1392 協議の結果は……
王城担当の俺の頑張りに感心していた俺だが。
『たまたまさ』
素っ気ない言葉が返ってきた。
『貴族の子弟らしき奴らが乗り込んで遊んでたんだよ』
『『『『『ダメじゃん』』』』』
俺たちのツッコミが一斉に入った。
『玩具じゃないんだからさー』
『俺に言われてもなー』
『確かに』
そういうのは管理している連中の責任だ。
まあ、貴族の子弟なら問題視されない気がする。
動かせるなら逆に逸材とか言って重用されるかもな。
ともかく、王城に強力な兵器を置くのが有効というのは分かる。
警備上の観点からも、それは間違いあるまい。
そういう意味では王城内に入れる者なら誰でも乗り込める状態なのは考え物だが。
だとすると配備数は多そうだ。
数機程度で話に聞いた状況なら城内の警備体制がお粗末すぎるし。
『それにな』
王城担当の俺が続けた。
『セキュリティがガバガバってよりゴーレムが多すぎるんだよ』
『『『『『意味ねーじゃん』』』』』
防衛の観点からは配備しないという選択はないだろう。
が、イタズラで乗り込めるほどの状態はやはり考え物だ。
こちらとしては楽ができたんだけどな。
そのお陰で操作できる基準の魔力量が判明したんだから。
モースキーの連中からすれば敵に塩を送った格好になる訳だ。
助かったとは思うが感謝はしない。
それともした方が良いのだろうか。
宣戦布告する時に言ってみるのも面白いかもしれない。
泣いて悔しがったり……はしないだろうが、キーキー喚く奴が出てきそうである。
『予備として倉庫に仕舞われているとかなら、まだ分かるんだが』
『そうかなぁ?』
納得いかないとばかりに、もう1人の俺が言ってきた。
『玩具にされるくらい余ってるなら戦争に使った方が効率的だろうに』
『やはり、そこに行き着くよな』
配備数が多すぎると聞かされると、つい言いたくなってしまう。
ほぼ全員のもう1人の俺たちから頷く気配が感じられた。
『数百だもんなー』
『一般兵なら分かるけどさ』
古代文明のゴーレムが一般兵に毛の生えた程度の強さなんて思えない。
『警備で置く数じゃないだろ』
『巡回に使ってる訳でもないんだろ?』
『ああ、どれも置物状態だ』
『ますます意味がないじゃんか』
『そうなんだが、向こうの連中はそれを分かってないんだろう』
『許可されないんじゃしょうがないってことだな』
『モースキーの上の方は何を考えてるんだろうな?』
再びもう1人の俺たちが頷く。
『だから、まだ分かると言ったんだ。
連中の真意なんて分かる訳ないだろ』
『そうだな』
そもそも数百もの数のゴーレムを王城に置かねばならない状況が想像できない。
すべてを稼働させて侵入者を追う?
どんな大物スパイか大泥棒かって聞きたくなるよな。
中折れ帽にトレンチコートの警部を呼んで来いって言いたくなる。
まあ、某とっつぁんはアニメの登場人物なんだけどさ。
それとも大挙して敵が押し寄せる?
王都が陥落寸前じゃなきゃ考えられないのではないだろうか。
そんな事態に陥ることを想定する時点でどうよって言いたくなる。
それこそ、どうして戦争に使わなかったのかと後世の歴史家あたりに言われるだろう。
仮にそういうことがあり得たとしても必要だとは思えない。
時間を稼いで王族が隠れて落ち延びる状況を作り出すにしても過剰な戦力だ。
城内ではまともに運用できるとは思えない。
ゲームなら建造物にダメージは入らないだろうが、こちらは現実である。
強力な兵器がこぞって破壊力のある攻撃をすればどうなるか。
容易に想像がつくというものである。
それに、国としてほぼ終わっている状況でボスキャラがウジャウジャ出てきてもな。
四面楚歌に陥って反攻作戦もないだろう。
補給線が断たれた状況で戦い続けられる者などいない。
ゴーレムが如何に強くても乗り込む者は生身なんだから。
そういう状況になれば兵糧攻めされるのがオチだ。
水攻めと組み合わせれば打って出ることもできまい。
ゴーレムにホバリングの機能でもあれば話は変わってくるかもだが。
それにしたって目先の勝利すら覚束無い恐れがある。
ホバリングでも魔力を消耗するからな。
長時間の戦闘は望むべくもない訳だ。
一矢報いるのが精一杯ということも充分にあり得る。
そう考えると、形勢逆転など望めるものではないだろう。
『で、具体的にはどういう状態なんだ?』
ゴーレムが倉庫に仕舞われている可能性は否定できないよな。
だとすると、これ以上ない宝の持ち腐れである。
周辺国にしてみれば戦争に持ち出されない状況はとても助かる訳だけど。
『廊下にズラッと並んでるぞ』
それは遊ばれてしまうのも無理はない。
貴族の子弟というからには未成年だろうし。
子供なら、そういうのを見て興奮しない方が珍しいと思う。
たとえ乗り込めないように封印されていても手を出そうとするだろう。
『『『『『……………』』』』』
故に、しばし言葉を失ってしまったんだけどね。
『置物の甲冑じゃないんだからさー』
もっともな意見が出された。
甲冑と違ってゴーレムは乗り込めばすぐに起動させられる仕様のはずだ。
貴族の子弟が遊んでいたというくらいだしな。
何人かは起動させられなかったみたいだが。
『もしかして威圧したいのか?』
『訪れる者に与える心理的影響を考慮し──』
『前世紀のアニメのナレーション風に言ってもな』
『それにさー、その数だと隙間なく並べないとダメじゃないか?』
『『『『『あー、それな』』』』』
全員で納得してしまう意見だ。
城の大きさにもよるがね。
ゲールウエザーの王城ならそこまでしなくても置けそうだが。
それでも過密状態だとは思う。
『そこまでデカい城じゃないよな?』
そんな指摘もあったので皆で城の外観を確認してみた。
『『『『『あー、こりゃダメだ』』』』』
全員、一致でダメ出しである。
ハッキリ言ってショボい。
エーベネラントの王城よりも一回りは小さいと言わざるを得ない。
『これで人が乗り込むゴーレムを廊下に数百体も置けるのか?』
『どんだけ小さいんだよ』
『もしかしてアニマルカーサイズとか言わないよな』
『秋祭りの時のあれかー』
『いや、乗り込むタイプじゃそのサイズは無理だろ』
『小型のパワードスーツになってるとか』
だとしても色々と問題がありそうだ。
ゴーレムが激しく動けば腕や脚が無事では済むまい。
筋肉や関節に多大な負担がかかるのは目に見えている。
思いもしない方向に手足を引っ張られるだけで簡単に怪我をするからな。
『そりゃ、ないだろ』
『『『『『だよなぁ』』』』』
俺が否定すると、もう1人の俺たちも同意した。
『うん、ないな』
王城担当の俺も認めた。
『少なくとも全長が3メートルは必要だろ』
『そうだな、高さはそれくらいだぞ』
『速攻騎兵ボトルズのアームズトレーラーより少し小さいくらいか』
『小型タイプは3メートルのもあったぞ』
『トモさんなら機種名まで分かるんだろうけどな』
『いや、今はどうでもいいって』
『とにかく、無理のない範囲で小さくしてるのは分かった』
『それにしたってなぁ』
『置ききれないだろ』
『ギュウギュウ詰めにすれば、どうにかってレベルじゃないか?』
廊下は圧迫されるだろうが斜め向きに並べれば、いけるかもしれない。
これが自動車の路上駐車だとするなら斜め駐車である。
迷惑駐車の中でも悪名が高いが、俺は実際に見たことがない。
まあ、車じゃないんだけどな。
『無理だろ。
置物じゃないんだぞ』
いや、置物にしたって迷惑極まりない。
『そーそー。
どうやって乗り込むんだよ』
何よりその問題がある。
『上からハッチを開けて』
『……戦車みたいな感じか』
『そうだな』
『首なしとか?』
『それに近いかな。
一応、ハッチ部分にカメラとかセンサー類がついてるけどね』
アームズトレーラー風のゴーレムを想像してたけど違うようだ。
もっとズングリした無骨な感じなように思えてきた。
乗員が乗り込む箱に短い手足が生えている感じかもしれない。
『もしかして動きが鈍いとか?』
そう聞きたくなる気持ちも分かろうというものだ。
『さあな』
王城担当の俺は素っ気なく返事をした。
『見た目はそんな雰囲気あるがね。
動いているところを見てないから何とも言えないな』
人も物も見かけによらないなんてことは、よくあることだ。
油断する訳にはいかない。
突入することがあれば、皆の安全確保をしなければならないのだから。
現代の西方人が作ったものならともかく、古代人の手によるものだ。
デザイン無視で性能を優先していることも充分に考えられる。
見た目だけで素早い動きができないと高をくくるのはやめた方がいいだろう。
『なんにせよ、ゴーレムは潰しておくべきだな』
『前線で追い払われたら投入してきそうだもんな』
『そういうことだ』
戦争で使われると厄介極まりないと思う。
普通の軍隊が相手なら多大な犠牲者を出すことになりかねない。
『エーベネラントに戦争させる訳にいかないな』
『そうなると必然的に俺たちが傭兵として雇われる格好に持っていくのが望ましいか』
『『『『『だな』』』』』
結局、カーターに持っていく提案に選択肢は無くなってしまった訳だ。
追い払うのは碌な結果にならないと思う。
今回だけならともかく、負けが込むと臆病者でも業を煮やすだろう。
今後も同じ結果が続くならゴーレムが戦場に投入されかねない。
そう考えると後顧の憂いは断ち切るのが無難だろう。
改めてモースキーは潰すしかないという理由ができてしまった。
え? 過剰反応?
相手によると思うけどね。
理性的な相手なら様子見くらいはしたさ。
読んでくれてありがとう。




