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1604 最初からそのつもりだったのか……

 報告書を読んだということを信じないハイラントに内容を指摘して証明した。


「裏付けは取っているようだが不完全だな」


「──っ」


 自覚はあるようで悔しそうに声に出さず呻くハイラント。


「まあ、武王大祭の期間中ということで動員できる人員に限りがあるのは分かるが」


「それは言い訳になってしまうだろうね」


 サリュースが意地の悪い笑みを浮かべながら追い打ちをかけるようなことを言う。


「中間報告としては上出来な方だろう」


 俺も結構な上から目線だ。


「おやおや、中間報告だという記述があるのかい?」


「ないな」


「ダメじゃないか、ハイラントくん」


「……………」


 ダメ出しされたハイラントは悔しそうにしているが無言を貫いた。

 口を開けばカウンターが飛んでくると考えたのだろう。


「だが、最終報告とも記述されていない」


「アハハハハ、それはギリギリセーフかな」


 サリュースは声に出して笑いながらバンバンとハイラントの肩を叩いた。


「─────っ!」


 ハイラントは痛そうに顔をしかめながらも歯噛みする。


「とりあえず横の繋がりが欠落している点をどうにかすべきだろう」


「ほうほう、新たな愚か者が出現しかねないと読んだのかな?」


 サリュースが疑問を口にする。

 途端にハイラントが苦虫を噛み潰したような顔になった。


 そこに驚きの色はない。

 それくらいは読んでいたってことだな。


「絶対とは言わないが、そういう恐れはある。

 今回の件は処分が発表された時点で他の貴族にも周知される訳だろ」


「そうだな」


 憮然とした表情でハイラントが返事をした。

 今の言葉だけで何がどうなるか想像がついたようだ。

 というよりは、想定していたと見るべきか。


 だから報告書に最終とは書かなかったのだろう。

 そこからはフュン王国の領分であって俺たちが関わることはないからな。


 新たな悪党が現れたとしても対応するのはハイラントだ。

 俺たちが、ちょっかいを出されることがあれば話も違ってくるが。


 そういうことは起こり得ないだろう。

 カエデにつながる線はすべて潰してある。


 仮に何か俺たちにつながる情報があって手を出そうとしても出しようがない。

 それらの組織がまともに機能し始めるには時間がかかるからね。

 その頃には帰ってしまっているって訳だ。


 手脚となる部分を徹底して潰したのは、そういう面倒事を起こさせないためでもある。

 それに泥棒貴族が作った道筋は詳細に把握済みだ。

 再利用しようとすれば、もれなくフュン王国側に察知されることだろう。


 あとは潰すだけの簡単なお仕事ですってやつだな。

 甘い汁を吸おうとしても簡単なことではないのだ。


 ただ、新たなルートで入り込んでくることまでは防げないとは思う。

 悪党がいなくならない限りはね。


 それだって容易ではないので時間がかかってしまうのは言うまでもない。

 こそこそと隠れながらじゃ余計にね。

 やはり、その頃には俺たちは帰っているから手の出しようがないんだけど。


 ハイラントがそこまで考えたかどうかは知らない。

 が、必要のないことまで報告書に記載する必要はないと判断したのは事実だろう。


「その時点で釘は刺すつもりだ」


「遅いな」


「むっ?」


「既に噂くらいは出回っていると思った方がいいぞ」


 貴族ならば独自の諜報網を持っているのはいるはずだからな。

 有効に機能するかは、その貴族しだいである。

 武器が如何に強力でも使いこなせなければ意味がない。


「あるだろうね」


 サリュースも同意した。


「それについては意図的に情報を流している」


 ハイラントも分かっているようだ。

 己の思い描くシナリオへ噂を誘導しようと動いていた訳だ。

 ならば、この件に関して細かく言うのはやめるとしよう。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「さてさて、ひとつ聞きたいのだがね」


 サリュースが興味深げに宿屋の玄関ホールを見渡しながら声を掛けてきた。


「これは何がしたいのかな?」


「見て分からんか?」


「屋台を再現しているように見受けられるところまではね」


「それで間違っていないぞ」


 宿屋の玄関ホールはサリュースが言った通りの光景となっていた。

 明るいうちにノエルと約束したから当然と言えば当然だ。

 サリュースたちは、その場にいなかったから何のことやらと思うのかもしれないが。


 まあ、ツバイクたちも準備が進むにつれ呆然としていったから普通ではないかもな。

 ミズホの常識は西方の非常識は今日も平常運転である。


「わざわざ屋内でする必要性を感じないから聞いたのだが。

 それと、見慣れない妙なテーブルがあるのも気になるね」


「あれは回転寿司のコーナーだな」


「何だい、それは?」


 興味深げに瞳を輝かせて聞いてくるサリュース。


「寿司という料理を流すのが回転寿司だ」


「流す? よく分からないな。

 それに寿司というものも初耳だよ」


 サリュースはますます瞳を輝かせていく。


「言葉で聞くより体感した方が早いぞ。

 晩飯がまだなら食べていくといい」


「いいのかい?」


「いいも悪いもないさ」


 予定外ではあったが、別に断る理由がない。

 それに最初から仲間はずれなどしていたら雰囲気が悪くなってしまう。


「皆で楽しむために用意したものだからな」


 参加者を限定しているなら話も違ってくるけれど。

 そういうイベントは端から余人が立ち入れないようにしておくさ。


 結界を使うかオオトリみたいな島で開催して物理的に来られないようにするか。

 今回も前者に準ずる形だったけど、結界の条件が緩かったな。


 まあ、想定していなかったというだけで拒否するつもりはない。

 だからこそ結界の条件を変更しなかったとも言えるのだが。


「そちらに問題がなければ歓迎しよう」


「問題などある訳がない」


 何故かハイラントが胸を張って断言した。

 ムプーとか鼻息を荒くしているのが微妙にウザい。


「本当に大丈夫なんだろうな。

 王城の方で夕食を用意しているとかあるだろう」


「心配は無用だ。

 出かける前に食べてくるから不要だと伝えてある」


「……………」


 用意しているかどうかに関係なく端っから集る気でいたんじゃないかよ。

 道理で自信満々に断言した訳だ。


「いやいや、すまないね」


 サリュースが謝ってきた。


「ハイラントくんはデリカシーが無くていけないよ」


 まったくその通りだとは思うが……


「それは俺たちもだろうが」


 ランスローがツッコミを入れてきた。


「確かにな」


 ルータワーもそれに同意する。


「便乗して一緒に来た訳ですからね」


 スタークが理由を説明した。

 4人ともハイラントとは別の開き直り方をしているだけにすぎない訳だ。

 そろいもそろっていい度胸をしている。


 呆れて怒る気にもなれない。

 まあ、歓迎すると言った言葉にウソはないけどな。


 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 皿に載せられた寿司がレーンの上を流れていく。


「なんとなんと、これは面白い仕組みだね!」


 サリュースが手を叩いて喜んでいる。

 そのはしゃぎっぷりは、およそ貴婦人の格好が似合わないものだった。


 まあ、もっと酷いのがいるけどな。

 サリュースの隣に座ったハイラントだ。


「ふがふがふがごっ」


 既にモグモグタイムに入っている。

 珍しいとか面白いという気持ちなどより食い気が勝るらしい。


 それを冷めた目で見ているランスロー。


「ちったあ落ち着いて食えよ」


 ツッコミも入れているが、ハイラントには届いていない。


「ふんぐっ、ふがっふごっんごっ」


 一心不乱に食べるのみである。


「なに言ってっか分かんねえっての」


「いや、返事をしているのかすら怪しくないか」


 ルータワーが言った。


「ふぐっ、ふんぐぅっ」


 本来のハイラントからは掛け離れたキャラクターになっている。

 ある意味、ツバイクの紙フェチが入った時と似ていると言わざるを得ない。

 指摘されても似ているとは互いに認めないだろうけど。


 とにかく、ハイラントは寿司がかなり気に入ったようだ。


読んでくれてありがとう。

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