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お待たせしました。第三章十一話です。なんだか文章が下手になっているように感じます。変なところがあるかもしれませんが、温かい目で見ていてください。
巨大な船舶が、世界最大の港に停泊している。船員たちが慌ただしく甲板を駆け巡り、怒号を上げている。
「帆を張れぇぇい!」
船長の号令で、船員たちはロープを外した。帆が風を受け、大きく膨らむ。船がゆっくりと動き始めた。空ではカモメたちが船と並行するように飛び回り、海ではイルカたちが嬉しそうに跳ねる。
そんな中、一人の少年が名残惜しそうに、港町を眺めていた。
「どうしたんですの、シュウスケ様?」
「……いや、何でもないよ」
心配そうに見つめるエリザベスに、秀介は精一杯の笑顔を向けた。しかし、自分でも無理した笑みだと自覚した。
「何か、悩みがあるのではありませんか?」
「ホントに、ホントに大丈夫だから、心配しないで」
エリザベスは悲しそうに俯き、船内に戻っていった。
「……そんな顔をしてたら、嫌でも心配するわよ」
ポツリと言ったその言葉が、秀介に聞こえることは無かった。
秀介はマリアとの会話を思い出していた。『私は、この世界に生まれ、ある使命を与えられた。皆が期待しているのだ、私が使命を全うするのを……しかし、それで皆が不幸になる』その言葉が意味している事が、何かは分らなかった。
しかし、彼女が思いつめていたことは分かる。秀介の脳裏に、銀髪の少女の悲しそうな表情が浮かぶ。美しく煌く銀髪を、潮風が靡き、もどかしく見え隠れする白い肌と真っ赤な唇。全てに惹き込まれた。胸の奥底から湧きあがり、息がつまりそうなこの感情を、秀介はまだ分らなかった。ただ彼女のそばに居たい、彼女の悲しそうな笑顔を見たくない、彼女の 本当の声を聞きたい。そう思った。
(マリアちゃん、どこに行っちゃったんだろう……)
どんどん小さくなっていく港町。あの日以来、ついぞ彼女に会えることは無かった。
(魔王を倒して、世界が平和になったら、あの子の笑顔に会えるかな)
離れ行くポルトスを眺めながら、秀介はそんなことを考えた。それが、自分自身を傷つけるとも知らないで――。
マギネアシアとポルトスを繋ぐ客船、「アドミラル号」。総トン数二十トン、定員数は七百人、世界最大の客船である。そんな「アドミラル号」の船長、エドヴァルド・マルムステンは、前方の海を見ながら、苦虫を噛み潰したように顔を顰めていた。
(頼むから、出んでくれよ)
どこまでも広がろうかという大海原、エドヴァルドの五感は、どこか禍々しい雰囲気を感じ取っていた。
事の発端は、先日エドヴァルドが町長に呼び出されたことに始まる。エドヴァルドは港町ポルトスの中でも、主要な収入源である「アドミラル号」の船長であり、この町の町長に直々に呼び出されることも珍しくない。主な話としては、これからの経営方針などを話し合うためだ。
しかし、この日は少しばかり毛色が違っていた。
町長室の中には、一人の少年が、従者を連れて座っていた。その少年にはこれまで数回会ったことがあった。アンドレアン・クリスティアン・ハレス、この小国の王子である。
『余はマギネアシアに行きたいのだ。船を出してくれ』
エドヴァルドは耳を疑った。この時期の沖合は、魔力が多くなり、魔物が大量発生する『モンスターシーズン』。しかも近年の魔力過密化現象により、例年にも増して魔物が出やすくなっている。そのためこの時期には、沖に出るアドミラル号は運航を中止する。そんなことくらい、アンドレアンも分ってるはずなのだ。
話を聞くと、アンドレアンはマギネシアにて小国を左右する大事な執務があるという。それでも、いくらなんでも危険すぎると、エドヴァルドは町長に訴えた。
しかし、小国の主都よりも発展している港町ポルトスの町長でも、王族の影響力は無視できず、強くアンドレアンに反対できなかった。
『モンスターシーズン』が終わり、執務に間に合うギリギリの日にちに船を出すことになった。
だが、魔力過密化現象の影響で、『モンスターシーズン』の時期が延びていることに、エドヴァルドは気がつかなかった。
突然、船員の一人が声を張り上げた。
「前方の海面に、黒い影が見えます!」
その言葉に、場が騒然とする。エドヴァルドは甲板に出て、望遠鏡を覗きこんだ。瞬間、海面が持ち上がり、水しぶきを上げながら、巨大な物体が顔を出した。巨大な頭に、太く長い首、射抜くような鋭い眼光、人一人分はあろうかというばかでかい牙。見るからに頑丈そうな鱗を身にまとい、今にもこちらを襲って来そうな雰囲気で船を睨んでいる。
「『死の海蛇』……」
船乗りが最も恐れる、海上最強の魔物である。
「総員、戦闘配置につけぇぇい!」
エドヴァルドの声で、凍りついていた船内が再び動き出した。
「戦闘用魔道具準備!」
そう言うと、船員が小さなロッドを取り出す。その先端には小さな石が取り付けられていた。この魔道具は、魔石――魔力を含有した石――に魔法陣を刻み込まれており、魔力を持たない者も、魔法を使うことができるものだ。しかし、この魔道具は初級の魔法一種類しか撃ちだすことができず、火力の乏しいものだった。
「発射しろ!」
エドヴァルドの号令と同時に、魔道具から風の弾丸が飛び出した。しかし、勢いよく飛んだその魔法も、『死の海蛇』の鱗に阻まれ、ろくにダメージを通していない。
エドヴァルドは唇を噛みしめる。
「まだだ、まだ諦めるんじゃない! 魔石の魔力が途切れるまで撃てぇ!」
その時、船体が大きく傾いた。思わずよろけ、尻もちをつく。船内から乗客の悲鳴が聞こえた。木が軋むような音が聞こえたかと思うと、バリバリと轟音が耳を劈いた。
「船長! 船体後方が損傷しました!」
後ろを振り返ると、世界最大の船は無残にも砕かれ、巨大な蛇の尻尾が突き出していた。気づいた時にはエドヴァルドは声を張り上げていた。
「後方の扉をすべて塞げ! 浸水を防ぐんだ!」
この「アドミラル号」は、あらゆる事故やトラブルに対処できるよう、様々な工夫が施されている。たとえば船体に穴が開いた時、全体の浸水を防ぐために船が部屋毎に細分化されており、扉を閉めることにより一部分の浸水だけで食い止めることが可能なのだ。そして、部屋と部屋を繋ぐ扉には、水の入出を防ぐ水属性の魔法陣が付与されている。それにより、避難や救出作業、浸水を防ぐ対策が取りやすくなるのだ。
しかしそれも、細分化された一部の損傷の場合だ。
「船長、損傷部分が大きく、対応が追いつきません!」
「クソッ……っ!」
気が付いた時には、エドヴァルドは横に飛んでおり、先ほどまで自分がいた場所は、『死の海蛇』の強靭な顎によって抉り取られていた。後一瞬でも避けるのが遅れていたら、今頃は蛇の胴体の中だ。
巨大な蛇が首をこちらに向ける。
「キシャァァァ!」
黄色く濁った二つの目玉が、こちらを睨みつけている。獲物を狩る目だ。正に蛇に睨まれた蛙、「動け」と、頭で何度も考えても、数十年連れ添ったこの体はぴくりともしなかった。
(終わり、か……)
そう諦めかけたとき、一筋の光が、視界を埋め尽くした。
秀介は聖剣を構え、目の前の蛇を見据えた。聖剣によって切り裂かれた傷口からは、とめどなく鮮血が流れ出て、怒り狂い血走った眼が射殺すようにこちらを向いている。一瞬即発。少しの気も緩みも許されないこの場で、秀介の表情は異常な物だった。
笑っていたのだ。それが何を意味するのか、自分でもわからない。双翼の盾を初めて使えるからか、強敵と戦うことができるからか、それは定かではない。しかし、秀介は確かに笑っているのである。
(何でかな、死ぬかも知れないってのに、なんか……楽しい)
『死の海蛇』は、秀介の心情を知ってか知らずか、尋常ならざる速さで、攻撃を仕掛けてきた。獲物を狩るときの蛇の瞬間的なスピードは秒速三メートル、速いものだと秒速六メートルにも達し、生物界最速である。この『死の海蛇』は、体の殆んどをしめる筋肉を、膨大な魔力で強化しており、攻撃の最大スピードは秒速百二十メートル。到底人間の目には映ることのない、驚異的な速さである。
しかし、そんな攻撃も秀介には、止まっているかのように見えた。
「『聖守護結界』!」
秀介は双翼の盾を前に突き出し、『死の海蛇』の一撃を真正面から受け止めた。避けることもできたが、船体がこれ以上壊れることを防ぐ目的であった。もちろん秀介が双翼の盾の性能を確かめようとしたのもある。
『死の海蛇』の頭は、見えない壁に阻まれ、仰け反るようにその胴体を撓らせる。
「皆さん、避けて!」
再び突進してくる首を、今度は聖剣で迎え撃とうと、振りかぶったとき、ぐらりと足もとが揺れた。船が揺れたことで、足に体重が力が掛からず、秀介の斬撃は『死の海蛇』の表皮を切り裂くに止まった。
「ぐっ……かはっ!」
勢いが止まることなく、『死の海蛇』の突進が直撃し、秀介の体は宙に舞った。勢いよく甲板に叩きつけられ、秀介は唇を噛み締める。船は『死の海蛇』の攻撃により、激しく揺れ、立ち上がるのも困難な状況だった。
「『氷河の拘束』!」
その声が秀介の背後から聞こえたかと思うと、『死の海蛇』の体を氷の鎖が纏わりついた。
「ギシャァアア!」
思うように体が動かないストレスと、体が凍っていく痛みに、『死の海蛇』は身を捩らせる。
「大丈夫かい、シュウスケ君?」
「はい、エリーは……」
「エリザベスは船内の負傷者を手当てしている。ここからは、僕たち二人で戦おう」
秀介は平然と立っているレオナールの姿に、言い知れぬ心強さを覚えた。
「はい!」
笑顔で大きく頷いた。
久しぶりの更新ですね。お待たせしてすいません。なんだか筆が進まず、今回も文章が稚拙な感じがせてなりません。これからも精進していきます。
それにしてもエリーはちょくちょく素が出ますね(笑)




