1433 戦闘の結末は
塊ゴーレムたちの連携魔法はそれまでの魔法とはまるで違うものだった。
一瞬、レーザー光線かと思ったほどだ。
しかしながら、よくよく見てみればグランダムのビーム兵器に近い気がする。
いずれにしても今までとは一線を画した威力はうかがえた。
入念に下準備をした本命の攻撃だけはある。
故にモニター越しでもそれは伝わったのだろう。
「「「「「ひいぃっ!」」」」」
「「「「「うわあっ!」」」」」
「「「「「ぎゃあっ!」」」」」
見ている者たちは、ほぼ全員が叫んでいた。
悲鳴は種々様々といった感じではあったが。
例外はカーターとヴァンくらいのものだ。
「おおっ、凄いね。
ピカッと光ったよ!」
驚きはしたけど、はしゃぐように喜んでいるカーター。
さすがにヴァンはこういう反応は見せなかったけどな。
立場上の問題もあるし、性格的にもそういうタイプじゃないからね。
それでも護衛の騎士たちのように恐怖で表情を歪めたりはしなかったが。
発射の瞬間こそ険しい表情を浮かべていたが。
その後は無表情に戻っていた。
ミズホ組のことを信じてくれているようで何よりである。
並みの胆力ではないというのもあるんだろうけど。
護衛の騎士たちと差が出てしまったのは、そのあたりなんだろう。
どれだけミズホ組を知っているかというのもあると思う。
同じように胆力のありそうなシュワちゃんがダメだったからね。
みっともなく慌てふためいたりはしなかったけど。
表情を隠すことができず驚愕と畏怖を色濃く顔に張り付けていたからな。
だが、これでもモースキー組の中では最もマシな部類だったのだ。
中には卒倒するんじゃないかって思える者もいたからね。
倒れそうになるくらい仰け反ったり。
咄嗟にしゃがみ込んで頭を抱えたり。
引き付けを起こしかけている者までいた。
まあ、発射の瞬間から爆発したかのような発光現象があったから無理もないかもだけど。
『そこまでビビるか?』
自分が直に攻撃された訳ではないのだ。
それだけ臨場感があったということかもしれないが。
とはいえ、塊ゴーレムどもの攻撃がミズホ組に通用するかどうかは別問題である。
水煙が薄れ行く中で放たれた幾筋もの光線。
多くの者たちはミズホ組に直撃すると思い込んでしまったようだ。
が、それならば何も起きていない現状をどう説明するのか。
少し問い詰めてみたくなった。
「ほら、大丈夫だ」
俺がそう言うと、一斉にこちらを見てきた。
怪訝な表情で「なに言ってんだコイツ」と目が語っている。
あんな攻撃をしてきて何処が大丈夫なのかと言いたいのだろう。
モニターの方などそっちのけである。
『どんだけ動揺してるんだよ』
現状確認することさえ頭からすっぽ抜けるほどとはよほどである。
完全に全滅したと思い込んでしまっているようだ。
今もなお光線の攻撃は続いているというのに。
全滅しているなら攻撃続行する理由などあるまい。
それすら考えられなくなっているようだ。
「敵の攻撃など、ひとつも届いていないよ」
真っ先に気付いたカーターが言った。
「「「「「ええっ!?」」」」」
信じられないとばかりに驚きを露わにする一同。
そんなバカなという思いがあるのだろう。
凄い勢いでモニターへと視線を向けていた。
「「「「「うわっ!」」」」」
またしても驚く一同。
今更のように光線の攻撃が続いていることを認識してのものらしい。
「まだ続いていたのかっ」
「どうなってるんだよ」
モニターを見つめる面々とは違ってミズホ組は慌てることなく結界で光線を止めていた。
「何か手前で止めてる感じだぞ?」
モニターで見ているはずなのに、その発言をしたモースキー組は疑問形で語っていた。
見たものが信じられないといったところか。
あるいは何をどうすれば、そんな真似ができるのか見当もつかないからか。
「あんなの、どうやって止めてるんだ?」
別のモースキー組がちょうどそんな発言をしていた。
「俺に聞くなよ」
「魔法ということしか分からんな」
「どんな魔法だよ」
「風の魔法じゃないのか?」
「風魔法でどうやって、あんな攻撃を止められるんだよ」
「凄い風とか?」
「そんな風が吹いているようには見えんがな」
「じゃあ、分からん」
「最初からそう言えばいいじゃないか」
「そう思うなら聞くなよ」
何がどうなっているのか分からないが故に変なことで揉めていたりもしている。
「そんなことより、あれは本当に大丈夫なのか?」
別のモースキー組が発した言葉がざわめきを止めた。
よく見れば最初から気付けたことだ。
ミズホ組はただ光線を止めているだけだと。
一切の反撃はしていない。
そして各々の前面に光線の光が蓄積していく。
ジワジワと膨れ上がっていく光の玉。
「な、なあ……」
「なんだよ?」
「あれって、どうなんだ?」
「だから俺に聞くな。
魔法のことなんて分かるかよ」
揉め事の再燃かと思われたが、不安げな表情をしているモースキー組にその気配はない。
「ヤバそうに見えないか?」
「そんなこと言われてもな」
「耐えるしかないのか?」
誰も彼もが怯えていた。
「それにしては涼しい顔をしているように見えるんだが」
中にはミズホ組の様子を見極められる者もいるようだが。
ただ、見極めたからといって安堵しているようには見えない。
何か縋るような目を向けている感じだ。
「あれは余裕があるからなんだよな?」
周囲にいる仲間に聞いているが、太鼓判を押せるような者はいない。
「分っかんねえよ」
「やせ我慢しているということも……」
「不吉なことを言うなって」
「そうは言うけどよぉ」
魔力を感知できない面々からすると見ているだけでも心臓に良くないようだ。
「本当に大丈夫なんですか?」
強張った顔をしてシュワちゃんが聞いてきた。
厳つい顔のオッサンがビビっているのが、ありありと分かってしまう。
が、誰もそれを笑うことはできない。
表情や態度よりも聞いた内容に意識を向けている。
しんと静まり返って耳をそばだてていた。
「心配はいらんよ」
としか言い様がないんだけどね。
ミズホ組が何をしているのか説明したとしても理解が及ばないだろうからな。
信じてもらえそうにないというのもある。
まあ、この一言だけで信じろと言われても無理があるのも事実なんだが。
誰も彼も不安そうにしたままだったし。
「結界の強度がどうとか説明して理解できるなら、いくらでも説明するが?」
「「「「「うっ」」」」」
指摘されるとタジタジになってしまう。
そうは言っても、俺が堂々としていることもあって少しは不安な空気が薄らいだようだ。
「見ていれば、そのうち分かる」
「そうなのかい?」
カーターが聞いてきた。
説明されても理解が困難であるなら見ていても理解できないのではと思ったのだろう。
確かにそういうこともあるが、今回のケースは逆だ。
「うちの精鋭が黙って耐えるだけだと思うか?」
カーターにはこう言えば充分に伝わるだろう。
「なるほど、即座に反撃しないことに意味があるんだね」
そう言うと考え込みながらモニターに見入り始めた。
「カーター、そんなに考えている時間はないぞ」
「え?」
「そろそろだ」
「ここから反撃が始まるのかい?」
「ああ、ほら」
俺が指差し、その先を追うようにカーターがモニターを見た瞬間。
パンパンに膨れ上がった光の玉が弾けるように閃光を放った。
「「「「「うわっ!」」」」」
連携した塊ゴーレムどもが光線の攻撃を始めた時よりも光が強い。
今度は先程の爆発を超えていた。
言うなれば爆裂だろうか。
モニター越しで瞬時に調整されていたから叫ぶだけで済んだことだけは間違いない。
直に見ていたら失明者が続出していたことだろう。
そんな状態でもミズホ組は問題ないんだけどな。
上位種だから耐性があるというのがひとつ。
それに加えて瞬間的に視覚を調整できるからな。
サングラスいらずだったりする訳だ。
そして、光の奔流が収まった。
「「「「「………………………………………」」」」」
モニターに見入っていた者たちは動かない。
唖然とした表情のまま固まっていた。
眩しさに目を開けていられなくなったところまでは良かったのだ。
思わず目を閉じたのも。
光を感じなくなって、もういいかと瞼を開いたら……
「ハルト殿、宙に浮いていたゴーレムが消えているよ」
カーターの言うような状態になっていた。
訳が分からず呆然としてしまうのも無理からぬことだろう。
読んでくれてありがとう。




