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1291 最終日は朝から……

 なんだかんだ言って俺もゲーム大会に参加している。


『だって仲間はずれは嫌だろう?』


 誰に言うでもなく自分に言い訳してしまう。


 今プレイしているのは耕耘機のレースゲームであるマッハトラクターズだ。

 タイトルに反してスピードは出ない。

 耕耘機だからな。


 ゲーム独自の要素として加速装置的なものはあるけど。


『基本の速さがね』


 レースゲームとしては致命的とも言えるほど遅いからトップスピードなんて知れている。

 高速道路も走れやしないんだから当然だ。


 まあ、如何に悪路を見極めるかが鍵となるゲームだからな。

 ゲームとしての本質がスピードを極める感じじゃないから、これで正解なのだ。


 代わりに迫力は満点である。

 下手な運転だと当たり前のように横転してしまうし。

 ゲームだから接触や横転のダメージは無しにしてあるけど。

 振動とかは凄いのだ。


 悪路でアクロバットなんて下手なキャッチコピーをつけたくらいだ。

 最初のうちは横転しないように走るだけでグルグル回ったりする。

 3D酔いしやすいと5分とかからず気分が悪くなるだろう。


 ちなみに、これをやろうとリクエストしてきたのはリオンである。

 既にゲーム大会の状態になっているのを俺が呆然と眺めている時のことだ。


「あの……」


 朝食後に俺の前に来たリオンがおずおずとした感じで声を掛けてきた。


「ん、どうした?」


「ゲーム、しませんか?」


 何故か不安げな表情である。

 断られるかもとか思っているのだろうか。

 そういう選択肢はないんだけど。


『リオンは控えめだからなぁ』


 姉のレオーネもそうだが、それに輪をかけてって感じだし。

 リオンの少し後ろの方ではレオーネを初めとした奥さんズが見守っている。


『この状況で断ったら殺されそうだな』


 半殺しという意味でだが。

 もちろん、そんなつもりは毛頭ない。


「ん、いいぞ」


 返事をしたがリオンの様子に変化はなかった。

 不安そうなままである。


 普通に返事をしたので聞こえなかったはずはないのだが。

 聞こえているのに畏縮しているっぽいのは予想外だ。

 奥さんの1人であるリオンに厳しい対応をする訳はないというのに。


 だとすると考えられるのは──


『呆然としていた時の表情が険しく見えてしまったか?』


 ぐらいだろうか。


 俺だって常時【千両役者】を使っている訳じゃないしな。

 常に緊張状態を強いられるとか心の安まる暇がない。


 まあ、使っている時も言うほどピリピリしてる訳でもないけど。

 それでもフルタイムは厳しいのだ。


 そういう油断した表情を見られたのだとすれば……

 今のリオンの状態も頷けるかもしれない。


『だからといって俺が怖い顔をしていたのかとは聞けないよなぁ』


 ここは素知らぬ振りで通すしかないだろう。


「どうした?」


 一言で終わらせる。

 長々喋ると言い訳しているみたいだしな。


「ちょっと他とは毛並みの違うゲームなんですけど」


『ん?』


 おずおずした感じなんだけど予想とは違う反応だ。

 どうやら俺が怖い顔をしていたとかいう話ではないらしい。

 内心でホッと安堵する。


「そうなんだ」


 返事をしつつ考える。


『毛並みが違うねえ。

 そういうの多いんだけどな』


 該当しそうなのをピックアップしようにも情報が少なすぎる。

 この時の俺は妻組の皆がどのゲームを昨晩プレイしていたか知らなかったし。


 昨晩はトモさんに付き合って1時間だけしか遊んでいないからな。

 その後も風呂入って寝たので話を聞いたりもしていない。


「あの、皆で決めたんです」


「ほう」


 リオンに話を聞いてみたところによると、昨晩はそのゲームが最も盛り上がったそうだ。


「タイトルは分かるか?」


「はい、あの……マッハトラクターズ、です」


「ああ」


 毛並みが違うと言う訳だ。

 迫力があるのにスピードがないせいで微妙に地味なゲームなんだよな。

 だから断られるかと思っていたのかもしれない。


「面白いチョイスをしたな」


 そう言って微笑みかけると、リオンは軽く目を見開かせた。

 予想外の返事だったのだろうか。


「えっと……」


 更に困った表情になったリオンが後ろを振り返る。

 妻組に助けを求めているようだ。


 が、奥さんたちは笑顔で頭を振るばかり。


 姉であるレオーネは苦笑する感じ。

 エリスたち3姉妹はニコニコして微笑ましく見守っている。

 ツバキやカーラもそれに近い。


 ABコンビは応援するように小さくガッツポーズをしていた。

 まるで「小さなことからコツコツと!」と言っているかのようだ。


 リーシャやルーリアもガッツポーズこそしないものの目で頑張れと語っている。

 アニスとレイナはガッツポースの代わりに前を向けとばかりに指差すし。


『さすがツッコミコンビ』


 だが、嫌みな感じはしなかった。

 純粋に応援しているからだろう。


 ダニエラや双子ちゃんたちは、ちょっとハラハラした感じがある。

 ノエルは他人から見ても分かるくらいの笑顔だった。


 ただし、一般人の感覚では微笑レベルだ。

 身内であれば満面の笑みに近いと分かるのだが。


 シヅカはドッシリと構えていて「天晴れ!」とか言いそうな感じだった。


 銘々のスタイルだが一様に応援しているのだけは分かる。

 ただし、誰も前には出てこない。


 それどころか笑顔でプレッシャーをかけているように見える。

 不安げにフォローしてほしそうなリオンをその場に留まらせる何かがあった。


『スパルタ?』


 そんな風にも思ったほどだ。

 が、あまり積極的に前へ出ないリオンを気遣ってのことなんだろう。


 普段の彼女は姉の後ろに隠れるようにしてコソッと顔を覗かせる感じだからな。

 そういうのが定着するのは良くないという話になったのだろう。


 だからスパルタというのも間違った考えではないのかもしれない。

 言うなれば「優しいスパルタ」だろうか。


 一歩間違うとヤバそうな気がしなくもないが。

 虐待ではないので大丈夫だろう。

 そういう嫌な雰囲気はないしな。


 だから、俺は口を挟んだりせず待つことにした。

 様子見を続行する。


『こういうのはマイカが言い出しっぺになることが多いんだよな』


 姐御系というか。

 お節介なタイプっているだろう?

 そんな感じだ。


 そう思ってチラリと見ると、マイカとミズキが小さくサムズアップしていた。

 どうやら2人の差し金のようだ。


『マイカが立案してミズキが承認し皆に提案したってところか』


 一致団結できているようでなによりである。

 リオンは皆のプレッシャーに押し込まれるようにこちらへ向き直った。


「あ、あの……」


 何かを言おうとしているリオン。

 だが、次の言葉がなかなか出てこない。

 頭の中が真っ白になっているのが目に見えるようだ。


『待ってちゃ話が続かんな』


 それどころか、焦りを加速させてもっとテンパった状態になりそうだ。


「場所は確保してるのか?」


 俺の質問にリオンは直立した。


『何故?』


「はっ、はひっ」


 しかも返事を噛んでるし。

 かなり混乱しているようだ。


「落ち着け」


 そう言われて落ち着けるならリオンも苦労はしないだろう。

 ただ、とりあえず言わないと始まらない。

 こういう時の常套句みたいなものだ。


「場所は何処だ?」


 妻組全員が参加する上にトモさん夫婦も加わるっぽいからな。

 適当な場所を探すのも一苦労だ。


 ちなみに食堂は何組かに確保されてしまっていて大きな余剰スペースはない。

 俺の部屋はシートと一体型のハンドルコントローラーが場所を食うから手狭だろう。


 空間魔法がかけられているから入るには入るとは思うけど。

 詰め込んだだけの状態になりかねない。


 そんな訳で連れて来られたのは合宿で使う体育館のひとつだった。

 そして今に至る。


「ヒャッハー!」


 棒読み台詞でトモさんが叫ぶ。


「踏み潰すぜぇっ」


「物騒だな、おい」


 ツッコミを入れたがトモさんが乗るトラクターが踏み潰すものなどない。

 ただ、必殺技のひとつにトラクターを飛び跳ねさせるというのがある。

 それを使う時に棒読み台詞をぶっ込んでくるのだ。


 他にも加速する時は──


「ブーストオン!」


 とか言ったりしていた。

 こっちは棒読み台詞じゃなくて誰かの真似っぽい。

 たぶん電脳フォーミュラの台詞だからだろう。


 臨場感たっぷりに叫んでも、あのアニメのようなスピードには到底達しないんだけど。

 桁が違うもんな。

 下手すりゃ10倍以上の速度差がある。

 俺の開発したレース系ゲームの中で最も鈍足なゲームだし。


「必殺トルネード!」


 適当なネーミングで技を繰り出すトモさん。

 ゲームの方では必殺なんてついていない。

 本来は横転しそうになった時に使う緊急回避技だからな。

 意味もなく使うものではない。


「沼地で使う技じゃないぞ」


 同じ場所で高速回転するため泥の飛び跳ねが凄まじい。

 いい目眩ましになりそうだ。


 こういう使い道があると言わんばかりにトモさんがドヤ顔になった。


「そのまま走れればな」


 ピクリとも動かない。


「くっ、動けー!」


 今度は結構マジに叫んでいる。

 どんな操作をしようが動かないせいだろう。

 駆動輪の半分以上が埋まり込んじゃ、どうしようもない。


「言わんこっちゃない」


 リタイヤでトモさんの最下位が決定した。


読んでくれてありがとう。

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