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1462 新たなオッサン

 オッサンが部屋に入ってきた。

 所作はなかなかにスマートでオッサンくさくない。

 いかにも上流階級の教育を受けてますよって感じだ。


 まあ、上司貴族より高級感のある服を着ていることからも充分にそれは伝わってきたが。


「っ!」


 俺たちの対面に来るのを察した上司貴族が飛び上がって脇に避けた。

 こっちはギャグアニメでも見ているかのようなドタバタぶりだ。

 慌てていたせいかソファーに膝裏を引っ掛けてしまったしな。


 しかも単に転倒しただけではなく──


「うわああぁぁぁっ」


 と叫びながら背中から倒れ込んで後ろにゴロゴロと転がっていく。

 高価そうな調度品の置かれた台を直撃するコースだ。


『あー、まずいな』


 別の騒ぎになっても面倒なのでシュバッと割り込んで足で止めた。

 行儀が悪いが仕方あるまい。


 あまり非常識なスピードを出す訳にもいかないからな。

 サッカーボールをトラップする感じに似ていると思ったのは内緒だ。


 まあ、この場にいる面子ではサッカーなんて分からんだろうけど。


『おや?』


 上司貴族が失神している。

 転んだ直後に頭を打ったようだ。


 拡張現実で表示させてみたが問題なさそうなので放置することにした。

 止めた後のことまでは面倒見切れない。

 向こうが、どうにかすべきことだろう。


 オッサンが苦笑しながら護衛の1人に指示を出して部屋の外へと運び出した。


「迷惑をかけた上に騒がしくしてしまったな」


 オッサンが苦笑しながら言った。


「いいえ」


 ツバイクがオッサンの言葉に応じている。

 俺は応対しなくて良さそうだ。


「まずは座ろうか」


「はい」


 呼びかけを受けてツバイクが返事をした。

 そして俺たちは席に着く。

 オッサンの背後にいる護衛たちは立ったままだが、これは当然のことだろう。


 普通なら気にしないところなんだけれど……

 なんだか護衛たちの表情が硬い。


 入室してきた時とは明らかに違う。

 余裕がないように見えるのは気のせいではなさそうだ。

 視線は前方の何でもないところへ向けようとしているのだが、チラ見されている。


『ん? あれ?』


 もしかすると、やらかしたのだろうか。

 先程のトラップはそんなにスピードを出したつもりはなかったのだが。

 ちょっと飛び出して無理のない動作で止めただけだし。


 護衛の面々は誰も動こうとしなかったんだから、しょうがないよな。

 それとも動いたこと自体がマズかったのだろうか?


 護衛対象の前だったし、それはあるかもしれない。

 俺が動いたせいで逆に緊張を強いた恐れもある。


 それにしては俺に対して殺気を放ったりしていないのは何故なのか。

 勝手に動くなとか言われた訳でもないし。

 護衛たちの反応が薄すぎて訳が分からんのだが。


 というか、判断がつかない。

 向こうのオッサンは平気そうなので問題はなさそうだけれど。


 念のためにツバイクの方も見ておいた方が良いかもしれない。

 そう思って視線を変えずに【天眼・遠見】スキルでツバイクの方を確認してみた。


『何ともないよな』


 こちらは平然としている。

 まあ、護衛たちに敵意を向けられている風ではないので黙っておくことにした。


「随分と久しいな、ツバイク王子」


 オッサンがそんな感じで話し始める。

 上司貴族ゴロゴロ事件は問題にならなかったし本題に入ろうってことだろう。


「王子は私のことを覚えているだろう?」


「はい、御無沙汰しております」


 そう挨拶をするところを見ると2人は知己の間柄であるようだ。

 ツバイクの身分を考えれば不思議でも何でもない。

 この国はアカーツィエ王国からすれば隣国な訳だし。


「ハハハ、本当に久しぶりだ。

 ツバイク殿はまだまだ子供だったからな」


「恐縮です」


 ツバイクと軽く挨拶代わりの会話をしてからオッサンが俺の方を見た。


「ところで、こちらの御仁を紹介してもらえるかな」


「はい」


 ツバイクが応じた。


「その前にまずお伺いしたいのですが」


「何かな?」


「ミズホ国という国を御存じでしょうか?」


 オッサンはしばし考え込んでから──


「いや、初耳だな」


 そう返事をした。

 まあ、うちの知名度などこんなものだろう。

 変に有名になるよりはマシだとは思うが。


「ジェダイト王国が併合された話はどうでしょう?」


「それなら知っておるよ」


 鷹揚に頷いてみせるオッサン。

 いかにも偉い人って感じでありながら自然な感じで鼻につくところなどはない。


 オッサンが少し考え込んでから「ふむ」と呟いた。


「なるほど、それがミズホ国か」


「そうです」


「では、こちらの御仁はミズホ国の?」


「そうです。

 ミズホ国の賢者王ハルト・ヒガ陛下です」


『ぶほっ!?』


 どうにかリアルで吹かずに済んだ。

 賢者王って何だよと言いたくなったさ。


 おまけにツバイクはレアな称号を持っている。

 そういうタイプが個性的な評価をすると……


『やっぱりぃーっ!』


 俺に[賢者王]の称号がついてしまった。


 何処が賢者なんだというツッコミが四方八方から聞こえてきそうである。

 が、俺は被害者だ。


 勘弁してくれと抗議したいくらいなんですけど?

 そうもいかないけどな。

 称号なんてそうそう公表できるものでもないし。


 え? そんなことよりツバイクのレアな称号が何かって?


『……………』


 称号をスルーしてくれるならありがたい。

 そんな質問くらい、幾らでも答えちゃおう。

 ツバイクの称号は[紙フェチ]だ。


 え? 予想通りすぎてつまらん? まるでレアじゃない?

 そんなこと言われてもな。


 こんな称号が他の誰につくんだよって話にならないか?

 スイッチが入った時のHENTAIっぷりは普通じゃないと思うのだが。

 リアルであれほどのフェチが入った者なんて、そうそう見られるものじゃない。


 アニメとか漫画の世界なら、いそうな気はするけど。


「ほう、賢者王とな」


 興味深げな様子を見せるオッサンは特に慌てた風もなく応じている。

 後ろの護衛たちは血相を変えていたけれど。

 俺が王族だと聞いて動揺してしまったようだ。


『ツバイクも王族なんだがな』


 彼らが慌てる理由が今ひとつ理解不能である。


「生憎と俺はそんな風に言われるほどの者じゃない」


「御謙遜を」


 ついてしまった称号は仕方ないとしても、リアルの否定さえ許してもらえないとは……


「いずれにせよ、失礼した」


 一泊の間を置いてオッサンは軽く咳をした。


「我が名はハイラント・フュンだ」


「フュン王国の国王陛下です」


 ツバイクの補足が入った。


「ハルト・ヒガだ」


 向こうから握手を求めてきたので応じつつ自分も名乗っておく。

 オッサン改めハイラントはニカッと笑ってみせた。

 イケメンって感じじゃないが憎めない感じのオッサンである。


「さっそくだが配下の不始末は間違いなく処断することを約束しよう」


「それはどうでもいい。

 こちらは身分を伏せて訪問しているからな」


 本来であれば、そのことを咎められても仕方ないのだ。

 密入国ではないとはいえ、冒険者として来ているし。


 嘘の申告はしていないとはいえ身分は明かしていない。

 あらぬ誤解を招くような真似をしているのは事実である。


 それこそ逮捕された衛兵隊長が言ったように宣戦布告に等しいと言われても仕方ない。

 奴はそのことを見抜いた訳じゃないのだけれど。


 まあ、一応の保険は掛けてある。

 ツバイクに同行してもらうことでな。


 自分の名前を出せば何とでもなるとか自信満々に言っていただけのことはあった訳だ。

 こうして国王自ら出張ってくるんだからな。

 しかも、かなり迅速な動きだったし。


 最初に応援を呼びに行った衛兵たちの1人が直に報告に行ったとしか考えられない。


『ただなぁ……』


 正体を明かさざるを得ない状況になったのは失態だ。

 衛兵隊長のようなイレギュラーが出てきたとはいえね。

 お忍びで祭りを楽しもうとしても簡単ではない。


 [トラブルサモナー]の称号は伊達ではないってことだ。


読んでくれてありがとう。

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