1057 そして最後に来た女
3人娘に追及されてポニテコンビが、ばつの悪い表情になった。
そりゃそうだろう。
謝ったとはいえパーティメンバーにさえ秘密にしていた事実は消えないのだから。
「拾ってもらっただろう」
『何を?』
フィズの言葉は俺にはサッパリだ。
が、ウィスは頷いた。
3人娘も何かに気付いたように軽い驚きを見せている。
「「「水臭いっすよ」」」
ちょっと不満げに抗議する3人娘。
「でも、他のパーティに知られると騒がれそう」
ウィスが指摘すると──
「絶対に大騒ぎっすよ」
「そうかも」
「言えてるっす」
ノータイムで肯定していた。
『だから何なのさっ?』
ポニテコンビがヒソヒソ話していた時の様子からすると昨日今日の話ではないだろう。
いまウィスが指摘したことや3人娘の反応からすると女子組全体に関係するらしい。
それで拾ったとなると何だろうか。
遺失物にしては変だと言わざるを得ない。
全員が所持しているものを同時に紛失?
あり得ないだろう。
共有物なら分からなくもないが、それなら女子組全体で騒ぎになったはずだ。
となると、ちょっと想像がつかない。
これは恥をかいても確認すべきだと思っていたのだが……
「行き場のない我々を拾っていただき、ありがとうございました!」
フィズがあっさり答えを教えてくれた。
教えてくれたと思っているのは俺だけなんだろうが。
俺が別の立場なら、とっくに気付いていたかもしれない。
それくらい簡単なことだったのだ。
俺は拾ったなどとは思っていないから、答えを呈示されるまでまるで気付かなかったが。
「「「「「ありがとうございましたっ!」」」」」
風と踊るの全員から頭を下げられると、どうにも居心地が悪い。
逃げ出したいと思うくらいにね。
「あー、拾ったつもりはないからな」
それでもこれだけは言っておかねばならないだろう。
何かを言いかけたフィズを手で制した。
「拾うとか物じゃないんだからさ。
俺は皆を自分の国の民として迎え入れた」
それだけだと言うと、フィズは納得したのか前のめりの姿勢はなくなった。
ただし今にも泣きそうな状態になってしまったが。
居心地の悪さが罪悪感的な感情が加わって倍加されるんですがね。
「それに対して感謝してくれるのは嬉しい。
その気持ちを形にしたいということでの礼なんだろう」
風と踊るの面々が頷いた。
特にポニテコンビは体全体を揺するかのような激しさと勢いで頷いている。
『余計に重症化しているじゃないかー』
誰か助けての心境である。
だが、止まる訳にもいかないだろう。
「その気持ち、しかと受け止めた」
とうとう涙腺が決壊するフィズとジニア。
3人娘もそろって力んでいるところを見ると感じ入っているらしい。
ウィスはあまり表情に出ていないが、ゆっくりと頷いていた。
「これからもヨロシク頼む」
「「「「「はいっ!」」」」」
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「「「「「それでは失礼します」」」」」
風と踊るの面々が辞去する。
「おー、またなー」
明日からまた頑張るとか意気込んでいたので帰って寝るのだろう。
留まらせる理由はないので歩み去る後ろ姿を見送った。
『帰ったか……』
ホッと内心で安堵する。
ブルースと似たパターンだったのでどうなることかと思ったのでね。
ガブローのような助けがある訳でもなかったし。
決して嫌とかではないんだが重いのは勘弁してほしい。
皆が笑って暮らせれば、それでいいのだ。
まあ、理想だね。
少なくとも自分の国では実現させられればと思っている。
他所の国までは知らん。
友好国なら状況次第で手助けすることもあるだろうが。
「ハル兄」
ノエルが俺の服の袖をクイクイと引っ張った。
「どした?」
「誰か来る」
背後を指差した。
「みたいだな」
気配は掴んでいたのだが歩みが遅いのでスルーしていたのだ。
風と踊るの面々を見送ってからでも、まだ到着を待たねばならないくらい。
ただ、明確な意思は感じる。
タゲられたのかってくらいガン見されているっぽいからね。
振り返った俺の目に映ったのは紫の髪。
「シャーリーだな」
元ブリーズの商人ギルド長シャーリー・ヨハンソンである。
『あー、そういや合格にしてから顔を合わす機会がなかったな』
なにやら普通でない歩き方をしている。
肩を怒らせ、がに股で1歩を踏み出すたびに踏みしめるような感じだ。
『遅い訳だよ』
これがアニメならズシンズシンという効果音が付与されていただろう。
「何があった!?」
それしか言えない。
普段の淑女然とした雰囲気が消し飛ぶ迫力があったからな。
「きっとクレームがあるのよ」
マイカは面白半分にシャーリーをクレーマーにするし。
「そうかなぁ?」
ミズキはその説には懐疑的だったけどな。
「でも、なんだか怒っているようには見えるね」
トモさんが不安を煽るようなことを言ってきた。
「そうですね」
フェルトも同意するし。
確かに一見すると、そのように見える。
だが、何か違和感があった。
それが何であるかまでは分からないのだが。
『保険は掛けておいた方がいいか』
「怒ってるんなら、こっちから出向いた方がいいかもな」
「うん、その方が良さそう」
「しょうがないわねぇ」
ミズキやマイカだけでなく他の面子も頷いていた。
「待った方が良くありませんか」
エリスだけが異を唱えた。
「んー、その方がいいかも?」
シャーリーの凄みが人を近寄らせないが、周囲を見れば人通りが多い。
「あそこに行くと周りが迷惑するな」
「「「「「あー……」」」」」
皆も状況を理解したようだ。
「せやけど、待つのは下策とちゃう?」
アニスが聞いてきた。
「難しいとこよね」
悩ましげに唸るレイナ。
「じゃあ、引き寄せるか」
「それはそれで、あの方が驚いたりしないでしょうか?」
マリアが疑問を口にした。
それで更に怒らせることにならないかと懸念しているようだ。
「それは考えられますね」
クリスも同意見のようだ。
もっともな意見である。
「じゃあ、先に予告しておこう」
幸いにして向こうは俺のことを視認している。
呼びかければ耳を傾けるだろう。
「おーい、シャーリー!」
手を振りながら大きな声で呼びかけた。
シャーリーが立ち止まる。
思った通り、向こうも気付いたようだ。
「今から引き寄せるからなーっ!」
予告すると小さく首を傾げた。
明らかに困惑している。
「今から引き寄せると言ったんだーっ!」
念押しして言っておく。
大事なことだからな。
更に首を捻った気がしたが3回も言う気はない。
今でも周囲の注目を集めてしまっているしな。
これ以上の説明は引き寄せてからでないと伝わらないだろう。
そんな訳で──
「ほいっ」
軽い掛け声に合わせて転送魔法を使う。
周りの皆に引き寄せのタイミングを教えるためなので掛け声は不可欠ではないが必要だ。
シュッと目の前にシャーリーが現れた。
キョトンとして目を点にする。
「は?」
そう言ったきり口は開ききったままで固まっている。
かと思ったのだが、次の瞬間──
「ギャアアアアアアァァァァァァァァッ!」
信じられないくらいドスの利いた絶叫を聞かせてくれた。
発する声のすべてが濁音じゃないかと思ったほどだ。
最恐クラスの絶叫マシンでもこんな声は出さないだろう。
真に迫ったお化け屋敷とかなら考えられなくもない。
『あ、お化け屋敷はやっておけば良かったな』
失敗したと、ちょっと後悔。
体感ゲーム的な感じに仕上げればゲームコーナーに設置できただろうに。
あるいはホラー映像とミックスさせた室内型のジェットコースターとか。
生憎とオーソドックスなのは無理があると思う。
作り物は精巧に作っても見破られるし。
幻影魔法による映像は端っから魔法だとバレるのは確実だ。
じゃなくて……
「まあ、落ち着け」
ポンと肩を叩くとピタッと悲鳴が止まった。
『スイッチでもついてるのか?』
そんな訳はない。
相手は人間である。
ボケたことを考えている場合ではないだろう。
そんなだから──
「ななな何なんですかっ!?」
シャーリーに先を越されてしまった。
悲鳴が止まっただけで落ち着いた訳ではないらしい。
たぶんそうなるだろうとは思っていたから先手を打とうかなとは思ったんだけどね。
ちょっと面白そうだから様子を見たと言ったら皆は信じてくれるだろうか。
それはそれとして今はシャーリーを落ち着かせなければならない。
つい先程のように肩を叩いて止まってくれれば実にありがたいのだけど。
そんなに上手くいくはずもないだろう。
『さて、どうしたものか』
読んでくれてありがとう。