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1186 気付くのが遅いんだけど

 カーターが興奮している。

 そのせいで言ってることが理解できなくなりつつあった。


「とりあえず落ち着こうか」


 話を整理しないことには訳が分からない。


「落ち着いてなんていられないよっ」


「そうは言うが、カーターの話がチンプンカンプンでは時間を浪費するだけだぞ」


「あ……」


 時間を浪費すると言われたのが堪えたのだろう。

 我に返るや否や萎んでいくカーター。

 どうやら爺さん公爵のお小言タイムが念頭に浮かんだものと思われる。


「それで何が俺の言う通りだったんだ?」


「おっと、そうだったそうだった」


 カーターが落ち込み状態から復帰してくる。

 興奮しきったところまで戻らないのは頭の片隅に爺さん公爵が残留しているからか。


 何にせよ話しやすくなったので助かる。


「夢の中に出てきて神託を下されたのは神様じゃなかったんだよ」


「神様じゃないなら神託じゃなくなるだろ」


「いやいやいや、そうじゃなくてだね」


 カーターがあわあわした身振りを見せてもどかしげにしている。


「相手は神の代理と仰っていたんだよ。

 この世界における唯一の神の代理としてって言ってた」


「ああ、そういうこと」


「裁きの亜神ジュディーチェ様と名乗られたよ」


「ふーん」


『名乗っちゃうかー』


 俺の時は名乗らなかったのに。

 目先のことに気を取られていたせいではあるんだろうけど。


『どんだけ必死だったんだよ』


 改めて思ってしまう。


 まあ、ジュディ様が必死になっても俺たちが影響される訳にはいかない。

 気合いが空回りしてイベントが変なことになっても嫌だし。

 期待外れだと言われたりするのは癪だが、グダグダになるよりはマシである。


「それだけ?」


「と言われても、知ってるからね」


「あ、そうだった」


 カーターの熱が冷めていく。

 今度こそ平常運転の範囲内だろう。


「じゃあ、行こうか」


「どこに?」


「おいおい、お告げがあったんだろう?」


 ルディア様との打ち合わせで城の中庭に元奴隷たちを呼び出す手筈になっている。

 俺が呼び出すんじゃなくてジュディ様が召喚する形でね。

 神託通りなら、信仰心も増すんじゃなかろうか。


 ちょっとズルい気もするが、誰かが不幸になる訳じゃない。

 皆で幸せになろうよってことだ。


 こんなことを言うと、何処かの隊長さんがひょこっと現れそうだけどな。


「そうだった。

 私が中庭に行かないと何も始まらないんだよね」


「しっかりしてくれよー」


「ゴメンゴメン」


 カーターがいつもよりウッカリ成分多めである。

 睡眠時間が足りないからか、寝起きだからか。

 いずれかは不明。


 ただ、この先のことを考えると若干不安になってくる。


『大丈夫だと思いたい』


 が、先のことは神のみぞ知る、だ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 一抹の不安を抱きながらも中庭に到着。


「いよいよだね」


 カーターが興奮を抑えきれない感じで俺の方を見てくる。

 これがジュディ様なら「ドキドキ」とか言ってしまうのだろう。


『頼むから、落ち着いてくれ』


 元奴隷たちの前でソワソワした感じを見せるのは、どう考えてもマイナスだ。

 そう考えていると、脳内スマホにショートメッセージを着信。


[このままだと始められないよ]


 ジュディ様からだった。

 同じことを考えたみたいだな。

 俺にどうにかしろということなんだろう。


 他にどうにかできそうな面子がいないんじゃ仕方あるまい。

 ヴァンが忠言したところで、カーターのワクワク感は消えたりしないだろうし。

 損な役回りである。


「カーター、主役が観客のようになってどうするんだ」


「観客?」


 どういうことか分からないらしく、カーターは怪訝な表情で首を傾げている。


「ヘラヘラしすぎだ」


 そこまでではないのだが、これくらい言わないと効果はなさそうだと判断した。


「そうかな?」


「次に何が起きるのかって期待感が前面に出すぎ」


「あれっ、そんなに分かりやすい顔になってた?」


 その驚きぶりからすると指摘されたことが意外だったらしい。

 ペタペタと自分の顔を触って確かめようとするくらいだし。


「なってるよ」


「そうなんだー」


 指摘されても頬は緩んだままだ。


『触って確かめたんじゃないのかっ』


 内心でツッコミを入れたさ。

 たぶん「うん」の返事で片付けられるだろうから、口には出さなかったが。


「この国の王であるカーターが主役なんだ。

 もっとビシッとしてくれないと、召喚される者たちが不安になる」


 こちらの方が効果的だろう。


「おおっ、そうだった」


 作ったようなキリッとした表情になる。

 遊山客のような顔よりはマシかと思ったら、維持しきれずに戻っていた。


『子供かっ』


 内心のツッコミ再びである。


「これならヒューゲル卿を呼んだ方がマシだな」


 そう言った途端にカーターの締まりのない笑顔が凍り付いた。


「どういうことかな?」


「今の威厳がないカーターより宰相の方がこの場に相応しいかなって思っただけ」


「そそそっ、そんなことはないよ、そんなことはないっ」


 慌てた様子でビシッと直立するカーター。


『ビシッとするのは顔の方にしてくれ』


 まあ、観客気分が抜けたので緩んだ表情がなくなったけど。

 今度は悲愴感のある顔になってるし。

 ままならないものである。


「あの爺さんは呼ばないからシャンとしてくれ」


 それで落ち着いたのか、普段のカーターに近い感じになった。

 爺さん公爵の影響からか微妙に緊張感が感じられる。

 今の状況からすると、ちょうどいいかもしれない。


 そう感じたところで再び脳内スマホにショートメッセージが飛び込んできた。


[じゃあ始めるよ]


 こちらのノリは軽いままだ。

 上手くやってくれているはずと信じるしかない。


「始まるみたいだぞ」


 大きな魔法が発動する兆候があった。

 予告通りだ。

 本来ならサクッと終わらせるところなんだが、焦れったくなるくらい発動がスローだ。


「分かるのかい?」


 目を丸くしたカーターが俺の方を見てくるぐらいに見た目では何も変化がない。


「大規模な召喚魔法が使われるからな。

 魔力の流れで分かるぞ。

 それに意図的にゆっくり発動させてるみたいだから尚更だ」


「おー……」


 溜め息と共に感嘆の声が漏れ出ていた。


『情緒不安定になってないか?』


 いつものカーターらしさがない。

 よくよく考えてみれば起床するなり興奮していたのが変だし。

 感情の浮き沈みが激しいのも妙だ。


 最初は神託があったことが影響しているのだと思っていた。

 人生初の体験な上に誰にでもあるものじゃないからな。


 だから無理もないことなんだろうと。

 多少の違和感はあったんだけどね。


 が、ここにきて何かが違うと確信した。

 その瞬間──


『あっ!』


 肝心なことを思い出した。

 ジュディ様の特異体質。

 と、ここで再びショートメッセージが届いた。


[気付いた?]


 この質問は特異体質についてだろう。

 ジュディ様が召喚魔法を保留状態にしたようだ。

 メッセージでやり取りをしようというのだろう。


 別にそこまで徹底しなくても、もう影響は受けないので大丈夫なんだけど。

 とにかく、返事をしようとしたタイミングで次のメッセージが来た。


[変に落ち込まないように皆に手分けして協力してもらったんだけど]


 ジュディ様の体質を封印するんじゃなく、相手の方を保護したってことだな。

 更にメッセージが追加される。


[ちみっこの勘違いでエヴェさんの保護対象と被ったのが1人いる]


[誰がちみっこだ。自分もチビのくせに、ゴルァ!]


 すかさず割り込むようにショートメッセージが入ってきた。

 アフさんである。


『なんで俺宛のショートメッセージで喧嘩してんだよ』


 そういうのは本人に言えばいいだろうに。

 なんにせよ、原因は分かった。

 保護対象に重複して魔法をかけたことでカーターがハイになってしまった訳だ。


『そそっかしいなぁ』


 だからこそアフさんのミスだろうかと思ってしまう。

 けれども俺にはその疑念を解決するだけの情報が何もない。


 いや、俺も含めてアフさんたちも気付くのが遅すぎるという情報があるか。

 となると疑わしいのは、むしろジュディ様だ。


 恐らくは慌てていて連絡ミスをしたといったところじゃないかな。

 あり得る話だ。


 ただし、それを証明できない。

 そのあたりはルディア様に何とかしてもらうしかないだろう。


[喧嘩するより先にすることがあるでしょう]


 故にあえてアフさんにメッセージを送信した。

 ちょっと罪悪感を感じたが、あまり引き延ばしする訳にもいかないからな。


 すぐに新たな魔力の流れを感じた。

 これでカーターも不安定な状態から脱出できるだろう。

 そしてアフさんからのメッセージが届く。


[ゴメン]


 素直である。


[ルディア様に話を聞いた方がいいかもしれませんよ]


[なんでさ?]


 どうやらアフさんは気付いていないようだ。

 となると、俺の推理は外れているかもしれない。


 そんな風に思ったのだけれど、後に外れていなかったことが判明する。

 ジュディ様が叱られたのは言うまでもない。


読んでくれてありがとう。

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