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1603 呼んだつもりはないんだが?

「どうしてアンタがここにいるっ?」


 これが問わずにいられるかという心境だった。

 いや、実際に聞いているんだけどさ。


 晩飯時になって屋台の準備を始めたら宿屋に来客があったのだ。

 結界は継続中なので来ることができる相手は限定的である。

 来客があったことが分かった時点で誰が来たのかは明白であった。


 問題となるのは誰がではなく何故の方である。

 タイミングの問題もあって誘っていなかったのに押し掛けてきたからな。


 え? そんなことより泥棒貴族の一件が片付いたのに結界を継続するのはなぜかって?

 ハイラントの言葉だけで終わりと判断するのは軽率だからだな。

 詳細の報告を受け、その内容を照査してからでないとね。


 残党がいないのは承知しているけどさ。

 それでも貴族としての横の繋がりの中に同類が潜んでいるかもしれないだろ?

 泥棒貴族の失脚を知ってから成り代わろうと蠢動し始めるバカがいないとも限らんし。


 けど、そのあたりまで首を突っ込むつもりはない。

 これまでは降りかかる火の粉だったから対処したまでだ。


 あるかどうかも分からない熾火から火の手が上がるかなど気にしていられない。

 それはもうフュン王国の領分だしな。


 正式に依頼されたんなら話は別だけど。

 その時はお友達価格で対応させていただきます。


 まあ、向こうも体面やらなんやらで依頼はしてこないとは思うがね。

 宿屋の関係者には悪いけど、そこはお詫び金で我慢してもらおう。

 名目上はサービスが気に入ったことによるお礼とかそういう感じになってしまうけど。


 スリープメモライズで通常営業していたことにさせてもらうから仕方ない。

 乱用する訳にはいかない手ではある。


 それでも宿屋の面々に本当のことを説明するよりはマシだと思う。

 事情を知れば気が休まらなくなる日々が長く続くだろうからね。


 こちらとしても変にトラウマを抱え込まれる方が困るのだ。

 今回のようなことは、そうそう起きないはずってことで無理やり自分を納得させた。


 それより問題は来客の方だ。


「随分な言われようだな」


 やって来たのはハイラントであった。

 剣士ランドの風体ではない。


 が、王族然とした格好でもなかった。

 今は下級貴族っぽい服を着込んでいる。


 威厳とかそういう雰囲気の方も王様的な部分は感じられない。

 ランドのコスプレをしている間にコントロールできるようになったようだ。


「友達ではないか」


 文句を言ってくるものの表情は明るい。

 不満げな部分は皆無だ。


 まあ、こちらも拒絶する感じで聞いた訳じゃないしな。


「そうそう、友達じゃないか」


 続いて現れたサリュースまでそんなことを言い出す始末だ。

 こちらも軽戦士サリーではなく適度に貴婦人な感じを上手く出していた。

 ハイラントに続いてサリュースまで来たとなると……


「ちくしょー、やっぱり納得いかねえ。

 俺だけ下っ端扱いとか不公平だろう」


 そんな風に愚痴っているのは御者の格好をしたランスローであった。

 お仕着せ感が満載というか服に着せられているとしか思えないほど似合っていない。

 槍士ランサーの時とは大違いである。


「諦めろ。

 クジで決まったことだ」


 諭すように言っているのは執事っぽい格好をしているルータワーだ。

 見た目も雰囲気も似合っていないのはランスローと同様である。

 こちらも重戦士タワーのイメージの方がしっくりくる。


「そうですよ。

 本当に仕事をする訳じゃないんですし」


 これまた執事服を着ているスタークが呆れた表情を見せながら言った。

 おそらくは何度も愚痴を聞かされたのだろう。

 ちなみに魔法使いスタンの時と同じくらい違和感がない。


「お前らはなっ」


 不満そうにフンと鼻を鳴らしながら返事をするランスロー。


「俺は御者の仕事をしたぞ」


「変装に見合った真似事をしただけじゃないですか」


 更に呆れの色を濃くするスターク。


「馬も馬車も用意したのはランスローさんじゃないですよ」


 そう言って嘆息した。


「うぐっ」


 さすがに的確な部分を突かれると反論しづらいようだ。


「別に俺も執事服で良かったじゃねえか」


「往生際が悪いぞ、ランスロー」


 ルータワーがギロリと睨む。

 まあ、その程度で怯むようなランスローではないのだが。


「執事と執事見習いで定員だ。

 余っている枠などある訳がなかろう」


「ぐぬぬ」


 今度こそやり込められていた。

 悔しそうに歯噛みしつつも反撃を試みる様子は見られない。


「じゃれ合いタイムはもういいのか?」


 俺が問いかけると──


「これの何処がじゃれ合っているように見えるんだよっ」


 飛び上がらんばかりの勢いでツッコミを入れられた。


「心外だな」


「そうですね」


 ルータワーの言葉に頷きながら同意するスターク。


「我々はランスローさんに正しい認識を指摘しただけです」


「くうーっ!」


 ツッコミで勢いづいたはずのランスローが悔しげに唸って失速した。

 スタークの言葉は俺に対する抗議のはずだったんだがな。

 何故か被弾したのはランスローだったというオチがついた。


 別にそうなるように仕向けた覚えはないのだが。

 あえて言うなら、ランスローの自爆だな。

 別の言い方をするなら雉も鳴かずば打たれまいってところだ。


 などと現実逃避している場合じゃないな。


「それで、どうしたんだよ。

 俺は招待した覚えはないんだが?」


「おいおい、何気に酷いじゃないか、ハルト殿」


 サリュースが苦笑しながら抗議してきた。

 だって本当のことなんだから、しょうがない。

 向こうからすれば空気を読んでオブラートに包んで喋れということなんだろうけど。


 俺からすると「だが、断る」だ。

 追い出したりはしないが空気は読まない。

 先触れもなく押し掛けられたしな。


「報告だよ、報告」


 ハイラントが頭をガリガリとかきながら返事をした。

 できることなら思い出したくないという感じだ。


 まあ、気持ちは分からなくもない。

 ブラック企業並みの働きぶりだったみたいだし。


「仕事が早い」


 トモさんが仕事モードの声で言った。


「フフン」


 ちょっとだけドヤ顔になったハイラントが自慢げに鼻を鳴らした。


 が、そういうことではないと思う。

 トモさんの一言は間違いなく物真似だ。

 同業者じゃなくてテレビCMからネタを引っ張ってきたんだろう。

 俳優さんの物真似を入れてくるとは思わなかったけど。


「某工務店ね」


 マイカにも分かったらしくボソッと呟く。


「物真似のクオリティが微妙じゃない?」


 隣にいるミズキに確認している。


「しーっ」


 人差し指を唇に当てて応じるミズキだ。


「そんなこと言ったら可哀相だよ。

 せっかく新ネタを披露したのに」


 そこまで言ってしまうと微妙だと認めたようなものだ。

 迂遠なダメ出しと言える。

 いくらヒソヒソ声で言ったとしても、トモさんには聞こえているし。


 それが証拠にションボリさんになってるよ。


「えーっ、新ネタだからこそダメ出ししないと。

 気付かないまま使い続けてピエロになるよりはずっといいでしょ」


 マイカはマイカでストレートにバッサリ切り込むし。

 もうやめて、トモさんのライフはゼロよ。

 まあ、すぐに復活するとは思うけどね。


 そんな訳で報告書の紙束を受け取る。

 さっそくページをパラパラとめくった。


「くっ」


 思わず呻いてしまうほど、めくりにくい。

 ゲールウエザー王国やエーベネラント王国に輸出している普通紙とは大違いだ。

 大きさが微妙に不揃いだし厚みなども均質ではないからだ。


 とはいえ、これでも高級紙の扱いのはず。

 紙はまだまだ普及していないからな。


 これは5国連合にも輸出すべきだろう。

 そんなことを画策している間に3回ほどパラパラを終えていた。


 熟練度がカンストしている【速読】スキルを使ったので、1回目で読み切ってたけど。

 めくりにくさを考慮してページ飛ばしがないことを確認しただけだ。


 もちろん内容も把握したさ。

 まあ、この短期間に頑張ったのは間違いなさそうである。


 だというのにハイラントには何を弄んでいるのかと言わんばかりの顔をされてしまった。


「読んだぞ」


「なぬぅっ!?」


「速読という一瞬で読み上げる技術だ」


 あえてスキルとは言わない。

 練習すれば、ある程度までは会得できるからな。


 場合によってはスキルが生えるかもしれない。

 そのあたりは本人しだいである。


読んでくれてありがとう。

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