1393 カーターよりも爺さん公爵が……
モースキー王国の中枢を潰すべきということを皆にも説明した。
[──という訳で、カーターの承認が得られれば徹底して潰すことにした]
「……………………………………………………」
待てど暮らせどノーレスポンス。
『静かだ。
とても静かだ』
静かすぎて大事なことでもないのに2回も言いましたよ。
何日も待った訳じゃないが、そういう心境になるくらいの無反応ぶりだ。
[何故だっ!?]
想定外の反応に思わず書き込んでしまったさ。
[坊やだからさ]
すかさず帰ってきた定番ネタ。
もちろんトモさんのコメントである。
この場にいたなら、三毛田庄一さんの物真似が聞けたことだろう。
いや、モルトたちがいるから無理か。
だからこそ今もGミーティング上でやりとりしてるんだし。
なんにせよ、このコメントが時が止まったような状況を動かしてくれた。
[過保護よね]
[過保護だね]
ほぼ同時にマイカとミズキのコメントが入りましたよ。
[何処がだっ]
実に心外である。
[後顧の憂いを断ち切るだけだぞ]
[何とでも言えますよ?]
エリスまでもが同意見だとばかりに参戦してくる。
アイコンやイラストの類がないのに生暖かい視線が伝わってくるかのようだ。
[いいじゃないですか。
友達思いなのは良いことだと思います]
マリアもそんなことを言い出すし。
[そうですね。
姉様の言う通りですよ]
クリスも追随してくるし。
その後も同じような意見が相次いだ。
孤立無援の気分だが、いじけてもいられない。
どうにかモルトに説明して別行動を取らないといけないからな。
[そんなことより問題があるんだよ]
再び生暖かい御意見を頂戴することになったが。
どうにか説明しきると空気が変わった。
有り体に言ってしまうと意見が出てこない。
モルトにどう説明するかが問題なのだ。
この人数で戦争に行ってきますって言えないだろ?
俺はシノビマスターのお墨付きがあるけどさ。
皆まで化け物のように思われるのは耐えがたい。
すると──
[この場はワシに任せよ]
ガンフォールがコメントしてきた。
[ハルトは引き返す振りをしてカーター殿の所へ行くのじゃ]
頼れるジジイである。
実にありがたい。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
そんなこんなでモルトとは別行動となった。
モルトのことはガンフォールに任せておけば大丈夫だろう。
『他の面々に比べれば多少は話をした方だし……』
ちょっと不安になってきた。
ガンフォールのことは信用している。
が、信頼関係の構築期間が短すぎるのは如何ともしがたい。
『ホントに大丈夫かな』
そうは思うが引き返す訳にもいかない。
モースキー王国の侵攻軍は待ったなしだからな。
そこまで切羽詰まった状況ではないが、シャレにならん連中だし。
国境を越える前から盗賊まがいのことをするような奴らが越境すればどうなるやら。
『遠慮する必要がないから気が楽だけど』
とにかくカーターの元へと向かう。
地上に出てから輸送機を使った。
移動中にファックスで連絡しておくのも忘れない。
まあ、先触れ代わりだ。
俺たちが到着してから泡を食うことはないだろう。
「そんな風に思ったこともありますた」
「なに言ってるのよ」
ぼやいた俺にツッコミを入れてくるマイカ。
「いつもの妄想だよ、マイカちゃん」
「あー、なーる」
勝手に納得されてしまったさ。
「いやはや、大変だね」
今度はトモさんである。
「大変なのは向こうさんだけどね」
「ごもっともってとこかな」
トモさんが苦笑する。
それも仕方のないことだ。
事前に知らせてあったこともありカーターは平常運転なんだが……
「ふざけおってえええぇぇぇぇぇっ!」
その隣で怪気炎だか何だかよく分からない吠えっぷりを披露している爺さん公爵がいる。
「次から次へとおおおぉぉぉぉぉっ!」
爺さん公爵が憤怒の表情で咆哮した。
「カッツェ」
カーターがたしなめようとするが、圧倒されて声量がまるで足りていない。
「戦争三昧かあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
喉がどうにかなるんじゃないかというくらいに出力全開だ。
実にうるさいジジイである。
気持ちは分からなくはないけどな。
スケーレトロ王国に続いてラフィーポ王国と立て続けに狙われていたし。
年は越したが1年以内に3ヶ国目である。
「立て続けにぃ────────っ!」
ガルガルと唸るのも無理はない訳だ。
「とりあえず打ち止めだから心配すんな」
そう言っても鎮静化する様子は見られない。
冷静に考えれば、モースキー王国を潰せば戦争を仕掛けてくる国はないはずなんだが。
領土が拡大しているから今まで接していなかった国が隣国になるがね。
だが、急激に国力を増したと思われているはずだ。
モースキーが併合されることになれば誰も侮ることはないだろう。
小国だなんて間違っても言えないからな。
少なくとも国土面積の上ではね。
内情はカツカツだったりするのが悲しいところだが。
それでも国土が大きいというのは威嚇につながる訳で。
そうそう戦争になるとは思えない。
隣国で大国と言えるのは友好国であるゲールウエザー王国だけだしな。
しかしながら、爺さん公爵は止まらない。
「何か恨みでもあるのくわあああぁぁぁぁぁ─────っ!」
いい加減に我慢の限界だ。
『あー、うるさい』
パチンとフィンガースナップして弱めに遮音結界を展開した。
対象は爺さん公爵だけだ。
「……ぉ…ぇっ……………………」
完全遮断しないのは静かになるタイミングを見極めるためである。
それでも普通の話し声より遥かに小さい音量なので、周囲の空気はガラッと変わった。
カーターだけでなく護衛の騎士たちもホッとした表情になっている。
「ホントうるさかったな」
カーターに同意を求めるような視線を向けたが……
「おいおい、そんなこと言って大丈夫だろうね」
賛同は得られなかった。
ただただ苦笑するカーターさんである。
「怒鳴らなきゃ向こうにも聞かれる心配はない」
「あー、カッツェの声だけ届きにくくなるようにしたんじゃないんだ」
どうやら勘違いされていたようだ。
特定人物の声だけボリュームを下げるとか思われたのだろう。
口元に遮音結界を展開すればいいだけだから難しくはないけどさ。
それをすると面倒だと思うんだけど。
追加情報を与えると静かになるものもならないもんね。
「そんな面倒なことはしないさ。
爺さんを中心に音だけ封じる結界を展開してる」
「結界という割に声が聞こえるよ?」
「結界の強度を変えれば完全に遮音しないよう調整できる」
「なるほどぉ」
うんうんと頷くカーターだが。
「でも、声が聞こえないようにした方が静かになると思うんだけど?」
そんなことを聞いてきた。
「うるさくなくなれば充分なんだよ」
「耳に来るもんね」
実はカーターもうるさく感じていた訳だ。
『まったく……』
苦笑を禁じ得ない。
「まるで聞こえないんじゃ、怒鳴らなくなったか判別しづらいだろ」
「結界を解くタイミングを見極めるためか」
「その通り。
忘れると大変だからな」
一応、念のため明日には解除されるようにはしてあるけど。
「それは確かに」
カーターは楽しげに喉を鳴らして笑う。
だが、すぐに真顔に戻った。
「それにしても、モースキー王国か……」
勘弁して欲しいと言わんばかりに嘆息するカーター。
「面倒なことをしてくれるものだね」
「心配は無用だ。
戦争に関しては俺たちが片付けよう」
「毎回、すまないね」
「発掘品を戦争に持ち出されると厄介だからな」
「魔力量が多くないと動かせない欠陥品なんだろう?」
「とりあえず動かすだけなら魔石を身に着けておけばいけるはずだ」
ポーションで補給するって訳にはいかないがね。
「それは厄介だね」
「だから潰しに行くんだ」
「ハルト殿が言うと何でもないことのように思えてしまうよ」
肩をすくめながら苦笑するカーター。
解せぬ。
厄介だと言ったはずなのに。
『まあ、いい』
そんなことよりカーターの承認を得ないことには何もできないからな。
勝手にやらかすとミズホ国のモースキー王国に対する侵攻ということになってしまう。
ガンフォールも言っていたが、モースキーの領土は欲しくない。
「で、モースキー王国を潰すってことでいいのかな?」
「できれば抱え込みたくはないんだけどね」
嘆息しながら頭を振るカーター。
だが、否定はしていない。
「消極的な肯定と受け取るが、構わないな?」
「そうだね。
やむを得ずって感じだ」
「経済的な立て直し案件が増えるからな」
その点に関しては押し付けているようで罪悪感が湧いてくる。
将来的にはプラスになると信じるしかない。
「そこは将来にわたって攻められる懸念がなくなる方がいい」
長期的に考えてリスクを取り除く方がメリットありと考えたか。
除去したリスクによって生じるデメリットは長くは続かないと読んだか。
そうは言っても、1年やそこらで片付く問題ではないがね。
それでもと強く思う。
『カーターならやってくれるさ』
もちろん、俺も支援するつもりだ。
読んでくれてありがとう。




