1014 とばっちりでガクブルしつつも大漁だったり
「とってもラブラブさんなのね」
「そそそそうなんです」
噛み噛みのトモさん。
「ありがとうございます」
別に褒められたわけでもないのに礼を言うフェルト。
それだけベリルママの怒りを感じている証拠だ。
直接、ぶつけられた訳でもないのにね。
『憐れな』
他の時ならベリルママもここまでは怒らなかったとは思うんだけど。
俺と会える数少ない機会に水を差された格好だからな。
単にシーザーたちが召喚されただけなら、ここまで怒るはずもない。
むしろ歓迎してくれただろう。
彼らがチューブコースターを追いかけているのが危ないから怒っているのだ。
乗っている乗客も追いかけているシーザーたちも。
シーザーたちに悪気はないはずだ。
責任があるとするなら召喚した者である。
すなわちラソル様だ。
『普通に召喚だけしておけば良かったのにねぇ』
イタズラ心でシーザーたちに吹き込んだのだろう。
目立てば俺が見つけてくれるとか。
余計な真似をしたものだ。
シーザーたちは危ないからと注意を受けるだけで済むだろう。
だが、ラソル様は違う。
危ないことを指示したのだから確保に動かざるを得ない。
更に説教もあるだろう。
それは秋祭りの楽しい時間を奪われるということだ。
『ベリルママが怒らないはずがないっての』
え? 秋祭りが終わるまで放置すればいい?
そんなことしたらラソル様が調子に乗るだけだ。
次のイタズラを仕込みにかかることは疑いようがない。
亜神を卒業するべく新神の教習所へ通うことになっているというのに。
いつまでたってもイタズラはやめられないらしい。
『そこだけはブレないね』
この調子で管理神に昇格する日が来たら怖すぎる。
『新しい世界はどうなるんだ?』
住人たちが大変そうだ。
いや、眷属となる亜神や仙人たちの負担が大きくなるのか。
いずれにせよ同情を禁じ得ない。
助けてあげられないどころか忠告すらできないからね。
「ハルトくんは、お母さんと仲良しさんだもんねー」
クリンと首を巡らせて俺の方を見るベリルママ。
人の心配などしている場合ではなかった。
いや、そうする意味はあったのだ。
己の中にある恐怖から目を背けるためという情けない理由ではあるが。
とはいえ、それもベリルママに視線を向けられるまでのこと。
まともに見られた状態では心の中まで鷲掴みにされたような気分になる。
いかなるメンタルであろうと返事をしなければならない。
「サー、イエッサー!」
どうして出てきたのかと自問自答したくなる返答だった。
トモさんたちよりも酷い。
「もうっ、なによそれ」
幸いにもクスクスと笑われるだけで済んだ。
トモさんたちを含む一連の受け答えを冗談だと思われたらしい。
機嫌が悪くなったベリルママを気遣ったのだと。
『世の中、何が幸いするか分からんな』
そうは言っても俺たちの恐怖心が完全に拭われた訳ではない。
それでも危機を脱したことは確かだ。
俺たちは3人でアイコンタクトを交わす。
『『『助かったぁ~』』』
脱力したくなるところを、どうにか堪えながらも安堵していた。
そういう瞬間にこそ不意を突くものがやってくる。
[レベルアップしました]
これ見よがしに視野外領域にシステムメッセージが表示された。
『ふぁっ!?』
危うく大声を出しそうになったさ。
[新たな称号とスキルを取得しました]
しかも、どうにか堪えきったところで次が来た。
嫌がらせとしか思えない。
まあ、被害妄想なんだろうけど。
『そんなことより何もしていないのにレベルアップってどういうことよ?』
戦ってすらいないんですがね。
分からない時は、教えて【諸法の理】先生である。
[女神のプレッシャーを受けて耐えきったからです]
『なにそれ怖い』
文字通り怖い。
ベリルママの怒りを間近で感じたのは事実だ。
が、そんなことでレベルアップとかあり得ないだろう。
だったら国民たちだって土下座した時に上がってるって。
そう言いたいが、システムメッセージが嘘で報告されるなんてあり得ないし。
『自分たちが思っていた以上にプレッシャーがかかっていたってことか?』
ただひたすら耐えるだけでレベルアップというのはにわかには信じがたいがな。
これが事実ならベリルママを怒らせるのは厳禁だ。
まあ、事実なんだけど。
そして思う。
『ラソル様って、よく耐えられるよな』
そこだけは素直に感心させられたさ。
だが、いつまでも感心している場合ではない。
どれだけレベルが上がったのか確認してみる。
[ハルト ・ヒガ /レベル1245 → 1248]
『マジですか!?』
レベルが3も上がってますよ。
4桁レベルにおいてのプラス3は極めて大きい。
こうなると、トモさんたちのレベルも上がっていると見るべきだろう。
俺よりも上げ幅は大きいと思う。
[トモ ・エルス/レベル 327 → 418]
[フェルト・エルス/レベル 311 → 403]
『やっぱり……』
露骨に上がっていた。
俺と比較した場合の上昇率は低いかもしれないが。
まあ、レベルは良しとしよう。
文句を言うと罰が当たるだろうしな。
本物の神様が関わっているだけにシャレにもならん。
続いて称号だ。
『……………』
何だか多いんですがね。
5個もある。
しばらくチェックしていなかったというのもあるかもしれない。
もしかして、これを指摘するためにシステムメッセージが自己主張したか?
無いとは言えないが追及しても意味がないだろう。
それよりも称号のチェックである。
まず最初は[召喚王]。
これは簡単に見当がついた。
というか、他に思い当たる節がない。
シーザーたちを召喚したからだ。
もちろん今回ではなく、前回の仕事をしてもらった時の召喚である。
次がクラッときたよ。
[過保護王]だからな。
単なる過保護なら称号はつかなかったのだろう。
自覚があるだけに恥ずかしいんですがね。
『次だ、次っ』
続いては何故これがと言いたくなるような[持て成し名人]である。
確かにクラウドやカーターたちを持て成しはしたけどさ。
『称号がつくほどのことをしたか?』
したから称号がついているんだけどな。
ログを遡って調べてみたけど……
『納得がいくようないかないような』
微妙なところだ。
【諸法の理】で確認してみたが間違いなさそうである。
次の条件をすべて満たす必要があるようだ。
ゲストは5人以上。
この人数に従者は含まれない。
持て成しの準備をすべて自分で行う。
ゲスト全員を満足させる。
ゲストを自分で送り迎えする。
日を跨いで持て成す。
『普通は達成困難か』
何処かで条件を満たさない部分が出てしまうだろうし。
納得せざるを得ない。
まあ、全員を満足させられたというのは嬉しいけどな。
残る称号は2個。
どちらもそれぞれ同系統の称号がある。
言わばシリーズものだ。
まずは大人しめの鉄人シリーズ。
[大食いの鉄人]は早めの昼食でゲットしたものだろう。
分かり易いと言えるが[持て成し名人]と似たような感覚だ。
どうしてゲットできたのか納得しづらいものがある。
『言うほど食ったか?』
そう思ったが、食べる量だけでこの称号は得られないらしい。
他に鉄人の称号をいくつか持っている必要があるのだ。
多数あればあるほど食べる量は緩和されるってさ。
そういうことなら取得困難な称号であると言えるのかもしれない。
狐につままれたような気分で納得させられた。
そしてラストの[女神の試練]である。
『……………』
ベリルママが本気で怒ると試練になるらしい。
その山場をどうにか耐えたから得られた称号みたいだな。
未だに心の修羅場は続いているけどね。
峠は越えたから取得できたんだろう。
『そうであってほしいよ』
未だに落ち着かないんだぜ。
気を張ってないとガクブルしそうになる。
新たに特級スキルの【恐怖耐性】をゲットしたのにな。
しかも上級の【痛覚耐性】より上位のスキルだというのに。
もし【恐怖耐性】が特級スキルでなかったら。
そう思うと怖いものがある。
これがあるから耐えられている気がするのだ。
当然ながら熟練度はカンスト済み。
トモさんやフェルトも同じく、である。
これほどゲットして微妙な気分になるスキルもないだろう。
取得自体は嬉しいが……
その経緯が嫌すぎる。
まあ、スキルがスキルだ。
ポイントで取得しない限り笑いながら得られるものでもないだろう。
『ラソル様に文句のひとつも言わないと、やってられないな』
程度に差はあれ、ベリルママもそういう心情なんじゃなかろうか。
読んでくれてありがとう。