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Legend of brave  作者: たいがー
第三章:神器
33/45

第二の試練です

 扉が閉まり、辺りに静寂が満ちた。

 先ほどまでのエリザベスと一緒に居る安心感がかき消え、秀介の心は不安で満ちている。

 大丈夫。何が出てきても対処できる。そう自分に言い聞かせた。

 やはり、今回も秀介だけしか入ることのできない部屋だった。秀介は心配させないよう、努めて笑顔で大丈夫だと言い放ったが、その自信もかき消えるように失せた。

『やっと来たわね、勇者君?』

 それは若い女の声だった。

「あなたがこの部屋の聖獣ですか?」

『そう、私が第二の試練……』

 突如、薄暗い部屋に松明がともり、目の前の存在が視認できるようになる。

「あ、ああ……」

『『恐怖のフィアーディスペアー』私にその剣、当てることができるかしらね……?』

 目の前に居たのは、見上げるほど巨大な(むくろ)だった。上半身だけが地面から生え、四本の腕が秀介を囲むように、剣をこちらに向けている。そして、その巨体から発せられる異様な威圧感に、心臓を握りしめられるような感覚に陥った。

(オンスロートさんとは違う。完全な化け物だ)

 秀介は歯を食いしばり、聖剣を構えた。

『ふふっ、固まっちゃって、可愛いわね。来ないのなら私から行くわよ?』

 腕の一本が、秀介に叩きつけるように剣を振り下ろした。秀介はサイドステップでそれを避ける。しかし、他の腕も次々と攻撃を仕掛けてくる。剣でいなし、飛んでかわし、時には正面から受ける。

(大丈夫。オンスロートさんに比べれば、まだ遅い!)

 聖剣の力を最大限に発揮し、攻撃を避けていく。

『うーん。やっぱオンスロートの指導を受けていると動きが違うわね……でも、それだけで私に勝った気にならないでね』

 フィアーディスペアーがそう言い放つと、手に持っている剣が赤く光り出した。

『受けてみなさい!』

 巨大な剣が横薙ぎに襲ってくる。秀介は同じように聖剣の刃で受けようとした。しかし、気づいた時には秀介の体は中に舞い、地面に叩きつけられていた。

「がはっ……」

『ふふふ、オンスロートからは剣の捌きかたを教えてもらったんだろうけど、私の重い剣撃を受け止めることは出来ないようね』

 フィアーディスペアーは骨をカタカタと震わせながら笑った。

 先ほどとは段違いの重さに、秀介は驚愕の色が隠せない。剣を当てていた左肩が痛む。

『オンスロートは貴方を特訓するよう命じられた聖獣だけど、私は違う。気を抜けば、本当に死ぬわよ? もう少しシャキッとしなさいよ。ちなみに、肋骨の中にある宝玉、それが私の弱点だから』

「え? 言っちゃっていいんですか?」

 フィアーディスペアーの思わぬ暴露に、秀介は素っ頓狂な声を上げた。

『だって、私の弱点を突こうと四苦八苦している姿を見る方が楽しいじゃない。どうせ、私の懐に入ることなんてできっこないもの』

 嘲るような笑い声が響いた。秀介はムッとして、聖剣を構える。

「……僕は、貴方を倒して先へ進みます。そして、世界を救うんだ」

『そう。でも、私を倒すのは一筋縄じゃァいかないわよ? まずは、私の攻撃を搔い潜って来なさい!』

 床に無数の魔法陣が浮かび上がり、赤く光り出した。

『剣だけが、貴方の敵じゃないわ』

 魔法陣から出てきたのは、骸骨の兵士たちだった。カタカタと乾いた音をたてながら迫ってくる骸骨に、秀介は聖剣を振るった。当たった瞬間、嘘のように砕け散る。

「え?」

『やっぱスケルトンは耐久力無いわねぇー。でも、これはどうかな?』

 無数の骸骨は一斉に魔法を展開した。『火玉(ファイヤーボール)』初級の魔法であり、平民でも使える者が多い、ありふれた魔法だった。しかし、一つ一つに人一人分を殺傷できるほどの威力がある。

 三百六十度、様々な方向から飛んでくる大量の火の玉を、秀介は素早く切り飛ばす。

(数が多いだけで、たいして攻撃力は無い。でも、これじゃあ攻撃をする暇が……っ!)

 『火玉』に気を取られていると、突如上から剣が落ちてきた。秀介は辛うじて避けたが、スケルトンのいる方へ吹き飛ばされた。

「くっ」

 スケルトンを真一文字に薙ぎ払う。しかし、背中に強烈な熱さが襲った。よけきれない『火玉』が、背中に直撃したのだ。

『うふふ、私が居る事も、忘れないでね?』

 秀介の顔は正しく、苦虫を噛み潰したような顔だった。絶え間なく迫ってくる『火玉』に、いきなり上から襲ってくる剣線。聖剣の力を用いても、対処しきるのは難しい。

 秀介は構えを解いた。

『あれれぇ~。諦めちゃうのかな?』

(目の前の敵を倒すには、今の自分にはあれしかない)

 秀介は両手に持っていた聖剣を片手に持ち直し、重心を低く構える。右ひじを軽く曲げ、左手は垂直に立てる。西洋剣術や、所謂フェンシングなどで用いられる構えだ。

 聖剣は基本両手持ちのロングソードだ。しかし、驚くべきことに、秀介が構えを変えた瞬間、聖剣の形状が変化した。幅が大きかった刀身は細長く、二方向に伸びた柄は拳を守るように丸く変形した。

『へぇ……ホントに聖剣使えてんじゃん』

 フィアーディスペアーは感嘆の息を吐いた。

「……『霧雨』」

 秀介がそう呟くと、聖剣が眩い銀色の光に包まれる。突然秀介の体がぶれた。

『……ほんっと、オンスロートを見てるみたいでムカつくわぁ』

 数十体居たスケルトンが、バラバラに砕け散り、無数の骨が降り注ぐ。

「はあ!」

 秀介は聖剣をもう一度変形させ、フィアーディスペアーの懐めがけて飛び込んだ。

『調子に、乗るんじゃないわよ!』

 フィアーディスペアーは骨を震わせながら、四本の腕を秀介に振り下ろした。避けながら必死に走り続ける。自分がいた場所が、次の瞬間には地面が抉れていた。

(一瞬でも遅れたら、真っ二つだ)

 足もとに巨大な鉄の塊が振り下ろされ、思わす転倒しそうになった。その隙をみすみす逃してもらえるはずもなく、容赦なく剣が降り注ぐ。全てを剣で防いでも、今度はとてつもない衝撃が全身を襲う。

 秀介は地面に聖剣を突き立てた。

「『聖護結界』!」

 青い光が、秀介の体を丸く包み込む。

『オンスロートったら、面倒なもの教えてくれちゃって!』

「まだだ! 『絶断』」

 一線。一筋の光が見えたかと思うと、フィアーディスペアーの四つの手首が切り落ちた。

「これで、終わりだぁ!」

 フィアーディスペアーの肋骨に向かって跳躍し、聖剣を振りかぶる。青く光る宝玉、それを壊せば自分の勝ちだ。秀介は口元に笑みを浮かべた。

 しかし、いつでも予想外のことは起こりうるものだ。

「うわぁ、待った! ごめん! 降参だよ、私の負け。だから壊さないでぇ!」

「へ……?」

 突然の泣きつきに、秀介は拍子抜けしたように地面に着地した。

 巨大な躯は頭を垂れて、宝玉は光を失っている。

「もう、私のフィアちゃんをこんなにしちゃって、どうしてくれんのよ!」

 その声の主は、骸骨の後ろから出てきた。

「え、えっとぉ、その……すいません」

「はあ、久しぶりに暴れたらこれだわ……」

 容姿は二十代前半、緑に輝く髪を耳にかけている。耳の長さを見るに、おそらくエルフなのだろう。

「あの……」

「ん? ああ、私が第二の試練『恐怖のフィアーディスペアー』こと、サエルミアよ。いやーまいっちゃったわ、これでも自信あったんだけど、やっぱり勇者は違うわねー」

 サエルミアは頭を掻きながらはにかんだ。

「もうちょっと遊んであげるつもりだったんだけど、貴方想像以上に強かったから、私に命じられたことあんまり出来なかったわね」

「命じられたこと?」

「ええ、聖獣にはそれぞれ与えられた命令があるの。オンスロートは貴方を指導して、剣を教えること。私の場合は魔法を使って貴方を苦しませること。まあその点では、私もちょっと命令を守れたかしら?」

「え、ええ、まあ」

 秀介は先ほどのスケルトンとの戦闘を思い出した。四方から襲いかかる『火玉』に四苦八苦した。

「ねえねえ、オンスロートどうだった? 面倒くさい奴だったでしょ? 昔からそうなのよ、細かいことにいちいちつかかってきて……」

「いえ!」秀介は思わず叫んだ「そんなこと……あの人には、色々教わりました……」

 秀介の顔を見て、サエルミアは何かを悟ったのか、目を細めて言った。

「そうね、あいつはうっとうしいほど正義感が強くて、煩わしいほどにお節介焼きで、憎たらしいほど優しい奴だわ。世界のために、何かを成し遂げたかったんでしょう。まあ、私は遅かれ早かれ死ぬと思ってたけど」

 秀介は自分の両手を見つめた。まだ、オンスロートを斬った時の感覚が鮮明に蘇ってくる。

「勇者君。君、名前は?」

「乾秀介。乾が名字で、秀介が名前です」

「そう。じゃあシュウスケ、一ついいこと教えてあげる」

 サエルミアは秀介の耳に口元を近づけ、囁くように言った。

「次の聖獣は、今までの私たちみたいな奴は違うわよ。あいつに命じられたのはただ一つ「勇者を殺せ」、それだけ。最初から殺る気でいきなさい」

 それだけ言うと、サエルミアは骸骨と共に光の粒となって消え去った。

「どういうことだよ……」

 秀介の声に重なるように、重苦しいドアが開く音が響いた。

主人公が強くなりましたね、急成長の裏側をお見せできないのが残念です。次の試練はあいつが出てきます。


うーん、我ながら手抜きだなぁ……。


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