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1431 ゴーレムたちの次の手は

「さて、次はいつ来るかな」


「待たないといけない理由があるのかい?」


 カーターが不思議そうな顔で聞いてくる。


「どう考えても、こちらから攻め込んで早々に終わらせた方がいいと思うんだけど」


「人間が相手ならそうしただろうな」


「ゴーレムが相手だと、どうしてダメなんだい?」


 カーターは不思議そうに聞いてくる。

 想像がつかないのだろう。


「奴らの魔法は人間より連発がきくからだよ」


 厳密に言えば西方人よりと言うべきなんだが。

 ここにはモースキー組の他にも避難させた使用人たちもいるからな。

 未だに目覚めた者はいないが、朦朧とした感じの面子は何人かいる。

 そういう者に聞かせるつもりはない。


「うん、それで?」


 先を促された。

 まだ想像がつかないらしい。


「屋内で戦闘になった場合、問題になりかねないんだよ」


「妙な所へ魔法が飛んでいったりしかねないだろ」


「あ……」


 さすがにカーターも気付いたようだ。

 流れ弾が城を破壊しうるということに。


 まあ、実際に小ゴーレムが壁を吹き飛ばしたのを見ているからな。


「他にも暴発した魔法が周辺に被害を及ぼすことだってあるし。

 咄嗟の場合だと、対応が遅れてしまうことも充分に考えられる」


 対応するのは俺じゃなくてミズホ組なので、どうなるかは読めないんだよな。

 たぶん大丈夫だとは思うけど。


 それでも絶対はない。


「だから、城が崩れるほどのダメージが入ることもあり得る訳だ」


「だったらしょうがないか」


 落胆したように嘆息するカーター。

 一気に片をつけたかったのであろう。


 さっさと終わらせて帰りたいという気持ちは俺も分かるがね。

 カーターは特に忙しいしな。


「城が崩壊しようものなら王都が大混乱に陥りかねないし」


 ちゃんと納得して引き下がってくれたけど。


「問題は何をしているかだね」


「そりゃあ、分析して対応するに決まっているだろう」


 ゴーレムどもが合体したのも、そういうことだからだ。

 その対応策は完封されてしまったけどな。


「あー、すぐに来ないのはそのせいかぁ」


 もどかしげにカーターが言った。


「脳筋的発想オンリーの敵なら、さっさと終わらせられたんだがな」


 戦い始めると脳筋丸出しのような戦い方をするけれど。


「面倒なことだね」


 疲れの色が見える表情で嘆息するカーター。


「奇襲はないとして、ゴーレムたちはどうするつもりだろう」


 不意にカーターがおかしなことを言い出した。

 何故だか次の襲撃では奇襲がないと断定している。

 そんな風に判断できる要素は何もなかったはずだ。


「どうして奇襲はないと思うんだ?」


 何か見落としていただろうか。


「え? だって、さっきは失敗したじゃないか」


 俺の疑問にカーターは意外だと言わんばかりに目を見開いていた。


「同じ手は使わないだろうけどな」


 失敗したことだけが根拠だというのか。


「だよね」


 当然だとカーターが頷いていた。

 どうやら、そのようである。


「だが、それならタイミングを変えたり攻撃方法を変えればいいだけだと思うぞ」


 それだけで充分に奇襲となり得る。

 敵は姿を見せていないのだからな。


 ミズホ組は下手に屋内で戦闘にならぬよう偵察も出していない。

 向こうも、こちらの姿を見失ったことで警戒レベルを上げているだろうしな。


 俺も念のためにモニターに連動させたのとは異なる自動人形を引き上げさせている。


「問題は相手の不意をつくことができるかどうかだけだからな」


「失敗すれば意味がないと思うんだけど」


「成否は重要じゃない」


「ええっ?」


 カーターが目を白黒させて驚いている。


「どういうことかな?

 成否は重要じゃないって……」


 困惑しながら聞いてきた。


「失敗しても普通に戦闘になる訳だからトライしない理由にはならないさ」


「そうだろうか?」


 カーターはいまひとつ同意できないようだ。


「わずかでも奇襲が成功する確率があるなら試すだけの価値はあると思わないか?」


 ゴーレム側は制作者の記述した術式に従って動作するだけだ。

 そこに感情が働く余地はない。

 すべて理詰めで動く訳で、人のようにブレる余地はないからな。


 感情まで再現するようなAIが組み込まれているなら話は別だが。

 とはいえ警備用のゴーレムにそんなものが必要な訳がない。


 小ゴーレムが奇襲を仕掛けてきたのは単純にメリットがあると判断したからだろう。

 奇襲をしない選択をしたのであれば最初からしなかったはず。


 そして、デメリットはない。

 実際は罠が待ち受けているようなものだが。

 奇襲があることを前提でミズホ組は待ち受けているからな。


 ただ、ゴーレム側はそのことを把握していない。

 であるならば、次も奇襲を選択する可能性は極めて高いと言える。


 カーターはそのあたりをどう見極めるのか。

 今もまだ動揺した影響が残っているのであれば異なる結論に至ることも考えられる。

 当人はというと、顎に拳を当てるようにして考え込み始めた。


「失敗しても損はしないのは確かだ」


 小声でブツブツと呟いている。


「逆にトライしても成功するとは考えにくい」


 更に呟きは続く。


「何か工夫をするということも?」


 自問自答の呟きが漏れ出た。


「あり得るな」


 小さく頷くカーターさんである。


「だからこそ、先程も合体して大型化したんだし」


 完全に周囲が見えていない状態だ。

 独り言の呟きは徐々に声が大きくなって近くにいれば普通に聞こえるまでになっている。


 これが現代日本の雑踏の中での出来事であれば、変な人を見る目が向けられただろう。

 それほどまでに独り言に夢中になっているのは大丈夫なのかと言いたくなるけどね。


「更に大型化することも……」


 その呟きにシュワちゃんがギョッとしていた。

 そんなことになったら、さすがに手に負えなくなるのではなどと思ったのかもしれない。


『残念だが、既に大型化しているんだよな』


 その事実を知れば、どんな反応を見せてくれることやら。

 小ゴーレムを目一杯の大きさだと思っているだろうし。


 中サイズで倍ほどもあるからな。

 大ゴーレムなどは更に倍だ。


 シュワちゃんはともかく、モースキー組は卒倒する者が続出しそうだ。

 それを考えると結界の仕様を変更して正解だったと言える。

 一般市民がまともに目撃しようものなら……


『考えたくもないな』


 一方でカーターは、まだ独り言を続けていた。


「そうか、成功すれば儲けものと考えれば……」


 結論が出たようだ。


「リスクはないし損もしない。

 だったら、やらない方が損だと言えるじゃないか」


「そういうことだ」


 俺がカーターの結論を肯定すると目を大きく見開いて──


「えっ!?」


 これ以上ないというくらいに驚かれた。


「おいおい、まともに独り言が聞こえていたぞ」


「そうなのかい!?」


「ああ」


 途端に赤面するカーター。

 どうやら自覚はなかったようだ。


 そうこうするうちに魔力の反応に動きがあった。

 厳密に言うなら、王城内の奥まった所で忙しない変化はあったのだ。


 が、同じ場所を離れる気配だけはなかったのでスルーしていた。

 装甲の強化なり魔法などへの耐性をつけるなりの対策を施す以外に考えられないからな。


 自動人形を引き上げたので何をどうしているかは把握していない。

 【天眼・遠見】スキルを使えば手に取るように分かったと思うが、それもしなかった。


 万が一にも感知されるようなことがあると、ゴーレムたちが何をするか読めないのがね。

 余計な真似はしないに限るだろう。


「さあ、次が来るぞ」


 それなりに待たされたので、ようやくといった気持ちは少なからずある。


「いよいよか」


 固唾をのんでモニターを見つめるカーター。


『ん?』


 今まで認識していた魔力の流れと少し反応が違うようだ。


「どうしたんだい、ハルト殿?」


 カーターが微妙な顔をする俺に気付いて声を掛けてきた。


「いや、ゴーレムどもが思った以上に手を加えてきたかもしれないんだ」


「そうなのかい?」


 とカーターが聞いてきた次の瞬間のことである。


 ドガッ!


 バガッ!


 ズドッ!


 小ゴーレムたちが開けた大穴とは異なる場所から何かが飛び出してきた。


読んでくれてありがとう。

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