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1013 あの人だよ

 フローリングの見学を終えて移動再開。

 ゲームコーナーは一通り回った。

 いよいよ乗り物コーナーへと向かう。


「やっぱり運動の後は乗り物だよね」


 トモさんが訳の分からないことを言った。


「何を言ってるのかな?」


「疲れている時は三半規管の反応も鈍くなるというもの。

 ならば絶叫系の乗り物がよりスリリングに感じられるだろう、フハハ」


 仕事用の声を使って説明してくれましたよ。

 ドヤ顔で最後にわざとらしく笑うオマケ付き。

 ふざけているのか真面目にやっているのか判別しづらいったらない。


 言ってることは、もっともらしく聞こえたんだよね。

 内容が正しいかどうかは別として。

 プロの声優、恐るべし。


 ただ、ひとつ確認しておかねばならないことがある。


「疲れてるの?」


 屋台の仕事をした影響が今頃になって噴出してきたとかだろうか。

 だとしたら疲労回復ポーションを渡すのだが。


「いいや、少しも」


 あっさり否定された。

 ガクッときましたよ。

 ベリルママに腕を組まれていなかったら見事にずっこけていただろうね。


「まったくもー」


 漫才に付き合わされた気分である。


「ハハハ、許せ」


「別に怒ってはないんだけどさ」


 トモさんのペースに乗せられてしまった。

 元選択ぼっちの俺では分が悪いのは当たり前なんだけどさ。


 ただ、ノーメリットという訳でもない。

 何の役にも立たない雑談でも時間は稼げるのだ。

 ゲームコーナーを出て公園を歩くことしばし。


「あ、乗り物コーナーが見えてきましたよ」


 フェルトの言葉に少し上を見上げれば大掛かりな施設が見えてきた。

 すべて高さを必要とする絶叫マシンだな。


「絶叫マシンが、選り取り見取りだね」


「別に絶叫系だけじゃないよ。

 小さめの遊園地には付き物のアニマルカーとか」


「マジでっ?」


 トモさんが半笑いで驚いている。


『そういや説明してなかったっけ』


 詳細まで説明してしまうと聞いただけで満足されかねないと思ったからだ。


「懐かしいなぁ。

 そういうものがあるとは思わなかったよ」


「思いつく限りのものは網羅したよ。

 漏れがあるのは御愛嬌ってことにしといてくれるかな」


「あっ、あのっ」


 フェルトが呼びかけてきた。

 何か焦っているようにも見えるのは気のせいだろうか。


「どしたの?」


 とりあえず話を聞いてみなければ分からない。


「アレなんですけど……」


 そう言ってフェルトが指差したのはチューブコースターのある方だ。

 釣られるようにトモさんもそちらを見た。


「おーっ、あれが透明のチューブを使ったコースターか」


 トモさんが普通に感心している。

 フェルトが何か言いたげにしていたことには気付かなかったようだ。

 ということは大したことがないのだろうか。


『そんなはずはあるまい』


 そう思っていると──


「へえ、やけに長いコースターだね」


 トモさんがそんなことを言い出した。


『やけに長いだって?』


 あまり長いと臨場感が減少するから、そういうコースターにはしなかったつもりだ。

 トモさんの指摘に違和感を感じた。


『チューブコースターが長いはずはないんだが……』


 訝しみつつ、よく見てみる。

 確かに長い。

 俺が設計したよりも何倍も何倍も長い。


「……………」


 とっさに言葉が出てこなかった。

 あり得ないものがチューブ内を走っていたからだ。


「あれ?」


 トモさんも気付いたようである。


「もしかして走ってるのはコースターじゃない?」


「そうだね。

 もしかしなくても違うものが走ってるよ」


 厳密に言うと、先頭はコースターだ。

 その後を追いかけている存在がいる。


 しかも単体ではない。

 コースターがやけに長く見えてしまうくらいの集団だ。


 紅色の体に深紅のたてがみ。


「俺が前に召喚したシーザーたちだ」


 間違いない。

 彼らが連なってチューブの中を走っているのだ。


「危ないですよ」


 心配そうにフェルトが言った。


「ああいうことまで想定してないんだよね?」


 トモさんも真面目な様子で聞いてくる。


「もちろん。

 想定外もいいところだよ」


「誰が呼んだんだろうね」


 トモさんが疑問を口にした。


「ハルト様ではないですよね?

 私達はずっと一緒にいた訳ですし」


 フェルトが確認してくる。


「もちろんだ」


 俺は今回、召喚していない。


「誰が呼んだかは心当たりがあるけどな」


「えっ、そうなんですか!?」


 フェルトは驚きの声を上げ。


「誰だろう?」


 トモさんは首を傾げている。


「いるじゃないか。

 こういうのが好きそうな人が」


「いたっけ?」


 トモさんがフェルトに問いかける。


「さあ」


 という返事しか得られなかったけどね。


「ハハハ、そりゃいいや」


 実に傑作である。


「ハルさん?」


「ハルト様?」


 トモさん夫婦に怪訝な顔をされてしまった。

 まあ、俺が唐突に笑ったんだから無理もない。


「ゴメン、ゴメン。

 この相手にはそういう反応が一番応えるだろうと思ってさ」


「そうなのかい?」


 やはり想像がつかないらしく、トモさんが聞いてきた。


「自分の用意したサプライズがスルーされたらどうだい?」


「それは厳しいものがあるね」


 俺の質問に答えてから「あ」と声を発した。

 みるみるその表情が変わっていく。


「アナタ?」


 フェルトはまだ気付いていないようだ。


「あの人だ、あの人!」


「あの人、ですか?」


 よく分からないと言わんばかりに首を傾げるフェルト。


「イタズラ好きのっ」


「ああ─────っ!」


 ヒントひとつでフェルトにも分かったようだ。

 まあ、露骨すぎるヒントだからとも言えたがね。


「「ラソル様っ」」


 綺麗にハモっていた。

 顔を見合わせて互いに思い描いた答えを言い合った結果がこれだ。


「はい、正解」


 俺がそう言うも、2人は冴えない表情であった。

 確かにお騒がせな一面はあるけど、迷惑を被った訳じゃなし。

 そう思っていたら、ギギギと音のしそうなぎこちない動作でこちらを見てきた。


『あー、だよね』


 恐る恐る見ようとしたのは先程から静かなベリルママである。

 俺も横を見た。


 自分では慌てていたつもりなのだが。

 やはりトモさんたち同様にギギギな動きしかできなかった。


 そして──


『ひいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!』


 声にならぬ悲鳴を上げてしまう。

 【千両役者】を使う余裕すらなかったさ。


 声を上げた悲鳴にならなかったのは、自分で抑制した訳ではない。

 あまりの恐ろしさに声が出せなかったのだ。


 ベリルママは笑顔であった。

 そりゃあ、もう満面の笑みでしたよ。


 ニッコリニコニコ。

 いつもニコニコ現金払い。


『ダメだ、錯乱している』


 当然だろう。

 ベリルママの目だけが笑っていないのだから。


 笑顔の仮面を張り付けているだけにしか見えない。

 怒りの矛先が自分に向いていないことが分かっていても背筋が凍り付きそうだ。


 トモさんたちを見た。

 夫婦で抱き合っている。


 リア充爆発しろとは間違っても言えない。

 恐怖に耐えるべく抱き合っているのだから。


「あら、トモくんにフェルトちゃん」


「「はひっ」」


「急に抱き合ったりして、どうしたのかしら?」


「「ななな何でもありませーんっ!」」


 夫婦そろって頓珍漢な返事をしていた。


『蛇に睨まれたカエルも同然だな』


 トモさん夫婦が震え上がってしまうのは無理もないことだ。

 俺も同じ立場だからな。


 いや、むしろもっと酷い。

 恐怖の根源がトモさんたちより近いのだ。


 その上、ガッチリ腕を組まれて逃れることはできない。

 これでは他の誰かと抱き合って恐怖に耐え抜くことも不可能だ。


『俺が一番とばっちりを受けてんじゃねえかぁーっ!』


 心の中で絶叫せずにはいられない。

 でないと、恐怖に負けそうだからな。


「何でもないのに抱き合うの?」


「「はいっ」」


 2人には、そう返事をするしかなかった。

 間違ってもベリルママに恐怖したからなどとは言えないからな。


『絶対にベリルママだけは怒らせないようにしよう!』


 心からそう思ったし誓った。

 同時に凄いとも思ったけど。

 こうなることは予測できたはずのラソル様がさ。


 これだけの恐怖を受け止め切れる自信があるってことだ。

 でなきゃ、よりによって秋祭りにイタズラはしないだろう。


読んでくれてありがとう。

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