1295 集まったのは……
ビルとの話が辛気くさい方向に向いてしまっている。
『大した話題でもないのに何やってるんだ、俺は』
セルフツッコミを入れてしまった。
もちろん内心でだ。
とにかくギルド前でこんな状態を披露していては何事かと思われかねない。
目立つのは勘弁願いたいので──
「あー、やめやめ」
リセットするべく話を強引に切り替えることにした。
「採取物をギルドに提出したら今日は上がりなのか?」
「おお、しばらくはこんな感じでやろうと思ってる」
「赤字にならないか?」
「そうでもないぞ」
ちょっと不敵な感じを見せてビルが笑う。
「この辺で採取してれば装備は痛まんしな」
「そういうことか」
人気の高いダンジョンがそばにあると、はぐれの魔物も狩り尽くされてしまう訳だ。
ダンジョンの中より外の方が危険な魔物は少ないからな。
必ずしもそうとは言い切れないのだけれど。
「食うに困らないだけ稼げりゃジリ貧になることはないよ」
余裕があるからこそ言える台詞である。
「腕がなまっちまうかもしれんがな」
「おいおい、そんなになるまで休むつもりかよ」
「どうかな?」
自分でも分からないと言いたげな口振りだ。
「今後の状況次第だと思うぜ」
「ほう?」
「ソロは用心深いに越したことはないからな」
真顔になったビルが嘆息した。
「その様子だとダンジョンの異変は知っているか」
「ああ、噂が急速に広まったからな」
さすがはソロ冒険者と言うべきか。
情報には敏感である。
即断即決で危機回避に動いているのもベテランならではだろう。
「他人を当てにした様子見ってのは気分のいいもんじゃないがな」
「だったら一緒に来るといい」
「マジか」
「嫌なら構わんぞ」
「行くよ。
賢者様と一緒なら安心だしな」
こうして俺はビルと臨時パーティを組むことになった。
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ビルが採取した薬草をギルドに納品している間に待ち合わせは完了した。
「随分と少ないな。
希望者はもっといたんだろう?」
やって来た面子の1人であるエリスに問うた。
「厳正なる選抜の結果によるものです」
『審査じゃなくて選抜なのか』
道理で面子がバラバラだ。
エリス以外の妻組はルーリアとウサ耳ラミーナのダニエラのみ。
子供組からルーシー。
そしてハリーとドルフィン・グレン。
『バラバラのような偏っているような』
「要するにジャンケンしたんだろう?」
ドルフィンの中身はローズだから、ジャンケンはどうかと思うのだが。
夢属性の神霊獣だからな。
本気になれば負けるはずがない。
まあ、自重したとは思うけど。
「その通りです」
「あっさり認めるんだな」
てっきり「そうとも言います」とか回りくどいことを言うのかと思ったのだが。
「時間がもったいないので」
早くダンジョンに行こうと言いたい訳だ。
「少し待て」
「何かあるのですか?」
「ビルが来る」
「あら、ドルフィンと同じ特別枠ですね」
「特別枠?」
「守護者組から代表として出てもらったんです」
「あー、ジャンケン選抜からは除外されたのか」
「はい」
「ドルフィンが代表になったのは?」
「話し合いだそうですよ」
それでよく決まったものだ。
「誰の熱意が一番か語り合っていました」
「……………」
なんだか喧々囂々な状況が想像できそうだ。
寡黙で無表情なドルフィンが胸を張っている。
中の人はさぞかし鼻高々なんだろう。
「いいけどさ」
その時の状況は知りたくない。
「久々に着ぐるみで暴れたいとか言わなかっただろうな」
ビクリとドルフィンが震えたかと思うと、そっぽを向いた。
分かり易すぎる反応だ。
図星であることは間違いあるまい。
「よく分かりましたね」
クスクスとエリスが笑う。
「まあ、前後の状況を考えればな。
例の作戦時も霊体モードだったんだろう?」
俺がビルを伴ってエーベネラント王国へ出張している間の件だ。
「ええ、その方が色々と都合が良かったので」
エリスはそう言って、フフッと笑みを浮かべた。
が、むしろ都合が悪くなるのを回避したと言うべきではないだろうか。
見慣れない強面の巨漢が街中にいれば目立つからな。
暗躍する裏組織を壊滅させるのに相手を警戒させては意味がない。
ゲールウエザー王国との共同作戦だった訳なんだし。
「フラストレーションが溜まっていたみたいだしな」
「さすがは相棒ということですか」
「まあな」
それだけに他の守護者組の面々の心情もありありと分かる。
「シヅカは呆れていただろう」
「そうですね」
エリスが苦笑する。
「好きにするが良いと言ってました」
「シーダはモフモフでノックアウトされたんだろ?」
「ですね。
マイカさん直伝とか言ってましたよ」
エリスの苦笑の度合いがより色濃くなった。
困ったものだと言っているのは明白である。
俺もそう思う。
「話し合いと言うよりモフりのテクニックに陥落しただけだな」
ドルフィンがそっぽを向いたまま上方へ目をそらせた。
視線だけでも遠くへ逃げようというのだろうか。
無駄な足掻きである。
「でも、本人は幸せそうだったからいいんじゃないですか」
「しょうがないなぁ……」
シーダが嫌がってないなら、とやかく言っても有耶無耶になるだろうしな。
そうなると残るはマリカである。
「で、マリカはかき氷で買収されたか」
それ以外には考えられなかった。
「ええ」
予想通りの返事である。
「見ている私達がお腹を壊しそうになるくらい大量に用意してましたよ」
フェンリルに戻ったマリカ本来のサイズに合わせてかき氷を作ったということだろう。
『確かに見てるだけで腹が冷えそうだな』
マリカが満足したなら何を言っても無駄だろう。
なんにせよ、あの手この手を駆使した話し合いにローズは勝利した訳だ。
話し合いに勝利というのも変だとは思うがな。
「こういうのも策士って言うのかね」
「さあ、どうでしょうね」
エリスがクスクスと笑った。
ダニエラがそれに続く。
楽しいものを見たといった雰囲気だ。
ルーリアは肩をすくめるのみ。
生真面目な彼女からすると面白いとは感じなかったのだろう。
許容はできたから口は挟まなかったといったところか。
ハリーは小さく頷いただけ。
ドルフィンの中の人なら、それくらいは計算ずくで動くだろうと思っていそうだ。
着ぐるみの人は無反応。
ややドヤってそうな雰囲気を感じなくもないがね。
ここでツッコミを入れて変なリアクションをされても困るので、とりあえずスルー推奨。
「ハルト様ー」
ルーシーがよそ行きの呼び方をした。
ジェダイトシティは国内だが、ギルドの建物近辺は国外向けの出島状態だからな。
「どうした?」
ルーシーは不思議そうにギルドの出入り口の方を見ている。
「おじさんがこっちを見て固まっているの」
言われて、そちらを見た。
「ああ、いるな」
ビルがね。
俺がニヤリと笑うとビルが我に返った。
ダダッと駆け寄ってきて──
「誰がおじさんかっ」
すかさずツッコミを入れてきた。
「子供の視点で見てだからなぁ」
「くっ」
ビルは悔しそうに声を詰まらせた。
子供相手だということを思い出して自重したようだ。
とはいえ、悔しさが紛れる訳ではない。
「どうせ俺は老け顔ですよ」
ふて腐れたことを言うビル。
「いじけるなって。
それで得をしたこともあるだろうが」
「うっ、まあな」
指摘すれば、すぐに思い出すくらいには恩恵を受けたことがあるようだ。
「そんなことより用事が終わったんなら行くぞ」
「へいへい」
ビルが返事をしたのに合わせて俺たちはダンジョンへと向かった。
その道すがら面子の紹介をする。
一通り紹介が終わると、何故かビルは落ち込んでいた。
「賢者様のところは本当に人材が豊富だよな」
「そうか?」
「そうだよ。
恵まれてるぜ」
言われてみれば、そうかもしれない。
「俺は悪縁を切るのも手を借りなきゃならなかったしな」
落ち込む理由はこれのようだ。
「手が借りられるというのも良い縁がある証拠だと思うぞ」
俺の言葉に即答できないビルだったが……
「ああ、そうだな」
しばし考え込んだ後に頷き、そして小さく笑った。
読んでくれてありがとう。




