1059 会議してみた
秋祭りが終われば平時に戻る。
ただし宴で明け方まで飲んでいた面子は除く。
そういう面子は休みだから特に問題になったりはしない。
ガンフォールやハマーは仕事があるから途中で抜けていたようだ。
ボルトも一緒に抜けたようなのだが……
「で、ボルトはこっちなのか」
「若者は体を動かせと言われまして」
向こうは書類仕事のようだ。
「そうは言っても、こっちはこっちで会議だから肉体労働じゃないぞ」
まあ、そんな大層なことを話し合う訳じゃない。
会議もどきと言った方がいいと思う。
とはいえ体を動かす仕事でないのは確かだ。
「え!?」
突拍子もないことを聞いたとばかりに驚くボルト。
「しっ、失礼しましたっ」
慌てて詫びてくる。
「別に怒っちゃいないが、そんなに意外か?」
「えっと、その……はい」
遠慮するように迷いながらも肯定の返事が返ってきた。
「やっぱり、そうか」
俺がそう言うと、ボルトはアタフタと焦った様子を見せる。
「気にしなくていいぞ。
こんなことで目くじら立てても面倒くさいだけだ」
「はあ」
呆気にとられたようになるボルトを連れて学校へと向かう。
空き教室を使って会議を行うためである。
最初は城で会議しようと思ったんだけどね。
城住まいじゃない面子が登城するのを渋ったので予定を変更した。
渋った理由は恐れ多いとか城だと緊張するとか、そんな感じである。
学校なら誰も問題がないそうだ。
変に畏縮されても困るし変更して正解だろう。
ボルトにもその旨は説明した。
「確かにお城だと緊張しますね」
「へえ、そうなんだ?」
「今は慣れたので平気ですが」
苦笑しながら補足するボルト。
「さすがに住むようになれば慣れるか」
「そうですね」
その後も会議室につくまで雑談を続けた。
「おはよう」
「おはようございます」
2人で会議室として使用申請した教室に入る。
「「「「「おはようございます」」」」」
既に到着していた面子から返事があった。
「やあ、ハルさん」
トモさんもいた。
どちらからともなくハイタッチする。
「これで全員?」
「そうだね」
「じゃあ、さっそく始めるか」
緩い感じで机と椅子を並べて席に着こうとしたのだが。
「あの……」
おずおずとボルトが手を挙げながら声を掛けてきた。
「どうした?」
「何となく陛下について来てしまったのですが、自分も参加していいのでしょうか?」
「別にいいんじゃないか。
秘密にしなきゃならんことでもないし。
会議の内容を自分で判断して参加するしないを決めればいいさ」
「それで、何の会議をするんですか?」
「そういや説明してなかったか」
トモさんを初めとした他の面子がガタガタッとズッコケた。
「放送局を始めようと思ってな」
「えっ!?」
ボルトも動画などから得た知識で知っているはずだが驚いている。
『いや、知ってるから驚くのか』
あれやこれやの番組が頭の中で幾つも思い浮かんでいるのだろう。
しかも放送時間帯を長めに考えているんじゃなかろうか。
「言っとくが、実験的に短時間で始める予定だぞ」
「えっ、ああ……」
俺の言葉にボルトが我に返った。
「最初はラジオがメインになるし。
テレビも生番組を始めるのは、ずっと後になるだろうな」
「そうなんですね」
説明を受けたボルトはややションボリしている。
「みんな動画を見慣れているからハードルが高いんだよ」
「うっ」
ボルトがばつの悪い感じで肩をすくめた。
みんなの中に自分も含まれているという自覚があったからだろう。
そのあたりはしょうがない。
「まあ、あまり期待しないで会議を見てくれればいい。
その結果を第三者としての目線で皆に報告してくれれば助かる」
「いいんですか?」
意外そうな顔をされてしまった。
「ボルトの報告があれば少しは皆のハードルも下がるだろう」
「……なるほど」
そういう訳で会議は放送局のメンバー以外が参加する形で始まった。
まあ、会議というか言いたいことを言うだけの集まりに等しいんだけど。
「クイズ番組なんかやってみたいです」
「えー、歌番組の方が良くない?」
「旅番組なんて面白そうだけど」
「それならグルメ関係の方が面白そうだよ」
「健康関係の情報番組なんかどうだろう」
「お堅いのよりバラエティの方が楽しいと思うけどなぁ」
等々……
まずは各自のやりたいことがあれこれ出てくる。
色々と問題点もあるけどね。
いきなり希望に添う形にはできないのは明らかなんだが。
それでも俺は何も言わない。
今は無理でも経験を積みノウハウを蓄積すればクリアできるはずだからね。
とりあえずの目標にして頑張ってもらうつもりだ。
皆の希望が出尽くしたところで、その旨を発言した。
あまりネガティブな意見にならないようには注意したつもりだ。
「そういう訳だから経験とノウハウを得るためにも、まずは基本を大事にしよう」
そう締め括ると皆が頷いていた。
どうにか説得できたようでなによりである。
「最初は何がいいですか?」
「記録映像を編集してナレーションを入れるところから始めよう」
「ラジオじゃないんですか?」
声だけを届けるから負担が少なく練習になると思ったのだろうか。
決してそんなことはないのだが。
映像がないから伝えられる情報に限りがあるということに気付いていない。
字幕も入れられないから滑舌が少しでも悪いと致命的だし。
ただ、このあたりはあえて指摘しない。
現場で実感すれば嫌でも理解するからだ。
そんな訳で──
「初めてのテレビ放送が生放送じゃないからな」
適当な理由をつけておく。
「ラジオだけでも生で放送したいと思わないか?」
「「「「「おおーっ」」」」」
会議室内がどよめきに包まれた。
「生放送にはリスクが付き物だからな。
まずはテレビの録画放送からやろう。
準備に時間がかけられるだけでも気が楽にならないか?」
「大抵のことには対応できると?」
「そういうことだな」
「テレビは何を放送するんですか?」
「秋祭りの様子にナレーションをつけたものだ」
「「「「「おおーっ」」」」」
再びどよめきが起こった。
秋祭りとは思っていなかったらしい。
「これは後の番組が大変だ」
「だよね」
「視聴率が厳しそう」
「きっと不滅の金字塔になるよ」
「言えてる」
なんてネガティブなんだかよく分からない意見が出てくる。
後々のことを考えると後ろ向きであるのは間違いあるまい。
「じゃあ、やめるか?」
そろって一斉にブルブルと横に頭を振られてしまった。
「それは勿体ないですよ」
「そうそう」
「記念すべき第1回に相応しいです」
「秋祭り以外に考えられません」
現金なことである。
「編集作業は大変だぞ」
「「「「「頑張ります!」」」」」
なかなか気合いが入っている。
だが、それだけだと思ってもらっては困るのだ。
そう考えていると──
「ひとつ忘れてないかな」
問いかけるようにトモさんが言った。
皆の反応は様々だ。
「何だっけ?」
そんなことを言いながら互いに顔を見合わせたり。
「何だろう?」
腕を組んで考え込んだり。
「分かる?」
「分かんない」
ザワザワと騒がしくなる。
皆が一通りあれやこれやと言ったところで──
「どういうナレーションを入れるかも考えないといけないよ」
トモさんが諭すように言った。
「「「「「あ……」」」」」
どうも完全に失念していたらしく呆然とする者たちばかりのようだ。
「それだけじゃないね」
更に追い打ちがかけられる。
「「「「「え?」」」」」
「BGMや効果音なしは厳しいと思わないか?」
「「「「「─────っ!」」」」」
愕然とした表情になる一同。
そしてそれが途方に暮れたものへと変わっていく。
『本当に何も決まっていないからなぁ』
苦笑せざるを得ない。
そもそも放送局の建物すらない状態である。
おまけに問題点は他にもあるし。
「そう言えば……」
1人が手を挙げた。
「何かな?」
「テレビをどうやって普及させるかが鍵だよね」
「「「「「あ……」」」」」
最近は動画を見るのもスマホが主流だからな。
「スマホでテレビを受信できるようにすればいい」
術式を公開するだけで問題ないはずだ。
新規国民組は学校の授業でそのあたりを教える必要があるけれど。
どうしてもテレビが必要だと考えるならテレコーダーを用意するだけだしな。
読んでくれてありがとう。