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1438 ガブローの受難

 ジェダイトシティの領主を任せているガブローに呼ばれて跳んできました。

 北の隣国であるアカーツィエ王国から来た親善大使と謁見するために。


 謁見というと偉そうでガラじゃないんだけど、一応は王様なのでね。

 何故かゾロゾロと何人もついて来たりもするんですが。


「後学のためにね」


 トモさんはそんなことを言っていたが──


「面白そうだと言っていたじゃないですか」


 と奥さんのフェルトにツッコミを入れられていた。


「ぐはっ」


 わざとらしくダメージを受けたような悶えっぷりを見せるトモさん。


「それを言ってしまうと野次馬みたいじゃないくわっ」


「何よ、その猿芝居」


「みたいじゃなくて野次馬だと思うよ、トモくん」


 マイカとミズキにツッコミを入れられている。

 まあ、それがトモさんの狙いなんだけど。


 そのまま姉弟漫才を始めているし。

 お陰で賑やかな感じになっている。


 いや、賑やかなのは他にも面子が大勢いるからだ。

 奥さんたちが談笑している。

 子供組はマリカやシーダと一緒になって走り回っている。


「どうしてこうなった?」


「後学のためですよ」


 エリスがそんなことを言ってきたけど、それトモさんと同じこと言ってるよ?

 それにアナタは後学とか必要ないでしょうが。


「いや、こういうのは未経験じゃないよね」


 元王女なんだからさ。

 いくら出奔することになったとはいえ何回かは経験あるでしょうに。


「王妃としては初めてですが、何か?」


 しれっとそんなことを言ってくれちゃうし。


 だけど、今の言葉で何を目的としているかは分かった。

 まるで楽しいイベントを待ち望んでいるかのような目をしているからな。


 要するに除け者にするなと言いたい訳だ。

 同席させないなんて言わないでしょうねと無言のプレッシャーまでかけてきているし。


『そこまでするのか』


 何を楽しみにしているのか俺にはサッパリだ。

 晩餐ならまだ分かるんだけど。

 堅苦しい挨拶とか俺としては回避したいくらいである。


「同席するなと言ってるんじゃないんだよ。

 むしろ、フォローしてくれると助かるんですが」


 ガンフォールの補佐は望めないからな。

 ジェダイトシティの駅まで一緒に跳んできたのはいいんだけど……


 こっちは他の皆と違ってワクワク感がない。

 あるのはムカムカとした噴火寸前の感情だけだ。

 背後からズゴゴゴゴとか地響きのしそうな音が聞こえてきそうなほどである。


『これ、大丈夫か?』


 密かに心配をしていると、側近を引き連れたガブローが早足でやって来た。


「お待たせして申し訳──」


「こぉのバカ孫があっ!」


『あー』


 止める間もなく姿を見せたガブローへ突進していくガンフォール。

 猪突としか言いようのないダッシュだ。


 いや、猛牛か。

 横に振り上げた腕が闘牛の角のようであった。


 二の腕がミシッと音を立てたかのように盛り上がる。

 渾身の力が込められたのだろう。

 そのままガブローの顎の下に吸い込まれていく。


 ズドッ


「おごぉっ!」


 ラリアットが綺麗に決まった。


『あー……』


 この時点で謁見の補佐さえダメになったと諦めたよ。


「わしに報告せんとはどういう了見じゃあっ!」


 とか吠えて、ラリアット状態のままガブローを連れ去っていったし。

 慌ただしいったらありゃしない。


 行き先は領主の執務室だろうけど、あの様子じゃ呼び戻すのは無理だ。

 ガンフォールは完全に頭に血が上っている。

 客人に見られたらどうするつもりなのかとかは頭の片隅にもないだろう。


「追いかけなくていいのか」


 ガブローの側近に声を掛けるが頭を振られた。


「いえ、陛下を御案内しないといけませんし」


 普段なら勝手に城内を歩き回るのだが、今日はそうもいかない。


「お客様がいらっしゃいますので」


 謁見の間に行く前に鉢合わせなんてみっともないことはできないのだ。


「本来であればガブロー様が陛下を御案内するはずだったのですが……」


「ガンフォールに連行されていったからなぁ」


 どう考えても謁見までに解放されるなんてことはあるまい。


「はい」


 苦笑のような同情するかのような曖昧な表情をする側近。

 ガブローがどういう目にあうのか想像がつくのだろう。


 まあ、元々はガンフォールが自分たちの王だったもんな。

 性格とかも知り尽くしている訳で。

 ガブローがどういう風にどの程度まで締め上げられるのか把握できていると思う。


「半日は無理でしょう」


 なんて言ってるし。


「半日もか?」


 さすがに盛ってるだろうと思ったさ。


「ハマー様のように殴られる覚悟があるなら、早々に解放されるとは思いますが」


「あ、あれって、わざと殴られてるんだ」


 ガス抜きになっているらしい。


「その方が時間を短縮できますから」


 それは知らなかった。

 間の悪さがクセになってるところがあるからな。


 たぶん常態化して麻痺してる部分はあると思う。

 でなきゃ黙っていれば叱られない状況で言わなくていいことを言ったりはすまい。


「で、黙って説教を聞くなら半日がかりだと」


「場合によってはですが」


「幅があるんだな」


「今日は長いと思います」


「ガンフォールの機嫌が悪いからか」


「そうですね……」


 側近の返事は歯切れが悪かった。

 まあ、下手なことを言うと自分までとばっちりを受けかねないからな。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 結局、ガンフォールやガブロー抜きで謁見の間に向かいましたよ。

 隣国の王子様と挨拶するために。


『今頃は締め上げタイム真っ最中かー』


 なんて考えながら。

 ガンフォールの機嫌を悪くしたのは俺だからな。

 ガブローには申し訳ないことをした。


 で、南無ーな心境のまま王子様と御対面となった。


「お初にお目にかかります。

 アカーツィエ王国より──」


 悪いけど以下略って感じだ。

 口上が長かったからね。


 使者としての礼儀に則ったものなんだろうけど。


 とりあえず途中で遮るのはやめておいた。

 なんか生真面目な雰囲気が伝わってきたからね。


 若いのに堅苦しいというか。

 たとえるなら優等生の生徒会長がイメージに近いと思う。


 見た目は典型的なドワーフなんだけど。


『久々にドワーフらしいドワーフを見たな』


 うちのドワーフたちは上位種に進化してるから、それっぽく見えないのだ。

 背丈が伸びて少しスマートになってるもんな。

 体重がそのままで縦に引き延ばした感じである。


 こんな感じで別のことを考えながら聞いている振りをした。

 テキストログを確認できるからこその芸当だ。


 もちろん、そろそろ挨拶が終わるかなってタイミングでログを読み込む必要がある。


 【速読】スキルがあるからこそできる芸当だ。

 それと【多重思考】と【千両役者】スキルな。

 これがないと誤魔化しがきかない。


 聞き流しはするけど、ある程度は確認しないと挨拶が終わるかどうかなんて分からんし。

 不真面目な態度を取っていたら先方に気取られることになりかねんしな。


 え? 充分に不真面目だって?

 否定できないのがツラいね。

 どんな理由を並べても言い訳になってしまうし。


 それに、堅苦しいのが苦手だというのは言い訳にもならないもんな。

 向こうの王子様に気取られないように注意しているから見逃してほしいところだ。


 自分の名前を言うだけでも、そこそこ時間がかかってたし。

 朝礼で長々と話をする校長先生かとツッコミを入れたくなったほどである。


 ちなみに王子様の名前はツバイク・アカーツィエと言うそうだ。

 テキストログから先に拾い上げておいた。

 これくらいは把握しておかないとね。


 で、気になったので【天眼・遠見】スキルでガブローの様子も見ておく。


『うん、紛うことなきお説教タイムだな』


 ハマーのように頭にたんこぶは作っていないようだけど。

 側近の情報通りだ。


 空気を読んで余計なことを言わないだけで被害は最小限に抑えられる。

 ただし、忍耐を要す。


 メンタルにはダメージが入るような気はするんだが。

 精神的に打たれ強くなりそうだ。


 そう考えるとハマーのように殴られるのも耐性をつけていると言えなくはないのか。

 少しも慣れていないようにしか見えないが。


 なんにせよ、音なしでも当面は終わらないって雰囲気がビシビシ伝わってくる。


『すまんな』


 俺には心の中で詫びることしかできなかった。

 半日のガミガミは神経をすり減らしそうだもんな。


 俺は王子の挨拶だけで気疲れしてるくらいだし。

 ガブローよりは重圧も長さも軽いと思って待つしかない。

 半日も挨拶の口上が続くなら、さすがに止めるがね。


読んでくれてありがとう。

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