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1625 囲っておいて言うのもなんだけど

「筆頭亜神の御指示ですか……」


 オッサンが呆然とした面持ちで呟きを漏らした。


 なんだか思った以上に重く受け止められているっぽい。

 カエデも真剣な面持ちで考え込んでいるようだ。

 重苦しい雰囲気が2人を中心にして湧き上がってくる。


 そんな大層なものじゃないんですがね。

 どうしてこうなったと言いたい。


「そんなに堅苦しく考えなくていいんだぞ」


 というより考えないでほしいのだ。

 今からそんな調子では話が終わる頃にはどうなっているやら。

 朝食だって満足に喉を通らなくなるかもしれないじゃないか。


 いや、2人のせいではないんだけどね。

 そうさせてしまったのは俺なんだし。


「とりあえずミズホ国に有益だから君ら2人を囲っただけだから」


 ストレートにぶっちゃけましたよ。

 こんなことで嘘をついても誤魔化しても碌なことにはならんのでね。


 たとえ印象が悪くなっても、そこは仕方がない。

 それだけのことはしているのだし。


「これは我々の都合でしかない」


 まったくもって、その通り。

 どんなに言いつくろっても結局はそこに行き着いてしまう。


「君らの都合が悪いなら拒否することもできなきゃおかしいってだけのことだ」


 それをさせないのは2人を奴隷扱いするようなものだ。

 でなきゃどう考えたって理不尽であり得ない話になってしまうだろう。


 だというのにポカーンとした顔で立ち尽くすオッサン。


「……………」


 当然のごとく言葉はない。

 そんなに意外だっただろうか。


 まあ、元神殿勤めだからなぁ。

 神様の言う通りみたいなところはあるのかもしれない。

 選択肢があるなど思いもしなかったようだ。


 が、それを言うなら選択肢があることも神様の言う通りってことになるんですがね。

 厳密に言うなら神様じゃなくて亜神なんだけど。


「随分と律儀な方ですね」


 オッサンに代わってカエデがそんな感想を漏らした。


 果たしてそうだろうかと俺などは思うのだが。

 本当に律儀であるというなら、ちゃんとした手順を踏むんじゃなかろうか。


 対してルディア様はいきなり本人の意向を確認せずにやらかしたからな。

 忙しすぎて余裕がなかったとはいえ強引すぎるだろう。


 この場合の確認とは、本人の意識がある状態でなされた口頭によるものだ。

 決して心の中を覗き見た結果によるものではない。


「まあ、普段はな」


 今回については普段通りとは口が裂けても言えない。

 仕事でかなり追い込まれているのだろうけれど。


「今回は例外的だと?」


「まあ、色々とあって普段通りでないのは確かだ」


 忙しいとか余裕がないとか直接的なことは言えない。

 言えばカエデが畏縮しかねない。

 下手をすれば我を忘れているオッサンまで巻き込んだ状態になってしまうだろう。


 さすがに土下座コースに逆戻りはしないとは思うが。

 その後の判断に影響してしまうのは、ほぼ間違いあるまい。


「そのあたりについての詮索はなしで頼むとのことだ」


「……分かりました」


 何かを聞きたそうにしていたカエデではあるが、一応は納得してくれたようだ。


「返事は今すぐでなくていい。

 動揺したままで判断したんじゃ後で後悔することもあるだろうしな」


「っ!?」


 カエデは目を見開いて俺を見た。

 意外すぎて言葉もないらしい。

 何か言いたそうには見えるのだがね。


「それでいいか?」


 念のために確認する。

 絶対に嫌だと考えているなら即座に返答したいとなってもおかしくないし。

 激しい感情に起因する拒否であるなら後で覆すこともないだろう。


 さっさと返事をしてさようならとなるのがオチだ。

 そういう雰囲気はないんだけどね。


「はい」


 カエデは静かに返事をした。

 どうやら絶対的な拒否感は抱いていないようだ。


 ちょっとホッとする。

 徹底的に嫌われるのは勘弁願いたいからな。


 後々までの禍根となりかねないシコリを残してしまいそうだし。

 そういうのが無いだけでも精神的な負荷は大きく減るというものだ。

 まだ断られる恐れはあるからドキドキは残るんだけどね。


 まあ、度合いが桁違いではあるので心理的な負担は軽いと言える。


 え? どのくらいの差か分かりづらいって?

 簡単に言えば最悪と残念くらい違うかな。


 嫌悪されればどうしようもなくなるから最悪ってのは分かるよな?

 で、断られるのが残念で済むのは心底嫌われる訳ではないからというだけではない。


 嫌われていないならリトライのチャンスがあるだろう?

 すぐには無理でもいずれはってことでね。


 折を見てスカウトし直す機会をうかがえるのは嫌悪されていないからこそである。

 そういう意味でビルはそろそろリトライしてもいいかもな。


 ただ、ひとつ問題がある。

 武王大祭の本選決勝が終わってからも姿を見せないのだ。

 ケータイは持たせているから帰る時に合流できず置いてけぼりにすることはないけどさ。


 どこをほっつき歩いているんだか。

 そうは思うが今は連絡を取っても合流しないんじゃないかなと思う。

 おそらくギリギリまでそうするつもりだろう。


 ケータイで呼び出しても、合流はすまい。

 顔くらいは見せるかもしれないが。

 顔を見せづらいとか思っていそうだし。


 ビルはミズホ国のノリについてこられない時があるのを気にしている節があるからね。

 色々と気を遣うところがあるだけに繊細なんだよな。


 無理に合わせる必要なんてないんだが。

 現にガンフォールやハマーなんて我が道を行くって感じだし。


 それにビルと似たようなタイプのボルトもあまり気にしていないんだけどな。

 ビルの方がより繊細なのかもしれないけどさ。

 一度そのあたりについて話し合ってみる必要があるのかもしれない。


 何にせよ、カエデに嫌悪されなかったのは幸いだ。

 ルディア様の指示書にカエデの心理状態なんかも記載されてはいたけどさ。


 実際に会ってみて初めて分かることもあるからな。

 嫌悪はしなくても怒っているとかさ。

 幸いにして、そちらもなかったけれど。


 むしろ逆に機嫌が良かったのではないだろうか。

 さすがに短い付き合いでは、そこまで見抜くことはできなかったが。


「せっかく御配慮いただいたのです。

 私自身はこのままお話を受けさせていただこうかと」


 カエデは考える時間が不要とばかりに即答してきた。


「そうか」


 本人がスパッと言い切るなら熟考を促しても考えは改めまい。

 結果は変わらないということだ。


 思い切りがいいというか。

 決断力があるというか。

 直球勝負なところがあるよな。


 すがすがしい感じがする。

 こういう場面をひねくれ者が見ると頑固なだけとかなんとか悪し様に言いそうだけど。


 ミズホ国民は誰もそんな風には感じないし思わないが。

 もちろん俺もね。


 そんな訳で素直に受けておいた。

 もし考えが変わって訂正したいと言ってきた場合は、それを受ければ良いだけだ。


 その場合はとても残念ではあるが仕方あるまい。

 本人が自分の考えでもって導き出した答えは尊重すべきだろう。

 嫌と言う者を無理に引き留めても益となるものは何もないからな。


 さて、そうなると残るはオッサンである。

 こちらは待たねばならないだろう。

 カエデが即答したからオッサンも同じようにという訳にはいかないからな。


 ちゃんと考えた上で結論を出してもらうのがベストだと思う。

 別にカエデが悪いと言っている訳ではない。


 人には向き不向きもあるし考え方なんかも千差万別ってだけのことだ。


 直感を信じるタイプは時間をかけて考える行為と相性が悪いだろうし。


 論理的に考えながらも感情面を織り交ぜるタイプは即決するのが苦手なはずだ。

 こういうタイプはリミットを決めないと何時までも結論が出せなかったりするけどね。


 有り体に言ってしまうと優柔不断なタイプってことだな。

 オッサンはそれっぽい感じがするのだけど。

 とか思っていたんだが……


「あ、私もお世話になるということでよろしいでしょうか?」


 オッサンがおずおずした感じで聞いてきた。


「いいのか?」


「はい、これも何かのご縁だと思います」


 そう言われてしまうと俺としては受けるしかない。

 考え直せとか言うのは変だしな。


「分かった」


 ここは素直に頷くのみである。


「では、2人ともこれからよろしく頼む」


読んでくれてありがとう。

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