1471 採用案は……
結局、黒猫3兄弟の案が採用された。
ハリーの意見を丸パクリしたものではない。
本当だ。
貴族の三男坊は次点ということになったのでね。
採用案は冒険者志望の元騎士だった。
騎士も貴族の端くれだから所作が上品でも不思議はないって訳だ。
威厳の方は出世争いに敗れた元隊長ということにしておけば誤魔化せるだろう。
騎士をやめた理由もそれがらみということにしておけばいい。
過去の汚点ということで、その話はしたくないという設定にもした。
そうすれば都合の悪い話をされて言い淀んだとしても怪しまれにくい。
ちなみに、騎士をやめた後は隊商の護衛などをしていたことにしてある。
冒険者登録する前に魔物への対処を実地で覚えるためだ。
すぐに冒険者にならなかった言い訳として考えた。
そんなのは冒険者になってから覚えろと言われるかもしれないがな。
一応は子供の頃の夢だったから、無様な失敗をしたくないという言い訳を用意している。
これは個人のこだわりだから干渉してくるなと言えば終わらせられるだろう。
で、現在の予定は武王大祭を楽しむこと。
こうしておけば平民になった元貴族ということで威厳や上品さを出しても問題ない。
ハイラントも下手な芝居をせずに済むだろうということになった。
貴族だった頃に味わえなかった自由を満喫している感も自然に出せるはずだ。
設定さえ忘れなければな。
そこだけが心配である。
「という訳で今から剣士ランドになってもらう」
変装コンセプトをハイラントに伝え、改めて変装後の名前を告げた。
「ほほう、剣士ランドかー」
ニヤニヤと笑うハイラント。
まだ変装はしていないからランドではない。
本人はやる気満々であったが。
『浮浪者コスプレへのこだわりはどうした』
心の中でツッコミを入れたさ。
声に出さなかったのは、変に蒸し返す結果になるのは嫌だからだ。
やっぱり浮浪者がいいとか言われたら悪夢以外の何物でもないだろう?
幸いにもハイラントは自分から蒸し返してこなかった。
冒険者志望という設定を気に入ってくれたらしい。
「出世争いに敗れるとはドラマチックではないか」
ニコニコしながらハイラントはうんうんと頷いている。
「あー、喜んでもらえて何よりだ」
「おうともさ。
ならば顔面に大きな傷がある方が、らしいよな」
『また、面倒なことを……』
妙なこだわりを持たせたら天下一かもしれないな。
天然で大雑把な性格をしているというのに。
「悪いことは言わない。
メイクで古傷を再現しようとするなら、やめておけ」
「何故だ!?」
俺の忠告に、ハイラントがショックを受けた表情で問うてきた。
そう来るのであれば──
「「「「「坊やだからさ」」」」」
ミズホ組からの物真似付きカウンターで応じるしかないだろう。
「何処が坊やだと言うんだ、何処がっ」
食い下がってくる。
まあ、普通は意味不明にしか思えないよな。
「メイクなんてどんな拍子に落ちるか分からんぞ」
「む?」
一瞬、返事に詰まるハイラント。
落ちるという言葉に反応していた。
「わざわざ顔を触りに来るような者などいまいて」
それでも反論してきたけどな。
「元騎士という設定ならば尚のことだと思うが」
ちょっとドヤ顔で言ってくるのがイラッとする。
いま思いつきましたって顔をしていたのに、ぬけぬけと言ってくれるものだ。
「普段ならな」
「どういうことだ?」
「大きな祭りの最中だぞ」
「そうだが?」
ハイラントはよく分からないと言いたげに首を傾げている。
「ハプニングやトラブルはあって当たり前と思っておかないとな」
ましてや、ここには[トラブルサモナー]の称号持ちがいるのだ。
俺のことだけど……
同行するならば巻き込まれる恐れは充分にあるというもの。
メイクが落ちることになるパターンなんて出待ちレベルで真っ先に来そうだ。
「想定外のことが起こり得るということか」
うーむと唸りながら考え込むハイラント。
「悩むことじゃないぞ」
「そうは言ってもなぁ」
ハイラントが声を絞り出すようにして言った。
それだけではない。
俺の方を恨めしそうに見てくる目も諦めきれないと語っていた。
「あのなぁ、変にこだわってヘマをしたら即時解散だぞ」
「うっ」
「変装することが目的じゃないだろうが」
「ぐっ」
「祭りを満喫するための変装ってことを忘れるなよ」
「ぐぬぬぬぬ」
本当に面倒くさいオッサンだ。
これならゲールウエザー王であるクラウドの方がマシだ。
あっちは食い意地が張ってるだけだからな。
それはそれで面倒なトラブルになったりするんだけど。
「どうしてもメイクするって言うなら連れて行かない」
「NO──────────!」
うるさいオッサンだ。
そして顔を押し付ける勢いで突進してくるから鬱陶しい。
モフモフなら歓迎もするがな。
むさいオッサンにそんな真似をされそうになって喜びはしない。
悪いが、そういう趣味のあるアニキな人種ではないのだ。
という訳でアイアンクローで押し退ける。
「グオオオォォォォォォッ!」
痛みに唸るハイラント。
押し退けてから手を離してようやく唸らなくなった。
「どうしても大きな傷をつけたいって言うなら手がない訳じゃない」
「おおっ、そんな手があるのかっ」
身を乗り出してくるが、今度は控えめだ。
そうそう何度もアイアンクローをくらうのは嫌だよな。
「メイクじゃなくて本当に傷をつければいい」
「何ぃっ!?」
「治癒魔法で中途半端に治せば古傷の一丁あがりだ」
指先に魔法でバチバチと火花を散らせる。
「─────っ!」
驚愕の表情でたじろぐハイラント。
まあ、ぶっちゃけドン引きしている。
「痛みは確かにあるが仕方あるまい。
リアルな仕上がりにするための代償だ。
治癒魔法を使ったあとは痛みが消えるから祭りは楽しめるぞ」
再び指先でバチバチさせてみた。
仰け反るように引いていくハイラント。
「む、無理だっ」
どうにか声を絞り出して俺の提案を拒否した。
「おっと、そうだな。
悪い悪い。
祭りの後のことを考えるとマズいもんな」
俺がそう言うと、ハイラントは高速でコクコクした。
「傷跡が残ったままでは変装していたことがバレるもんな」
「そうそう」
必死な感じで頷きながら返事をする。
「王様がいかにもって感じの古傷を顔に残したままじゃ外聞も悪いだろうし」
「そうだともっ」
返事をしたハイラントはホッと胸をなで下ろした時のように安堵した表情を見せていた。
「古傷部分でも俺の治癒魔法なら傷跡は消せるから心配しなくていいぞ」
「っ!?」
ギョッと目を見開いたハイラントが──
「そういうことじゃないいいぃぃぃぃぃっ!」
恐怖に顔を歪めて絶叫した。
『あー、うるさい』
けれども、してやったりな気分だ。
ちょっと意地が悪いかとも思ったが、振り回された分はやり返せたと思う。
「冗談だ」
「冗談かいっ」
ハイラントが絶妙のツッコミを入れてきた。
「本当に怪我をさせるという部分はな。
それくらいやる覚悟がないと、変装する意味がない」
今のハイラントにはその覚悟が見られない。
浮浪者コスプレの時は臭いまで再現するほど気合いが入っていたのにな。
顔面などの汚れもメイクではあったが、こちらは汚れだから誤魔化しようはある。
簡単に落とせるような汚れならアウトだけど。
だが、怪我と違って固定されているという訳でもない。
落ちにくくしておけば、どうにかなるものだ。
いずれにせよ、浮浪者に変装するのは無しになったので関係のない話だがな。
とにかく、剣士ランドという設定で行くと決めた。
ハイラントの考えた追加設定は組み込まないことを承諾させてな。
古傷だの眼帯だの、どこの厨二病患者なんだよと言いたい。
え? お前が言うな?
いや、ごもっとも。
読んでくれてありがとう。




