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1612 オッサン、海苔巻きに苦戦する

 注文パネルが想像していた以上に高度な魔道具と知って驚きを隠せないサリュース。

 しばらく呆然としていたほどだ。


 サリュースにしては意外だと思ったさ。

 もう少し動じないかと思っていたのだが。


「ここまで至れり尽くせりとは想像もしなかったよ」


 さほど待つことなく自力で復活してきたのは、さすがだと思ったけどね。


「単に音声入力に対応しているだけだ」


 あんまり騒がれると面倒くさいので抑え気味に返事をしておいた。

 サリュースなら、雰囲気から何でもないことにしたい意図を察してくれるだろう。

 実際、技術的に大したことはしていないんだけどな。


「……呆れたものだね」

 そう言ってからサリュースは深く嘆息した。

 一応、騒ぎ立ててほしくないということは察してもらえたようだ。


「ハルト殿は簡単に言うが、こんな魔道具は発掘品でも見たことがない」


 それでも追及してくる気は満々だったが。


「そうかい?」


 俺はダンジョンであまり魔道具を見つけたことがないからな。

 でも、余所では音声入力対応の魔道具が発掘品として出ている。

 巨人兵がそうだった。


 まあ、レアものだから他の国では出ていないだろうけどね。

 割と有名なはずだけど、細かな機能についてまでは知られていないか。

 軍事機密をホイホイ漏らす国はないだろうし。


「軽く言ってくれるものだね。

 ここまでのものだとは思っていなかったというのに」


「そんなことを言われてもなぁ」


 またしても毎度のあれをやってしまったようだ。

 ミズホの常識は西方の非常識。


 晩飯時に訪ねてくるとは思っていなかったから自重しなかったんだよな。

 サリュースたちが来てから引っ込めるのも変だったし。


 返事のしようがないので──


「ちなみに操作画面に触れても切り替わるからな」


 とだけ言っておいた。


「いやはや……」


 肩をすくめて呆れ顔になるサリュースであった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「この巻き寿司というのは絶妙なバランスだな」


 口をモグモグさせつつ、そんな感想を漏らすランスロー。


「具材をこれだけ使っておきながら主張しすぎないとは」


 頭を振りながら咀嚼している。

 行儀が悪いから喋るか食べるかどっちかにしろとは言わない。


 今日の夕食は屋台飯だからな。

 まあ、屋内なんだけど。


 それに規模的に屋台とは言いがたいところもある。

 が、気にしたら負けだ。


「ビビりなお前でも──」


 オッサンの方を見るランスロー。


「えっ」


 オッサンがワタワタしてランスローの方を見た。

 流れる寿司とにらめっこ状態だったために意識が無防備状態だったようだ。

 自分が呼びかけられるとは思っていなかったのも原因のひとつではあるだろう。


「これなら問題なく食べられそうだぞ」


「えっと……」


 即答はできないオッサン。

 今の今まで悩みっぱなしだったのだ。

 そう簡単に決断できるものではあるまい。


「大丈夫ですよ」


 そこにエリスがフォローに入った。

 笑みのオマケ付きである。

 安心感も増すと思うのだがどうだろう。


「風変わりな材料ばかりに見えますけどね」


「とりあえず初心者は海苔巻きか卵から食べるといい」


 俺もアシストする。

 目の前のパネルで海苔巻きを注文して出てきた皿を横にサッと滑らせた。

 手で止めなくてもいいように力加減してな。


 でないと通り過ぎてしまいかねない。

 今のオッサンの精神状態だと自分で止めるような余裕はないだろうからな。


「奢りだ」


 オッサンの前で寿司皿が止まるのに合わせて言ってみた。

 見ようによってはバーで酒を飲んでいる時のようなやり取りっぽいかもしれない。

 もちろん、それをイメージしてやってみた。


 え? 奢りも何も最初から無料だろって?

 いいじゃないか。

 やってみたかったんだから。


 あんまり似合いのシチュエーションとは言えないけどさ。


「で、では……」


 おずおずとオッサンが巻き寿司に手を出した。

 食べるまでにやたらと時間をかけている。

 ビビっているせいなんだけどな。


 それをランスローが横目で凝視していた。

 まともに見ないのはプレッシャーになると判断したからか。


 普通なら充分に気付かれるほどガッツリ見てるのは御愛嬌。

 堂々と見られるよりも威圧感があると思ったのは俺だけではないはず。

 それでも指摘しなかったのはオッサンが気付いていなかったからである。


 巻き寿司を怖々と見ているせいで視線が釘付けになっていたせいだ。

 わざわざ他に意識が向けさせてしまうような真似をする必要はないだろう。


 気付かれれば、さすがにオッサンもランスローのガン見を意識せざるを得まい。

 幸いにも巻き寿司にかぶりつくまでの間に気付くことはなかったが。


「んっ?」


 一口目でオッサンの動きが止まった。

 目を白黒させている。


 想定外の味だったのだろうか。

 事前に酢飯が酸っぱいとは言っておいたはずなんだが。


 もしかして巻き寿司を落としそうになっているのだろうか。

 それも考えにくいのだが。

 箸が使えないことも考慮して小さいトングを渡しているからな。


 これは5国連合の面々やツバイクたちにも受けが良かった。

 ハイラントに渡したのは失敗だったけどな。


 あれのせいで食べるペースが上がったと言っても過言ではなかったし。

 ハイラントにだけ箸を渡しておけば貪り食うこともなかったのは明白である。


 そうすればスタークも食べ物の恨みを抱くことはなかっただろう。

 まあ、予知能力者でもなければ不可能なことだけどな。


 今更感はあるが、ついそう思ってしまう。

 おそらく[持て成し名人]の称号に引っ張られているせいだろう。


 大した効果を発揮しないくせに自分のメンタルには影響するとか迷惑な話だ。

 そんなことをしてくるくらいなら取り消してほしいものである。


 一度ついてしまった称号は消えないなんて勘弁してほしい。

 神様が注目するためのラベルなんて俺には不要だし。


 だってラベルがあればあるほど覗き見されるんだぜ。

 それを本人は気付けないし。

 通知される訳でもない。


 ……通知はいらんな。

 山のように称号がついてしまった今、通知だらけになるのが目に見えている。


 それなら本人が望まない称号は消えやすくなるとかの方がありがたい。

 黒歴史的な称号は是非とも消えてほしいところだ。


 特に[土下座を呼ぶ男]なんて願わずにはいられないよ。

 どんなに必死で願っても消えないんだけどさ。

 神様のシステムも融通が利かないよな。


 なんならバージョンアップで仕様変更とかあってもいいと思うのだが。

 これは無い物ねだりになってしまうのだろうか。

 そうであってほしくはないが。


『……………』


 さて、あまり無駄なことを考えている場合じゃないな。

 いくら【多重思考】スキルで高速思考ができるとはいえ時間の無駄だ。


 それよりもオッサンのフォローが必要だろう。

 決して[過保護王]の称号に引っ張られてはいないぞ。

 国民でもないオッサンを心配するとか酔狂な性格はしていない。


 エリスが何とかしろという目を向けてきているんだよ。

 奥さんにフォローさせる訳にもいかんだろう。

 オッサンが勘違いしても困るからな。


 できれば放置したいところだが、観察する。

 いきなり声を掛けようものならオッサンが海苔巻きをバラ蒔いてしまいそうなんだよな。


「あぁ」


 思わず声に出てしまったのは原因に気付けたからだ。

 要するに噛み切ろうとした位置が悪かっただけのことである。

 トングで挟む位置もな。


 噛み切ってしまえば中の具材をボタボタと落としてしまう絶妙な位置っぽい。

 こういう時に絶妙という表現は適切とは言いがたいと思うけれど。


 笑いを誘うようなネタになる訳でもないし。

 当人にとっては笑い話にされるなど、いい迷惑でしかないのだが。


 緊急事態だもんな。


読んでくれてありがとう。

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