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1255 本命登場

 俺たちは完全に読み違えていた。

 無意識のうちに感情的な部分を考慮に入れていたせいだろう。

 まさか、ホロウアーマーの上位存在を単なる鎧として呼び出すとは。


 その発想が凄い。

 故に──


「手強い奴だ」


 思わず、そう漏らしていた。


 油断することなく最善手を打ってくる。

 上位存在を鎧として用いた場合、半端な攻撃は通用すまい。


 分厚い装甲が物理攻撃を簡単に寄せ付けないのは言うに及ばず。

 魔法に対してもかなりの耐性が見込める。


 魔力はそれなりに消費するだろうが、分解の魔法にも対抗できそうだ。


『読み違えていたな』


『舐めちゃいかんってことだ』


『その割に舐めプが続いていると思うが』


『したくてやってる訳じゃない』


『それより何を呼び出すつもりなんだ?』


『出てきたぞ』


『骨だ』


 言葉通り浮かび上がってくるのは人骨っぽい何か。


『こっちもバラバラかよ』


 御丁寧に特製の鎧を着込ませた状態で召喚をするつもりらしい。


 考えたものだ。

 骨系のゴーレムならバラバラでも接合は容易にできる。


 分割された鎧を着込ませるには悪くない手だと思う。

 攻撃を受けないのであればな。


 向こうは俺に余裕ができないよう攻撃してきているけど。

 本当に余裕がない訳ではない。

 ミズキたちの連絡が入れば、すぐにでも殲滅行動に入るさ。


 偽りの支配者も、そこまでは読めていないのだろう。

 俺の動きを手数で封じられると分析しているっぽい。


 周囲からだと現状はそれらしく見えるようにはしている。

 一応は【千両役者】を使っているから見破られることはないだろう。


 そのためか召喚側の防御は手薄である。

 のっぺらぼうとなってしまった銅像に何体かのホロウアーマーが護衛につくのみだ。


 護衛というよりは盾代わりと言った方が正しいかもしれないが。

 そう考えると、召喚体が手薄なのは盾など必要ないからだろう。


 向こうにしてみれば最高の防御力を与えた訳だからな。

 それで防げない攻撃などホロウアーマーでは盾にもなりはすまい。


 頭部だけは、むき出しだが。

 これは念のため罠ということも考慮しておく必要はあるとは思う。


 何にせよ、お陰で召喚体の正体は鑑定するまでもなく分かった。


『『『『『竜牙兵か』』』』』


 またの名をドラゴントゥースウォーリアーと言うのだったか。


 一見するとスケルトンのようだが、頭部の形状は細長い。

 角もあるし、人の頭骨でないのは明らかだ。

 故に本来なら簡単に見分けられるのだけど。


 ただ、一般人だとパニックを起こして間違う恐れはある。

 骨の姿を見ただけでスケルトンだと思い込んでしまうパターンだ。


 そもそも竜牙兵は冒険者でも知らない者がいるほど珍しい存在だし。

 何か違うと思っても、似たようなサイズなら一般人にとっては同じ魔物だ。

 ごっちゃにされてしまうことは充分に考えられる。


 質の悪いことに、竜牙兵は召喚時に込める魔力しだいでサイズが変えられるからな。

 スケルトンと同じサイズの竜牙兵を呼び出すことは可能だ。

 今回はホロウアーマーの上位存在に合わせた特大サイズだが。


 さすがにこの大きさになると、ただのスケルトンだとは思われまい。


『強そうだな』


『だろうな』


 込めた魔力で決まるのはサイズだけではない。

 当然、強さも変化する。


 グランダムで言えば、マーク2とサイキックグランダムほどの差はあるだろうか。

 こんな例えは迂闊に言えないがな。

 皆を刺激しかねない。


 なんにせよ、このサイズになればホロウアーマーなどより遥かに強いことだけは確かだ。


『特別製の鎧まで着込ませてもらってるし』


『ここまで来ると過保護だね』


『俺たちには言われたくないんじゃないか』


『『『『『言いたくないが、言えてるな』』』』』


 地味に落ち込ませてくれる。


『何にせよ、考えたな』


『竜牙兵なら使役しやすい』


 そういう特性のあるゴーレムだからな。

 偽りの支配者は最初からこれを呼び出すつもりだったのだろう。

 ホロウアーマーの上位存在はオプションにすぎなかった訳だ。


『だが、召喚するのは別問題だろう』


『そうだな』


『奴がこのサイズを召喚するなら魔力だけでは安定しないぞ』


『だよな』


『碌な触媒もなく、よく呼び出せたものだ』


「触媒なら使ったぞ」


『『『『『なにっ?』』』』』


 我ながら情けなくなるほど注意力が落ちている。

 もっと精神状態に左右されないよう鍛えないといけない。


 そこに気付く切っ掛けをくれたことだけはラソル様に感謝しておこう。

 全体で見ればマイナスのままだけど。


「頭部のパーツが無くなってるだろう」


『『『『『おおっ』』』』』


『頭部は呼び出さないから不要、とはしないか』


『どこまでも合理的に考える奴だ』


『エコ意識高すぎだろ』


 誰からも褒められないエコだけどな。


 そして、召喚が完了した。

 分割していたパーツが寝そべったままの状態で合体していく。


『『『『『おいおい、そりゃねーよ』』』』』


 こういう合体は浮き上がって空中で合体するのが定番だ。


『なんだ、その不細工な合体の仕方は』


 ロマンが分かっていない。


『不可能だとは言わせないぞ』


 巨人兵がロケットパンチを使ったことを根拠にしているのだろう。

 まあ、あれも元に戻る時は合体している訳だしな。


『ロマンが分かってない』


『所詮は魔道具だしな』


 情緒など偽りの支配者にとっては無駄の極みだろう。

 記憶を読み取った連中も理解できる奴はいなかったようだし。

 まあ、合体という概念自体がないはずだからな。


 そうこうするうちに各部の接合が完了した。


『頭が丸見えだ』


『弱点丸出し』


『さすがにそこまでは考えていなかったか』


 鎧付きの竜牙兵が上半身を起き上がらせる。

 滑らかな動き出しだった。

 アーマー同士が当たってこすれるが、音は出ない。


 このあたりは上位存在の機能なんだろう。

 音で動きを悟られることもあるからな。


「おっ」


 銅像が肩の所に立っていた。

 再び姿が滲み始めたかと思うと、一気に姿を変える。


「そう来たか」


 無いと思っていた兜だった。

 元が銅像と呼んでいたものが兜になるとは予想外。


 だが、仮にも偽りの支配者が自身を守るために潜り込んでいた相手だ。

 今も中にいることを考えれば、防御力は他の部位と同等かそれ以上だろう。

 銅像と呼んでいたのは見た目がそれっぽいからであって、そのものではないしな。


 フルプレート姿の竜牙兵が立ち上がる。

 奴が垂直跳びをすれば、天井に手が届きそうである。


 そんなことをする必要はないがな。

 竜牙兵が軽く爪先で地面を蹴ると軽い感じで浮いたからだ。


『ほう、浮いてきたか』


 まるでバルーンのような軽さを感じさせる浮遊感が見て取れる。

 あの巨体でフワフワと浮くのは不思議というか違和感がハンパない。


 理力魔法でないのは明らかだ。

 術式を読み解くまでもない。


『重力魔法と風魔法の合成魔法だな』


 重量軽減してから風で移動する。


『理力魔法は使えないか』


『使えても、あの巨体を支えきれんと見た』


『重力魔法と合成させるのは燃費悪いもんな』


 竜牙兵の飛び方を分析している間にホロウアーマーからの攻撃が下火になった。


『どういうことだと思う?』


『アレが突っ込んでくる直前の一斉射撃に1票』


 リズムを変えるというのは大事だ。

 流れの中で対応すると簡単に処理できてしまうということはあるからな。

 緩急をつけた方が反応しづらい。


『邪魔だからやめさせたに1票?』


 無いとは言わないが、微妙なところだ。

 感情のない偽りの支配者に舐めプは存在しない。

 言ってきたもう1人の俺も自信なさげな疑問形だったのはそれ故だ。


 ただ、そうしないと俺の動きが読みづらくなるからというのであれば可能性はある。

 複雑な状況判断が発生することを回避したってことだ。


 単純明快にしてシンプルに勝負するのはらしくないとも言えるが。

 どう考えても脳筋発想だからな。


『ホロウアーマーに別の仕事をさせるに1票』


 これは俺も1票の意見だ。


「もう1体、召喚するつもりだろう」


 竜牙兵がすぐに攻撃してこないのは、そのためだと思われる。

 迂闊に近寄ると分解の魔法があるからな。


 対抗するために魔力を消費すれば召喚に影響があると判断したのだろう。

 魔力供給は万全でも、一度に出力できる魔力量に限界があるってことだな。

 だから距離を取って牽制している訳だ。


『ビンゴみたいだな』


 ホロウアーマーたちが見覚えのある動きを始めた。


「させないよ」


 何度も言うようだが、俺だって舐めプをしている訳じゃないのだ。

 そう見えるように時間稼ぎをしているだけである。


「氷弾弐式改だ」


 追尾型氷弾である弐式の改良型を多重起動。


 氷の礫が無数に展開されると竜牙兵が反応した。

 さすがにまずいと判断したのだろう。


 奴の背面に暴風が巻き起こる。

 展開した魔法を自らの体で受けて消滅させようという腹のようだ。


 魔力を消費してでも召喚のための資源は守り切るつもりらしい。

 展開したのが分解でないというのも、この決断を促したと思われる。


『おおっ、凄い迫力だな』


 急接近する様は特攻を思わせた。

 ある意味、それに近い行動ではある。

 攻撃するためではなく防御するためという点は違うがな。


『後方の奴ら吹っ飛ばされてるぜ』


 多少の損害には目を瞑るということか。

 俺の展開した魔法で受ける損害より少ないと計算したようだ。


『判断が速いな』


『それだけ本気なんだろう』


 だとしても、最初に受けを選んだ時点で遅いと言わざるを得ない。


「防げるものなら防いでみな」


 俺はガンセイバーの引き金を引き絞った。


読んでくれてありがとう。

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