1432 デカけりゃいいってものじゃない
四方八方から壁を突き破ってきたそれは塊であった。
あえて言うならレモンかラグビーボールといった形状をした何か。
とてもではないが、ゴーレムには見えない。
「「「「「おおーっ!?」」」」」
格納庫内に驚きの声が響く。
「あれは何だい?」
カーターが目を丸くさせながら聞いてきた。
「何って、ゴーレムだが」
魔力の反応からも、それは間違いない。
ただ、あまりの変わりようにカーターでさえ唖然としていた。
「あれが!?」
更に目を見開いて驚いている。
まあ、気持ちは分からんでもないがね。
ゴーレムの見た目が人型ですらなくなっていたし。
随分と意表を突いてくれたものだ。
結局、腕や脚は無用という結論に達したらしい。
まるで「あんなの飾りです」とか言い出す何処かの整備兵みたいだと思ったさ。
整備兵じゃなくて開発担当の技術士官だったっけ?
いずれにせよ、その後に続く台詞は「偉い人にはそれが分からんのですよ」だよな。
ただ、腕まで飾り扱いになってしまったのはどうかと思うのだが。
それと大きさは明らかに小さくなっていた。
サイキックグランダムに匹敵するサイズにまで合体したのは何だったのかと言いたい。
方向性が間違っていると判断して大型化の対応策は切り捨てたということなんだろう。
それでコンパクト化するだけでなく分離後は変形までしたと。
まあ、飾りを削った状態でも元のサイズよりは大きいが。
あと削りすぎだ。
近接戦闘は徹底して除外しようというのだろう。
だからこそ塊は宙に浮いた状態を維持している。
よく見ると幾つか穴の空いており、そこから空気を噴出しているようだ。
それでもあの大きさが浮くには無理があるように思える。
どうやら内部はスカスカらしい。
『装甲を厚くするより軽快な動きで回避する方を選んだか』
間違った考えとは言わないが、それだけで統一するのはどうなのか。
役割分担するという発想は乏しいようである。
そんな楕円の塊が魔法を次々に発動していく。
ある塊は火魔法。
ある塊は水魔法。
ある塊は氷魔法。
ある塊は雷魔法。
ある塊は風魔法。
種々様々な魔法をミズホ組に向けて放つ。
あちこちから繰り出される攻撃は死角をついてくる回避しづらいものだった。
『オールレンジ攻撃かよっ』
思わず内心でツッコミを入れてしまっていたさ。
グランダムでは主に敵が使ってくる攻撃手段である。
多彩な魔法での攻撃という違いはあるがね。
「む」
火魔法と水魔法が他の魔法よりタイミングが少し早い。
そしてミズホ組が布陣する場所の中央付近に集中している。
ただし、その軌道は何もない空間を狙っていた。
誰かに直撃するということはないだろう。
特定の誰かを狙ったものではないのは明白だ。
一斉に着弾していく火魔法と水魔法。
ドドドドドドオオオォォォォォン!
辺り一面が真っ白になっていく。
水煙がミズホ組を覆っていった。
『水蒸気爆発か』
なかなか凝った攻撃方法だ。
目眩ましをかけた上で残りの魔法をぶち込もうという腹積もりらしい。
火魔法で直撃を狙わないなどトリッキーもいいところだろう。
視界を奪うためだけに火力の高い攻撃を使うのだからな。
心理的な揺さぶりをかける目的もありそうだ。
意表を突くことで隙を生じさせることができれば後に続く魔法も命中させやすくなる。
そこは当てるだけではなく大きなダメージを入れることも目論んでいるに違いない。
だからこそ、タイミングをずらして魔法を撃ち込んできたのだ。
こんなところでも連携は取れているのかと感心させられたさ。
しかも、思った以上に考えてきている。
並みの相手なら一方的に魔法を叩き込まれて終わったものと思われる。
現に氷魔法は風魔法の斬撃を受けて細切れになり。
更に別の風魔法で吹き飛ばされて勢いを増しつつ拡散していた。
その上、雷魔法で帯電した状態だ。
なかなかの威力になっている。
そんな中でモニターから聞こえてくる音声があった。
『ビリッときたニャ~』
『ビリビリだよぉ』
『刺激的なの』
『『炭酸水みたい』』
子供組のものだ。
どうやら魔法で防御はせず素手で弾いたようだ。
「あの子たちには毎回のように驚かされるね」
呆れたようにカーターが言った。
「まるでダメージが入ったように思えないんだけど」
「あの程度ではダメージにならないからな」
だから結界で防いだり、魔法で相殺したりはしなかったのだ。
ただただ手で弾いただけである。
躱してさえいない。
子供組に限らず、他のミズホ組も同様であった。
まあ、水煙に紛れてモニターで見る限りでは何がどうなっているのかは分からないが。
「ハハハ……」
俺の返事を受けて乾いた声で苦笑を漏らすカーター。
「見えなくても不安を感じないね」
「向こうも本腰を入れるだろうけどな」
「様子見だったと?」
「ちょっと違うな」
魔法を放って終わりではないのだ。
間髪入れずに次の魔法を撃ち込むつもりということにカーターは気付いていない。
まあ、攻撃に不参加だった塊は待機や護衛しているように見せかけていたからな。
なかなか巧みな偽装っぷりである。
ただし、微動だにしないのであればという条件がつく。
少し位置取りを工夫するだけで埋没するように待機することは不可能ではないだろう。
が、どの塊もミズホ組の頭上を包囲しつつランダムに飛び交っているのが現状だ。
的を絞らせないことで反撃しづらいようにしているのは明らか。
その中で目立たぬようにするなど無理難題である。
普通は周囲と動きを同調させて差が出ないようにするくらいしかできないだろう。
それが巧みにできるのが、この塊ゴーレムどもである。
通信機能が充実している同型機ならではといったところか。
とにかく動きをリンクさせることは得意なようだ。
「ほう、それでどう違うのかな?」
「牽制と時間稼ぎってところだ」
まずは概要を伝える。
が、察しのいいカーターならばこれだけで通じるかもしれない。
「なるほど、なるほど」
カーターが大きく頷いた。
やはり通じてしまったようだ。
説明の手間が省けるから楽でいいんだけどね。
「本命は次の攻撃なんだね」
「ああ」
よく分かっている。
「しかも、それは大技で準備に時間がかかると」
「そういうことだな」
俺はモニターを指差した。
そこには魔法を放った塊が待機していた塊の後ろに下がるところが映し出されていた。
「味な真似をする」
「そうなのかい?
私には普通に入れ替わって攻撃しようとしているようにしか見えないけど」
「だから味な真似なんだよ。
奴らは本命なんかじゃない」
「え? じゃあ、護衛するように周囲をガードしているっぽいのが……」
「ああ、魔力を高めた上にリンクさせて増幅している」
「はあー、さっきのゴーレムたちとは違って演技派だなぁ」
カーターの感想に思わず苦笑いしてしまう。
「演技派ときたか」
言い得て妙ではある。
「ちょっ、それどころじゃないでしょう」
シュワちゃんが慌てた様子で言ってくる。
視線はモニターに釘付けではあるが。
どうにか俺たちの方を向こうとするような不自然な体勢だ。
気持ちは分からんではないがな。
シュワちゃんの必死さに釣られるようにしてカーターが再びモニターに視線を向けた。
「おおっ!」
モニターを見るなり思わずといった感じの歓声を上げるカーター。
「これは凄いね」
実に楽しそうな声でそう続けた。
「笑い事ではありませんよ」
シュワちゃんは顔色を悪くしている。
そうなるのも無理からぬ光景がモニターの中に映し出されていた。
護衛で連携していた塊ゴーレムどもが何組かに分かれて魔力をリンクさせている。
そのエフェクトが素人目にも分かるようになっていたのだ。
バチバチと放電している派手な見た目は誰が見ても凄そうと思うだろう。
現にカーターは、そう語っていた。
子供っぽくはしゃいだ声を上げながらではあるが。
「大丈夫だって」
カーターがシュワちゃんに向かって返事をする。
何を根拠にそう言っているのかと聞きたくなる余裕っぷりだ。
そしてチャージされた魔法が撃ち放たれる。
一直線に光り輝く矢がミズホ組に向けて飛んでいった。
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