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1089 確認してみよう

 その後も、皆はてれらじを完成させたことで浮かれていた。

 完成直後ほどの熱はなくなってきているので、そろそろ頃合いだろう。


 そう思っていると、俺の前に進み出てくる者がいた。

 風と踊るのウィスだ。


 何故か、てれらじを差し出してきた。

 これが他のものなら譲渡の意思があるのかと思ってしまうところである。

 自分で作ったばかりの必需品を渡してくるなど矛盾した行動と言わざるを得ない。


「どした?」


 訳が分からず困惑させられてしまうばかりだ。


「本当に完成しているか見てほしい」


 その言葉を聞いて、ようやく合点がいったけどな。


 ちゃんと考えている者もいるってことだ。

 ベルやナタリー、神官ちゃんも俺の近くに来ていた。


「あーっ、ズリーっすよ」


「ウィスっち、チャッカリしてるー」


「うちらも並ぶっす」


 3人娘が騒ぎ出したことで皆も気付いたようだ。

 仕上げたてれらじのチェックがされていないことに。

 外見だけは完成品でも、動作しなければ意味がない。


『放送当日になって不具合が発覚したりしたらシャレにならんもんな』


 見る間に行列ができていた。

 並んでいないのはトモさん夫婦くらいだ。


 トモさんは【鑑定】スキルを持っているからな。

 故障などの不具合は見逃さない。


 だが、この方法で皆のてれらじをチェックするのは本人たちのためにならないだろう。


「最終チェックも自分でやってみようぜ」


「「「「「ええーっ」」」」」


 全員ではないものの、女子組から悲鳴じみた声が上がった。

 ほとんどブーイングである。


 自分たちに、そんな高度な真似ができるのかと言いたげな空気が漂っていた。

 気持ちは分からなくもない。


『初めてのことだからなぁ』


「せっかく自分で作ったんだからさ」


 俺がそう言うと、不満混じりの不安そうな空気は一変した。

 やはり、自作させたのは間違っていなかったようだ。


「最後のチェックまで終わらせて初めて完成だぞ」


「「「「「はーい」」」」」


 自分でチェックしようと呼びかけた時は不満げだった面子が素直に返事をしてくれた。

 俺は大したことは言ってない。

 自分が手がけたものであることを意識させただけだ。


『それだけ思い入れができたんだな』


 何故かニュースで見た映像を思い出した。

 小学生が学校の授業で作物を育てるってやつだ。


 似たようなニュースはいくつかあって、育てる作物が違ったりする。

 稲だったり野菜だったり。


 共通しているのは農家の指導を受けながら育てるということ。

 で、最後は自分たちで収穫する。


 収穫した作物は自宅に持ち帰って食卓へというのが、お決まりのパターンだ。

 子供が苦手にしている野菜だと親へのインタビューがあるのがお約束に近い。


「この子が嫌いな野菜で、今までは絶対に食べなかったんですよー」


 とか何とか。

 子供も嬉しそうに収穫した野菜の入った料理を食べている。


 微笑ましくも懐かしい記憶だった。

 不思議とそれに重なって見えたのだ。


『テレビの放送とか始まったら、ああいうのをニュースで扱ったりするのかな』


 すぐには無理だと思う。

 長期の取材に基づく内容を編集して放送するのは簡単ではないだろうし。


 とりあえず、今は組み上げたてれらじのチェックである。


「じゃあ、まずは保護カバーオープン」


 全員がてれらじの画面を覆っているカバーを開いた。

 この保護カバーは起動スイッチをかねており、スタンドにもなる。

 そしてスピーカーの役割も果たす。


「ここで画面にロゴマークはちゃんと映るか?」


 皆に向けて問いかけた。

 これが最初のチェックである。

 てれらじの文字をデザイン化したロゴが映し出されるはずなのだが。


「映らない者は手を挙げろ」


 もしも映らない場合は初っ端から動作不良ということになる。


「……………」


 少し待っても挙手する者はいない。


『セーフ』


 当然という顔をして頷くも、内心では安堵していたが。

 誰も最初からつまずかなかくて良かった。


「じゃあ次はセレクターがスムーズに動くか確認だ。

 ラジオと動画再生、それから待機モードで切り替えてみてくれ」


 あちこちからカチカチとマウスをクリックした時のような微かな音が聞こえてくる。

 1人、挙手をする者がいた。


『誰かと思えば爺さんか』


「すまんのう」


 元王の1人だ。

 そちらへ向かう。


「皆のようにカチカチと音がせんのじゃ」


 俺の前で円形のセレクターを回すが、確かに音がしない。


『いや……』


 ごく微かには聞こえる。

 普通の人間には聞こえないレベルの音だが。


 そして、セレクターの動きもクリック感がない。

 ヌルヌルと抜けたような感じなのが普通ではなかった。

 まるで長い年月をかけて酷使してきたせいで摩耗してしまったかのようだ。


『普通に組み上げただけでは、こうはならないはずなんだが……』


「すまないな。

 部品の初期不良かもしれん。

 確認したいから開けるぞ」


 返事を待たずにバラす。

 工具は使わずに転送魔法と理力魔法のコンボである。


「「「「「おおーっ」」」」」


 何故か周りに集まっていた面々からどよめきが起きた。

 そこはスルーして内部を確認していく。


「なんじゃ、こりゃ?」


 セレクターの内部に白濁したラードのようなものがベッタリとへばり付いていた。

 ここで初めて【天眼・鑑定】を使う。

 魔物から抽出し精製した粘性の高い油のようだ。


『グリスのようなものか』


 日本人だった頃、自転車を整備している時に使ったことがある。

 向こうのグリスはもっと透明度が高かったけどな。


 とにかく、転送魔法で取り除く。

 白濁グリスもどきは小さなケースに回収だ。


 そして分解した時と同じように魔法で組み立てた。

 セレクターを動かすと、ちゃんとカチカチ音がする。


「これが原因だ」


 回収したグリスもどきを返却する。

 高価な代物みたいだからな。

 最初は魔法で分解しようかと思っていたのは内緒である。


 そんなことより受け取った爺さんの反応だ。


「なんとっ!?」


 驚きを露わにして叫んだ後は目を見開いてグリスもどきを凝視してますよ。

 そのままフリーズ状態で固まってしまっている。


 完全に予想外らしい。

 この様子では俺を試そうとしていたなんてことはなさそうだ。


「おーい、起きてるかー?」


 目の前で左右に手を振ると──


「おお、すまんすまん」


 ハッと気付いて再起動。

 そのままションボリモードへ移行した。


「良かれと思ってやったことが徒になっておったとは」


 そりゃあ、あんなベットリしたものをタップリ使えば普通の動作はしないって。


 隙間とかにも丁寧に塗り込んであったし。

 あの短時間でよくぞと感心させられたさ。


 さすがは手先の器用さにおいて右に出るものがないと言われるドワーフである。

 キットの解説書に注意書きを追加しなければならんのが面倒くさいけど。


「今度からは解説書に記載されてないことは、やらんようにな」


「うむ、すまぬ」


 爺さんは素直に頭を下げた。


『なんか、爺さんがツンデレになってるんですけどー』


「分かってくれれば、いいんだよ」



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 引き続き、チェックである。


「セレクターをラジオに合わせてくれるか」


 そう言って、しばし待つ。

 全員の顔が上がったところで──


「今からテストで送信するから、音が聞こえるかの確認ヨロシク」


 次の指示を出した。

 更に倉からマイク型の魔道具を出す。


「なんでマイクなんだい?」


 トモさんがツッコミ半分な感じで聞いてきた。

 そんなものを使わなくても体育館の中なら声は充分に届くと言いたいのだろう。


「このマイクはラジオに音声データを送信するから」


「OH! そいつは失敬」


 ちょっと声音やイントネーションを変えてきたトモさん。


 俺は首を傾げてしまった。

 思い当たる節がないのだ。


「それは誰かの真似?」


「真似ではないね」


 どうやら少しおどけただけのようだ。


「なぁんだ、営業用の声で喋っただけかー」


「そうだね」


 というやり取りがラジオから流れていた。

 少々漫談チックになっていたらしく、あちこちから笑いが漏れる。


『こんなので笑ってくれるのか』


 照れくささを感じつつも、ありがたくなった。

 これなら、ラジオの本放送も大丈夫そうだ。


「てれらじから音が聞こえなかった人は手を挙げてー」


 歌う訳でもないのに少し節をつけた感じで喋っていた。

 子供が遊ぶ時に友達を集めるようなノリだ。


「ハハハ、面白いチェックの仕方だね」


 トモさんが笑う。

 これが普通のラジオ放送なら矛盾したことを言っているからだろう。


 だが、送信側も受信側も互いに体育館の同じフロアにいる。


「確実で手っ取り早いだろ?」


「それは確かに」


 短いやり取りの間に手を挙げた者はいなかった。

 内心でちょっと安堵する。


「次に行くぞー」


 念のために予告して様子を見たが、大丈夫そうだ。


「セレクターをテレビにしてくれ」


 皆がカチリとラジオからテレビに切り替える。


「すんませ~ん」


 風と踊るの3人娘が1人、ローヌが手を挙げながら呼びかけてきた。

 あまり困った風には見えないノリの軽さがある。


 とはいえ油断はできない。

 何かあったからこそ挙手したのだろうし。


『さて、何だろうな?』


「どしたー」


 ちょっとドキドキしながら俺は返事をした。


読んでくれてありがとう。

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