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Legend of brave  作者: たいがー
第三章:神器
31/45

一日おきに投稿すると言っていたんですが、兄からの催促がありまして、今日も投稿することになりました。明日も投稿します。

 視界に緋色の飛沫が浮かぶ。

「うぐぅあ!」

 オンスロートのレイピアは、鎧の隙間から秀介の左肩を抉った。ドワーフの鎧の効果で、秀介の体は岩のように硬くなっている。それを何の抵抗ものなく穿つ程の威力、オンスロートの実力が窺い知れる。

 オンスロートの追撃は続く。秀介は聖剣を抜き、そのほとんどを迎撃した。

「ほう、その剣が聖剣だな、さすがの性能。身につけている鎧も、神器に勝るとも劣らない業物だ。素晴らしい装備だな。が、使う者がそれではな……ハッ!」

「くっ!」

 さらに剣撃が速くなる。オンスロートは、肩、腕、足など、急所から離れた箇所をねらっていたが、秀介は剣筋を避けるだけで精いっぱいで、攻撃をする余裕はなかった。

(聖剣の力があるのに、なんで追いつかないんだ……!? )

 聖剣の能力によって、秀介の思考演算能力は引き伸ばされているのだが、それでもオンスロートのレイピアには届いていない。

「……これ以上やっても何もならんな」

 突然、オンスロートが一瞬にして秀介の懐に踏み込み、聖剣を外側に弾くと、右足で秀介を蹴り飛ばした。

 肺の中の空気が吐き出され、秀介は数メートルの距離を吹き飛んだ。焼けるような痛みが秀介を襲う。

「う、ぐぅ……」

「どうする? 今のままでは吾輩には勝てんぞ」

 オンスロートは冷めたような眼で秀介を見た。

 傷は鎧の自然治癒の能力で回復しているが、秀介はすでに満身創痍といった体で、立ち向かうような体力はない。しかし、秀介は転がっている聖剣を握り、オンスロートを正面に構えた。

「見上げた根性だ。が、根性だけではどうにもならん」

「う、うわぁああ!」

 秀介はオンスロートに向かって駆け出し、袈裟切りに振り下ろした。

「剣筋が粗いな」

 瞬間、オンスロートの姿がぶれたかと思うと、手の甲に激しい痛みが走り、聖剣を取りこぼしてしまった。

「聖剣の力を借りたところで所詮は人間、聖剣を扱えるほどの技量は無い、か……」

 オンスロートはため息をつき、ピンと人差し指を立てた。

「少年。お前は聖剣や、他の神器についてどう思う?」

「は?」

「……神器は、ただの道具だと思っているかね?」

 オンスロートは秀介の内側を覗くかのように、目を細めた。

「何を言って……」

「まあそうだろうな。実際に神器は神が作りし神のための道具だ」

「神のための?」

「そう、とても優秀な道具だ。神にとってはな。しかし、人間にとってはどうか……今分かった」

「どういう意味ですか?」

「お前は聖剣を振っているんじゃない。振らされているんだ、聖剣にな」

「……」

 秀介は何も言えなかった。自覚があったからだ。これまでの戦闘で秀介は、聖剣の言った通りに動き、聖剣を振るってきた。まるで、操られるように。

「今まではそれで戦えてきただろう。しかし、今のままではだめだ。いくら聖剣が合理的な動きを君にさせているとしても、それはお前の意思ではない。意思がない者は、果てしなく弱い」

「僕は……ッ!」

 突然。一瞬で目前まで迫ってきたオンスロートに、秀介は聖剣を向けた。

「まただ」

 その声には落胆が含まれていたが、秀介にはそれを理解する心の余裕がなかった。

 秀介が突出していた聖剣は、オンスロートによっていなされ、間髪入れずに鳩尾に鈍い衝撃が走った。

「うぐっ……っは!」

 腹の底から湧きあがる吐き気、頭は内側からジンジンと痛む。

「『上級治癒(ハイ・ヒール)』」

「え?」

 オンスロートから発せられた声に、思わず顔を上げる。先ほどの痛みが嘘のように引いていた。

「何故お前のような軟弱ものが勇者なのか、正直さっぱり分らん。しかし吾輩は、ここでお前を三千年待っていた。私には、お前を勇者にする義務がある。お前がその聖剣の呪縛から抜け出せるよう、特訓してもらう」

「……は?」

「さあ立て。吾輩を倒せなければ、魔王討伐など夢のまた夢だ。まずはお前の心身に剣の基本を叩きこんでやろうぞ!」

 オンスロートの顔が、秀介にはどこか嬉しそうに見えた。



 真っ赤な太陽が地平線に沈みかけ、民は食卓で談話しているであろうころ、ルノワール王国の国王は一人の男と向かい合っていた。

「フィオベルツよ、魔族の行動をどう見る?」

 セドリックの目には隈ができ、頬はやつれている。だれの目から見ても、疲弊しているのは分かった。

「陛下。根を詰め過ぎてはなりませんぞ」

「分っておる。それより、お前がそのような口調だとむず痒くてたまらん。やめろ」

「そう言うところはお前らしいが、王様らしくないぞ、セドリック」

 ルノワール王国、第一近衛軍将軍フィオベルツ・オルコット。ルノワール王国の軍において、実質トップに位置づいている。セドリックの幼馴染であり、セドリックと対等に話せる唯一の存在だ。

「別にいい。国民も、自分たちを守れぬ王など、お呼びではないだろう」

 一月前の魔族襲撃で、民間人を含む国民三百人が犠牲になった。何故知らせてくれなかったのか、何故守れなかったのか。そういった国民の不安が暴走しないように、各大臣は対応に追われていた。

「それに、まだチャールズも帰っていない」

「大丈夫だろう。あいつはお前が思っているほど弱くは無いぞ? なんてったって、陰で冒険者業をやっていたんだからな」

「何だって?」

 セドリックは大きく目を見開いた。

「何だ、知らなかったのか。あれでも立派な中級の冒険者だ。そうそうくたばりはしまい」

「どうして教えない!」

「知っているものと思っていたのでな」

 セドリックは鼻を鳴らし、不機嫌そうにフィオベルツを睨んだ。

「……何も知らなかった。やはり、ダメな王だ、ダメな父親だ。国民を守れず、息子のことは何も知らない。あまつさえ十六になったばかりの娘を危険な旅に行かせ、この世界とは何も関係のない少年を巻き込んでしまうなんてな」

 フィオベルツは肩をすくめてため息をついた。

「まったく。一国の王が解決できる問題じゃないだろ。うぬぼれるな。我々は、はなはだ非力だ」

「……それで、まだ答えを聞いていないが」

「魔族の行動をどう思うか、か?」

「そうだ。奴らは何故エルフを狙った? いや、何故エルフを最後に狙う?」

「さあな。我々との戦いは単なる前座で、メインはエルフの方かも知れないな」

 そう考えると腑に落ちる。と、フィオベルツは締めくくった。

「前座か……」

 確かに、魔族はもっと攻撃できたはずであった。しかし、不意に魔族は攻撃の手を止め、そそくさと引き返してしまった。

「ただ分かるのは、奴らが知能の低い魔物じゃなく、我々と同じような「人たる種族」だということだ」

 セドリックは眉を顰め、唸り声を上げた。

「なおさら性質が悪いな」

「そうだな。それに、エルフが最後かどうかもわからん。まだ攻撃は続くやもしれん……ふっ、軍に居た時の血が騒ぐか?」

「はっ」セドリックは苦笑した。「戦場で指揮を執っていた時は、兵士の布陣以外なにも考えずにいられたがな」

「権力を持てば持つほど、考えなければならないことと、責任は増えるな」

「出来ることなら、あの頃、ただ目の前の勝利のために邁進していたあの頃に、戻りたいものだ」

 二人は、遠い目で外を眺めた。夕日に赤く染められた首都マルギザーニャの街並みが、何とも平和に見え、セドリックは下唇を噛み締める。

「……フィオベルツ」

「ん?」

「守るぞ」

 フィオベルツは口元に笑みを浮かべた。

「言わずもがな」



秀介がどんどん強くなります。次の次くらいには、知らない技をめっちゃ使うことになりそうです。いやぁー、勇者っぽくなってきた。

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