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1292 名探偵ノエル?

 マッハトラクターズは地味な割に意外に飽きないようだ。

 連続でプレイしても皆の熱は冷めなかった。


 お陰でグングンと腕を上げていく一同である。

 1時間かそこらで皆は中級者を卒業するかというくらいになっていた。


 今から始める面子とではワンサイドゲームになってしまうだろう。

 そのためのハンデキャップモードはあるけどね。


 ただ、同じ程度の技量だとハンデはつかないので今のところは意味がない。

 そんなこんなで何度目かのプレイも終盤に差し掛かっていた。


「やったぁ、トップでゴールよ!」


 最後の難関を越えたレイナがゴールライン手前のストレートでバンザイした。


 ハンドルから手が離れているが、左膝で微調整するという器用なことをしている。

 ラスト数十メートルは多少の起伏がある程度なので、これでも操作できるのだろう。

 右足はもちろんアクセルを踏み込むために使用中だ。


「甘いで、レイナ!」


 続いて難関を抜けてきたアニスが吠えた。


「今更ね」


 レイナは余裕のバンザイポーズを崩さない。


「この距離で妨害されてもゴールに入るのは私が先よ」


 スピンや横転をしたとしてもトップスピードの勢いは殺しきれない。

 滑り込む格好になったとしてもゴールはゴールだと言いたいのだろう。

 それでもアニスは不敵に笑う。


「勝ったわ!」


 残り3メートルでレイナは勝利を確信して上を仰ぎ見た。


「今やっ!」


 アニスが選択して待機状態だった必殺技を使う。

 ターゲットはもちろんレイナのトラクターだ。

 赤いビームが一瞬で到達し運転席を染め上げた。


「なになにっ、なによっ!?」


「ドライバーチェンジ!」


 一瞬で2人の視点が切り替わる。

 レイナの選んだトラクターがゴールラインを超えた。


「うちがゴールや!」


 だが、アニスがガッツポーズで喜んでいる。

 アニスが乗っていたはずのトラクターはバランスを崩してあらぬ方を向いた。

 それに乗っているのはレイナだ。


「なんでよぉっ!?」


 今度はレイナが吠えた。

 余裕のポーズを崩さなかったことが仇となって体勢を戻すのに苦労している。


 まあ、バランス崩しているのに左膝でコントロールしようというのが間違いだ。


『焦りすぎだろ』


 気持ちは分からなくもない。

 見る間に後続が追い抜いていくからな。

 結局、レイナは5位でゴールした。


「なんなのよっ!」


 憤慨したレイナがアニスに噛みついた。


「なんや言われてもなぁ。

 妨害ポイントを極限まで溜めて使うた必殺技やで」


「理不尽すぎるでしょ」


 レイナが憤慨するのも無理はない。

 ゴール直前でドライバーの入れ替えなんてされたら堪ったものではないからな。


「効果はエグいけど、ポイント溜めるんもエグいんや」


 あの技は普通にプレイしてたら使えないはずだからな。


「なんもせんとポイント溜めるだけやったら全然使えやんし」


 それが分かっているから皆もあの技は眼中になかった訳だが。

 アニス1人を除いてな。


「ホンマ、ギリギリやったんやで。

 ボコボコにされてようやくやしなぁ」


 何度も必殺技の攻撃を受けることでポイントを稼いだと言いたいのだろう。

 それにしたって簡単にはできないはずだ。


「お陰で一時は断トツの最下位や」


 最下位になってしまえば、そうそう妨害されることもなくなるからな。

 その上、必殺技なしで這い上がらねばならない。

 ドライバーチェンジのビームは射程が短いからな。

 それに必要なポイントはかなりシビアに設定されているし。


 まあ、今後は必殺技ポイントも駆け引きとして考慮されるだろう。

 この面子では今回きりの一発ネタならぬ一発技ということになりそうだ。


「そんなアンタがなんで2位に浮上してるのよ」


「そら、皆が潰し合うてる隙を突いた結果や」


「そんな訳ないじゃない。

 上位に浮上すれば目立つんだからっ」


 キーッと噛みつくレイナ。

 よほど悔しかったのだろう。

 かなりヒートアップしてきている。


「せやから、そこは作戦や。

 最初のうちはひたすら目立って標的になってたんやで」


「目立つと言うよりコバンザメ」


 ノエルがボソリと呟いた。

 誰かにへばり付いていたと言いたいらしい。


 その点だけを見ればそうなんだろうがコバンザメとは根本的に違うと思う。


「上位の盾になっていた」


 コバンザメは自己防衛と餌の確保のためにへばり付くからな。

 盾になってちゃ意味がない。

 そう思ったのだが……


「今なら分かる」


 ノエルなりの解釈があるようだ。


「必殺技ポイントという餌のおこぼれを集めていた」


『なるほど』


 それはコバンザメ的かもしれない。

 おこぼれを得るために自分から被弾しに行った点は異なるけれど。


「被弾しない上位に引き離されるから下位グループは必死になる」


「確かにそういう展開だったわね」


 エリスが頷いていた。


「何故か助かったと思う瞬間があったけど、アニスだったのね」


 レオーネが苦笑する。


「それだけじゃない」


 ノエルの話は続く。


「アニスはそこから目立たないように順位を落としていった」


「巧妙じゃな」


 シヅカが苦笑した。


「最下位になったのは作戦」


「皆の意識から消えるため、か」


 ルーリアが呟くように言った。

 コクリと頷くノエル。


「でも、それで必殺技も使わずに追いつけるとは思えないんだけど」


 レイナは納得がいかないようだ。

 それに対してノエルはフルフルと頭を振った。


「盾のあるなしで状況は大きく変わる」


「ああ、そういうことですか」


 ポンと手を叩いてクリスが言った。


「どういうこと?」


 怪訝な表情でレイナが問うた。


「邪魔されなくなった下位グループが上位を追い上げることに必死になりますよ」


「なるほど。

 枷が無くなりますからね」


 クリスの返事にマリアが相槌を打った。


「上位だけを見て周囲への目配りが疎かになると」


 さすがはクリスですと頷いているマリア。


「それに差が開いているから下位グループで潰し合うのは得策じゃない」


「暗黙の了解で不可侵になると踏んだ訳ね」


 ABコンビも便乗するように考えを述べてきた。


「これは策士ですね~」


 お気楽な感じでダニエラが言うと──


「まあねー」


 何処か得意げにアニスが言ってのけた。

 その鼻高々ぶりにレイナが歯噛みする。


「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎっ」


 凄く悔しそうだ。


「それにしても」


 レイナをチラ見したアニスがノエルの方を見る。


「さすがノエルやな。

 完全にお見通しやった訳や」


「違う」


 ノエルは頭を振った。


「えっ、どうちゃうの?」


 意外だと言わんばかりにアニスが目を丸くしている。


「そうよ、完璧な洞察じゃない」


 レイナもその意見に乗っかるようだ。

 変わり身が早い。


「あーあ、私もプレイ中に気付いてればなぁ」


 そして嘆息付きで愚痴る。

 諦めの悪いことだ。

 それだけ悔しかったのだろうが。


「終わってから気付いた。

 最初からアニスの作戦に気付いていた訳じゃない」


「「えー、でもでも私達は終わってからも気付かなかったよ?」」


 双子のメリーとリリーが充分に凄いと言うが、ノエルは考えを曲げない。


「結果について考えようと思わなかったら私も気付かなかった」


 考えていたなら誰でも分かったはずと言いたげだ。


『そんなことはないと思うんだがなぁ』


「相変わらず自己評価が低いな」


 ツバキが呆れた様子で呟くとカーラも頷いた。


「未成年なんですから、もっと奔放に振る舞ってもいいんですよ」


 カーラがそう言いはしたが、ノエルは動かざること山のごとしだ。


『頑固さんめ』


 それがノエルだからな。

 呆れつつも諦めていたら──


 パンッ!


 と乾いた音がした。


「グジグジするのは終わりっ!」


 両手を頬に当てたレイナが声を張る。

 どうやらレイナが自分の頬を張って気合いを入れたようだ。


「アニス」


 挑みかかる目をして不敵に笑いながら呼びかけるレイナ。


「おう、なんや?」


 アニスも受けて立つと言わんばかりの笑みを浮かべている。


「やる気かいな?」


「当然でしょ。

 あんなので勝ち逃げされちゃ堪んないわ」


「誰が勝ち逃げするて?

 たったあれだけで勝ちや思うとかあり得へんわ」


「上等じゃない。

 もう、あんな奇策は通用しないわよ」


「種明かしの済んだばっかりのネタを使うほどアホとちゃうで」


 売り言葉に買い言葉な感じで2人が熱くなっていく。


『やれやれ……』


 この調子だと昼食まではマッハトラクターズをプレイすることになるだろう。

 クイッと袖が引かれた。


「ん?」


 そちらを見るとノエルさんである。


「ハル兄、他のゲームがしたい」


 熱くなっているツッコミコンビに付き合うと碌なことがないと考えたようだ。

 同感である。


「じゃあ、登録メンバーから抜ければいい」


「もう抜けた」


 要するに俺と一緒に他のゲームがしたいのだろう。


「何かお薦め、ある?」


読んでくれてありがとう。

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