そう言いながら固まったままのオッサンと同じポージングをする。

 変顔のオマケ付きでだけどな。


「「「「「アハハハハ!」」」」」


 皆には受けが良かったようだ。

 特に子供組には。


「こぉーんな感じニャー」


 面白がってミーニャが真似をした。

 笑顔でポージングしているので別物にしか見えないが。

 まあ、それは変顔をしているトモさんもなんだけど。


「こぉーんな感じなの」


「こぉーんな感じだね」


 ルーシーもシェリーもミーニャに続いた。

 実に楽しげだ。

 やはり別物にしか見えない。


「「こぉーんな感じだよぉ」」


 こうなるとハッピーやチーも続かないはずがない。

 子供組が全員そろって「はい、ポーズ」な有様である。

 ポージングしたまま互いに顔を見合わせてキャッキャとはしゃぎながら笑い始めるし。


「しょうがないのう」


 シヅカが呆れたように嘆息しながらも苦笑するにとどめていた。

 特に注意するつもりはないようだ。


「いつものことだ」


 ツバキも似たような反応である。


「アナタたち、程々にしておきなさい」


 そう注意したのはカーラである。

 このあたりは妖精組のリーダーであった頃の癖が抜けないのだろう。


「「「「「はーい!」」」」」


 シュパッと手を挙げて元気よく返事をする子供組一同。

 まねっこ遊びはそれで終了となった。


 今日も素直な良い子たちである。

 幼女たちが楽しんでいる時間は充分に堪能させてもらった。


 念のために言っておくとYLNTな紳士たちの仲間入りをしたつもりはない。

 現に俺だけじゃなくて皆も癒やされましたって面持ちになっていたからね。

 ほっこりと癒しの空気に包まれた気分である。


 お陰で微妙になりかけていた空気はいつの間にか消え去っていた。

 それだけではない。

 いつの間にか復帰してきていたオッサンがポカーンとしていましたよ。


 おそらくトモさんの狙いはここにあったのだろう。

 見れば、既にポージングは解除していたし。

 任務完了とばかりにウィンクのオマケ付きでサムズアップまでしてきたさ。


 さすがと言うほかはないんだけど、ウィンクはどうなんだろうね。

 オチの部分まで煙に巻いてこようとするとは。

 侮れぬ。


読んでくれてありがとう。

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