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1127 報告の続きと異変の予兆?

 報告は続く。


[所持品はすべて没収しましたので、御安心を]


 これで本当に安心するようでは甘い。


『気付いてるのかな』


 報告ですべてと書く時点でダメダメだということに。

 ベルの場合は俺のツッコミ待ちということも考えられるのだが。


[本当にすべてかどうかは、こちらでは確認できない]


 とりあえずショートメッセージを送っておいた。

 待っていましたとばかりのタイミングでレスがあった。


[申し訳ありません]


『……………』


 これに引きずられると、延々とショートメッセージのやり取りになってしまう。

 ここで止めておくのが賢い選択だ。

 とりあえず、ツッコミが入ったのでベルも納得はするはずである。


『満足するには程遠いだろうがな』


 報告の続きを読む。


[見覚えのない色のポーションを所持]


 自害用の毒だろう。


[毒であることが予想されるため亜空間倉庫へ回収しました]


『良い判断だ』


 スパイには手の出せない場所であるのは間違いないからな。

 どう足掻こうと、この毒を使うことはできなくなった。


 もちろん報告のポーションが毒と断定できた訳ではない。

 が、ほぼ間違いなくそうだという確信に近いものがあった。


 ベルが知らないと報告している時点で真っ当な効果のポーションではないからな。

 ゲールウエザー王国の宮廷魔導師団で総長まで上り詰めた者が知らないと言うのだ。

 ベルの判断が間違いだと思う方がどうかしている。


[他にも魔道具と思しきペンダントを所持していました]


『使い捨て同然のスパイに魔道具ねぇ』


 何となくだが、きな臭い感じがする。


[魔道具の正体は不明]


『へー、今のベルに術式が読み取れないのか』


 てれらじを作ったことで魔道具の術式の読み取りもできるようになっている。

 ミズホ国基準では入門編をクリアした程度ではあるが。


 だとするなら……


『迷宮産のアイテムか?』


 確信を持って言える訳ではないが、その可能性は高そうだ。

 ラフィーポ王国が独自に魔道具の技術を発達させていることも無いとは言い切れないが。


 ただ、その可能性は極めて低いがね。

 ベルが読み取れないほど技術レベルを上げているとは考えられないからな。

 西方の平均的なレベルのものなら余裕で読み解けるはずなのだ。


『いや、余裕ってことはないのか』


 あれはあれで読みづらいからな。

 悪筆の人間が書いた文を読むようなものだ。

 別の意味で解読能力を要求される。


『まるで古い戸籍を読み解く気分になるだろうな』


 まあ、ベルには日本の戸籍を目にする機会はないのだけど。

 俺は遠い目をしたくなった。


 役所時代を思い出したからだ。

 出生から死亡までの戸籍謄本を請求された場合、漏れがないよう読まねばならない。


 古い戸籍だと手書きで達筆なものもある。

 悪筆に匹敵する読みづらさとなるのだ。

 時間がかかること、この上ない。


 それでも読めるのは確かだ。

 西方の魔道具は、それに通ずるものがある。


 ベルが不明と報告してきているということは、判読不能と判断したということ。

 読みづらいのではなく、読めないからだ。

 迷宮産のアイテムだと判断した理由はそこにある。


 ラフィーポ王国にそこまでの技術があるとは思えない。

 西方基準の技術を発達させて、その領域に至るには膨大な時間を必要とするはず。

 ラフィーポ王国の歴史の何倍もの時間を。


 だが、迷宮産であるというのも疑問が残る。

 滅多に発見されない貴重な代物だからだ。

 それをスパイに持たせるのは考えにくい。


 スパイが捕まれば持ち物を徹底的に調べられるのは明白。

 仮に魔道具であるとバレなくても、証拠品として厳重に保管されるだろう。

 当然のように奪還は困難になる。


『どういう意図なんだろうな』


 使い捨ててもいいほど余らせているとは考えにくいし。

 大した効果がないから重要視されていない?

 あるいはコピーが容易とか。


 どれも当てはまらない気がする。

 迷宮産が余るほど発見されるとは思えないし。


 使い捨てするほど効果が薄い魔道具などあるのかという疑問が湧く。

 コピーが容易ならば、複製品の方を使わせるだろう。


『なんにせよ、現物を確かめる必要がありそうだな』


 そこまで考えた時、ふと思いついたことがあった。

 即座にショートメッセージを送信する。


[至急、そのペンダントも亜空間倉庫へ回収すること!]


 しばらく待つと、レスが帰ってきた。

 先程のように即レスではないのは、指示に従ってくれたからだろう。


 問い返す前に動いてくれたのはありがたい。

 至急と書いた効果があったようだ。


[回収しましたが、そんなに危険なものですか?]


 ベルも気になるのか、報告しつつも聞いてくる。


[万が一の対応だ]


[どういう風に万が一なんでしょう?]


 粘ってくる。

 しかもレスが早い。


[遠隔操作で爆発するとかだったら嫌だろ]


 俺の思いつきのひとつを書いてみた。

 そしたらレスが返ってくるまでに少し間があった。


[自害が失敗したら、証拠諸共に抹消ですか]


[そうと決まった訳じゃないが、魔道具が使い捨てだとしたら考えられるだろ?]


[それは確かに無いとは言えないですね]


[亜空間倉庫なら起爆信号は届かんし、状態が固定されるから爆発もしない]


[それを聞いて安心しました]


[だが、出した途端にドカンはあり得るぞ]


[それは嫌ですね。早く何とかしてください]


[善処する]


 そこでショートメッセージのやり取りは終わった。


 が、それに費やした時間は短くはない。

 状況が動くには必要にして充分だったと言えるだろう。


『ん?』


 熊蔵の部下たちが不審な動きをしている。

 意識を失っている熊蔵にドス黒いポーションを飲ませたのだ。

 そして連中も全員が同じものを飲み干す。


『あれがベルが報告してきた見覚えのないポーションか』


 何故、そんなものを飲ませるという疑問が湧き起こる。

 国益のために毒で集団自決を図った?


 死んでも結果は同じだ。

 処刑されるか自害したかの差でしかない。


『何故だ?』


 自決するほどの殊勝な連中ではないはずだ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ドス黒いポーションを飲んだ連中の様子がおかしくなった。

 白目を剥き口から泡を吹く。

 そして、体をビクビクと痙攣させてから倒れ込む。


『本当に自害したのか?』


 倒れ込んだまま動かない。

 いや、死んだのだ。

 HPが0になっているから、それは間違いない。


 だが、俺の勘が終わりではないと告げていた。

 むしろ、ここからが始まりのようだ。


「カーター」


「どうしたんだい、ハルト殿?」


 爺さん公爵の指示に従って動き始めた騎士たちを見ていたカーターが振り向いた。


「今すぐ全員を死体から下がらせろ」


「どういうことかな?」


 怪訝な表情で問うてくる。


『説明している暇はないんだよ』


 俺が警告を発すればゲールウエザー組は大半が動くだろう。


 まず、間違いなくダイアンを筆頭とした護衛騎士の面々が動く。

 ストームはどう動くか読めないが、護衛騎士たちのフォローがあれば問題ないだろう。


 ビルが扮するエクスも冒険者としての経験がある。

 最初は慌てるだろうが対応は可能なはず。


 ミズホ組は警告なしでも動けるだろう。

 状況を正確に判断し次の行動に移るはず。

 学校にも通わせているんだし、問題ないだろう。


 あるなら強化合宿に強制参加させるまで。

 そうなった場合は厳しいブートキャンプになることを覚悟してもらわねばならない。


 そんなことより、問題はエーベネラント組だ。

 俺が警告を発しても、何人が動くか怪しいもの。


 ここは俺の国じゃないからな。

 ならば絶対権力者であるカーターに命令してもらう方が確実というもの。


「急げ」


 たった一言だったが、そこに気迫を込めた。

 殺気はない。


 腰を抜かされて何もできなくなっては意味がないからな。

 ガンフォールの真似をしてみたつもりだ。


「あっ、ああっ」


 泡を食ったようになったカーターが小さく何度も頷く。

 忙しなさを感じさせる動作で向き直ると──


「皆の者、下がれっ!」


 声を張って短く命令を下した。

 それにより全員の注目がカーターに集まる。


「陛下?」


 爺さん公爵が訳も分からずに立ち尽くしている。


「今すぐに、その死体から離れよ!」


 カーターの剣幕に騎士たちが手を止めた。


 が、カーターの命令に従おうと即応した者はいなかった。

 命令拒否ではない。


 困惑しているのだ。

 王は何を焦っているのだろうと。


 そのせいで反応が鈍いのは、ある意味で仕方のないことなのかもしれない。

 とはいえ、この程度のことで瞬時に判断が下せないのは練度が低い証拠である。


 つくづくスケーレトロと戦争にならなくて良かったと思ったさ。


「急げっ!

 賢者ハルト殿の警告だっ」


 その言葉に敏感に反応したのは爺さん公爵だった。


「何とっ!」


 驚愕の表情を浮かべるも、すぐに我に返った。


「何をしておるかっ!

 とにかく下がるのだっ!」


 一喝するように命令。

 自身も訓練場の壁際へ向けて小走りで下がっていく。


 騎士たちも、ただ事でないと察したのか同じように下がり始めた。

 動き始めればキビキビしたものである。


 日々の訓練はウソをつかない。

 まだまだ練度は低い状態ではあるが、単純動作なら問題はない訳だ。

 これが未だにモタモタした状態だったなら……


『どうなっていたことか』


読んでくれてありがとう。

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