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1437 何か忘れてない?

 モースキーでの後処理も終えたはずだが、何かが引っ掛かる。

 帰りたくてたまらないんだけどな。


 気疲れしている証拠だろう。

 ならば早急に帰るに限る。

 カーターも仕事が山積みになっていくと言っているしな。


「仕事が増えるのは嫌なものだな」


「うん、嫌だ」


「逃避したいが逃げる訳にもいかないんだよな」


「そこなんだよねー」


 カーターが苦笑する。


「早く帰らないと仕事が溜まっていく一方だし」


「なら、超特急で帰るとしよう」


『ん?』


 自分で言った言葉に引っ掛かるものを感じた。

 しかしながら、それが何なのかが分からない。


「ハハハ、超特急とは面白い言葉だね」


 笑いながら言ったカーターの言葉に意識を引き戻された。


「そうか?」


 言ってる意味が分からない。


「特急は特別急ぐから特急なんだろう?」


「そうだけど」


 本当は特別急行の略称だが、そういうことにしておく。

 西方には列車なんてないからな。

 カーターは知ってるけど、そういう細かなことは知らないし。


「その上、超まで付けちゃうんだから」


 そう言ってカーターは再び声を出して笑った。

 ユニークだと言いたいようだ。


 言われてみれば、そうかもしれない。

 カーターにとっては急行に馴染みがないからな。


 そして超も特別も似たような意味の言葉である。

 無意味に重複させているようにしか思えないのだろう。


 そこを説明するのは骨が折れそうだ。

 という訳で──


「それだけ急ぐってことさ」


 適当に流すことにした。

 逃げたとも言う。


「なるほど」


 カーターが楽しげに笑った。

 納得してくれるなら、それでいい。

 わざわざ急行とは何かから説明せずに済むからな。


 列車の運行システムから説明するとなると面倒どころの話ではない。

 おまけにミズホ国では日常的に列車が運行されているとか誤解されかねないし。


 駅はあるが、それは瞬間移動の転送用であって列車用ではないしな。

 誤解が誤解を生んで収拾がつかなくなっては堪ったものではない。


 ならば、大幅に略してしまった方が楽である。

 聞かれないならノープロブレム。

 納得した上に楽しい気分になるなら、それでオッケーだ。

 誰も不幸にはならない。


「とにかく帰ろう。

 さあ、帰ろう」


 何故だか御機嫌状態になったカーターである。

 帰れば修羅場が待っているというのにね。


 その様を見ていると、俺が感じた引っ掛かりなど些細なことのように思えてきた。


『まあ、いいか』


 そのうち思い出すはずだ。

 考えるのはその時でいいだろう。


 忘れられている者たちにとっては災難でしかないのだけれど。


 そう、俺は失念していたのだ。

 モルトたちのことを任せたガンフォールたちドワーフ組のことを。


 その後どうなったかは語るまい。


 いや、やっぱりちょっとだけ。

 爺さん公爵に絞られたカーターのことが他人事ではなくなったとだけ言っておこう。

 南無~。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 モルトの件も片付いた。

 ガンフォールが尽力してくれたお陰で面倒なことにもならなかったし。

 めでたしめでたしな感じだ。


 その後、カーターにも紹介した。

 これはWinWinな感じで双方に喜ばれたさ。


 俺はガンフォールのお小言のお陰で落ち込んでいたけれど。

 まあ、自業自得なので仕方あるまい。


 すべては丸く収まった……のだろうか。

 カーターは相変わらず仕事漬けだし。


 ヴァンも慣れない仕事に苦戦中らしい。

 ただ、これでも苦戦で済んでいる状況だと聞いた。

 ファックスを設置していなければ、シャレにならなかったらしい。


 まあ、経験どころか予備知識もないままに実務の場に放り込まれた訳だからな。

 それもトップとして。


 もちろん研修などもしていない。

 下っ端なら分からないことがあっても現場で誰かに聞くこともできただろう。


 だが、自分が聞かれる立場である。

 それ何て無理ゲーというものだ。


『一足飛びに出世なんてするもんじゃないな』


 その話を聞いた時は同情を禁じ得なかったさ。

 そんな訳でゲールウエザー王国から派遣する人材が確定した時は超特急で送ったよ。


 ヴァンには凄く喜ばれた。

 自ら残って国の復興に尽力することを選んだシュワちゃんたちにもね。


 まあ、ヴァンが責任者から解放されることはなかったけどね。

 コロコロとトップを入れ替えるのは良くないってことで。

 派遣した人材がフォローしつつ教育していく形で落ち着いた。


 ちなみに派遣された教育係は代替わりで引退した貴族たちである。

 声を掛けたら思いのほか集まったらしい。

 それだけ暇を持て余していた訳だ。


 故に数々のメリットがある。

 まず、ゲールウエザー王国が人材面で手薄になることがない。

 すなわち気軽に派遣できる訳だ。


 派遣された当人たちも暇から解放されることで生き生きとしているようだし。

 そのお陰で報酬などは少なくなっている。


 特に当人たちは無償で構わないとさえ言っているほどだった。

 中には金を払うから長く仕事を続けさせてくれと言う者までいたのには驚かされたよ。


 理由を聞いて納得できたけど。

 暇な隠居生活に戻るのが死ぬほど嫌なんだそうだ。


『地獄だとまで言っていたからなぁ』


 暇すぎると人は心の均衡を壊してしまうらしい。


 さすがに仕事をしてもらうのにお金を受け取るのはおかしいと諭されていたけどな。

 そんな訳で本人への報酬は格安ということになった。


 およそ貴族に支払われる報酬とは思えない額だそうだ。

 細かなことまでは聞いていない。


 だが、金銭的な負担が少ないのはエーベネラント王国にとってありがたいことだろう。

 予算については人手不足の次に悩まされている問題だからな。


 そして、派遣された者たちの就労期間は自由に設定できるという案が採用された。

 別の言い方をすると、辞めたければ何時でもどうぞということだ。

 最終的に誰も短期で辞めようとはしなかったんだけどね。

 それはまた別の話である。


 あと、好きな時に休暇が取れるようにしたのも良かったようだ。

 孫の顔が見たいという要望でも「はい、どうぞ」で休めることに驚かれたが。

 そのリアクションで思ったのが──


『日本のシルバー人材センターに近いな』


 ということ。

 シルバーという字面で分かると思うが、高齢者の雇用促進を行う公益社団法人だ。

 確か定年退職者などの生きがいを充実させることを目的にしていた気がする。


 今回の人材派遣とは共通点が多い。

 老人のみを採用している上に収益を上げることを目的としていないしな。


 なお、今回の件が糸口となって人材交流が活発化するのだが、それはまた別の話である。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 忘れてはいけない用件がもうひとつあった。

 ジェダイトシティの北方に位置する隣国の親善使節団だ。

 国王の名代として王子が大山脈を南下していたのだが。


『親善使節団が到着したので来ていただけませんか』


 ガブローから電話連絡が来た。

 そんな訳でガンフォールに声を掛けて共に行くことにした。


 ただ、こちらには連絡は来ていなかったようで……


「あのバカ孫が」


 ガンフォールはいたく御立腹であった。

 せめて報告ぐらいはしろと言いたいらしい。


 何かあると指導を受けるために相談しているのに、こういう時に連絡なしはマズかろう。

 しかも、極めてタイミングが悪い。


 俺がやらかしたというか忘れていた後だからな。

 ガンフォールは御機嫌ななめのままだったんだよ。


「客人が来ていることを忘れんようにな」


 俺も罪悪感があるからフォローは入れたつもりだ。

 あまり過剰に庇うと逆効果なので、この一言で終わらせたけど。


「分かっておるわ」


 不機嫌そうに言われても、不安になるだけである。

 あわよくば親善大使である王子との対面は任せようかと思っていたのだが無理っぽい。

 怒った顔で応対されると相手が畏縮しかねん。


 そんな訳で俺が親善大使との応対をメインでするのは確定となった。

 良きに計らえな感じで後ろに控えていようと思ったのだけど目論見は潰えた訳だ。


 これも自業自得なんだろう。

 トホホな心境である。


読んでくれてありがとう。

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