↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Legend of brave  作者: たいがー
第三章:神器
39/45

12

遅れました。

「『大地の大槍(アースランサー)』」

「うおっ……はあぁあああ!」

 甲板から突如飛び出した土の槍に乗り、秀介の身は上空に投げ出された。しかし、空中で体を回転させ、『死の海蛇(デス・シーサーペント)』に向きなおる。目の前の巨大な蛇は、鬱陶しいハエを払うように、噛みつぶそうと口を開けた。

「『天撃』!」

 そう叫ぶと、片手に持った聖剣は眩く光を放ち、秀介は『死の海蛇』目掛けて振り下ろした。聖剣の刀身から、純白の刃が飛び出し、『死の海蛇』の喉を切り裂き、突き抜ける。

「ギシャアァァアア!」

 あまりの痛みに、『死の海蛇』はもがき苦しみ、拘束していた氷をバラバラに粉砕しながら海中にその身を隠した。しかし、まだその影は船の周りを泳いでいる。

 秀介は重力によって下に引き戻され、レオナールの風魔法をクッションに船の甲板に着地した。

「まだ気を抜くんじゃないぞ、シュウスケ君」

「はい」

 秀介は聖剣を腰の後ろに回し、双翼の盾を胸の前に構えた。感覚を研ぎ澄ませ、全神経を、海中で虎視眈々とこの船を狙う大蛇に集中させる。先ほどの戦闘が幻であったかのように、辺りには波の音とカモメの泣き声が、平和な旋律を奏でていた。

 刹那、悍ましい叫び声が空気を切り裂く。

「ギャアアア!」

「気持ち悪い声だな」

 レオナールはそう言うなり、両手を天に突き上げ、独唱を開始した。

 


      ――我が魔力を礎とし、彼の者に天からの怒りを――



「『天の断罪(レトリヴューション)』!」

 秀介はその呪文で辺りの空気が変わったことを実感した。空気中の魔力が不自然に変化し、今まで味わったことのない感覚が秀介を襲った。

「これは……」

「君に見せるのはまだだったね、これが世界と繋がる術、《魔術》さ」

 重く響く轟音と共に、晴天が赤く燃え上がる。

「まさか……い、隕石!? 」

 秀介は目を見開き、上空を見上げた。

 空から突如現れたのは、赤熱化した巨大な隕石だった。赤い炎に包まれながらとてつもない速度で落下し、隕石は『死の海蛇』の胴を引き千切って海面に衝突した。すさまじい衝撃波が襲い、船体を大きく揺らした。

「す、すげぇ……」

 それは船員の呟きであり、その場の全員の思いを代弁するかのような言葉であった。

「勝ったのか?」

「勝った……」

「た、助かったんだ!」

 そんな声が、あちこちで聞こえてきていた。

 皆助かったんだ。秀介は胸をなでおろした。

「レオナールさん!」

 秀介は振り返ってレオナールの顔を見た。あるいはそれは、自分たちが勝ったんだという最終確認だったのかもしれない。しかし、レオナールの顔は険しく、また焦っているようにも思えた。

「やばい。シュウスケ君、聖剣を構え――」

「っ!」

 その一時の歓声を打ち破るように、海面が持ち上がり、黒い鱗に蔽われた蛇の頭が飛び出した。胴体部分は千切れ、体長は半分以下になっているにも関わらず、未だ鋭い殺気を放っている。

「うわぁああ!」

 秀介は慌てて聖剣を抜いた。右足を後ろに踏み込み、振り返る回転を利用し、聖剣を振り被った。

「『神聖天撃』!」

 そう叫ぶと、聖剣の刀身は光り、空中に巨大な刃が生まれる。

「はああああああ!」

 甲板に叩きつけるように振り下ろされた聖剣は、『死の海蛇』に当たることなく船体に深く突き刺さる。しかし、巨大な刃は勢いを増しながら飛んで行き、巨大な蛇を真っ二つに切り裂き、海面を割った。

 血飛沫を上げながら、蛇は海を真っ赤に染め、沈んでいく。

 秀介は肩で息をし、赤く染まった海面を見つめた。

「やったな、シュウスケ君」

「え、ええ」

 三つに分かれた物体は、海中に真っ逆さまに落ちていく。何故か、それが自分自身と重なった。暗い闇の底へ、抗うこともできず、沈むことしかできない。

(ばからしい)

 秀介は自嘲気味に笑った。

「ありがとうございます!」

「え?」

 振り向くと、壮年の男が立っていた。

「貴方は?」

 レオナールが尋ねると、男はそうだったというように笑った。

「申し遅れましたな。私はこのアドミラル号の船長を務めているエドヴァルド・マルムステンと言います」

「おお、そうでしたか、貴方が」

「ええ、お恥ずかしい限りです。船長と名乗っておきながら、自分の船も守れないんですからな」

 エドヴァルドは頭を掻きながら苦笑した。

「もしよろしければ、お二人のお名前を拝聴しても?」

「あ、すいません。私はルノワール王国で宮廷魔術師をしております。レオナール・カルリエと申します。以後、お見知り置きを」

 レオナールがそう言うと、エドヴァルドは感心したように顎を撫でた。

「ほう、ルノワール王国の宮廷魔術師。確かにそれなら、先ほどのすさまじい魔術もうなずけますな。あのような魔術、私は生まれて初めて見ましたよ」

「いやぁ、僕なんかはまだまだで……」

 秀介はレオナールの散歩後ろで、目の前に繰り広げられる大人なやり取りに気後れしていた。

「そちらの方も、ルノワール王国の騎士様でいらっしゃる?」

「え、僕? 僕はその……」

「まあ、そのようなものです」

 レオナールのフォローで、秀介は安堵の息を吐いた。

「貴方のあの剣撃も素晴らしかったですな。あのような魔法剣、そうそうお目にかかれるものではございませんからな」

「あ、ありがとう、ございます」

 秀介はあまり人とのコミュニケーションが上手な方ではない。初対面の相手とこのような会話をするのは初めてのことである。ましてや、褒められ慣れていない秀介は、エドヴァルドの言葉をどう受け取ればいいか分らなかった。

「シュウスケ君、君はエリザベスのところへ行ってやってくれ。安心するだろうから」

 そんな秀介の気持ちをくみ取ったのか、レオナールが助け船を出してくれた。

 船内の大広間には、沢山の乗客がひしめき合っていた。中には、船の揺れなどで怪我をした者もいる。

「エリー!」

「シュウスケ様?」

 エリザベスは乗客の怪我を治すため、せわしく駆け回っているところだった。

「て、手伝おうか?」

「……いえ、大丈夫です。今は、休んでください」

「そ、そう」

 エリザベスはそう言うなり、そそくさと立ち去ってしまった。

(俺、何かしたかな?)

 秀介がエリザベスの背中を見ながら思いを巡らせていると、ノイズの混じった声が、船内に響いた。

『……乗客の皆様、この船は先ほどトラブルに見舞われましたが、危険は回避されました。予定通り、マギネアシアへと航行を続けますので、ご安心ください……』

 これも魔道具なのかな? 秀介の意識はすでに、違う方向へと動いていた。

 

 

 潮風が銀色の髪をなびかせ、男は顔をしかめた。べたつく潮風が不愉快だったのではない。風が運ぶ、様々な臭いが不快だったのだ。人間の悲しみや、恨みや、妬みが、風に乗ってやってくる。

 男は鼻を鳴らし、歩き出した。

 その男の名はジャン。ジャンはとあるスラムで生まれ、生きるために強くなければならなかった。時には盗み、時には人を殺めた。いつしかジャンは、無性に強さを求めていた。誰よりも強く、誰にも負けないように、男は全世界の猛者と戦った。そして、ジャンは強くなった。どんな相手も簡単に倒せる。

『はははっ! 全員俺の敵じゃねぇ、俺は世界最強になったんだ!』

 しかし、戦いに次ぐ戦いの日々の中で、いつの間にかジャンは、戦いに何の興奮も感じなくなった。どんな相手も、他人が二、三回瞬きするうちに倒せる。あの心を焦がすような、ヒリヒリした感覚は、すでに薄れていた。

 そんなある日、目の前に自分と同じような銀髪を持つ者が現れた。

『ん? お前は、人間か?』

『さあ、どうかな?』

 問答無用で斬りかかった。一瞬で首をはね、次の瞬間にそいつは地に伏せる。――はずだった。

『素晴らしい速度だ。あと少し反応が遅れていたら私の首は無かった』

 久しぶりに防がれた。久しぶりに二発目を放った。久しぶりに本当の戦いをした。見たことも無い魔法を使い、自分と同等以上の身体能力を有しているその存在に、ジャンは興味を覚えた。全力で戦ってみた。倒すのに、想像以上の時間がかかってしまった。

『何なんだ、こいつ?』

 ジャンはそれからも、同じような奴と戦った。どいつも、自分と戦えている。ジャンは久しぶりの焦燥感に、懐かしさと興奮を覚えた。風の噂で、そいつらは魔族と呼ばれていることが分かった。

『もっと、楽しませてくれるよな』

 ジャンは自分から魔族を探すようになった。そのうち魔族の攻撃を見きることができるようになり、一対多での戦いが出来るようになり、一撃で倒せるようになった。なってしまった。

 つまらない。まったくつまらない。

 そして、一人の魔族と戦ったとき、その魔族は死ぬ間際にこう言い残した。

『お、お、お前なんか、魔王様にかかれば、一瞬も持たないだろうよ! ふ、ふふ、ふはははっ!』

 ジャンは邪悪な笑みを浮かべた。その時の魔族の顔は、それはそれは愉快な物だった。

『まだ、上がいる』

 ジャンは当然のように、魔王と戦うための旅に出たのだった。

  マーメイドの笑い声が、沖の方から聞こえてきた。

「ジャンさーん!」

「ん?」

 振り返ると、エルフの民族衣装を着た、一人の美女が手を振りながら走っていた。

「ジャンさん。魚の串焼き買ってきました」

 そう言って、彼女はジャンに串を数本押しつけた。

「……いつまで付いてくる気だ?」

「またそれですか? もちろん、どこまでもですよ」

 眩しい、ジャンにとっては余りにも眩しすぎる笑顔を、彼女は惜しげもなく披露した。

「勝手にしろ」

「はい、勝手にします!」

 ジャンはため息をつき、再び歩き出した。

「どうなっても知らねぇからな、アリエル」

 その問いかけに、アリエルは優しく微笑み返すだけだった。

 


どうしよう。ライト文芸新人賞にまにあわない!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。