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1187 懐かしい光景?

 光の魔方陣が浮かび上がった。

 もちろん召喚魔法を演出するための仕掛けだ。

 呼び出すだけなら、必要のないものである。


 まあ、ジュディ様の配慮だろう。

 俺がよく使う手だから踏襲してくれた訳だ。


 それにこうした方が神の奇跡っぽく見えるだろうし。

 現にカーターが、いつもの楽しげな面持ちで──


「もうすぐだね」


 と少し声を弾ませた感じで言ってきた。


『元に戻ったか』


 先程までのような無邪気な感じは鳴りを潜めている。


 そりゃそうだろう。

 アフさんとエヴェさんの魔法が重複してハイになっていた効果は取り消されたのだから。


「ああ、来るぞ」


 俺がそう言うのに合わせたようなタイミングで魔方陣から強い光があふれてきた。

 光の奔流が視界を埋め尽くす。


 不思議なことに上を見上げても外壁より高い所からは暗いままなんだけどね。


 これもジュディ様の配慮なんだろう。

 王城で何かが起きていると城外の者たちに気付かせないためだ。


 まあ、俺の結界があるから光とかは外から見えないはずなんだけど。

 それを指摘するのは野暮ってものだ。

 せっかく気を遣ってくれたんだからな。


 あと、術式が最終段階を迎えている時に余計なことを言うとヤバそうって言うのもある。


『何かやらかしそうで怖いんだよな』


 この状況でフラグを立てるのは危険すぎる。

 という訳で、輝きが薄らぐまでジッと我慢した。


 既に大勢の人影が見えるが、この光量の中でそれが可能な者は限られている。

 俺以外だとベルとナタリーくらいのものだ。


 もしかすると、このタイミングで進化したことに気付くかもしれない。

 ベルは割と平然としているんだけど。

 というか楽しげに笑っている。


『あー、これは気付いてるな』


 ナタリーは唖然としている。

 だからこそ気付くのは時間の問題だろう。

 別に2人には秘密にすることではないけどな。


 だが、無関係な者たちにバレるのはマズい。

 ベルとナタリーなら大丈夫だとは思うが、注意しておく必要はあるだろう。

 そんなことを考えている間に光はほぼ消えていた。


 燃えさかる炎が消えた後の熾火のように光の魔方陣が淡く発光しているのみ。

 光の加減で魔方陣の細かな部分は、ぼかした感じになっている。

 そのせいか召喚された者たちの足元の地面全体が照明と化していた。


 明々とした感じではない。

 むしろ暗めである。


 が、不思議と顔の判別ができるような不思議な明かりであった。

 亜神が調節した光だからなんだろう。


『その前が眩しすぎたけどな』


 中庭に現れた者たちは強く目を閉じ腕で庇いながら顔を背けるようにして立っていた。

 カーターとヴァンも同様だ。


「うあー、眩しかったっす」


「陛下の時より、光が強かったす」


「ビックリしたっすよー」


 風と踊るの3人娘たちが後ろの方でぼやいていた。


 無理もない。

 俺が演出するときは光量を眩しいと感じるギリギリのラインに設定しているからな。


 対してジュディ様は、とにかく明るくって感じだった。

 張り切るあまりミスったものと思われる。


『色々と配慮してくれたのに、なんでそこだけ抜け落ちるんだか』


 まあ、ツッコミを入れても余計に事態が悪化しそうだしスルーだ。

 問題ありと判定されればルディア様が拳骨を落とすなりしてくれるはず。


 それよりも、ざわつき始めているのが気になった。

 3人娘たちと同様のぼやきばかりだけどな。

 要するにミズホ組だけだ。


 ヒューマン+なだけあって、この程度なら眩しく感じる程度で済む証と言えるんだけど。


『一般人は、そうはいかないよなぁ』


 まだまだ目を開けられる状態にない感じだ。

 おそらく瞼を開いても、まともに見られない状態だろう。

 そんな状況で周囲が騒がしいと不安を抱きかねない。


「しょうがないなぁ」


 未だに目を閉じている全員に治癒魔法を使う。

 その際に判明したが、結構ヤバい状態だった。


『全員、視力低下してるじゃないかよっ!』


 失明には至っていなかったが、明らかにやりすぎである。

 断じてアウフにはならない。

 セウトどころか完全にアウトだ。


 念のために女子組も確認してみたが、こちらは大丈夫であった。

 ホッと一安心である。

 視力低下した面々も元に戻せたしな。


 治癒魔法を使い始めたときよりも魔力を多く消費して再生までしないといけなかったが。


[やりすぎです。後で注意が必要な案件だと具申します]


 ルディア様にショートメッセージを送っておいた。

 え? 注意程度じゃ甘いって?


[心得た。が、単なる注意では甘かろう。適切に対処しておく]


 こういう返事が来るのを見越していたのだよ。

 俺が感情的になれば、なだめられて処分まで甘くなりそうな気がしたのでね。


 とにかく、向こうのことは向こうに任せるということで。

 俺たちはこちらの問題を解決しないといけない。


「カーター、もう目を開けても大丈夫だ」


 俺の声に目を閉じたままこちらを見たカーターがゆっくりと瞼を上げていく。


「おおっ、もう普通に見える」


 どうやら何度か薄目を開けて確認していたようだ。

 パチパチと瞼を瞬かせて見えることを喜んでいた。


 その声を聞いてヴァンも目を見開く。

 周囲を見渡して小さく何度も頷いている。


 他にもカーターの声が聞こえていたであろう手近な召喚された一団が目を開いていく。


「もう眩しくない」


「おおっ、見えるぞ」


「本当だ……」


「やった!」


「見えるっ、私にも庭が見えるぞっ!」


 瞬く間に周囲へと拡がっていく。

 この状況を何も知らされずに目撃したのであれば大袈裟だと思ったことだろう。

 凄まじい眩しさを知っている我々からすれば頷けるのだが。


 故に俺たちサイドからは誰も口出しをしない。

 カーターも穏やかな表情で見守るのみ。


 やがて騒ぎが急速に静まっていく。

 何人かが俺たちに気付いて周囲に注意を呼びかけ始めたからだ。


 場の雰囲気が一気に静まり返っていく。

 カーターは完全に静まり返るのを待った。

 そして彼らの方へ進み出る。


「「「「「─────っ!」」」」」


 一同は悲鳴を上げそうな驚きっぷりを見せた。

 恐れるという感じではない。


 どちらかというと信じられないものを見た時に近い雰囲気がある。

 その割には驚きっぱなしではなかったが。


 慌てた様子で誰かが跪いた。

 すると、周囲の者たちもそれに続く。


 その光景は波が拡がっていくかのようであった。

 大きなスタジアムで観客がウエーブをした感じに似ているとも言えるか。


 立った状態から跪くのでウエーブとは逆の動きではあるけれど。

 あと、跪いたまま微動だにしなくなった。

 全員が俯き加減でカーターを直視する者がいない。


 誰であるかを知っているのだ。

 会ったことはおろか、遠目に見たことさえないはずのカーターを。


 ジュディ様が彼らの夢の中でカーターが新たな王であると見せたからに他ならない。

 肝心な部分に手抜かりがなくて何よりだ。


「面を上げよ」


 カーターが命じた。


「「「「「───っ!?」」」」」


 先程には及ばないものの召喚者たちが泡を食っていた。

 それでも体を硬くして、どうにかブルリと身を震わせるだけに留めていた。

 もちろん、顔は俯き加減のままである。


『あー、完全にビビっちゃってるなー』


 この様子では簡単には前を向いてくれないだろう。

 そのせいか、何だか懐かしく感じてしまった。


 うちの妖精組と始めて出会った頃のことを思い出したからだ。

 ダンジョンから出るなり現れて跪かれたもんな。

 あれには苦労させられた。


 まあ、ミズホシティに移動してからの方が大変だったけど。

 ルディア様の前で土下座して困らせてたもんな。


 今の召喚者たちからは、その時の妖精組のような雰囲気を感じる。

 これは難題と言えそうな気がするのだが。


『カーターのお手並みを拝見させてもらうとしますか』


 え? 経験者の俺が手を貸さないのかって?

 ここはもうエーベネラント王国だからね。

 いきなり俺がしゃしゃり出る訳にはいかないよ。


 どうしようもなくなって助けを求められた場合は、何か手を打つつもりだけど。

 いずれにしても前面に出るつもりはない。


 主役は俺じゃなくてカーターだからね。


「この私、カーター・エーベネの名にかけて不埒な真似はせぬと約束しよう」


『そう来たかー』


 何度も命じるより説得する方が先だと思ったようだ。

 相手を畏縮させないようにと考えたのではないだろうか。


「私は何処かの狭量な輩どもとは違う。

 そして、あれらは二度と諸君らの前に姿を現さぬ」


 予想通りだった。

 だが、単純と侮ることはできない。

 あれこれと複雑に考えるよりシンプルな方が上手くいくことがある。


「何より諸君らは、もはや奴隷ではないのだ」


 それはジュディ様によって伝えられているはず。

 神託という形でね。


「私の言ったことが信じられないのも無理からぬことだが──」


 カーターのこの言葉に、跪いた召喚者たちはビクリと身を震わせた。

 見透かされ、それを指摘されたと感じたのだろう。

 不敬という言葉が重くのし掛かっているに違いない。


 だが、カーターは微塵も気にしてはいなかった。


「この話を諸君らは神託として受けているはずだ」


 またもやビクリと震える召喚者たち。

 いや、ガタガタと震え始めた。

 そこまで知っているのかと思ったことだろう。


「私も神託を受けた」


 が、この一言が状況を一変させた。

 召喚者たちの誰もが呆気にとられた顔をしていたのだ。


 わざわざ【天眼・遠見】を多重起動して覗き込んだりはしていない。

 そんなことをしなくても、全員が前を向いていた。

 意外という言葉が顔に出てしまっている。


 少し考えれば、どうしてカーターが神託の内容を知っているのか想像がついたはずだが。

 動揺している状況で冷静に考えを巡らせる余裕がなかったのだろう。


「諸君らを手厚く処遇せよと命じられている」


 意外に意外が積み重なると驚愕になるようだ。

 召喚者たちの目も口も大きく見開かれてしまっている。


「これは神の御言葉だ。

 不服のあるものは申し立てよ」


 そう言われては誰も何も言えない。


「ならば、諸君らが怯えねばならぬ理由は何処にもない」


 カーターは不敵で素敵な笑みを浮かべるのであった。


読んでくれてありがとう。

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