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1254 目的のためには

 銅像の姿が滲んで見えていた。


「おいおい、マジか……」


 偽りの支配者が自身にも同じ魔法をかけるとは想定外だ。


 己の存在を希薄化させるなど、誰が想像できただろうか。

 目的が上位存在との融合であるのは想像に難くない。


 人なら自殺行為である。

 自我の喪失もあり得るのだから。


 故に一か八かの賭とも考えられる。

 召喚した相手の意識を飲み込めるかどうかが勝負の分かれ目だ。


 それができるなら、あるいは自分というものを保つことはできるだろう。

 失敗すれば間違いなく自分ではなくなってしまうが。


 部分的に残るのだとしても、それは別人だ。

 その場合にどういった存在になるかは見当もつかない。


 ただ、仮説通りなら相手は上位存在だ。

 自我が消え失せる確率の方が高い。

 どれ程の相手かにもよるが。


 こういうところは人間の発想とは根本的に違う。

 故に戸惑いがないとは言えない。


 俺を倒すためだけに注力していることは分かるのだが。

 目的のためには手段を選ばずってことだ。


 肝心の目的さえ上書きされてしまう恐れがあるというのにな。

 そこまで考えて、ふと気付いた。


「そうか、だからこそパーツごとに召喚するんだ」


『『『『『どういうことだ?』』』』』


「召喚タイミングをずらすんだよ」


『ほう?』


「主要なパーツは後にする」


『それで?』


「最初に召喚したパーツに目的を強く書き込む」


 一種の刷り込みだ。


『むぅ』


『それは……』


『どうなんだ?』


「移植した相手に元となった提供者の記憶が残るって話を聞いたことがあるだろう」


『おおっ、思い出した』


『そう言えば、そんな話があったっけな』


『移植手術したら性格が変わったとか』


『趣味嗜好が変わったとか』


『聞いた時はオカルトな話だと思ったが』


 強い魔力が介在すれば、あり得ない話ではない。

 セールマールの世界じゃ魔法はそうそう使えないがね。


 それでも強い負荷がかかれば、時にはそういう奇跡に近いことが起こり得る。

 絶対ではないのがミソだ。

 だからこそ都市伝説的な状況を生み出しているのだろう。


『だとしても、このケースで残るのか?』


『上書きされそうだよな』


「それを承知でやってるんだろうよ」


『無茶苦茶だなぁ』


「人がそれを為そうというのならな」


『そうか、奴は魔道具だったじゃないかっ』


 人間を乗っ取ったことで自我があるような行動も見られたがな。

 影響されたというだけのことだ。


『自己保存の術式もないのかよ』


『目的を達成するためなら何でもありかもな』


『それで目的だけを相手にすり込むのか』


 シンプルに強く、な。


「しかも、だ。

 相手の制御が薄い場所を最初のターゲットにしている」


『完全には消しきれないかもしれんぞ』


『少しくらいは残るだろうな』


『そうなれば……』


『間違いなく影響されるだろ』


 召喚された直後から俺が敵としてロックオンされるはず。

 俺が誰であるかなど関係ない。

 攻撃目標として執拗に狙ってくるだけだ。


『それは厄介だ』


『今からでもお帰り願った方がいいんじゃないか?』


『いや、それはやめておくべきだ。

 偽りの支配者が頑強に抵抗するだろう』


 その時に術式が暴走する恐れがあるからな。

 よりヤバいものが大量に召喚されることも無いとは言えなくなってしまう。


「それに……」


『ここまで来れば、召喚されたも同然か』


 滲んでいたパーツは形を変え、それぞれが各パーツを大型化させていた。


『色が変わったな』


 元のプレートアーマー然としたメタリックな質感を残しながらも黒くなっている。

 すべてが黒だ。


『黒騎士ってことか』


『悪役っぽいな』


『強そうだぞ』


『デザインが少し変わっているからだろう』


 華美な装飾がある訳ではない。

 だが、装甲形状は明らかに複雑化していた。

 所々に角状の突起があったりもする。


『こうして見ると、ホロウアーマーは簡素化された量産型って感じだな』


 この例え方は微妙だったようだ。


『グランダムとディムみたいなもんか』


『Zグランダムとリグランズィだろ』


『ストロークとディガーじゃね』


 皆を刺激してしまったらしく、次々と具体例が出てきた。


「気持ちは分かるが、初代だけで充分だ。

 論争になるからそのくらいにしておけ」


『『『『『うっ』』』』』


 もう1人の俺たちが呻く。

 指摘通りの状況に陥りかけていたのだろう。


 どうやら熱くなっていた時の熾火が残っているらしい。

 止めていなければ再び喧々囂々の状態になっていたかと思うと頭が痛くなりそうだ。


「とにかく上位存在の召喚は成功したようだな」


 まだ完全に終わってはいないが、この状態から消えることだけはない。

 各パーツがバラバラだが召喚が完了すれば合体して動き始めるはず。


『『『『『ああ』』』』』


「問題は……」


『どこまで銅像野郎の目的がすり込まれているか、だな』


 もう1人の俺が先んじて言及してきた。


 しかしながら、観察眼に甘さがあると言わざるを得ない。

 俺も話している途中で気付いたが、偽りの支配者はもっと大胆な奴だったのだ。


「……そこじゃないよ」


 冷静さを取り戻しきれていなかった影響がこんなところにも出ているとは思わなかった。


『なにっ、どういうことだ!?』


 まだ気付かないようだ。


「銅像野郎はどうなった?」


『消えたはずだろ』


 その返答にガックリきた。

 肩を落とすと照準が狂うので、どうにか堪えたが。


『滲んで存在が希薄になってたんだから』


 そこまでは見ていたようだ。

 とはいえ、その時点で消えると思い込んでしまったのはミスだ。


「その後だ」


『後だって?』


「奴はこれっぽっちも消え去る気なんてなかったんだよ」


『『『『『なぁんだってぇーっ!?』』』』』


 他のもう1人の俺たちまで一緒になって驚いている。

 そこまで意外なことを言った覚えはないのだけれど。

 やはり、気付いたかどうかの差は大きいようだ。


『無茶を言うなよ』


 呆れた様子で反論してくる。

 それこそ嘆息するかのような口振りだ。


『上位存在を召喚して飲み込まれないはずがないだろう』


『そうだぞ』


『あれだけ存在感を放っている相手を呼び出しただけでも奇跡的なんだ』


『そうそう』


『これ以上は、いくらなんでも無理だって』


「……………」


 1人くらいは気付いたかと思ったら全員が気付いてなかった。


 呆れて何も言えなかったさ。

 俺も同じ立場ならこうなっていたかと思うとね。


「じゃあ、あれは何だ?」


 皆の意識が俺の視線の先へと向かうのが分かった。


『『『『『消えてないだとっ!?』』』』』


 そう、消えなかったのだ。


『おいおい、姿が滲んでないぞ』


『どうなってる!?』


『召喚が不完全な状態だからかもな』


『言われてみれば……』


『だが、それなら希薄化してないのはどう説明するんだ?』


『失敗はしてないしなぁ』


「顔を見てみろ」


『『『『『顔? 顔がどうしたってい……うおぉっ!?』』』』』


『顔がないーっ!』


『今度こそ、のっぺらぼうだっ』


『そうか、そういうことか。

 喰った相手を盾にしたんだな』


 別の言い方をするなら身代わりだ。


『記憶を読み取って利用価値がなくなったらポイ捨てかよ』


『捨てるより質が悪いぞ』


『ガクブルものの冷酷さだな』


 感情のない偽りの支配者には適切とは言い難い。

 合理的と言うべきだろう。


『……変だな』


 もう1人の俺が肝心なことに気付いたようだ。


『合体しないぞ』


「召喚を途中で止めたからだろ」


『何を言ってるんだ?

 術式は継続されて……』


『術式が変更されてるぞ』


『今度は単純な召喚術式だ』


『確かに途中で止めて別の術式に変更したようだが……』


『どうして上位存在は戻ろうとしない?』


 普通は中途半端なところで召喚が止められると戻ってしまうものだが。

 ただ、途中の状態で保持することも可能ではある。

 相手との制御争いに勝てればの話だが。


 このケースの場合、普通に考えると制御の綱引きに勝てる見込みは薄い。

 そうならないのは──


「パーツごとに別の上位存在を呼び出して保持してるんだよ。

 だから、制御の要となる頭部だけはあえて召喚していない」


 ということだ。


『パーツ単位でなら引き止められるか』


『別存在じゃ合体しようとしない訳だ』


『呼び出している奴に着せるつもりか』


 目的が防御力の向上なのは言うまでもない。


 偽りの支配者は徹底して己を強化しようとしている。

 存在が消えても目的を達成するなどとは微塵も考えていなかった訳だ。


 戦う前から敗北させられた気分である。

 もちろん、負けたままでいるつもりはないがな。


読んでくれてありがとう。

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