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1294 ダンジョンへ行こう?

「まず、最初に考えたのは」


 ここでタメを作った。

 ガンフォールが未だに興奮気味だったからな。

 フンフン鼻息がうるさいったらありゃしない。


「考えたのは何じゃ」


 思わく通りガンフォールが聞いてきた。

 これで話に引き込むことができれば少しは鼻息ノイズも静かになるだろう。


「ラソル様のイタズラだ」


 俺の言葉に部屋の空気が一気にドンヨリしたものになった。

 ガンフォールもガブローも勘弁してくれと言わんばかりの表情になっている。


「おそらく、これはないだろう」


 2人がガクッとズッコケた。


「なんじゃっ、思わせぶりなことを言いおって」


 ガンフォールが噛みついてくる。


「おや、期待してたのか?」


「そういう意味ではないわっ」


 噛みついてきた勢いのままガーッと吠えかかってきた。


 これだと逆効果のように思えるが、そうではない。

 矛先を俺に変更することで上書きするからだ。


 持続する怒りを瞬発的なものに切り替える。

 それが俺の狙いである。


 故に切り替わったと思ったら即座に鎮静化させないといけない。

 煽るだけの結果になっては意味がないからな。


「落ち着けよ」


 ガンフォールが歯噛みした。

 どの口がそれを言うのかと顔で物語っている。


「頭ごなしに叱るより原因の究明が先だろ」


 今度は「ぐぬぬ」顔になった。


「先に予測を立てて調査をした方が効率的だ」


 予測が不正確であった場合は手間取ることになるけどな。

 故に予測に対する根拠はしっかりさせておかなければならない。


「如何にラソル様でも統轄神様の監視下に置かれた状態で逃げ切れると思うか?」


「む、確かにの」


「仮に逃げ出せたとしても全力で逃げなきゃすぐに捕まるだろうな」


 全力で逃げても、どれだけ時間が稼げるやら。

 いくら何でも相手が悪い。


 管理神の権限しかないベリルママとは駆り出せる人員が圧倒的に違う。

 仕事をしながら家族を探すのと警察が全力で捜索する以上の差があるだろう。


「こんな状況で追っ手を振り切りつつ他のことができると思うか?」


 ましてや、ガブローが報告してきたような大事である。

 何もない時でも時間がかかるだろう。

 厳しい条件がついてしまってはイタズラの天才ラソル様といえど手も足も出まい。


 それは2人にも分かるはず。

 思った通りガブローが頭を振る。


 ガンフォールもしばし唸って──


「さすがに無理じゃろうな」


 嘆息しながらそう言った。


「それに、この規模だ」


 ベリルママたちが気付かないはずがない。


「現状でイタズラされたら、すぐに連絡が入ると思わないか?」


「むう」


 ガンフォールがそれもそうかとばかりに唸り声を出した。


「確かに」


 ガブローは重苦しい表情で頷くが、いまひとつ引っ掛かりを感じているようだ。


「どうした?」


「イタズラでないとしても神々の御技だと思うのです」


「だろうな」


「それでハルト様に連絡が入らないのは、どういうことなのかと思いまして……」


 ガブローの言うことも、もっともだ。

 そこが謎である。


「連絡するのが困難なほど忙しいのか……」


 その線は薄いとは思うが。


「あえて連絡しないのか」


「どうしてです?」


 目を丸くさせてガブローが聞いてきた。


「これだけの事態だ。

 西方の各国でも大きな問題として騒ぎになっているだろう」


「はい、ゲールウエザー王国とエーベネラント王国からファックスが届いております」


「なんて返した?」


「現在、調査中とだけです……」


 尻すぼみに報告するガブロー。


「それでいい」


 普通の対応である。

 しかしながら、それこそが正解だろう。


「うちだけ落ち着いていたら変に勘繰られるぞ」


 繋がりのある2国なら「ああ、またか」レベルの反応で済むかもしれないが。

 余所の国だとそうはいかないだろう。


 場合によっては陰謀論とかバラ蒔かれたりしかねない。

 そうなれば喧嘩腰で排斥論を唱える国が出てくることも考えられる。


 面倒事は勘弁願いたいものだ。

 すべての国と仲良くしたいとは思わない。


 反りも馬も合わない相手というのは、どうしても出てくるものだからな。

 が、自分から火種を持ち込むつもりもない。


「あ……」


「おそらくだが、芝居がかった反応をさせないために連絡がないんだと思う」


「ふむ、バカ孫の行動も間違いではないということか」


 渋い表情を見せながらガンフォールが深く溜め息をついた。


「相変わらず身内にシビアだねえ」


「フン」


 ガンフォールは不機嫌そうに鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 その割に表情は険しくない。

 どちらかというと気まずそうな感じだ。

 明らかに照れ隠しである。


『ツン度9割9分のツンデレタイプなんだよな』


 ほぼツン状態で滅多なことで褒めたりはしない。

 が、実は期待しているというパターン。

 ある意味、究極のツンデレかもしれない。


 それが分かっているのだろう。

 ガブローも苦笑していた。

 俺は苦笑もできなかったがね。


『ジジイのツンデレとか何処に需要があるんだよ』


 一応、内心でツッコミだけ入れておいた。


「ともかく、普通の対応はすべきだろうな」


「既にいくつかのパーティを調査に向かわせております」


「上出来だろう」


 怪しまれずに済むよう動けているようで何よりだ。


「ついでに俺も行くか」


「陛下自らですか!?」


「問題あるまい?」


「えっ、ええ……」


 困惑しかけたガブローだが、すぐに頷いていた。

 俺が動かない方が変だと思ったのだろう。


「ワシは行かんぞ」


 ここじゃ引退したってことになってるからな。

 出しゃばる格好になってしまうのはマズいと判断したようだ。


 領主として引き継いだガブローの立場を考えたのだろう。

 ちゃんと気遣っている。


『やはりツンデレだな』


 需要はまだない。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 1人で行くのもどうかと思ったので皆にも連絡を入れた。

 何人かは来てくれるようだ。

 休日返上とはありがたいことである。


 そんな訳でギルド前にて待ち合わせをしていたのだが……

 待ち合わせた面子が来る前にビルがやって来た。


 今日も今日とてソロ活動に勤しんでいるようだ。

 とはいえ、昼前という中途半端な時間だけどな。

 ダンジョンに潜ってきた感じではないし、これから潜るつもりもないだろう。


『何の用なんだろうな?』


 ちょっと見当がつかない。


「よう、ビル」


「うおっと!?」


 俺が声を掛けてようやく気付いたようだ。

 どんだけボンヤリしていたんだか。


 まあ、護衛の仕事でずっと緊張を強いられていたからな。

 終わった途端にプツリと切れて調子がなかなか戻らないのかもしれない。


「賢者様?」


 怪訝な表情で俺を見る。


「しばらく休むんじゃなかったのかい?」


「休暇は終わりだよ」


 少々早めに切り上げる格好となったがね。

 充分に休んだので特に不満は感じない。

 まあ、これからの仕事しだいではストレスがすぐに溜まるかもしれないが。


「仕事熱心だねえ」


 感心するように頭を振るビル。


「そう言うビルは仕事じゃないのか?」


 ギルドが目的地だったようだが。


「雑用の依頼を受けて終わらせてきたんだよ」


「新人みたいなことをするんだな」


「たまには薬草採取もいいもんだ」


「それは雑用って言うのか?」


「細かいことはいいんだよ。

 労力的にはさほど変わらないんだからさ」


 ビルがそう言うなら追及したってしょうがない。


「このタイミングで終わるってことは効率よく集められたようだな」


「ああ、楽に終わらせられたぜ」


 ニッと不敵に笑うビル。


「この辺りは不思議と薬草採取で苦労しないからな」


 そうなるように仕向けているからな。

 栽培まではしていないが、地脈などを利用して環境改善しておいた。

 新人たちが食いっぱぐれないようにな。


 ところが、これが裏目に出ているのが現状である。

 いつでも確実に採取できるからと薬草採取を後回しにするルーキーたちが多いのだ。


「すまんな、ベテランに気を遣わせるようなことになってしまって」


「なに言ってんだよ。

 賢者様が気にするような……ことか」


 途中まで否定しかけて思い出したように肯定へと転ずるビル。

 西方の一般人で俺の立場を知る数少ない男だからな。

 思わず苦笑してしまう。


「悪いのは基礎を疎かにする新人どもだろ」


 ばつが悪そうにビルが言った。


「それは否定せんがね」


 苦しい時は当てにして、楽になれば余裕をかます。

 悪い手本を見ているかのようだ。


「高をくくるような奴らは失敗しないと理解しないからなぁ……」


 寂しそうに言うビル。

 失敗の結果として支払う代償が大きすぎることを知っているが故だろう。


 多くの場合は失敗した者自身の命である。

 どうにか生き残れても引退を余儀なくされることはままある。


 体の部位欠損や怪我の後遺症だったり。

 仲間を失ったショックだったり。

 体験した恐怖をフラッシュバックさせたり。


 人により様々だろう。

 それらをかい潜れた者だけが冒険者として生き残っていく。


 堅実にやっている者もいるので、そう狭き門という訳でもないがね。


読んでくれてありがとう。

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