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1323 年末恒例?

 それから後は大きな騒動も問題も起こらなかった。

 西方人たちは当たり前のように状況を受け入れていたし。

 ミズホ国の面子も事情は把握しながらも特に騒ぐことはなかった。

 前者に関しては統轄神様の力技である。


 後者は──


「こんなことで驚いていたらミズホ国の国民はやってられませんよ」


 ということのようだ。


 ちなみに、これを言ったのはキースである。

 最古参である妖精組のリーダーだが、他の国民たちも同感なんだとか。


 解せぬ、とは言わない。

 俺の思っていた以上に皆が逞しくなっているのは明らかだったからね。

 そうなるように教育したつもりはないんだけどさ。


 まあ、今更なことである。

 すれてしまったものを元に戻すことなどできないのだし。

 できるとしたら統轄神様だが、そんなことのためにお願いするのもな。


 何にせよルディア様への罰はひとつで済んだ。

 黒歴史が増えなくて何よりである。


 そういうのは、おちゃらけ亜神に回してほしいものだ。

 それで本当に反省するとも思えないけどさ。

 喉元過ぎれば熱さを忘れるって言うし。

 きっとまた騒動を起こすだろう。


『せめて年内は勘弁してくれっ』


 切なる願いである。

 まあ、これに関しては──


「当面は統轄神様が直々にお仕置きされるそうだ」


 とのルディア様の弁である。


 結局、この一件に関してベリルママは出てこなかった。

 出てこられなかったと言うべきか。


 統轄神様からお叱りを受けたとかではない。

 単純に仕事が忙しかっただけである。

 管理項目が増えてしまったからな。


 まあ、石碑が設置された影響は並大抵のことじゃなかったってことだ。

 お陰で年末年始の行事に参加できなくなってしまったという。


『ごめんねえ、ハルトくん』


 脳内スマホの電話を使って連絡してきたベリルママの声は凄く寂しそうだった。


『いえ、仕事じゃどうしようもないです』


 そう言いながらもドキドキしてたけどね。

 泣かれるんじゃなかろうかってさ。

 まさか、サボれとは言えないし。


 それを言う暇もなく電話は切れてしまったが。

 慌ただしいったらありゃしない。

 死ぬほど忙しいようだ。


 ベリルママの心境や如何に。


 断腸の思いであるのは間違いあるまい。

 あとは夏休みの宿題を始業式の前日に追加されたような気分だろうか。

 真面目に余裕を持って終わらせていた宿題が追加されるなどシャレにもならんよな。


 しかも俺が切っ掛けであるらしい。


「転送の石碑はハルトのアイデアが元だ」


 ルディア様がそう言っていた。

 脱出用に考案した魔道具がアイデアソースであるという。


「より使いやすくしたと統轄神様は仰っていた」


 その代わりベリルママへの負担は増したけどね。

 ある意味、罰であるらしい。

 ラソル様の管理不行き届きの罰であるのは疑いようもなかった。


『あんの、おちゃらけ亜神めえ』


 本当に碌なことをしてくれない。


 とはいえ、ベリルママへの罰は統轄神様の期待の表れでもあるそうだ。

 仕事が増えても慣れれば今まで通りにできるはず、なんだと。


 更なる成長を促しているってことだな。

 エリーゼ様なら全力で逃げたがるんじゃなかろうか。


 とにかく、そんな訳で年末年始の行事にベリルママは参加できない。

 昨年に引き続きである。


 もちろん亜神たちも自粛する訳で……

 残念なこと、この上ない。

 特にジュディ様などは──


「楽しみにしてたのにぃっ。

 僕はあのバカを許さないんだからね!」


 と憤慨していたそうだ。


 あのバカとは、もちろんラソル様のことである。

 まったくもって同感である。


 俺も楽しみにしてたし準備も始めていたのだ。

 騒動のお陰で絶大とも言える恩恵は受けられたとはいえ。

 その反動で楽しみにしていたイベントが魅力半減させられた訳だし。


『おちゃらけ亜神、許すまじ』


 まあ、お仕置きは統轄神様に期待しよう。

 少しだけな。


 性格が矯正されるとは思えないからね。

 三つ子の魂百までって言うし。


 ラソル様は、きっとずっとあのままだ。

 それだけは間違いないと確信しているし断言もできる。

 だからこそ年末年始の行事を潰されかけたのは腹が立つんだけどな。


 まあ、愚痴っていても状況は変わらない。

 俺は俺のできることをしなければ。

 国民たちも楽しみにしているのだし。


 中にはベリルママに遠慮しているような者もいたけどね。


「変に自粛すると、ベリルママが仕事に集中できなくなるぞ」


 そう呼びかけて行事の準備を促したさ。

 幸いにも、頑なに自粛するつもりではなかったようだ。


 俺の一言だけで動いてくれるようになったからね。

 ありがたいことである。


 そんな訳で皆の気が紛れるように大掃除なんかもイベントにしてみた。

 ミズホシティではあまり掃除のしがいはなかったけどね。

 ゴミや汚れに対応した術式を乗せた街づくりをしてるからな。


 それでも掃除が終わると清々しい気持ちになる。

 不思議なものだが、やって良かったと思う。


 大変だったのはジェダイトシティだ。

 内壁の外側は国民以外の者たちも入ってきて利用するからね。


 故に対応術式は使っていない。

 普通にゴミは出るし汚れもする。


 普段から清掃面に力を入れているので街中にゴミが散乱していたりはしないんだけど。

 汚れの方はどうしてもね。


 それと年末に大掃除をするという習慣が西方人にはないことも影響した。

 妨げになったとは言わないけど……


「何だ、何だ!?」


「急に白ずくめの奴らがいっぱい出てきたぞ」


「何が始まるんだ?」


「分かんねえ」


 食品工場で見るような衛生服に全身を包んだミズホ国民を見て西方人たちが騒ぎ出す。

 内壁側からゾロゾロと出てくれば服装と相まって目立つことこの上ない。


『やりすぎたか』


 悪乗りしたつもりはないのだが、西方人の目には異様に映ってしまったようだ。

 とはいえ入国審査が厳しめなので過剰反応する者はいない。

 いつでも対応できるように身構えつつも様子見に徹している。


 中には──


「なあなあ、あんたら何を始めるつもりなんだ?」


 物怖じせず国民に話し掛ける者もいたけれど。


「掃除ですが?」


 呼び止められた国民は疑問形で答えていた。

 何故そんなことを聞くのかと言わんばかりである。


「「「「「掃除ぃーっ!?」」」」」


 一斉に驚きの声を上げる西方人たち。

 冒険者も商人も一緒になって目を見開いている。

 青天の霹靂にも等しい言葉だったのかもしれない。


「こんな大勢で!?」


「そうですが、それが何か?」


「何処を掃除するっていうんだ?」


「おお、コイツの言う通りだ。

 この街はこんなに綺麗じゃないか」


 ミズホ国民が返事をする前に冒険者風の男がそんなことを言った。


「まったくです」


 商人風の男も興奮気味に同意する。


「私も行商で数多くの街を見てきましたが、ここほど綺麗な所は見たことがありませんよ」


 その言葉に周囲の西方人たちが然もありなんと頷いていた。


「ゴミはおろか馬糞もすぐに片付けられてしまいますからな」


 別の商人が言った。

 馬車が使われる以上はそういうこともある。

 馬に便意を我慢しろとか教えられるものじゃないしな。


 だから掃除専門の自動人形を配置している。

 もちろん見た目は人そっくりにしてあるので自動人形とは思われていない。


 そんな自動人形たちを魔法のホウキとちり取りを手に街中に配置しているのだ。

 監視用の動物型自動人形と連携して普段から清掃活動をこまめにさせるためにね。


 魔法のホウキはどんなゴミでもかき集めることができる。

 そして汚れずへたれることもない。

 理力魔法の術式を記述してあるから当然なんだけどな。


 相方である魔法のちり取りも負けてはいない。

 ゴミを収納して蓋を閉じれば中のゴミを分解する。

 塵ひとつ残しはしない。


 これらのコンビネーションで掃除すれば、ゴミなどあっと言う間に無くなる。

 これ以上の掃除が必要なのかと西方人たちが驚くのも無理はないのかもしれない。


「そうそう、あれには驚いたぜ」


 冒険者の男が興奮気味に頷いている。


「どこからともなく掃除しにくるもんな」


 猫や鳥に偽装した自動人形は街の至る所にいるからな。


「掃除しなければならない場所などあるのでしょうか?」


 不思議そうに商人風の男が聞いた。


「そこかしこが汚れていますよ」


 不思議そうに首を傾げるミズホ国民。

 内壁の内側を知るミズホ国民からすれば違いは歴然だからな。


「「「「「ええーっ!?」」」」」


 それを知らない西方人たちは驚くばかりである。


「見ていれば分かります」


 そう言ってミズホ国民は手近な建物の壁面へと近づいた。


「飛沫が飛び散りますので下がっていてください」


 困惑しつつも指示に従う西方人たち。


「行きます」


 予告してから生活魔法ジェットウォッシャーを使う。

 指先から勢いよく温水が飛び出した。

 イメージは高圧洗浄機である。


「「「「「おお─────っ!」」」」」


 みるみる外壁の汚れが落ちていく。


「ウソだろぉ!?」


「ピカピカじゃねえか」


 冒険者たちが目を見張っている。


「まさか、これほど汚れていたとは思いませんでしたな」


「まったくです。

 凄い魔法ですよ」


 商人たちは冒険者たちよりは余裕があるようだったが。

 それも束の間のことだったがな。

 街全体が清掃されて行くにつれ冒険者たちとシンクロするように驚きを露わにしていく。


 終わる頃には抜け殻のように呆気にとられる西方人たちが街のあちこちで見られた。


読んでくれてありがとう。

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