1288 不健康は良くないが束縛も良くない
ゲーム機の名前はともかく、臨時ライブ後にどうするかは決めねばならない。
『単純に解散としてしまうと名前が決まらんしなぁ』
かといって宿題にしても適当な感じになってしまう気がしてならない。
そうするくらいなら現状の保留の中から決定するのが無難だろう。
どれも決定打に欠けるがね。
俺がマシだと思うのが、ゴーグルゲーマーとHGSだ。
微妙にしっくりこないのだけど。
略称がね。
ゴーゲーってどうよ? ってなるのだ。
HGSはホーム・ゲーミング・システムの略だし。
これ以上、省略しようがない。
要するに愛称が微妙ってことだ。
それは何度も呼称する間に馴染んでしまうものなのかもしれないが。
そんな訳でとりあえず保留した。
臨時ライブ後は放っておいてもゲーム大会となりそうだし問題はあるまい。
それなりに時間は使ったのでぶっ通しで何時間も遊ぶことにはならないだろう。
風呂にも入らないといけないし。
入浴や就寝の時間を無視すれば話は別だとは思うがね。
そこまでハマるかどうかが鍵だ。
あえて野暮ったいゴーグル型にしたことで長時間続けにくいようにはしたのだけど。
その程度は負荷にならない面子ばかりなのが、やや心配だが。
皆、高レベルだからな。
ステータスまかせで遊び続ける可能性はなきにしもあらずって訳だ。
『もし、そうなったらどうしよう?』
夜更かしならまだしも、完徹とかするもんじゃない。
習慣化などしようものなら不健康極まりないからな。
寝不足が続くと体にむくみが出てくるんだ。
特に脚な。
ビックリするくらいパンパンに膨れ上がってしまう。
大学時代に初めてなった時はビビったもんな。
あれはキツい短期アルバイトを入れた時にレポート提出が重なったせいだった。
気合いで乗り切ったが、寝落ちを何度も味わった結果だ。
寝落ちの体勢しだいでは歯で頬の裏側を切ったりもする。
だが、むくみの方がビビる。
あれはよろしくない。
何事かと焦ったものだ。
靴下の跡形はクッキリハッキリ残るし。
靴は履きづらいし。
何より、重篤な病気の症状じゃなかろうかと気が気じゃなかったさ。
若くして死んだら祖父母が悲しむだろうと。
まあ、レポートを期限内に提出してアルバイトが終わったら元に戻ったけど。
睡眠不足さえ解消できれば、むくみも解消されると知って一安心だった。
ただし、後年になって怖いむくみもあることを知った時は冷や汗が流れたけどな。
あれはテレビの医療系情報番組だっただろうか。
詳しい内容は覚えていない。
場合によっては云々のインパクトで呆然としたからかもしれん。
とにかく、皆には仕事でもないのに無理をさせないようにしなければ。
『そうは思うんだがなぁ……』
だからといって休みに縛りを入れるのは無粋というもの。
自由を束縛しては休みではなかろう。
ジレンマを感じる。
どちらを優先すべきか難しいところだ。
今日だけということを考えれば束縛しない方に天秤が傾くか。
とすると、皆に無理をしないよう声掛けするくらいまでに留めることになりそうだ。
眉間に皺を寄せて考え込んでいると──
「そこまで必死に考えねばならぬか?」
ガンフォールが問うてきた。
そう言えば、ゲーム機の名前の話をしている最中だった。
「ああ、すまん。
少し他のことで頭を悩ませていたんだよ」
「何じゃと?」
ガンフォールが虚を衝かれたように目を丸くした。
それも束の間。
「深刻な問題があるようには思えなんだのじゃがな」
表情を引き締めて問いかけるような視線を向けてくる。
これは話さない訳にはいかないようだ。
仕方がないので俺の考えていたことを斯く斯く然々と説明。
すると、徐々にガンフォールの表情が変化していった。
ドンヨリした感じの緩んだ表情へと。
話し終わる頃には完全にジト目になっていたのだが。
完全に呆れているようだ。
俺としては「どうしてこうなった」と言いたい。
そんなに呆れられるようなことだろうか。
国民たちのことを考えただけだというのに。
「相変わらず過保護じゃな」
嘆息混じりに言われてしまった。
「ぐっ」
『そういうことか』
それを言われると反論の余地はない。
なにしろ[過保護王]の称号を持っているからな。
ガンフォールにまで指摘されるとは思っていなかったけど。
「らしいと言えばらしいのじゃろうがな」
「悪かったな」
唇を尖らせて言うと笑われてしまった。
些か子供っぽかったかもしれない。
「その辺はお主の言う通りにすれば良いじゃろ。
口頭で注意すれば、後は各自の自己責任じゃて」
ガンフォールならそう言うと思ったよ。
「休みの日まで、あんまり背負い込ませたくないんだけどな」
「気持ちは分からんでもないが、自由には責任が伴うものじゃ」
「何でもかんでも自由にすれば秩序が保てない、か」
「そういうことじゃな」
「分かっちゃいるんだがな」
限度を弁えて行動することに抵抗はない。
俺自身はそうすべきだと思うからな。
が、それを国民にさせることには微妙に抵抗を感じるのだ。
モヤッとする程度ではあるんだが。
押しつけや強要を感じるからだろうか。
自分でもよく分からない。
「あまり気にせぬことじゃ。
そこで悩んでも何の得にもならぬ」
損得勘定をしているつもりはないのだ。
それは断言できる。
「王として国民のことを考えるのは良いことじゃがな。
こういうことは些事ということにして考えすぎぬ方が良い。
でなければ、本当に大事なことを見落としかねんからのう」
「俺は目先のことに囚われすぎってことか」
「分かっておるではないか」
「理屈はな」
結局は感情が納得することを妨げているのだろう。
「それとな」
「ん?」
まだ何かあるのだろうか。
「悩みすぎるとストレスで禿げるぞ」
「うっ」
それは嫌だ。
故に顔を顰めて唸ってしまった。
そしたらガンフォールに破顔されましたよ。
真面目な話から一転してからかわれるとはね。
何にせよ肩の荷が下りた気分ににさせてもらった。
力みすぎだったのだろう。
こういうところは人生経験が豊富なジジイに軍配が上がる。
腹も立たない。
「残る問題は1個だけじゃ」
軽い感じを残したままガンフォールが言った。
その言葉を聞いたとき何処かで聞いたような台詞だと思ったのだが。
ちょっと思い出せそうにない。
在り来たりな台詞だから、そう思ったのかもしれないと考えることにした。
『ガンフォールに注意されたばかりだしな』
それに解決すべき問題が残っている。
「ネーミングをどうするかだな」
あまり考えていられる時間はない。
子供組のライブが終わるまでに決めねば混乱を招きかねないからな。
「ひとつ提案があるのじゃがな」
「とりあえず聞こうか」
「取りをつとめるのが彼奴らならば、彼奴らの案を採用するのはどうじゃ?」
「それはまた大胆な話だな」
「そうでもないぞ」
「そうか?」
「スッキリ終わらせられるとは思わぬか?」
「ふむ」
確かにそんな気はする。
だが、それをすると別の問題が浮上してしまう。
他の面々の案を蔑ろにしてしまう訳にはいかない。
全員の賛同が得られるなら話は別だが。
「わしは、かまわぬ」
俺はまだ何も言っていないのだが。
提案者だけあって俺が何を考えているかが分かるのだろう。
「相当に追い込まれておったんじゃろうなぁ」
「ん?」
『何が言いたいんだ?』
子供組のことを言っているようだが。
「にもかかわらず、どうにか発表しようと頑張っておった」
「確かにな」
一時はどうなるかと思ったさ。
「ああいう健気な姿を見せられると泣けてくるわい」
マジで涙ぐんでいるガンフォールである。
「この年になると涙もろくなっていかんのう」
どうにか堪えてニカッと笑う。
『それに引き換え、俺ときたら……』
気迫があると勘違いしていたという間抜けぶり。
情けない限りである。
で、子供組が奮闘しようとした結果が今のプチライブ状態である。
そろそろ終わりそうな雰囲気だ。
「「「「「今日で私達は解散します」」」」」
何処かで聞いたような台詞だ。
それに対して──
「「「「「まだ、やれる~」」」」」
と返しがあった。
冗談交じりな調子で直後にドッと笑いが起きた。
全然違うシーンのはずなのに噛み合っている。
これもまた何処かで聞いたような台詞であるが故だろう。
「気持ちは分かる」
俺はガンフォールに告げた。
「だが、時間がない」
「何も綺麗に終わらせる必要はあるまい。
彼奴らの案を聞いてしまえば、どうとでもなるじゃろう」
「簡単に言うなよぉ」
ガンフォールの提案は俺の強権を発動させることが前提だからな。
そういうワンマンはやりたくない。
皆が納得してこそのイベントだと思うのだ。
「大丈夫じゃろう」
「何を根拠に?」
「ワシは辞退する」
「そう来たか」
読んでくれてありがとう。




