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1208 過剰になられてもな

 魔力掲示板の説明は続く。

 始まったばかりだしな。

 受講者たちが緊張しすぎなので、些か心配だ。


『この調子で最後まで行けるか?』


 ちょっと怪しく感じてしまう。

 仮に最後まで大丈夫だったとしても、その後が問題だ。


 受講者たちには仕事があるからな。

 そうなると、こんな風にさせてしまった責任を尚のこと感じる。


『なんとか緊張感をほぐせれば』


 フォローの意味合いもある文言を表示させてみるのも、ありかもしれない。

 上手くすれば禿げショックの緩和にもなるだろう。

 直接入力の説明もする必要があるし、ちょうど良さそうだ。


「手書き以外にも掲示板に文字を表示させる方法はある」


 そう言うと、受講者たちは前のめりで聞き入る体勢に入ってきた。

 気合いが入りすぎである。

 受講者たちより先に俺の方が疲れそうだ。


「あまり前に寄ってくるな」


 大勢だと手で押し戻す訳にもいかない。

 超高速で張り手を繰り出すなら話は別だが。


 それは押し戻すんじゃなくて吹っ飛ばすことになってしまうと思う。

 どれだけ当たりを弱くしても怪我人が出そうで怖い。


 魔法で補助する必要が出てくるが、そこまでしなきゃならないことでもないだろう。

 だから、言葉で押し戻そうと試みたのだが。

 押し寄せてくるのを止めるくらいしかできなかった。


 止まってくれただけでもマシなのかもしれないが。


『何か下げさせる言葉はないか』


 元の位置に戻れと言うだけでは難しい。

 命令口調でキツめに言えば下げられはするだろう。


 が、それでは意味がない。

 受講者たちのメンタルを今よりも更に不安定にしかねないからな。


 どうにかして自主的に下がらせたい。

 そんな魔法の言葉はそうそうあるものではないがな。


『いや、そうでもないか』


 受講者たちのやる気を逆手に取る方法ならばあるいは……

 思いつきに等しいが、言わずにいても何も変わらない。

 とりあえず試してみることにした。


「全体を見渡せる位置でないと見落としが出てくるぞ」


 ビクッと反応する受講者たち。

 そして元の位置まで下がってくれた。


『疲れる……』


「今から説明する方法は急いでいる時はお薦めしない」


 直接入力なんて魔道具を碌に触ったことのない面子には大仕事だからな。

 慣れるまでが一苦労だから入力が終わった段階で油断しやすい。

 チェックを忘れる元にもなりかねない訳で。


 だが、慣れれば早いのも事実。


「とりあえずは、こういう方法もあるということだけ認識しておいてくれればいい」


 先に前置きしておいてから操作を始めた。


 まずは魔力掲示板の何も表示されていない部分を指で長押し。

 すると黒色の背景に白いA4サイズの領域ができた。


 その下には文字入力パネルも表示されている。

 それをタッチパネルの要領で入力していく。


[ヒューゲル卿は]


「「「「「おお─────……っお?」」」」」


[フサフサです]


「「「「「ぶほおおおぉぉぉぉぉっ!」」」」」


 一斉に、そして盛大に吹かれた。


『どうしてこうなった……』


 ここまで強調する気じゃなかったんだが。

 単なるフォローのつもりが受け狙いのネタになっていた。


 もちろん、そんなつもりは皆無だ。

 ただの偶然である。


 とはいえ、この後の説明やリサーチは少しリラックスできたように思う。

 怪我の功名と言えるのではないだろうか。


 毛が出てくる話だけに。

 お後がよろしいようで。


 え? 面白くない?

 俺としてはフォローできれば充分だから、これでいいのだ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 魔力掲示板を導入した結果、エーベネラント城内の業務効率は改善した。

 数値化しにくいのでしていないがね。


 ミズホ国のことなら調査して何%の効率化が行われたか計算するんだけど。

 友好国とはいえ余所の国のことである。

 根掘り葉掘り聞き取りや計測なんてする訳にはいかない。


 依頼があって、その上で仕事としてやるなら話は別だけどな。

 そういう話は出ていないので手は出していない。


 パッと見で分かってしまうなら仕方がないけれど、そういうこともないし。


 え? じゃあ、どうして改善したか分かるのかって?

 各所から楽になったという報告が上がっているとカーターから聞いたからだ。


 それと城内を歩いていると誰からも礼を言われるようになった。

 そのために仕事の手を止める者までいる始末である。

 なんだか謝られているような気になるほどだった。


 例えば廊下で掃除をしていたメイドさん。

 邪魔しちゃ悪いからスルーで通り過ぎようとしたら──


「あっ!」


 俺を見るなりぴょこんと跳び上がった。

 その光景を見た瞬間に思ったのは、まるでリスか何かの小動物みたいだということ。


『なんだ!?』


 その瞬間はビビられているのかと思ったさ。

 相手が小動物に見えたせいか、俺が肉食獣になったような錯覚に陥ったのだ。


 まあ、勝手な妄想だ。

 掃除メイドからすれば迷惑な話である。


 当人は、そんなこととは与り知らないんだけど。

 仮に知っていたとしても、気にしている余裕はなかったかもね。


 何か言おうとしているんだけど──


「あのっ、あのあのあのっ」


 こんな具合だったから。


 次の言葉が出てこない。

 なかなかとかではなく全然だ。


 理由は分からないが畏縮させていると判断するのも道理であろう。

 だから俺がいなくなるのが解決策だと判断した。


「やあ、精が出るね。

 邪魔しちゃ悪いから俺はこれで」


 更に畏縮されないように気を遣いつつ、場を去ろうとしたのだが。

 それを見た掃除メイドが慌てだした。


「あのっ、ありがとうございましたっ」


「え?」


 いきなり礼を言われるとか訳が分からん。


『声を掛けられたから何か言わなきゃと思った?』


 そういう雰囲気じゃない。

 とにかく必死にペコペコ頭を下げてはいるのだけど。


 最初から何かを言おうとしていたし。

 それがこの礼なんだと思う。


 いずれにせよ何に対するものなのかが分からないけどね。

 分かっているのは、掃除メイドからいきなり礼を言われたという事実のみ。


 しかしながら、何に対する礼なのかが分からない。

 一瞬、アンデッド騒動の時のことかと思ったが違う気がする。

 あれはもうとっくに終わったことだし。


 ここまで必死に言われるほどのことを、このメイドにした覚えはない。

 それはうちの面子も含めての話だ。


 どうしたものかと思ったら、掲示板の話をし始めた。


「…………………………………………………………………」


 要領を得なかったので要約すると、こうだ。


 掲示板が各所にできたお陰で移動中に確認できるようになった。

 表示される内容は日時があるため分かりやすい。

 古い情報も見ることができるので安心。

 小さい文字でも拡大することができる。

 走り書きがなくなって読みやすくなった。


 こんな具合だろうか。


 移動中に確認できるようになったのは数を増やしたからだ。

 その分、大幅に掲示する面積を削ったけどな。


 試作品でも大きいという声が多数寄せられたので大胆に変えてみた。

 普通の掲示板サイズでも首を巡らす必要があるからな。

 掲示板の全面に掲示されていることの方が少ないというのもあるし。


 逆に表示しきれないこともあるけれど。

 掲示する面積が減ったのだから当然だろう。


 そこは縮小表示することで対応することにした。

 確認できるなら問題ない訳だし。


 読めないほど小さい場合は拡大させることができるようにした。

 一度に表示しきれなくなるが、そこは簡単な操作でスクロール可能にしてある。


 あと、読み取り時に表示期間を指定することで自動的に非表示になるようにもした。

 これにより掲示物に無駄がなくなったのだがメリットがデメリットを上回っている。


 メリットは情報に無駄がなくなり掲示内容が減ったことだ。

 確認の時間が短くなるということで好評であった。


 デメリットは終わった掲示情報を確認したい時に呼び出す必要があるということ。

 手間が増えるのはしかたないし、大した問題ではないということで概ね好評だ。


 掲示した日時は要望により自動で表示させることになった。

 そのこともあって掲示期間を設定させるよう仕様を追加したのだ。


 これだけでも西方の技術水準を大幅に超えているのだが、そこは諦めた。


『顧客から要望があるなら答えねばな』


 可能な限りという条件はつくが。


 新たに採用した機能は許容範囲内ということにした。

 範囲外の要望はなかったので却下はしていない。


 古い情報が見られるというのも、そのひとつ。


 簡単な操作でページ送りできるようにしたり。

 検索文字を打ち込むことで目的の情報を探し出せるようにしたり。


 後者は古い情報に限ったことではない。

 いま掲示されている内容を強調表示させたりも可能だ。


 それと小さい文字の拡大についても許容できる。

 まあ、これについては表示面積の縮小時に盛り込んだ機能の応用だからな。

 おまけみたいなものだ。


 掃除メイドが言う機能改善についてはこんなところだろう。


 ただ、走り書きがなくなった点については関係ない。

 魔道具に判定機能なんて組み込まなかった。

 それは許容範囲外だ。


 周知徹底すれば充分な話だしな。

 それだけで読みやすくなったのであれば喜ぶべきであろう。


「本当にありがとうございますっ」


「あー、うん。

 分かったから仕事に戻ってくれるかな」


 ここまで喜ばれると居心地が悪くなってくる。

 既に結構な時間がたってしまっているし。

 礼の言葉は何度も耳に入ってきている。


「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございますっ」


 今ので3個の追加だ。

 まあ、カウントを再開するつもりはないけど。


「気持ちは充分に伝わったから仕事に戻ろう。

 遅れると他の人に迷惑がかかるんじゃないかな」


「あっ、そうでしたっ」


『指摘するまで気付かんか……』


 それだけ強い感謝の念があったのだとは思うが過剰になってくると怖さを感じる。

 こういうのが何人もいると思うと尚更ね。


 幸いにして、この掃除メイドほど過剰な感謝をしてくる者はいなかったけど。

 ホッと一安心と言いたいところだけど、些か考えさせられた。


 ギャップがあるせいで怖さが強調されたからか、安易に安堵はできなかったというか。

 ストーカー的だと思ったりした訳だ。


 まあ、その次に見かけた時は普通だったけど。

 単にテンパっていただけらしい。


 礼を言いたいのに言えずにいたら俺が行ってしまいそうになって焦ったみたい。


『こっちが焦ったよ』


 まあ、これほど極端なのは掃除メイドだけだとは思うが。


読んでくれてありがとう。

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