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お待たせ!
秀介が起きたとき、太陽は既に高く登っていた。
「いくらなんでも寝すぎだろ……」
秀介は自嘲気味に笑いながら、急いで跳ね起き、いつの間にか用意されていたエルフの民族衣装を着た。
「おお、すごく軽い」
「ええ、魔力で加工した巨土芋虫の糸で織っているから。普通の服より丈夫で軽いのよ」
秀介の独り言に答えたのは、アイナリンドだった。
「よく寝れたみたいね」
「うん。……そういえば、アイナリンドって……ハープ? 上手いんだね」
「ありがと」
アイナリンドは恥ずかしそうに頬をかいた。
「それより、みんな大広間で待ってるわよ。急いだほうがいいんじゃない?」
部屋から出た二人は、小走りで大広間に向かった。
(それにしても、やっぱりこの城広いな)
エルフの城は、世界樹の中に作られているのだが、中の次元が魔法で拡張されているため、外から見た巨木よりも実質的に広くなっている。この城に住んでいるのはエルフの王族、エルフの中でもハイエルフと呼ばれる、アルフィリオンの近しい親族だけである。ハイエルフは、普通のエルフより魔力が多い。さらに、ハイエルフの中でも、魔力の量によって序列がつけられている。まさに魔力至上主義といえよう。
しばらく走っていると、一際大きな空間に出た。細長いテーブルに、所狭しと豪華な食事が並んでいる。
「やっときましたか。昨日はさぞ良く眠れたことでしょうね」
「あ、す、すいません」
秀介はアルフィリオンの言葉を皮肉と捉え、すぐさま謝った。
「いや、謝る必要はありません。良く眠れるようにアイナリンドを貴方に付けたのですから」
「え?」
「アイナリンドの歌は、エルフの中でも特に美しく、癒しの魔力が宿っているのです。勇者殿の旅の疲れを癒すには、彼女が最適だと思ったんですよ」
「そ、そうなんですか」
チラッとアイナリンドの方を見ると、彼女は小さく笑い、誇らしげに胸を張った。
「さ、詳しい話は食事をしたあとにしましょう。なにせ、複雑な話ですから」
エルフの食事は、魚を主菜としたヘルシーなものだった。濃い味になれた現代日本人の秀介にとっては、少し物足りなく感じたが、十分美味しい部類に入るだろう。
「我々の料理は口に合いましたでしょうか」
「ええ、とても健康的で、美味しかったですわ」
答えたのはエリザベスだった。
アルフィリオンは「それは良かった」と、微笑みを向けた。
「さて、ここから重要な話をしいましょうか」
アルフィリオンが優しい表情から一変、真剣な雰囲気を醸し出し、秀介も顔を引き締めた。
「実は、今すぐ双翼の盾を渡すことはできません」
「え?」
どうして!? と、秀介は叫びそうになったが、ぐっとそれをこらえた。
「どうしてですか?」代わりに聞いたのはエリザベスだった。
「我々の双翼の盾を勇者殿に献上するのは、問題ないのです。ただ、ひとつ別の問題がありましてね」
「別の問題?」
「ええ、双翼の盾は、我々エルフが代々守ってきたものです。その守っている場所というのが、一筋縄ではいかないのですよ」
「え? どういう事ですか?」
秀介の問いに、アルフィリオンは息を吐き、口を開いた。
「双翼の盾は、エルフだけじゃない、全種族を守る盾です。それがもし、魔族の手に渡ったら、それこそ世界の終わりです。だから、私は双翼の盾をある場所に隠しました」
「ある場所?」
アルフィリオンは静かに頷いた。
「世界樹の真下、『聖樹の迷宮』に、隠されています」
「『聖樹の迷宮』ですか?」
「はい。その『聖樹の迷宮』では、三体の聖獣が、双翼の盾を守っています。双翼の盾を手に入れるためには、それらを突破しなけばなりません」
また何かと戦うのかよ。秀介は呆れ混じりに深くため息をついた。
「覚悟は出来ています。私たちは、世界を救うために来ました。そのためならどんな試練も乗り越えてみせます」
エリザベスはそう力強く答え、アルフィリオンは大きく頷いた。しかし秀介は緊張で脂汗を流している。
「それでは、『聖樹の迷宮』に案内しましょう」
秀介はアイナリンドに手伝ってもらい、苦労しながらドワーフの鎧を着た。
(いいかげん、一人で着られるようにならないとカッコ悪いよな)
道中はエリザベスやレオナールに手伝ってもらい、毎日やっとのことで鎧を着ていたのだが、早めに着方を覚えようと心に決める秀介であった。
「良い鎧ね。とても綺麗な魔法陣が描かれているわ」
「分かるの?」
「ええ、だってエルフだもの、魔法に関することなら少しは分かるつもりよ。ただ、魔法陣の効果に分からないところがあるけど」
「うーん、僕も教えてもらってないんだよなぁ」
結局のところ、秀介はドワーフの域を集めて作った最高の鎧を、なんだかすごい銀ピカな鎧だとしか思っていないのだ。実際には物理・魔法攻撃耐性、身体能力強化、身体頑強化、自然治癒などなど、一つでもあったら国宝級と言われる程の特殊効果がふんだんに付与されている。
「あの、さ……」
「ん?」
「……いや、頑張って。頑張ってね」
秀介は首をかしげながらも頷いた。
『聖樹の迷宮』の入口は、世界樹の入口にあったものと同じような水晶だった。両脇にエルフが立っている。
「ダイロン、ティリオン。どうなってる?」
アルフィリオンがその二人に尋ねる。
「良好です」
「すぐにでも飛ばせますよ」
飛ばす? 僕たちを? 秀介は耳を疑った。
「良し。勇者殿、用意はいいですか?」
「いや、え、その……ほ」
「用意は出来てますよ」
「本当に大丈夫ですか?」と聞く前に、またエリザベスが答えてしまい、秀介は口をパクパクさせるしかなかった。
「それではお三方、ここに手を置いて」
言われるがまま水晶に手を置くと、吸い込まれるような感覚の後に、一瞬にして風景が変わった。焦げ茶色のレンガのようなものを積まれて出来たような長い道、辺りを照らすのは所々に埋め込まれている、ドワーフの国で見た光る鉱石だった。一直線に奥まで道が続いている。
「たしか」レオナールが話し始めた「アルフィリオン様の説明によると、この『聖樹の迷宮』は三階に分けられていて、各フロアにはそれぞれ聖獣と呼ばれる番人がいるらしい。その番人を倒すと、双翼の盾を手に入れるための鍵が手に入ると」
それを聞いて秀介は、某RPGを思い出していた。友達の家でやったそのゲームでは、ダンジョンの最下層にボスが居るものだが、ここでは違うらしい。
「とにかく、前に進みましょう」
この『聖樹の迷宮』は、迷宮と名がついてはいるが、その実態は三つの試練が挑戦者を待ち受けるというスタンスで、迷路の要素はあまりない。
「三つの試練って何なんだろうね?」
「アルフィリオン様は、勇者に必要なものを試す試練だと言っていましたわ」
「勇者に、必要な……?」
一直線の道しばらく歩いていると、大きな扉が、行く手を阻んでいた。
「……覚悟はいいかい? 二人とも」
レオナールは長い杖を構え。
「ええ、出来ていますわ」
エリザベスは指輪に魔力を込め。
「……」
秀介は腹をくくり、黙って聖剣に手をかけた。
軋むような音と共に、扉が内側にゆっくりと開く。中はだだっ広く、一層明るい。部屋の奥には転移魔道具だろう水晶が置いてある。……それだけだ。巨大な怪物や、独りでに動く鎧などもなく、だだっ広い空間だけが広がっていた。
「どういうことでしょうか?」
エリザベスの問いに、答えるものはいなかった。
秀介は恐る恐る足を踏み出す。聖剣を握る手には、力が入り、甲が白く染まっている。
と、秀介が部屋に入ったとたん、扉が勢い良く締まり、秀介以外の二人は締め出される形となった。秀介は突然のことに、立ち尽くすことしかできない。
『よく来たな! 勇ましい者よ!』
「だ、だれ!? 」
何処からともなく、頭の奥で響くような声が聴こえてきた。三人の間に緊張が走る。
『吾輩はオンスロート。三千年もの間、貴様を待っていた者だ』
その声が終わると、部屋の中心に、レイピアを持った初老の剣士が現れた。
「待ちくたびれたぞ。と言っても、勇者とは魔王と共に現れるものだから、仕方がないのかもしれないが」
「……あなたが、聖獣ですか?」
どう考えても、「獣」という感じではない。
「いかにも、吾輩が第一の試練『猛攻のオンスロート』だ、貴様は私の剣技、見きることができるかな?」
言い終わると同時にオンスロートの姿が消え、突然肩口に鋭い痛みが走った。
昨日卒業式でした。この三年間、辛いこと、悲しいこと、たくさんありました。でも、そんなときに支えてくれた同級生のおかげで、楽しいことや嬉しいことも、それ以上にあったような気がします。これからの人生にもたくさんの困難があると思いますが、それを乗り越えていける力を、三年間で培ってきたと思います。みんな、ありがとう!
私の言葉じゃないです。クラスメイトの受け売りです。でも、いいこというなぁ……。




