1088 仕上げてみた
「もう一度、木ぎれを使うぞ」
そう告げると皆も納得したようだ。
「さっきと同じように身体強化をかけてみな」
今度は先程と違って興味を引かれたような感じで皆も魔法を使っていく。
同じことをしているにも関わらず、面倒だという空気はない。
すぐに身体強化をかけ終わる。
後は真剣な表情で俺の方を見てきた。
次は何をするのだろうと興味津々である。
『そんなに目新しいことをする訳じゃないんだが……』
思わず苦笑が漏れそうになった。
「さっきは魔力を抜いたが、今度はそのままだ」
何か違うことをするのだという期待感が高まっているのが分かる。
「魔力は木ぎれに残したままで循環を止めてみろ。
いいか、魔力はちゃんと木ぎれに残したままでだぞ」
ややこしく感じるかもしれないと思ったので、念押しする形で説明した。
魔力を抜いてしまえば先程と同じになってしまうからな。
誰も戸惑うことはなかったが。
もちろん、全員が指示通りに実行している。
「その状態で木ぎれから魔力がどれだけ抜けていくか観察してみな」
すぐの反応はなかった。
皆が観察に移行したからだ。
それでも、さほど待たずに見切りをつけた者がいる。
そのうちの1人が風と踊るの人見知りな斥候であるウィスだ。
「もういいのか?」
「ん、充分」
コクリと頷いた。
「魔力を強制的に抜かない限り1時間は保ちそう」
ウィスがそう言うと、他の面々も顔を上げた。
「これなら作業中に魔法は使わずに済むし、壊れる心配もないがどうだ?」
「「「「「……………」」」」」
ウィス以外の面子からも反論や疑問は出てこなかった。
不安そうにしていた面々の面持ちも、今は落ち着いている。
「じゃあ、組み立ての説明に戻るぞ」
「「「「「はいっ」」」」」
『おおっ!?』
元気な返事があるとは、ちょっと予想外。
それだけ不安が解消したってことだろう。
付け焼き刃な方法で大丈夫かと思っていたのだが、問題なかったようだ。
こうして不器用なせいで部品を壊すかも問題は解決した。
壊しそうになるなら壊せなくすればいいじゃないの発想で魔法を使っただけだが。
それも大掛かりなことはしていない。
皆の自前である。
だから大したことはしていないと思っているのだけれど──
「凄いっ、細かくて折ってしまいそうだと思ってたのに」
「力を込めてもビクともしないものね」
「これなら安心して填め込みもできるわよ」
「ホントホント」
「こんな方法があるなんて、やっぱり陛下は凄い」
「「「「「言えてるぅー」」」」」
とか絶賛されていたり。
『過大評価もいいところじゃないか?』
お陰で背中がムズムズするような居心地の悪さを感じる。
「ホラホラ、次の手順を説明するぞ」
先に進めることを告げたのだが──
「ツンデレだ」
とかトモさんが言い出した。
『誰がツンデレだ、誰が』
内心でツッコミを入れる。
声に出さないのは、これが罠だと分かっているからだ。
反応したら、からかわれるのは目に見えている。
反応しない場合は向こうもスルーしてくるだろう。
トモさんが茶々を入れてくるのは俺の状態を確認するためなのは読めている。
俺が過敏に反応するなら精神的に疲れているので休憩を入れろと言ってきているのだ。
『からかいながら気を遣うとか……』
分かりづらいが照れ隠しです。
なんとなくだけど分かるんだよね。
「こういうのをツンデレと言うんですね」
フェルトがトモさんのノリに合わせているし、間違いあるまい。
『いや、ツンデレのシチュエーションは今まで散々見てきたでしょうが』
スルーしたいのでツッコミは心の中でだけだ。
だって明らかにトモさんとの連係プレーだよ?
俺はそんなに疲れた表情をしているのだろうか。
授業はまだまだ始まったばかりだというのに。
少なくとも、そんな自覚はないのだが。
なかなか始まらなかったり脱線したりで疲れる要素はあったけどな。
しかしながら、ここで休憩している訳にもいかない。
故にスルーした訳だ。
予想通りトモさん夫婦は深く追求してこなかった。
一部の面子は「ツンデレ」という単語に興味を抱いたようだけどな。
ただし、授業を中断させたりはしてこなかったが。
その後も合間合間にからかわれつつ説明を続けた。
そんなに疲れて見えたのかと後で聞いたくらいだ。
どうも孤軍奮闘している風に見えたみたい。
「肩に力が入りすぎてたよ」
「そうですね」
なんてトモさん夫婦には言われてしまった。
言われるまで気付かなかったので、この時の俺は相当テンパっていたのだろう。
そこまで気が回らなかったのは集中していたせいとも言えるかもね。
なんにせよ、手本を見せながらの説明は無事に終えることができた。
各班に配布したキットも無事に完成している。
途中で失敗した者もいない。
魔法で強化作戦はやはり正解だった訳だ。
「何度も言うようだが、このやり方は推奨しない」
説明の終わりに念押ししておく。
「今回は繊細な作業が必要ないから、このやり方が通用しただけだ」
俺がそう言うと、ドワーフたちが頷いていた。
職人気質な面々がそろっているだけあって今回の雑な作業は気になっていたようだ。
それでも誰も咎めることなく自分たちのことだけに集中していた。
仕事じゃないから静かだったのだろう。
『これが売り物を作るために集まっていたのだとしたら……』
きっと黙っていなかったはず。
ギリギリ許容できるといったところだろうか。
今日の工作は必要に迫られて作った日曜大工的な感覚なのだと思う。
なんにせよ、あとは皆にキットを配布して全員での工作タイムだ。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
特に問題もなく工作タイムが終了。
全員がてれらじを完成させた。
各班でひとつ目を仕上げた時のように途中で失敗した者もいない。
手本を見せながら説明したのが良かったようだ。
途中で戸惑う面子もいたが、そこは班員たちで教えあってカバーしていた。
先に仕上げた者が1人いると細かな部分のコツも伝わりやすいようだ。
その甲斐あってか、手探り状態で不安を感じながら進める者はいなかった。
『最初のあの状態を思うと信じられないよな』
それだけ丁寧に教えたことになるのだろうか。
後で撮影した授業の様子を分析してみるのも面白そうだ。
その上で良い部分は今後の授業で取り入れるのもアリだと思う。
だが、まだ授業は終わりじゃない。
皆は終わったような気になっているようだけどな。
「やった、私にもできた!」
「私もよ」
「おめでとー」
「ありがとー」
手に手を取り合って喜び合う人魚組。
「思ったほど複雑ではありませんでしたね」
「あらあら、どんなのを想像してたのかしら」
ナタリーとベルも楽しそうに話している。
神官ちゃんは会話に加わらないが、ひたすら完成したてれらじを見ている。
実は頬が緩んでいるのだけれど。
それに気付ける者は多くはない。
表情の変化はあまりない方だからな。
「おばさーん、できたぁ?」
何気なく声を掛けている食堂3姉妹の次女シーオ。
本人は無意識だったようだ。
『あれだけ、おばさん呼ばわりした後のことを恐れていたのになぁ』
完全に失念している。
それだけ以前は普通に呼んでいたのであろうことは間違いない。
逆にシーオ限定とはいえ普通だったことが禁じられたことにも想像が及ぶ。
『何やらかしたんだ、アイツ?』
からかったという話は聞いているが具体的なことは知らない。
『下手に知ろうとしない方が良いかもしれんな』
こっちまで飛び火してくることだって無いとは言えないし。
現にシャーリーは──
「誰がおばさんだって~」
ザワザワと髪の毛を逆立てて憤怒の表情になっていた。
そしてシーオに詰め寄っていく。
「いっけね!」
シーオもようやく自分の失態に気付いたようだ。
逃げだそうとするも、その時点で既に手遅れ。
正面に回り込まれてしまっては一足遅かったどころの話ではないだろう。
ガシッと顔面を鷲掴みにされるシーオ。
「うひぃっ!」
捕まったことでシーオが悲鳴を上げるが、これは序の口。
『本当の恐怖はこれからだ』
アイアンクローの状態だもんね。
シャーリーが知ってるはずはないのだけど。
まあ、技の名前は知らなくてもどんな効果があるかは分かるみたい。
どうにか逃げだそうとしている。
残念ながら捕まった時点で終わっているのだが。
「ふんっ!」
鼻を鳴らしたシャーリーの肩がググッと盛り上がった。
同時に掴んだ手の筋が浮き上がる。
ギリギリと握力が込められていくのが嫌でも分かったさ。
「いだだだだだだだだっ!」
シーオの顔の位置がビクともしないのに、首から下が奇妙に動く。
「おばさんっ、痛いっ、痛いってぇーっ」
創作ダンス状態で悲鳴を上げるシーオ。
自分が何を口走っているのか気付いてはいまい。
「まだ言うかぁっ!」
更に力が込められた。
上から押さえ付けるような状態になり、シーオの膝ががくりと落ちた。
「うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
シーオが絶叫する。
見ればドワーフたちが震え上がって青い顔をしていた。
人竜組なんかは余裕の表情で感心していたりするというのに。
「かなり痛そうね」
ネージュが苦笑している。
事情は分からないながらも自業自得なのは分かるようだ。
他人事なので楽しんでいる節すらある。
「姫様、いかがなものかと思いますが」
リュンヌが苦言を呈した。
他の面子は、そのくらいで騒ぎ立てることではないと思っているようで何も言わない。
「姫様はやめてって言ってるでしょ。
それともリュンヌ、アナタもあれを味わってみたいの?」
「いえっ」
慌てて首を横に振るリュンヌであった。
読んでくれてありがとう。




